Quare

Quare

呪受濡


床で一部破損した懐中時計がまだカチカチいってる。大事なところは壊れてなかったみたい。耳障りだから、凍らせた。

どうしてこんなことに、どうして、なってしまったんだろう。きっかけは些細なことだったんだと思う。いや、私のせいかな。私が変な化け物についてお母さんに話さなければ、こうはならなかったかもしれない。

それを相談した時から、お母さんは少しずつおかしくなっていった。最初は何かにビクビク怯えたり、ある時は自分の目を刺そうとしたりしてて、見ていて私も辛かった。これくらいの時から、お父さんとお母さんの仲が悪くなり始めた。お父さんはよく「化け物なんかと結婚するんじゃなかった」「化け物の子は化け物だった」なんて言っていた。

お父さんは人が変わったように、何か気に入らないことがあると私を殴るようになった。お母さんに助けを求めた時、お母さんの顔を見るとまるで清々しいような笑顔だった。お母さんが笑ってくれて嬉しかった。

ある時お母さんに「お願い」された。貴方の力があれば私は逃げ出せる、なんていいながら、震えながら話し始めたお願いは「お父さんを殺すこと」だった。

そんなの嫌に決まってる。勿論断った。でも知らなかったんだ、隠してたのかな。お母さんも私と似たような変な力を持ってて、私は押しつぶされそうになって、苦しくて、怖くなって、大丈夫、見えなければ怖くないって、気づいたらお父さんは死んでた。何かに刺されたような傷跡で。そうだ、私がやった。

お母さんは自分で「お願い」しておいて私のことを人殺し呼ばわり。自分の手は汚したくなかったのか。今度はお母さんに殴られるようになった。元気な時や特別機嫌の悪い時はあの変な力で私を突き飛ばしたりした。痛いよ。

だから、自分に「お願い」をしたんだ。覚悟をするために。お母さんは3日ぶりに帰ってきて、早々に私にため息と愚痴を吐き始めた。自分は被害者になることはないと信じたような背中が、昔は愛おしくて大きく見えたことを思い出した。

今度はしっかり、見ながら殺した。命を頂いてるんだ。どんな碌でなしでも、命を奪うことに理由は出る。


早く忘れたい。遺体の処理は面倒臭い。今日はもう寝よう。

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