Mission Impossible
カワキのスレ主「カーワキちゃん! 今良いかな?」
「鳶栖さん。随分と機嫌が良いね。何か用事かな」
「リオだよ。ふふふっ」
「良いこと思い付いたから、カワキちゃんにちょっと相談。
カワキちゃんはこのリゾートで何かやりたいこと、あったりする?」
「……?
……特には。
「余暇を楽しむように」と陛下に喚ばれたことは理解しているけれど……明確にやりたいことがあって召喚に応じたわけじゃないからね。リミットまで、普段は訪れることがない場所で修行でもしようかと考えていたところだよ」
「良かった。それじゃあ、私と一緒に「夏の自由研究」やらない?」
「「自由研究」?」
「そう。
ねえ……カワキちゃんはこの特異点を誰が作ったかとか、行末とか、もうわかってるんでしょ? 私にも教えて欲しいな?」
「…………。それが自由研究に関係しているの?」
「そうだよ。自由研究のテーマはこう」
「題して——「特異点を形成する要素とは何か」。
……どう? 気にならない?」
「……確かに、興味深いテーマだ。続きを聞かせてもらえるかな」
「うん。研究内容は、特異点を維持するリソースの総量と活用方法を調べること。方法は……ふふっ、カワキちゃん、耳貸して。あのね……」
「——この特異点を維持してるリソース、私たちでもらっちゃおう」
「……!」
「どうかな? 驚いた?」
「ああ。けれど……」
「良いね、そういうのは好きだよ」
「やった。お誘い、受けてくれる?」
「ああ。君の提案を受け入れよう。ただ、特異点のリソースは山分けが難しい」
「つまり……」
「ああ、最後は私と君で奪い合いになる。譲る気はないよ。それで構わないなら、君の問いに答えよう」
「競争だね、もちろん! 嬉しい、楽しみだなぁ」
「こちらこそ、声をかけてくれてありがとう。おかげで、たった今、私にもやりたいことができた。
それで、君の質問に対する答えだけれど……この特異点を誰が作ったか、その行末は? というものだね。
まずは特異点の主。これは予想が出来ているだろう。この特異点を作ったのは陛下だ。リソースの提供元も陛下だろうね。ここに来てからお会いしていないけれど、特異点のどこかにいるはずだよ。
そして、特異点の行末……」
「私の観測結果では、この特異点はこのままだと人理に穴を穿つ“厄災”となる。陛下やマグダレーナ様なら、もっと先が視えているだろうけれど……私が予測できたのはここまでだ」
「へえ……人理を脅かす“厄災”かぁ……。それも見てみたいけど……きっとマグダレーナさんは特異点の解体に動くよね。あの人が世界の滅亡なんて見逃すわけないもん。
……ああ、そっか!」
「それじゃあ、私たちはあの人が特異点を解体する隙を突いて——」
「——研究媒体を手に入れる。
まずは陛下を探すところから始めなくてはね」
「ふんふん……他に情報はある?」
「そうだな……。
この特異点の核になっているのは「誰かに会いたい」という願いだ。陛下がいったい誰に会いたくてこんな場所を作ったのかは知らないけれど……願いが叶って満足すれば、陛下と特異点の結び付きは弱まるはずだ」
「要するに……私たちがやることは一つ。陛下にリゾートを満喫してもらうこと、ってわけだね。うん、すっきりしてわかりやすくなったね」
「ああ。……私は海を通して、特異点全体の揺らぎを観測する監視者になろう。陛下の心境が変われば特異点に変化があるだろう。逆説的に、特異点の変化から陛下の満足度や解体の進み具合を推し量れるかもしれない」
「じゃあ、私は街を中心に動こうかな。やって来た人たちの様子を見て、特異点の雰囲気に変化がないか確認するね。
マグダレーナさんとも繋がりを作っておかなくちゃ」
「リオさんには負担をかけるね」
「気にしないで。私から誘ったんだし。ねえ、それよりさ……カワキちゃんのやりたいことって何?」
「新しい特異点を作る——私が今よりもっと強くなるための特異点を。
君のおかげで出来た目標だよ。ありがとう。
リオさんは、何が目的で「自由研究」を思い付いたの?」
「ん〜? ……それはナイショ。自由研究が進んでからのお楽しみ、ってことで」
「そうか。……さて。方針は決まった。次は行動だ。そして最後は……“競争”だね」
「ふふふふふっ。そうだね、“競争”だ」
「ああ。はは」
「あはは」
「「ふふふっ」」