Misfortunes never come singly

Misfortunes never come singly



目の前の部屋で繰り広げられる光景に、俺は気持ちが悪くなった。

男はその硬い床の上に、彼を労るようにやさしく押し倒した。肉体が汗で濡れて、肌を滑り、近くで見守ることしかしない俺の鼻腔に薫香を燻らせる。彼は、蔑みながらもほほえんで、男の肉欲にされるがままに前払いの対価とする極上の肉体を捧げる。

「私の体は布団だ。今は居ない彼女の事なんてすっかりと忘れなさい」

彼は低い声音で男の耳に息を吹きかける。

それが合図となって二つの麗しい横顔が接近する。お互いに違う景色を瞳に宿して、貪るように垂れ落ちる液を舐め合う。

ここからではくちびるの動きと囁き声が時折、離れた所にまで声音が聞こえて罪を告発するから俺は早くそのまま立ち去りたかったが、男を残して逃げられない。扉に擦り寄って醜い現実に耐える。何もできないならせめて、耐えるしかないんだ。



もう何日過ぎたのだろうか。愚鈍にされた思考回路が堂々巡りをし続けて、心底疲れてしまった。

今日は自殺した男の葬儀が行われた。俺は参列せずに終日布団を被って、耳をずっと塞いで来客が着ても出迎えることもしないで寝込んでいた。

「大我、インスタントラーメンだけじゃ栄養偏るから駄目でしょ。あたしがなんか美味しい料理作るから台所貸してね」

「あぁ分かった」

ふと、外の様子を本来なら映す窓ガラスに幽霊の自分を映して見つめた。ただでさえ、白髪混じりで隈の酷い顔が汚れて、心身ともに年老いてしまっていた。


…ガシャ、ガシャガシャゴシャグシ

「大丈夫かな?」

「あんた何者!まさか、ゲンム!?」

「はじめまして花家先生とお付き合いさせていただこうと思いまして…今日は可愛らしい保護者もいらっしゃったんですね」

ニコの憤怒を込めた攻撃を彼は、躱しつつこちらに春風を想わせる微笑を浮かべながら迫り布団で武装する為に包まる俺の前に座る。

「…一緒に来ないか」

彼は俺の耳を噛み、心を壊す。



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