Merry Christmas!

Merry Christmas!

10スレ目87

「メリークリスマス!ウタだよー!!」

「ここ男部屋だぞ、ノックくらい……何だそのカッコ?」

 バーンと扉が開いたと思ったら、陽気な声とともに姿を見せたのはウタだった。幸いにも現在男部屋にはルフィしかいなかったが、いつもなら男だけでバカ騒ぎしていたりもするし、とても女性陣には見せられない惨状になっていたりすることもある。掘りごたつに入って暖まっていたルフィが「ノックをしろ」と咎めるために視線を向けると、いつもと違うウタの装いに目が行ってきょとんとしてしまった。

「えへへ、どう?」

 服装について指摘すると、ウタはニコニコ笑って、その場でくるりと一周回って見せた。羽織った赤いケープと、その下に着ている赤と白のワンピースの裾がふわりと翻る。赤と白の装いに、ケープの裏地と左腕のアームカバーの緑がよく映えていた。

 赤と白、そして緑の色合いに既視感を覚え、考えを巡らせると思い当たった。そういえば先ほどウタもお決まりの挨拶をしていた。

「……あ、サンタか!……そういえば今日はクリスマスだったっけか」

「ピンポーン、大正解!!今日はチョッパーのバースデーで、クリスマスパーティーだからね。パーティーを盛り上げるためサンタさんの格好をしてみました!———どうルフィ、かわいい?」

 今日のパーティーはバースデーパーティーとクリスマスパーティーだったか、とルフィは思い至る。この一味にとっては宴(パーティー)は日常茶飯事と言ってもいい。新しい島を見つけた、お宝を見つけたなど何かと理由をつけウタが宴を開くので、今日もパーティーを開くと聞いてはいたが理由など気にしていなかった。

 立ち上がったルフィのもとにウタが駆け寄ってきてわくわくした顔で見上げてくる。「かわいい」と褒めてもらえると疑ってもみない顔だ。褒め言葉を期待しているのはわかったが、その思惑に乗るのも何となく癪だったのでルフィは敢えて別の感想を口にする。

「寒そうだな」

 今いる島が冬島ということもあって、そんな感想が出てきてしまった。上半身はまだしも足が寒そうだ。ワンピースの裾から伸びた足は、右足は赤いニーソックスに包まれているが、左足は素足にいつものスニーカーの色違いだった。つまり左足の大部分が露出している。今は船室なのでまだいいが、外に出ると見ているこちらが寒くなりそうだった。

 ルフィの感想を聞いたウタは案の定むすっと頬を膨らませた。こういうところは子どもの頃から変わっておらず、素直に「かわいいな」と思える。

「ルフィ、上から下までじっくり見ておいて出てくる感想がそれ?」

「変な言い方すんなよ、そんなにじっくり見てねェだろ」

 セクハラを疑われかねない言い方にルフィは辟易した。ウタは踵を苛立たし気に踏み鳴らしている。この癖も子どもの頃から変わっていない。ルフィは明後日の方向を見ながらひらひらと手を振って返す。

「わかったわかった、かわいいかわいい」

「もー!!投げやりすぎる!!!もっと心を込めて!」

 地団駄を踏むウタから逃げるように扉のほうへ向かうと、怒りながら横についてきた。

 ため息交じりにちらりとウタを見ると、パッと顔を輝かせて「ほら、褒めて!」と言わんばかりの目でルフィを見返す。

「………」

しかし、ルフィは沈黙した。

 目を見て「かわいい」と言おうとしたが、面と向かって褒めるのは気恥ずかしさが勝って言葉が出なかったのだ。短い沈黙が落ち、困った末にぽんぽんとウタの頭を叩いて茶を濁す。麦わら帽子をかぶっていない彼女の頭は丸くて撫で心地がよかった。

 文句が飛んでくる前に甲板への扉を開けて逃げる。

「ちょっとルフィ!?子ども扱いしないでよ!」

 予想通りウタから不満げな声が上がる。その声を背に甲板へ出ると、やはり雪が降っていた。サニー号の甲板にも雪が積もっている。凍えた風が船室へ吹き込んで、寒さに身が震えた。

「お、ルフィ!!ちょっとこれ運ぶの手伝え!!」

 コートに袖を通していると、岸のほうから大声で呼ばれた。声のほうへ視線を向けると、サンジとウソップが大量の食材を載せた荷車を引きながら手を振っていた。

 サンジの声を聞きつけてルフィの陰からひょっこりとウタが顔を出す。サンジがウタを見つけ、より大きく手を振った。

「ウタちゃ~~~ん!!」

「パーティー用の食材買ってきたぞー!!」

「あっ!サンジ~~~!!!ウソップ~~~!!!」

 ウタは「パーティー」と聞いて先ほどのことなど忘れ、喜色を湛えた声で返事をすると彼らを迎えに船から岸へ駆け下りて行く。その途中で小さく「っくしゅん!」とくしゃみが聞こえてきて吹き出してしまった。

「やっぱり寒いんじゃねェか」

「もう!寒いけどオシャレのためにガマンしてるの!!ルフィのアホ!」

 甲板の上から意地悪く声をかけてやると、岸に降りたウタが振り返って「べー!」と舌を出した。

 子ども扱いするなと言っていたが、やっぱりまだ子どもだ。

 ぷいっと見向きもせず二人のところへ駆けて行ったウタの背中に苦笑して、ルフィも荷運びを手伝うために船から岸へと飛び降りた。



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