PURE "HEAL" FACE 2

PURE "HEAL" FACE 2

「恋を自覚したトレーナーの反応」196

【2・リップとの出会い】



6月6日 16時。

「そらとぶタクシー」のゴンドラのドアが開き、ベイクジムの前に2人が降り立つ。

自動扉が軽やかに開くと、受付のカウンターの左脇に、このジムのリーダーを務める

「リップ」が待っていた。



キハダ「押忍っ! キハダだ!」


ビワ「おっ 押忍っ!!」


リップ「おはようございまーす♪」


キハダ「急だったのに ありがとうな!」


リップ「いいってことよ♪」


ビワ(わ わわっ……!! 本物の リップさん……っ!!

まぶしいっ……!!)



すらりと伸びた長身のリップから放たれる、あまりにも眩しすぎるオーラは、

ビワに対し見事「効果バツグン」だった。



ビワ「こ こんにちは……!」


リップ「このコが ビワちゃんね……!」


ビワ「ビワといいます よろしくお願いしますっ」


キハダ「いいコだろ? 色々あったけど

こうやってここに 胸張って立ってる……」


リップ「うん すっごく すーっごく いい素材してる……」


ビワ(…… わたしを…… まっすぐ見つめてきてる……)


リップ「身長は…… 190センチ? 195? もっとあるかも……

ここまで鍛え上げられたカラダ なかなか見ないわ

それに とってもイカした モーレツなメイク」


ビワ(うう~~…… まじまじと見られたら はずかしいっ……)


キハダ「ハハ 意外と緊張してるのかな?」


リップ「……じゃ ここじゃなんだし 上に行きましょ! 3階でーす」



エレベーターの中、ビワは不思議な感覚に陥っていた。

リップとは初対面なのに、心を見透かされているような……

それもそのはず……



ビワ(タクシーの中で 先生と話したけど リップさんは 

エスパータイプの エキスパートだって……

……もう 隠せないし…… 隠さない だって)


ビワ(それを 変えるんだから……!)



ジムの2階から上は、関係者の控室などが入り、打ち合わせや会議が行われる。

そのため、「宝探し」でジムに挑むトレーナー達はまず立ち入ることがない場所だ。


エレベーターのドアが開くと、リップについて回っている2体のチャーレムが

一行を出迎える。



ビワ(あっ チャーレムだ……!)


チャーレム「ちゃちゃっ!」

チャーレム「ちゃっちゃれ!」


リップ「さ こっちよ 入ってちょうだい」


ビワ「失礼しますっ」


キハダ「押忍っ! 失礼しますっ!」


リップ「テキトーに座ってて ふたりとも カフェオレでいいかしら?」


ビワ「はい! ありがとうございます!」


キハダ「ありがとうな!」


リップ「はーい♪ じゃ リップはカフェオレ作るから

チャーレムちゃんたち お菓子お願いね シクヨロ♪」


チャーレム「ちゃっちゃ♪」

チャーレム「ちゃらっちゃ♪」



ひとしきり、3人で談笑したあと、リップがすくっと立ち上がり、

ビワの近くに歩み寄る。



リップ「……ねえ ビワちゃん」


ビワ「はいっ……」



リップは腰をかがめ、ビワの顔を間近に見据え、ついに切り出した。



リップ「…… アナタ このメイクを始めて どれくらいになるの?」


ビワ「1年と 8ヶ月です」


リップ「…… そう そんなに…… そう……」


キハダ「…… ……」


リップ「…… うん わかったわ……」



リップはそうこぼすと、目を細めて、ビワの頭をそっと撫でた。

あっけにとられているビワを横目に、キハダは小さく頷き、微笑んだ。



リップ「でも…… リップ ビワちゃんのこと もっと知りたい」


ビワ「リップさん……っ」


リップ「1年8ヶ月という歳月 どんな思いで そのメイク マジックを

自分にかけてきたのか リップも しっかりと知りたいの」


リップ「そうすれば おのずと 何がキッカケだったのか……

どうやって ビワちゃんに マジックをかけられるのか

知ることが出来ると思うの」


ビワ「…… ……」


リップ「もし 打ち明けたくなったら いつでも言ってね

キハダちゃんも ついてるから」


ビワ「ありがとう ございます……!」



ビワは、初めて会うのにここまで自分を心配してくれるリップの魔法に、

もうすでにかかりはじめているような心地でいた。持ち前の性分で、

どこからかこみ上げ始めた何かを静めている……



リップ「キハダちゃん ビワちゃんって今 アカデミーの他には

何かやってるのかしら?」


キハダ「ああ STC…… スター・トレーニング・センターっていう、

トレーニング施設をまとめてるぞ」


リップ「なるへそ 2ヶ月前 パルデアの各地に出来たっていう……

ゴイスーじゃん ビワちゃんの担当は どのあたり?」


ビワ「北2番エリアです」


リップ「! 北2番…… ちょっと待っててちょうだい」



リップは突然スマホロトムを立ち上げ、誰かに電話をかけ始めた。

北2番エリア、ビワのアジトがある辺りに用事があるのだろうか。



ビワ「……?」


キハダ「リップ パルデア全土で活躍してるからな……」



パルデアは広い。ベイクタウンと北2番エリアは、パルデアの島のほぼ対角線上の

両端にある。その距離は、常人ではそうやすやすと行き来できないほどに遠い。



リップ「しもしも~? リップだけど おつかれさまー

例のバンブー・エッセンスの クレンジングオイルの件……」


リップ「そうね 4日後から リップが直々にロケハンしに行くわ

優先順位と確度も上げといてね なるはやで完パケまでいっちゃうわ

じゃ シクヨロ~♪」



リップの口からは、まるでマシンガンのように「業界用語」や「ナウイことば」に

似たワードが繰り出される。



ビワ「……リップさんって いつも こんな感じなんですか?」


キハダ「ああ 面白いだろ?」


ビワ「…… ……」



ストイックさと美しさが人の形をしているようなリップの話し方に、ビワの緊張は

少しずつではあるが、ほぐされていった。そんな中で、言葉の端々から感じられた

こと。


「北2番エリアに、リップが4日後に直接向かう」。そこに生える竹を素材にした

化粧品を作っており、素材の様子をリップ自らが見に行くことの他に、これが意味

することとは――



リップ「おまたせ ビワちゃん」


ビワ「…… も もしかして……」


キハダ「お おお……!?」


リップ「今日のメイクアップ講座が終わったら……

うん 4日後 リップが STCのビワちゃんに 挑戦しに行っちゃいまーす♪」


ビワ「……!! せ 先生っ……!! これって……!!」


キハダ「おおっ! これは すごいことだ!!」


リップ「こんなにもたくさん かわいい表情(かお)をできるコだもん

…… リップ ビワちゃんの表情 いーっぱい 見てみたい……」


キハダ「うん うん その通りだ! まずはそこから始めようか!」



リップもまた、大きな身体とフェイスペイントの下で豊かな表情を見せる

ビワの魅力を見出していた。これを隠しておくのは、非常に惜しいと感じたのだ。



リップ「いっぱい背負った『哀しみ』になんて もうサヨナラしちゃいましょ

『驚きの美しさ』と出会うこと それが最初のマジックよ」


ビワ「ありがとうございます……!!」


リップ「まずはこのまま キハダちゃんの 『喜怒驚楽エクササイズ』で

感情を ドカーンと 大爆発させてちょうだい……♪

キハダちゃん 改めて 準備はいいかしら?」


キハダ「押忍! まかせとけっ! ビワ このエクササイズ

聞いたことはあるかな?」


ビワ「はい 少しだけなら…… サークルのコと

あのっ 1年A組の ……ハルトさんが これを……」


キハダ「おおーっ! あのキレのいい転入生か! ならば 話は早い!」


ビワ「先生っ よろしくお願いします!」


リップ「せっかくだから リップも 参加しちゃおっかな

このところ ちょっとヨガも できてなかったし……」


キハダ「おおっ リップも やってくれるのか!!」


リップ「だって 間近で 魔法がかかっていくのを見たいの……」



リップの眩しすぎるウインクに、ビワは完全に魅了されてしまった。

これからエクササイズをするということで、軽く身体をほぐしていると、

リップがいつの間にかジャージに着替えていた。



リップ「そうだ ビワちゃんの分も ちゃあんとあるから」


ビワ「わたしの分……? いいんですか……!?」


リップ「モチのロンよ キハダちゃんから電話が来た時に そこも織り込んで

打合せしてたの」


キハダ「ああ ジャージはちゃんと用意してるぞ 宝探しのときにも

いろんなトレーナーが挑戦してくるからな!

……ほとんどの挑戦者は そのままの服で挑んでくるけど……」


ビワ「本当に なにからなにまで ありがとうございます……!

じゃ ちょっと 着替えてきますね!」



ビワは自分の体格に合うサイズのジャージに着替え、改めて

キハダとリップの元へ駆け寄る。



ビワ「着替えましたっ」


キハダ「おおっ サイズ感もちょうどいいな!」


リップ「じゃ 夕方6時に…… ジムの横のグラウンドで落ち合いましょ

ちゃあんと準備運動 しなくっちゃね」


リップ「それじゃ また後でね おつかれさまでーす♪」


ビワ「おつかれさまで したっ!!」


キハダ「押忍っ! おつかれさまでしたっ!!」



ビワは思わず「お疲れさまでスター!」と言いかけ、キハダと顔を見合って苦笑い。

その後、『リップがチーム・カーフのSTCに挑みに来る』ことをタナカに知らせる

と、返信はすぐに返ってきた。



『それ すごいコトだよ ありがとう! こっちで準備しとくから!

ビワちゃんの試合 見届けるからね お疲れさまでスター! タナカ』



心も体も一層温まり始めたビワは、期待に胸を膨らませて、キハダとともに

ジム横のグラウンドへ急ぐのだった。


【つづく】

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