Plunder before Christmas
requesting anonymityホグワーツは何も年中ぶっ続けで休み無く勉学を詰め込む檻などではなく、いくらかの休暇がきちんとあった。学期と学期の間、例えばイースターやクリスマス等だ。
そして今、まさにその「クリスマス休暇」を目前にしたホグワーツの生徒達は明らかに浮足立っていた。久しぶりに家族に会える事を喜ぶ者、帰れば待っているであろうクリスマスパーティーを心待ちにしている者、そしてホグワーツを一時的にとはいえ去らなければならない事を憂う者。特に、家庭環境が十全とは言えない一部の生徒にとってホグワーツ城は正しい意味で「家」であった。
「先輩はホグワーツに残るんですか?それともお帰りに?」
そう声をかけた、グリフィンドールの1年生にして既に「学校で最も優秀な生徒達」の1人として教授達の間で名前が上がるまでになっていたダンブルドア少年は、この目の前で不死鳥とレンズ豆を奪い合っている「実技に限った上で素行に目を瞑れば」学校で最も優秀な生徒として名高い先輩の家庭環境について自分が何ひとつ知らない事に気づいて内心大いに驚いたのだった。
「調理も何もしていないレンズ豆をよく食べられますね先輩。ところで僕、先輩のご 家庭について一切お伺いした記憶が無いんですけど、その、ご両親はご健在で?」
その質問に対して返ってきた答えは、ダンブルドア少年を少なからず驚かせた。
「さあ?僕親の顔も名前も知らないんだ。誰かに育ててもらったって記憶も無いし、なんなら一昨年ホグワーツに編入するより前にはどこで何してたかって事もあんまり記憶に無いんだよね!たぶん特筆すべき変化ってやつがなーんにもない日々だったんじゃないかな?自分でもびっくりするぐらいなんにも覚えてないんだ」
「それホントですか?流石にいくらなんでも学校が調べ………というか把握しているのでは………?じゃあ先輩はホグワーツに残るんですか?」
動揺するダンブルドア少年にその先輩は、相変わらず気軽に返答する。
「先生方は知ってるかもしれないけど、ブラック校長と、ウィーズリー先生、それにフィグ先生に『教えないでください』ってお願いしたからね。ご存知だとしても僕の耳には入らない。ほらグリーングラスが前に言ってたろ?『途中からそうなったならともかく、自分にとってはこれが当たり前』って。同じ事さ。僕にとっては知らないのが『当たり前』で、僕は可能ならこの『当たり前』のままがいい。仮に、父も母も生きてて今、目の前に現れたとしても、今更現れたその両親だって仰る知らない誰かより、ホグワーツのみんなの方が僕にとっては『家族』だ」
ダンブルドア少年は今の話を聴いた自分が現在抱いているこの気持ちの種類がわからなかったが、そこに2人の共通の友人、グリフィンドールの7年生が声をかけてきた。
「コイツは学校には残らないよダンブルドア君。ウチに来るんだ。そして今年も去年と同じようにクリスマスパーティーに友人を『招待』する。特に、ご家族が純血主義者だけど当の本人は違う、みたいな家の奴らを重点的にね。」
そう言ったギャレス・ウィーズリーは、取っ組み合いで今日もまた不死鳥に敗北したその友人の頭の上に居る不死鳥が、確保したレンズ豆をひとつ目の前の床に落としたのを見て笑った。
「ほら、お恵みくださったよ?」
ギャレスのその物言いにダンブルドア少年は笑う。
「これぞ、ってほどの負けですね先輩」
「ムギューーー…………こんにゃろー………、いらないみたいな素振り見せといて、それなら僕が食べようかな、って手を伸ばしたらその僕の手を嘴で突くんだコイツ」
「それはつまり先輩と取り合うのが楽しいんじゃないですか」
「毎回勝ってるから、そりゃまあ楽しいだろうね」
ギャレスとダンブルドア少年は声を揃えて笑い、不死鳥に無様に踏ん付けられているその生徒は、悔しそうに先程お恵みいただいたレンズ豆を齧った。