Pourquoi souriez-vous ?

Pourquoi souriez-vous ?

チェス盤後の話


 少し前、王の前に家臣のオジェが息子を連れてきた。

 王は「お前はオジェの子か、大きくなったな。お前はいつか父の背も越えるかもしれないな」と、嬉しそうに笑った。

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 血飛沫が、机を、壁を、絵画を汚す。倒れた彼の頭から、血潮が床へと止めどなく流れてゆく。白く染まった視界に、その鮮血の赤が広がっていくように感じた。

 ふと手元を見た。手に何か持っていた。砕けたチェス盤…血で汚れている。思い出すまでもない。俺が殺した。ボルドウィンはチェスに勝っただけなのに、俺が殺したんだ。

 静まり返った部屋でただ一人、彼の父、オジェが我に返った。血走った眼で俺の姿を捉えると、直ぐさま剣を抜いて斬りかかろうとした。しかし振りかぶった剣は遮られ、振り下ろされることはない。遮った剣は、俺が何よりも知っている剣だった。

 その剣、ジュワユーズを握った俺の父は、真下の哀れな亡骸に目もくれず「王子に剣を向けたこの男を捕えよ」と告げた。その目はおよそ臣下に向けるものではなく、さもなくば自ら制裁を与えるぞと言いたげであった。

 オジェが兵士たちに連れて行かれるのを見届けると、剣を納め俺の方を見た。いつもと変わらない満面の笑みで。父はあろうことか俺に怪我をしていないか確認すると、ほっと息を吐き、明るい口調で俺に話しかけたのだ。肝心の俺はというと、自らのやったことの重大さと、血溜まりの中で笑う父の姿に震えることしかできなかった。自分でも分かるほど顔から血の気が引いていき、油のような汗が頬をつたっていく。しかしその場にいた誰もが、剣を向けられ殺されかけたことに対する怯えであると疑わなかっただろう。父でさえ、もう大丈夫だと返り血がついた俺の体を抱き寄せ背中を優しく叩き続けたのだから。



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