Mr.3と子🐊

>>83さんの絵に出てきた本から着想を得ております。

個人的にみたい場面つめつめしただけなので、拙文ですが、生暖かい目で見てください。

​───────​───────

「なァ、Mr.3。これ作ってくれ。」

そう言って、ボスは手にした本の挿絵を見せてきた。

そこに乗っていたのは海に浮かぶ小さな小舟。

本を受け取って、表紙をみると『Whale in the sea』と書かれていた。

ギャルディーノはその本を読んだことはなかったが、タイトルから察するに海と鯨に纏わる話でその一幕にでてくるのがこの小舟なのだろうと考える。

「作ることはできるガネ。でも、海には浮かばないガネ。」

挿絵を見る限り、簡素な船なので作ることは可能だったが、蝋で作った船では沈んでしまう。

それをそのまま伝えると、ボスは不機嫌そうに眉を顰めた。

「浮かないなんてわかってる。」

こちらとしては馬鹿にする気は毛頭なかったが、恐らくボスは馬鹿にされたと感じたようだ。

ギャルディーノは子供の機嫌を取るのは難しいなと思いつつ、これ以上機嫌を損ねないように話題をかえた。

「どこに作ればいいガネ？」

作ることを前提に場所を尋ねてやれば、顰めていた眉はすぐにいつもの位置に戻り、嬉しそうな顔をする。

ボスはギャルディーノの言葉を聞くや否や、ギャルディーノの服を掴んで引っ張った。

「こっちだ。」

よほど早く作って欲しいのか、少し早足になっている。

引っ張られるままに着いていくとたどり着いたのはバナナワニの生簀が見える部屋の一角だった。

「ホントにここに作るんだガネ？」

予想外の場所だったので思わず聞き返す。

「ここがいいんだ。早く。」

ギャルディーノが躊躇しているとボスが焦れたように急かしてきた。

楽しみでそわそわしているボスはなんとなく微笑ましく、能力を使って小舟の土台をつくる。

「大きさはどうするガネ？」

「これくらい。」

ボスは手を精一杯広げて、大きさを示す。

その様子から察して、そこそこ大きい方がいいのだろうと察し大人1人分程度の大きさにすることを決めて、蝋を形作った。

本の挿絵を思い出しつつ微調整を重ねる。最終調整を終え、ボスの方へ視線を向けると横で見ていたボスが本の挿絵と見比べてその出来栄えに満足そうな笑みを浮かべている。

「ありがと。」

「どういたしましてだガネ。」

きちんとお礼を言えるのは偉いなと感心し、最後の仕上げとしてよじ登るのには少々大きくなってしまった船の側面に階段をつけた。

「私は仕事に戻るガネ。」

階段をつけた途端、嬉しそうに船に走り寄ったボスにそう声をかけ、部屋を後にした。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「おい、ボスを見なかったか。」

船を作ってから数時間ほど経ったころ、Mr.1に声をかけられた。

「見てないガネ。」

「そうか。どこにいったんだか。」

あれやこれやとボスの世話を焼くMr.1がエプロン姿なのを見る限り、夕飯の支度が出来たことをボスに伝えにきた様子だ。

その献身的な姿に社員たちの間では密かに『ママ・ボーネス』と呼ばれている。

「もしかすると、バナナワニの部屋かもしれないガネ。」

ふと思い至った言葉を口に出した。

Mr.1はその言葉に一瞬怪訝な顔をしたが追求せずにバナナワニの部屋へと向かうことを決めたようで、こちらに背を向けた。

ギャルディーノもなんとなく着いていくことに決め、二人無言で部屋へと向かう。

「ボス。」

部屋の前にたどり着くと、Mr.1が扉をノックし、声を掛けた。

返答を待つが、一切返答はないのでMr.1が扉を開ける。

Mr.1の後ろから部屋を一望するが、ボスの姿はなくギャルディーノが作った小舟だけが鎮座していた。

「勘違いだったガネ。」

ボスの頼みとはいえ、勝手に作った小船に突っ込まれないように注意を逸らしたかったので、黙ったままのMr.1に声をかける。

続けて別の場所を探すことを提案しようと思っていると、Mr.1が小舟に向かって歩き出した。

「それはボスに作るように頼まれたんだガネ！」

興味を持たれてしまっては仕方ないと、後を追うように声をかける。

Mr.1はつかつかと大股で小舟に近づくと中を覗き込んだ。

船なのでもちろん窪んでいるが、特に凝った装飾は施していないのでまじまじと見るものでは無いはずだが、Mr.1はしばらく覗き込んだまま動かない。

その様子が気になりギャルディーノも小舟に近づき、覗き込んだ。

するとそこにはお気に入りのぬいぐるみと共に横たわるボスがいた。

すやすやと寝息を立てている。

「昼寝中だったガネ。」

横で同じように覗き込んでいるMr.1にボスが起こさないような小声で話しかける。

「…夜寝れなくなってしまうな。」

Mr.1の返事自体は困っているようだったが、その声色は酷く優しい。

そこから、二人無言でボスの姿を堪能して部屋を後にした。

Mr.1はその後毛布を持っていたし、ギャルディーノは小舟は改造してベッドにした。