ONE PIECE FILM ANGEL (冒頭シーン妄想)
※Part9の134様と168様に影響を受けた(アイデアを少々パクった)ことをお前に教える
眠れない。
両隣に眠る二人は、微かな吐息と共にぐっすり。ドレスローザの一件と自らの過去が「一味」の中で(某同盟相手にも)把握されてから、より一層皆が自分のことを心から大切にしてくれていることが分かる。二度と自分が先を見失う事が無いように、二人が手を繋いでいた。
起こさないように手を離し、少しの音を立てることなくパジャマのまま女子部屋から外に出た。頬を撫でる風。地平線の先から、徐々に紅く染まる空。遠くの雲海も少しずつ色が移っている。あの日も、同じ朝だった。たった二人と一匹が住むには有り余った居城に、あの船長が患者を連れてやってきたあの日。
『私も……同行してよろしいでしょうか?キャプテン』
『ああ!いいぞ!!』
軽い返事だった。しかし運命が動くときは必ずしも華やかな舞台の上とは限らない。舞台裏だとしても、見えないところや気付かないところでそこにいる人々は必死に生きている。足掻いている。それをほんの少しでも助けるのが看護師、己の職分。元々船医を求めていた「一味」も大いに歓迎してくれた。
たった二、三年でここまでやってきた。「偉大なる航路」の後半。一周までラストスパート。ナイチンゲールは手すりにもたれながら、ぼんやりと朝日を眺めた。気温こそ冷たかったが、彼女の奥底にある暖かさの炎は立ち消えない。
「・・・ブルック、サンジ。おはようございます」
「おはようございます、早起きですね」
「おはよう、フローちゃん」
キッチンには先客がいた。サンジは朝食のための仕込みを、ブルックは新聞を読んでいる。先程鞄を首に下げたカモメが飛んでいたのを見たので、今日の「世経」朝刊であろう。
「何か淹れようか?」
「それでは、紅茶を」
「少々お待ちを。ブルック、お前は・・・・・・聞かなくても良いか」
「ヨホホ、私もう常連のようなものですから。サンジさんには「いつもの」と把握できているでしょう」
「私もですね、ドラム王国を出てからずっと」
湯気を立てつつ、透き通った二杯が運ばれてきた。トレーの上には他にも各種砂糖やミルクもある。種類によってコクと味が変わるのを熟知したコックの気遣いだ。感謝を伝え、穏やかな朝を迎える。他の仲間も順に起きるだろう。ほんの少し、何かを忘れているような。
「今日はパンと米、どっちが良い?フレークも買ってあるぞ」
「そうですね、私としては昨晩カレーにして頂いたので、パンが良いですね」
「私もそちらで」
「・・・そういえば、お二方の出身である地域ではパンが主食だとか。羨ましいですね、毎日焼きたてを頬ばれるなんて!」
「お前んとこも似たようなもんだろ」
「いえ、ウチはどちらかといえば焼き菓子が主流なもので、パンは少し・・・・・・美味しいのですが、サンジさんのと比べると」
「そうか?それなら嬉しいんだが」
「そうですよ、サンジ。貴方の食事に、私達は助けられていますから」
「んホ~~~!!!!アサから褒めてくれるなんて何て優しい乙女なんだ!!!」
会話は弾んでいる。でも、何か足りない。いつもならそろそろ来るであろう、聞こえるであろう・・・
「・・・そういえば、今日の朝は演奏しないのですか?」
二人の纏う雰囲気が少し張り詰めた。・・・気がした。
「お、・・・そうだったな。ブルック、そろそろ起こしてやれ」
「もう7時も近いですね。それでは」
読んでいた新聞を畳んで、すくりと骸骨の紳士は立ち上がった。愛用のヴァイオリンを構え優雅に音楽を流す。今日は南の海で流行した行進曲をアレンジしたものだ。
「フローちゃん、そういえばなんだけどさ」
ナイチンゲールが新聞に手を伸ばそうとしていたとき、徐ろにサンジが声をかけた。
「はい」
「昨日少し話してたトリケラトプ草の調合、終わったかな」
「それなら、もう医薬品として利用できる状態として加工まで完了しています」
「ほんと?それなら、もし余っていたらで良いんだ。分けてくれるとありがてェんだ。アレ、肉のスパイスとしても丁度ピッタリなんだ」
「それなら、是非。在庫がありますので、Dr.チョッパーに聞いてみますね」
「助かるよ」
「肉ゥ~~~!!!肉!!!!」
「朝から元気ですね、ルフィさん。おはようございます」
「皆無理に起きちまうじゃねェか、音量下げろ」
「おはようございます、キャプテン」
「おう!皆おはよう!サンジ、今日のメシは?」
「今から焼くとこだから離れろ。この前勝手に侵入したときのように火傷したくねェだろが」
「ホント、まさかカンカンの耐熱皿ごと食べるとは私もビックリしてもう肝も縮み上がって・・・・・・ま、私もう」
「そうです、キッチンで動き回るのは余り良くありません」
「途中で切られた・・・」
「大丈夫だ!次はちゃんと食う!」
「つまみ食いを止めろ」
「フフッ」
優雅な朝、ヴァイオリンの旋律に明るく元気なファンファーレが混ざった。ナイチンゲールはカップにほんの少しの砂糖をスプーンで溶かした。これは彼女の故国の風習。こうすることで少し味が軽やかになる。
「・・・ん?んんん??」
「どうしました?」
「なぁ、ブルック。これ・・・」
「あ、あぁ。それですね、どうやら私のスキャンダルらしくて・・・」
「違ェよ、その上だよ」
興味本位で動き回るにしてもルフィが活字に触れようとするのは滅多にない。しかし今日はその矛先が先程の新聞に向いたようだ。
「このクリミアってさ、フローの故郷だろ?」
「「!!!」」
「そうですが・・・・・・何かありましたか?」
「お、見てみるかフロー。これなんだがな」
「ちょ、ちょっと待ってくださ」
「おいクソゴム、その新聞・・・」
【号外】北の海加盟国「クリミア」に再度攻撃か 世界政府黙認
「え・・・」
ナイチンゲールは取り上げるようにルフィから新聞を取り、その一面を隅から隅まで凝視した。クリミア国境から布告無しに軍隊越境。既に海岸より艦砲射撃。世界政府は「国際外交上の問題解決」を主張し「パシフィスタ」を導入。
「そんな・・・」
「・・・どうした?フロー。おーい」
「・・・やっちまった」
「あ、あの。フローレンスさん・・・」
サンジとブルックは早く起きて朝刊を見ていたから、この記事を隠そうとしていたのだ。ブルックはオロオロと反応に困り、サンジは手を額に被せた。
「皆が・・・・・・」
早朝に目が覚めたのは、虫の知らせだった。
※ここから168様のアイデアに続く感じを妄想してますハイ