ONE PIECE第0.5話【ウタの冒険記─私の名前はウタ】
通りすがりのSS大好きおじさん『“契約”よ、ファミリーの一員に負を被らないこと』
『人形の歌なんて不愉快なだけ、だから喋るのも禁ずるわ』
『これを守れるなら私と“友達”になれるわ、さぁ、私と“友達”になりましょう──?』
──嫌だ‼︎シャンクス‼︎誰か‼︎助けて‼︎
「あら、逃げられちゃった、まぁいいわ、どうせ“皆忘れてる”もの」
船‼︎船の方に行けば誰かいるはず‼︎ホンゴウさん‼︎ルゥ‼︎ヤソップ‼︎ベックマン‼︎──シャンクス‼︎
「ん?なんだこのおもちゃ、落とし物か?」
──‼︎シャンクスだ‼︎ねぇ‼︎私だよ‼︎ウタだよ‼︎わからないの‼︎
『ギィギィ‼︎ギィギィ‼︎』
「なんだ?壊れてんのか?変な音がしやがるそれにくっついてきやがるし、俺に娘なんて“いねえ”ってのに」
…え?今、なんて…
「あー、もう懐くんじゃねえよ、女物の人形とかうちで喜ぶ奴居ねえぞ、他の所いけ、な?」
嘘、嘘だ、嘘と言ってよ…ねぇ‼︎私、ウタだよ‼︎シャンクスの娘のウタだってば‼︎冗談はやめてよ‼︎
「お頭、出航の準備は整ったぜ、いつでも出せる…なんだその人形、女物じゃねえか、しかも変な音なってるし」
──ベックマン‼︎ねぇ‼︎私の事──。
「ウチに女物を喜ぶ趣味のやつはいねえぞ?積める荷物にも限りがある」
え…ベックマンも…?皆、私のこと忘れちゃったの?なんで、あんなに長く過ごしたのに…私が人形になったから…?あの子に触られて人形になったから皆から忘れられたの…?嫌だ、みんなから忘れられるなんて嫌だ‼︎
「取り敢えず船を出すぞ、海軍に嗅ぎつかれても面倒だしな、野郎共‼︎錨を上げろ‼︎帆を張れ‼︎出航だ‼︎」
嫌だ‼︎シャンクス‼︎私も連れてってよぉ‼︎私も赤髪海賊団の一員なんだよぉ‼︎置いてかないでよ‼︎
「あぁ、もうそんなにしがみつくな鬱陶しい、どうする、本格的に懐かれたみてえだ、ウチに置いとくわけにはいかねえし」
「ならルフィへの土産にでも持って帰ればいい、東の海じゃ動くおもちゃは珍しいだろ、目を光らせるはずだ」
「うーん、あいつ女物のおもちゃで喜ぶかな…まぁマキノさんなら喜びそうだが…そうするか、それよりこの部屋はなんだ、子供用の部屋みたいだが、それも女用の、誰か浮気でもしたか?ヤソップ?」
「なんで俺に聞くんだよ⁉︎俺はバンキーナ一筋だ‼︎これだけは譲れねえ‼︎」
「わかったわかった、ならささっとガキに会いに行ってやれよ」グヌ、ウソップトアウニハマダココロノジュンビガ
「どうする、部屋畳んどくか?このウタの冒険日記?ってやつも」
「…?いやなんか知らねえがそこだけは触るなって言われた気がした…覚えてねえけど、取り敢えずそのままでいい、人形もその部屋に詰め込んでてくれ、物置きにでもしとこう」
そっか…皆本当に忘れちゃったんだ…私はただの物になっちゃったんだ…1人は嫌だなぁ…フーシャ村のみんなも…ルフィも忘れてるんだろうなぁ…。グス、ウワァァァン‼︎
『ギィギィ…ギィギィ…』
あの島を出て何日経っただろう、あれからみんなとは会えない、会ってもどうせ覚えてないし何より喋れない、だから会いたくなかった、ずっとひとりぼっち、私は…わたし?あれ?あれれ?わたしって?わたし?ぼく?じぶん?たぶん、わたし、わたしのなまえは…なまえ…あれ、わたしってナニ?わたしは、シャンクスのむすめ?でもみんなはわたしのことをおぼえてない、じゃあいまのわたしは?いまのわたしはナニ?わたしは…わたしは…?
「フーシャ村が見えてきたか、今回の寄港で最後にしようと思う、今回の政府との戦闘で本格的に目をつけられた、大物海賊達にもな、いよいよ新世界で本格的に暴れるとしよう」
「それはいいがそんなに欲しかったのか?その悪魔の実、確か“ゴムゴムの実”だったか?ゴムになるだけだろう?そんなに強えとは思わねえが」
「はっはっは‼︎そう思うだろうな‼︎現にあのサイファーポールもそう思ってただろう‼︎だが、それほどに欲しかったんだよ‼︎この悪魔の実が‼︎だから態々政府の船に襲撃して奪ったんだ‼︎この実には世界を変える、まさしく“新時代”を作れるほどの能力なんだ‼︎正しい奴が食えばな」
「たかがゴムだろう、ゴムで新時代が作れるんなら“グラグラ”や“フワフワ”と言った強力な超人系の立つ背が無えよ、他にも幻獣種の“動物系”もあるし、何より“自然系”の周囲への影響力もそうだ、それらに比べたらゴムになるだけだろ、伸び縮みするだけでどうにかできる問題じゃ無えと思うが?」
「やっぱそう思うか⁉︎そう思うだろうな‼︎だがどんな実にも隠されたひみつがあるってもんだ」
「“覚醒”ってやつか」
「そうだ、この実を“覚醒”させれる奴が“新時代”を作れる‼︎俺はそう感じてる‼︎」
「─で?お頭が食うのか?」
「いや?俺は食わねえよ?「はぁ?」だってカナヅチになりたく無えもん、だからベックお前が「断る」だよなぁ…しゃあねえ、取り敢えず保管して置いとくか…」
きょうもシャンクスが色々物を置いていった、この部屋もずいぶんものが増えた、元の部屋の名残は微かしかない、フーシャ村が近いみたい、みんなはしゃいでる、わたしも混ざりたい、でもわたしは混ざれない、喋れないから歌えない、歌えないならわたしは何もできない、文字通りのお荷物、本当は動いてベックマンの背中におんぶしてもらいたい、そうするとシャンクスが怒って自分の背中に寄せようとするんだ、ルゥの手料理をつまみ食いして怒られたい、シャンクスも一緒につまみ食いするのは私だけが怒られないようにしてた、ヤソップの息子の自慢話をまた聞きたい、もう何度も聞いたのに今はそれが懐かしい、あんなにシャンクス達ともういいって言ってたのに…シャンクスに抱きつきたい、頭を撫でられたい…でもそれもできない、また鬱陶しがられたらもう…立ち直れない…捨てられたら本当に最後までひとりぼっちになっちゃう…それは…嫌だ、だったら無視されててもまだ船に乗って声を聞いていたい、それだけが私の救い…あぁ、でも一度でいいから私の名前を呼んでほしい、もう、私はわたしがわからない。誰か、わたしに気づいて…私の名前を呼んで…
「おーい‼︎シャンクスー‼︎また冒険の話してくれー‼︎聞いてやるよー‼︎」
‼︎この声…ルフィ?いや、どうせルフィも忘れてるんだ、期待しちゃ駄目だ、皆忘れてたんだ…どうせ…私なんか…みんな…みんな…
「ルフィか、お前に土産があるんだ、“これ”いるか?今回の島ではな、生きてる人形が居たんだ、懐かれたんだが女物で俺たちの趣味じゃない、娘の1人でもいたらその子にあげたんだが、どうだ?いるか?ルフィ」
「うおー!動くおもちゃだ!生きてんのか?これ!」
「まぁ生きてる…らしいな。声らしきものは出せるが、変な音だしな、女物だし、要らねえなら捨てていいぞ?」
「…いや、いる!“こいつ”も生きてるなら生き物だ‼︎“友達”だ‼︎」
…
「そうか、まぁ大事にしろよ、友達ならな」
「言われなくてもするさ‼︎なぁそれよりさ冒険の話聞かせてくれよ‼︎」
「わかったわかった、そう急かすな、酒場で話してやるから」
ほら、ルフィも覚えてなかった、分かってたよ…分かってたんだ…みんなから忘れられてるって…あぁ…皆んな忘れてるなら、もう生きてる意味がない…死んでしまおうか…死んでも誰も悲しまないよね…この世から消えてしまいたい──
ヨホホホーヨーーホホーホー‼︎ヨホホホーヨーーホホーホー‼︎
ビンクスの酒…?この身体になってもリズムは覚えてるんだ…もう二度と歌えないのに…
『ギィギィ…ギィギィ…』
「ん?お前歌で反応すんのか?歌が好きなのか?面白え奴だなー‼︎そういやシャンクスから名前聞いてねえや、んー、そうだ‼︎俺が名前付けよう‼︎何がしようかな…かっこいい奴?でも女物だしなぁ…そうだ‼︎歌で反応して好きだから“ウタ”だ!今日からお前の名前は“ウタ”だ‼︎よろしくなぁ‼︎ウタァ‼︎」
‼︎‼︎‼︎その、名前…は…
【ねんね〜あかちゃ〜ん、し〜ずか〜にね〜♪】
【ギャハハハなんじゃその歌、下手‼︎】
【じゃあお前らがやれよ‼︎子守りなんてしたことねえくせに‼︎】キャッキャッ
【あ、笑った…】
【歌に反応したのか?歌が好きなのかな…よし‼︎お前は“ウタ”、お前の名前は今日から“ウタ”だ‼︎】
【そのまんま‼︎センスねぇ〜‼︎】ギャハハハ
【いいんだよ!こう言うのはシンプルな方が、なー?ウタ‼︎】
『って言うのがお前の名前の由来だ』
『ふーん、安直』
『お前もそう言うのか‼︎だったらもっと変な名前にしてやろうか‼︎』
『でも、ありがとう、歌が好きだからウタ、そんな名前もらったんだったら名前負けしないくらい歌が上手にならないとね‼︎』
『その意気だぞ‼︎ウタァ‼︎」
──そうだ、私は“ウタ”だ、なんで忘れてたんだ、私の大事な名前、あんなに大切にしてもらってた名前、皆が忘れてても私だけは忘れてたらいけなかったのに‼︎
「なんだルフィ、そいつに名前をつけたのか、生きてるつっても只の人形だぞ、それ」
「只の人形じゃない‼︎こいつは俺の友達のウタだ‼︎馬鹿にすんな‼︎馬鹿にしたらいくらシャンクス達でも許さないからな‼︎」
「──そうか、わかった。そいつがルフィの友達なら馬鹿にするわけにはいかないな、ルフィの友達は俺たちの友達でもある。お前ら‼︎今回の冒険と、ルフィの新しい友達に祝して、宴だぁ‼︎」ウオオオ‼︎
ありがとう…ルフィ…私に私を思い出させてくれて…ありがとう…生きたいと思わせてくれて、ありがとう…‼︎