Plunder before Christmas さいご(2)
requesting anonymityウィーズリー家のクリスマスパーティーのメインイベントである親戚のマグルのおじいさんによる踊りが終わると、大人たちは本格的に酒に手を伸ばし始め、子どもたちはまたお菓子類に手を伸ばす中、クリスマスプレゼントの贈呈会が開始された。
「お前ら2人からのプレゼントが1番不安なんだよな……………」
ニッコリと笑みを顔に貼り付けて近寄ってきた女生徒とギャレスに、セバスチャンが言う。ギャレスを始めとしたウィーズリー一族は皆、最年長のおばあさんからの贈り物である「W」が大きくデザインされた手編みのセーターを既に身に着けている。おしゃれ好きのお兄さん達も、気難しい年頃のお嬢さんも、普段は怒りっぽい叔父さんも、とうの昔にできあがっている酒好きのおじいさん達も、こればっかりは毎年ひとり残らず貰ったその場で即着るのだった。
「そういやギャレス、僕とかセバスチャンとかが貰ったこのセーターの『CF』ってのはなんなの?『十字砲火(CrossFire)』?」
小声でそう訊いた女生徒に対するギャレスの回答は、女生徒を大喜びさせた。
「『仲良し(CloseFriend)』だよ。けどそれだけじゃなくて『殆ど家族みたいなもの(Comparable to a Family)』って意味もあるっておばあちゃん言ってた」
「ギャレスすき!!!」
そう叫ぶなり抱きついてきた女生徒に、ギャレスは「ありがとね。でもプレゼントを渡すんじゃなかったのかい?」と言って笑いながら優しく引き剥がした。
「ねえお兄ちゃん、『すごくはだけてるよ』って言ったほうが言いと思う?」
向こうの席で酔っ払ってふにゃふにゃになったドレス姿のレストレンジを見ながら、アン・サロウが兄のセバスチャンに相談するが、すぐに兄妹2人に見つめられている事に気づき、束の間手を振りながら微笑み返すなどしていたドレス姿のレストレンジは、やがて見つめられている理由に気づき、慌てて着衣を整え直した。
「さ、2人にも僕とコイツからクリスマスプレゼントだ!はい、まず僕からね。どうぞセバスチャン。でこれはアンに」
手渡されたプレゼントを2人はその場で丁寧に開封する。そこにあったのは警戒していた「新作のオリジナル魔法薬」ではなかった。
「『気になる人の為のスキンケア』byサチャリッサ・ダグウッド…………ダグウッド先輩の新作?女の子たちが皆欲しがるから全然手に入らないのに!」
大喜びしたアンがハッフルパフの7年生である同い年のダグウッドを先輩と呼ぶのは最近復学したアンは4年生からやり直していたからというのもあるし、そんなに親しくないからというのもあったが、なにより同じ女子としての憧れがそうさせていた。つまり、「美容」の先達である。
「時々薬の話するんだよね。それに表紙をよく見て。表題に書き足しが有るでしょ」
ギャレスがそう言った通り、表紙をよく見ると小さな文字で「草稿:最終決定版」と書かれている。それはつまりアンがこの本の最初の読者であることを示していた。
大きな声を出したアンの周りに、レストレンジを始めとした女子たちがわらわら集まってきて即刻、読書会が開始された。よくよく話をしてみるとこのダグウッド先輩の「気になる人のための」と第された新刊は複数冊のシリーズであり、アンが貰った「スキンケア」を始めとして「ヘアケア」に「ネイルケア」「ファッション:日常」「ファッション:勝負」「ふるまい」などなど1人につきどれか1冊が各々に贈呈されており、女の子たちがみんなで仲良く持ち寄らないとシリーズが揃わないという巧妙な仕掛けであった。
そこにさらに「気になる人のための健康的な痩せ方」を持ったミラベル先生までもが加わっていくのを見ていたウィーズリー先生は思わずクスクス笑っている。
「僕のは本じゃないけど、読み物ではある…………なんだこれ……木の束?」
首を傾げるセバスチャンに、ギャレスが解説する。
「それは木簡って言って、日本の………じゃないや、中国の古い本。『山海経』。片方がマグル向けの検閲済み版で、もう片方が情報が削られてないオリジナル版。古い異国の魔法とか興味あるかと思って。しかもそれ何が良いかって、出版当時は大ベストセラーだったからしっかり配慮が行き届いてて、所謂『闇の魔術の類』がひとつも載ってないんだよね!それに中古だからか内容を目で追うと自動翻訳される魔法と、破損防止の保護呪文がかかってるよ。たぶん前の所有者がそうしたんだと思う」
叔父さんが手配してくれたのさ!と言ってギャレスが向こうで蜂蜜酒を飲んでいる大柄な親戚を指し示し、セバスチャンが丁寧にお礼を言い頭を下げ、すぐに内容に熱中し始めるが、まだ女生徒のプレゼントが渡されていない事に気づいて顔を上げた。
「あ、良かった忘れられてなかった………僕からはこの子。セバスチャンの事気になってたみたいだったから。あと僕が書いた飼育の手引きもあげる」
そう言って差し出された真っ黒な毛並みの小さなニーズルの子供は、女生徒が引き渡そうとするより早くセバスチャンの懐に飛び込み、そのまま頭の上に登ってそこに落ち着いた。
名前決まったら教えてね、と言った女生徒は続いて「気になる人のための」シリーズをわいわい読み込んでいる女の子たちに寄っていき、大量の綺麗な宝石を差し出す。
「はい君たちにはコレ。コレは『フェニックスフリント』って言う不死鳥が偶に吐き出す石。ウチのアイツは滅多に吐かないんだけど、それでも結構貯まるんだよね。各々好きなのとって」
ミラベル先生までもが、わぁーっと歓声を上げて不死鳥の宝石に群がり、ちょうど人数分あった石はきれいになくなった。
そしてそのまま友人達一人ひとりにプレゼントを配って周り、最後に自分の所に来た女生徒にダンブルドア少年がかねてからの疑問を問いかける。
「不死鳥って、草食じゃありませんでしたっけ?フォークスはあんな事しませんよ」
向こうのテーブルでステーキを啄む不死鳥を眺めてそう言ったダンブルドア少年に、女生徒は「そうなの?」と返す。
「アイツ肉も魚も普通に食べるよ?流石に鶏肉は食べないけど。あでも確かに本には『完全に草食性』って書いてあったっけそういや……………」
「『不死鳥は肉をたべない』ってのはもしかして『食べられない』って事ではなく、選択的に草食でいるって事なんでしょうか…………口に合わないけど食べたって消化不良とかは起こさない………みたいな」
ダンブルドア少年が見解を述べた時、女生徒が「あ!」と声を上げる。
「アイツそういや肉食べた次の日は決まって燃焼日だ……………アイツもちゃんと『完全に草食性』なんだ……………そこまでして食べるかフツー…………」
自身の不死鳥が同種の中ではかなり珍しい性格をしている事を再認識した女生徒に、ダンブルドア少年が追撃する。
「先輩の悪影響じゃないですか?」
さすがにそんなわけ……………と言いながら目をそらした女生徒は思い出したように本題を切り出す。
「はい、アルバスにもプレゼント!難解な方が良いと思ったからこれ。『永遠の火』この本に記されてる呪文はひとつだけで、それはもうめちゃくちゃ難しい」
早速表紙をめくったダンブルドア少年が序文頭のその呪文を読み上げる。
「グブレイシアンの火………」
それはやがて「今世紀で最も偉大な魔法使い」と評される事になるアルバス・ダンブルドアが、その偉大さを示す数多の功績と逸話の内の1つとなる魔法に出会った瞬間だった。
「私からも、貴方にプレゼントがあるの。アルバス」
そう言って声をかけたのはダンブルドア少年の母ケンドラだった。
「もっと難しい本の方が良かったかしら…………それとも何か他の物のほうが……」
そう言った母ケンドラがアルバスに控えめに差し出したのは「魔法族の家庭ならどの家にも一冊は必ず有る」と言われる児童書「吟遊詩人ビードルの物語」だった。
「ううん、母さん………僕、これがいい………ありがとう………ありがとう」
そう言ったダンブルドア少年の耳にはもう周囲で繰り広げられるパーティーの喧騒もプレゼント交換の歓喜も1番親しい先輩の声も、やはり新作の薬をいくつも持ってきていたギャレスが巻き起こしている喜劇も一切届かず、母から貰った本の表紙をいつまでもいつまでも眺め続けるのだった。