Plunder before Christmas さいご

Plunder before Christmas さいご

requesting anonymity

「しぇんぱい、いまちょっとおじかんいただいてもいいれふか」

1ゲーム目を終え、ヨーロッパのほとんどを焦土にされながらも見事に今回遊んだ「タタールの軛」の敵陣営のキングであるアッティラ・ザ・フンをチェックメイトに追い込んだ女生徒は、自分が操作していたフランスを含む味方全陣営のプレイヤーをギャレスの兄弟達と交代して、自らはオミニスやハッフルパフ生の姉妹やその両親と共に観戦する側に回ろうとしていた時、据わった目つきで空のジョッキを持った赤ら顔のダンブルドア少年に声を掛けられた。

「な、なんだいアルバス…………いいけど、どんだけ飲んだんだい………?」

戸惑う女生徒に、酒の力を借りたダンブルドア少年は意を決して要請する。

「妹を診てほしいんレふ」

そして、向こうの方でウィーズリー家最年長のおばあさんとイメルダに勧められるまま着てしまったものすごく攻めたデザインのドレスに身を包みポーズなど決めているレストレンジをじっと見つめている小さなアリアナ・ダンブルドアの姿を遠目に観察した女生徒は、特に杖を取り出したりなどせずに目を細め、やがてダンブルドア少年に向き直って口を開いた。

「妹さん、トラウマとか思い当たる?詳細は言わなくて良いから、ある?ない?」

その質問で一気に酔いが覚めたダンブルドア少年は、静かに答える。

「はい。あります。それ以来妹は魔法を使う事自体を恐れるようになりました」

「でも時々は使うんだね?」

「いえ、妹は本当にアレ以来………」

「感情が不安定になった時とかに、『暴発』するような形で、本人も意図せず使ってしまう事があるんじゃないかい?」

向こうで楽しそうにはしゃいでいるアリアナを少し見ただけでなんでそこまで言い当てられるのだろうと感心するやら尊敬するやら疑問に思うやらで混乱しつつも、ダンブルドア少年は返答する。

「はい。あります」

ダンブルドア少年の肯定を聞いて、女生徒はこちらの話に耳を傾けている様子だったダンブルドア家の母ケンドラにも声をかけ、呼び寄せて話し始めた。

「妹さんは『オブスキュリアル』だと思う。かつての精神的な傷のせいで魔力を内に溜め込んで閉じ込めるようになってしまった子供の事をそう言うんだ。そして偶に感情が昂った時に溜めてたものが漏れ出て、被害を生む。そういう子達が溜め込んだ魔力は『オブスキュラス』と呼ばれる危険な闇の力に変質してしまう事があるんだ。でどうにもできなくなるとそれは放出、いや『爆発』する。比喩じゃないよ。そうしたらどうなるかは、クリスマスパーティーなんて場で口にするのはちょっと憚られる」

「爆発」したオブスキュリアルの末路を察したダンブルドア少年は、母ケンドラと共に向こうでみんなとはしゃいでいる小さなアリアナを見つめた。

「どうにかできないんですか」

そう訊いたのは母のケンドラだった。

「どうにもできないけど、どうにかできるよ。オブスキュリアルを『治す』方法は『気休め』で且つ『特効薬』の方法が1つだけある」

そう言う女生徒に「それを教えてください」とダンブルドア少年が詰め寄る。

「『みんなで仲良く笑って過ごす事』だよ。いいかい、オブスキュリアルは幼い頃の心の傷がそもそもの原因なんだ。だから魔力を内に溜め込んでしまっている事自体や、その魔力そのものをどうにかしようとするのは『爆発』を早めるだけ。アリアナちゃんが心の傷を完全に忘れてしまうぐらい、いっぱいの友達と仲良し家族の中で過ごす事が、あの子の『問題』を解決する唯一の方法。それが気休めに終わるか特効薬になるかは、ご家族次第。いい?『幸せな日々』だけがオブスキュリアルを癒やす」

そう締めくくった女生徒は、何を言われるより先に速やかにダンブルドア少年を肩車し珍妙奇天烈なメガネをかけさせ、自分も派手極まりないメガネを掛けてアリアナの方へ近寄っていった。

「さーアリアナちゃんアルバスお兄ちゃんで遊びましょ―レストレンジエッロ……」

ダンブルドア母子の気持ちを楽しい方に戻そうとした女生徒は、しかしドレスアップしたものすごい美人のスリザリン生レストレンジを見て、ティーンエイジャー極まりない感想が脳を経由すること無く本能から直に飛び出してしまった。

「もっと他に褒め方あったでしょ先輩!」

ダンブルドア少年が咎め、息子の親しげな振る舞いに母ケンドラも笑う。そしてその時、ウィーズリー一族が声を揃えて大盛り上がりを始めた。

「よっ、待ってました!」「今年は腹に誰の似顔絵を……ブラック校長かあ!!」

いつのまにやら設営されていたステージに現れた上半身裸のおじいさんが大きなお腹をぐねぐねぶるんぶるん動かして踊りだすと、その場に集った全員がひとり残らず、腹を抱えて笑い転げた。グリーングラス兄妹もダンブルドア家もハッフルパフ生の姉妹と両親も、マルフォイもサロウ一家もドレス姿のレストレンジも皆、みんな涙を流して笑っている。オミニスも杖の先を赤く光らせながら大笑いしている。

そしてフォークスともう1羽の不死鳥が揃って、お腹を出したおじいさんが踊るのに合わせたリズムで歌い始めるともうみんな笑いすぎて収集がつかなくなってしまった。

唯一、おじいさんの大きなお腹に描かれたブラック校長の似顔絵だけが笑っていなかったが、その似顔絵はむしろ積極的に変顔を披露していた。

ぶるんぶるん揺れ歪みながら次から次へと変顔するブラック校長の似顔絵と目が合ってしまったダンブルドア少年は、笑いすぎて自分を肩車している女生徒の上から転げ落ち、尚もぐねぐね踊り続けるウィーズリーの親戚のマグルのおじいさんに視線を集中しながら床に転がって笑い続けるのだった。

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