Nastily Exhausting Wizarding Tests (4)
requesting anonymity「ギャレスに―あ、そっちのギャレスじゃなくてデミガイズに―手を払い除けられたら『今何をしていたか』じゃなくて『次何をしようとしていたか』を思い浮かべて。それがデミガイズが君の手を払い除けた原因だから。デミガイズには未来が見える。今は君が次に何するかを見てるはずだから、君が次にとる行動がダメだったら教えてくれるよ。それとあんまりにもダメが過ぎると、たまーにだけど、噛むからね」
女生徒は食事を終えたオーグリーとセストラルを旅行かばんの中に戻して大鍋を片付けながら、緊張気味の表情でデミガイズのブラッシングに挑戦しているグリフィンドールの7年生の男子に言った。
「アルバスもやってみるかい?見てるだけはつまんないだろう?」
いきなりこっちを向いた女生徒にそう言われたダンブルドア少年はしかし、その発言が信じられず思わず訊き返す。
「先輩、それ本気で仰ってます?………先輩のやる授業って見てるだけでもかなり楽しいんですよ?てっきり僕先輩が自信持ってやってるもんだと………」
予想外の答えが返ってきた事に女生徒は戸惑うが、どうにかその動揺を己の内に留め平常心を装ってもう一度提案する。
「………そう?ありがとね。で、やってみる、やめとく?」
「………………やります。やりたいです」
ダンブルドア少年が素直にそう言ったその時、デミガイズ「ギャレス」にブラッシングしていたグリフィンドールの7年生の男子が声を上げた。
「あの、あの!ちょっといいかな!………この部屋の、あそこ!ギャレスが―ああ、このデミガイズの事じゃなくてあっちのもっと厄介な方のギャレスが―輪郭がほんの少し揺らめいたように俺からは見えたんだが、もしかしてそこにもう1匹デミガイズが居るんじゃないか?」
それを聞いて女生徒はグリフィンドールの7年生の目を見つめ、ニッコリと笑う。
「よくわかったねえ!隠れてじっとしてるデミガイズを、『居る』って事前情報無しで見つけるのは本当に難しいんだよ!」
女生徒がそう称賛するのと同時に、「デミガイズより厄介な方」のギャレスの直ぐ側の空気が揺らめいてデミガイズの姿が立ち現れ、ダンブルドア少年の方に歩み寄ってきた。
「さ、今度は『居る』ってわかった上で見てみようか」
女生徒がそう提案するのと同時に、ダンブルドア少年の眼の前に居るデミガイズと、グリフィンドールの7年生がブラッシングしているデミガイズが同時に姿を消した。
「これは…………」「ちょっと景色がゆらゆらしてる………か…………?」
それぞれのデミガイズに最も近いダンブルドア少年とブラッシングしていたグリフィンドールの7年生も、周囲の他の生徒たちも目を凝らす。
「さっきよく気づきましたね……………言われなきゃ判りませんよコレ……」
ダンブルドア少年がグリフィンドールの7年生を褒めると、女生徒の「はい、ありがとね」の声を合図に2匹のデミガイズは再び姿を現す。
「隠れてるデミガイズを見つける時に覚えておくべきは『デミガイズが持ってる物は透明にならない』って事と『デミガイズが立てる物音が重要な手がかりになる』つまり静かにしたほうが良いって事と『デミガイズが激しく動いてる時はほんの少しだけど見えやすくなる』って事。デミガイズが激しく動くと風景のゆらめきがわかりやすくなるからね。さ、アルバスもブラッシングしてみよう!」
そう言われたダンブルドア少年は女生徒が杖で浮かせてよこしたブラシを受け取り、しゃがんで目の前のデミガイズに心を向けた。
そして何度か手を払い除けられながらもどうにかブラッシングを終えたところで女生徒がまた提案する。
「さ、じゃあ交代しようか」
女生徒のその声と共に、2匹のデミガイズは歩いてお互いの位置を入れ替えた。
「さあ2人とも、こんどはそのデミガイズにブラッシングしよう。そうすれば『魔法生物と向き合う時に忘れちゃいけない事の1つ』を学べるよ」
促されるままに再びブラッシングを開始したダンブルドア少年とグリフィンドールの7年生は、やがて女生徒が言わんとしている事に気づいた。
さっきブラッシングしたデミガイズは何の反応も示さず受け入れてくれたやり方を、このデミガイズは嫌がる。そこで試しにさっきのデミガイズに拒否されたやり方を試すと、今度は受け入れられる。かと思えば拒否され、かと思えば受け入れられる。それはつまりこの2匹のデミガイズそれぞれの「個性」だった。
「わかったかい?わかったね?同じデミガイズだからって、何もかも一緒ってわけじゃない。それぞれ違いがあって、それぞれ個性的なんだ。もちろん全てのデミガイズに共通する特徴もある。『透明になれる』とか『未来を垣間見られる』とか『身に危険でも迫らなければ基本は穏やかな性格』とかがそう。だけど『好きなブラッシング方法』とかはけっこうそれぞれの子で全然違うんだ」
そう言いながら女生徒は周囲の生徒一人ひとりの目を順番に見つめる。
「そしてそれはどの生き物でもそう。その生き物の種類に関する知識はもちろん知った上で、目の前にいる生き物を種類で見るんじゃなくて、目の前のその子そのものを見るんだ。じゃないと、お互いにとって不幸な結果になるかもしれないから。さ、アルバスも君も、終わったなら他の子に交代してあげてね」
そうして希望者皆が2匹のデミガイズへのブラッシングを終える頃には生徒たちは目に自信と魔法生物学への一層の積極性が宿り、デミガイズ達はブラッシングされすぎて疲れたのか女生徒の側に寄ってきて抱きかかえるよう身振りで要求するのだった。
「お疲れ様。2人とも手伝ってくれてありがとね」
女生徒が両手で抱きかかえた2匹のデミガイズをねぎらうのと、ギャレスが見ていた5年生達が各々の「生ける屍の水薬」を完成させるのは同時だった。
「そっちはどう?ギャレスー?」
デミガイズ2匹を抱きかかえたまま近寄ってきた女生徒に、ギャレスが答える。
「みんないい感じさ。完璧じゃないけどね。だってこれ6年生でやる薬だし。でも、だからこそ勉強になる。さ、みんな。これは試験勉強なんだから、大事なのはここからだよ。いいかい?全く新しい魔法薬を生み出そうとしているんじゃないなら、魔法薬作りで上手く行かなかった時の理由は常に同じ。『どっかの手順を間違えてる』」
そう言ったギャレスは薬を作り上げた5年生達一人ひとりの丁寧な講評を始めたがそれぞれの作業の良かったところを具体的に褒めて自信を持たせる事も忘れなかった。
「でもね、実を言うと、教科書に作り方が載ってる薬のいくつかは、『教科書に載ってるのよりもっと良い方法』があるんだ。今からそれを、特に試験によく出るやつを教えてあげよう。それといいかい?魔法薬学に於いては『結果は嘘をつかない』」
そしてギャレスが大鍋4つでそれぞれ別の薬作りを同時並行で実演しながら説明し始めた「教科書に載ってるのより良い方法」を、さっきまで魔法生物学の講師役をしていた女生徒も含めたその場の皆が必死でメモを取りつつ脳に刻み込んでいく。
「いつも変な薬ばっかり作ってるから忘れがちですけど、ギャレス先輩ってすごいんですよね………」
「そうなんだよ。ギャレスはすごいんだ」
ダンブルドア少年とそう言葉を交わした女生徒は、なぜか得意げだった。