MOLE小隊 SS2

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・リスタート1

 百鬼夜行連合学院。シズカの様子を見に来たが見当たらず、シズカが入部した忍術研究部のみんなに聞いたところ郊外の訓練場にいるとのことだった。

「これをこうして……。うーん、こうじゃないのかな?」

 訓練場に向かうと、シズカが銃を振り回していた。

"シズカ。"

「あれっ、先生?」

"何してるの?"

「えっと、今私は忍術研究部に所属しているというのは先生もご存知ですよね。」

"うん。"

「それで私はSRTで学んだ戦闘技術を忍法に活かせないかという研究をしています。」

"もしかして今のも?"

「いえ、違います。その研究の中で生まれたアイディアと言いますか、新しい戦闘法を習得しようかと……。これを身につければ忍術研究の役に立つかも知れませんし。」

"へえ、どんななの?"

「えっとですね。私は普段はこのSMGを使っているのですが、最近の魑魅一座との戦闘では射程外に逃げられ取り逃がすことが多く、またお祭り会場での混戦は接近戦になることもあり苦戦を強いられました。そこで新しくこちらのSRを特注したのです。」

 シズカが右手に持ったSRを掲げる。

"特注?"

「はい。このSR、オールレンジくんは特別頑丈に作られていて、鈍器として使用することができます。」

"えっ?"

「中距離をSMGで、近距離と遠距離をオールレンジくんで対応することであらゆる状況に対応可能になる……かもしれません。」

"それは……確かに?"

「持ち替える運用は体得したのですが、この方法では隙が大きく、一瞬の攻防が必要な戦闘では使い物になりません。ですので、こうして両手にそれぞれ武器を持つという方法を考えたのです。まだまだ実践で使えるようなものではないですが、世の中には片手でSRを扱う人が既にいるそうなので私も頑張ってみようと思います。」

"えっと? が、頑張ってね。"

「はい。もしこれができればさらにドローン操作も同時にできるように特訓する予定なんです。」

"忍術研究は?"

 シズカが目を泳がせた。

「いやいや先生、忍者はいろんな忍具を扱うんですよ。同時に複数のことが行えるようになるということはそれだけ様々な戦い方ができるということです。だからこれも忍術研究に繋がっているんですよ。」

"そうかな。"

「そうですよ。あっ、そういえば今度先生に会ったら話そうと思っていたことがあるんですよ。」

 話を逸らそうとしている気がしないでもないが、シズカの話に耳を傾ける。

「先生には本当に感謝しています。私たちがこうしていられるのは先生のおかげです。あのままだったら私たちはいずれ致命的なことになっていたでしょうから。本当に感謝しています。」

"どういたしまして。"

「ですから、何かあればご用命を。まだSRTの問題は解決していませんから。私たちでできることがあれば……。もちろんそれ以外の問題でも構いません。私たちはいつでも力になります。」

"うん。頼りにするね。"



・リスタート2

「案外簡単に情報が集まった……。まあ、ヤバめなところには手を出してないからこんなものかな。……それにしても流石トリニティ。」

 集めた情報を頭の中で整理する。

「こんなにもいじめが多いなんてね。それも表に出ないようなやり口ばかり……。はあ……、いくら私がSRTじゃなくなったとしてもこれを見ないふり、は正義じゃないよね。」

 どうするか。正義実現委員会に情報を流す? いっそのこと正義実現委員会に入る? いや、トリニティで大きな組織に入るとしがらみが面倒だ。……そういえばトリニティにはもう一つ治安維持をしている集団がいるんだっけ。

「たしか…、あった。トリニティ自警団。ここに行ってみるか……。その前に、手に負えないものは正義実現委員会に送り付けておこう。」


 トリニティ郊外。私は入手した情報をもとに自警団の中心人物と接触を図った。

「あなたが守月 スズミさん?」

「はい、そうですが。私に何の用でしょうか?」

「はい。私、自警団に興味があってどういった活動をされているんですか?」

「そうですか。それは嬉しいですね。自警団の主な活動は治安維持のためのパトロールです。と言っても人によって活動内容は異なります。なのでこれはあくまで私の話になります。」

「なるほど。ということはたむろするチンピラと対峙するといったこともあるのでしょうか?」

「そうですね。そういったこともあります。地域の安全を守るために行っていることですので。ですが、頻繁にあるわけではありません。主な活動はパトロールですので。」

「そうですか。ありがとうございます。急に呼び止めてしまってすみませんでした。パトロール、頑張ってください。」

「いえ、問題ありませんよ。それでは。」

 スズミさんが去っていく。自警団の活動内容は把握できたが……。いじめはあまり扱っていなさそうだ。


 自室に戻ってきた。正義実現委員会も自警団もダメか。どうするか……。

「仕方ない、か。」

 私は変装の準備をしながら、いじめられっ子の情報を吟味する。

「この子にしよう。騙してるみたいでちょっと気が引けるけど、助けてあげるから許してくれないかな。」


 放課後のとある教室。ボロボロになった鞄を抱いて嗚咽をあげる少女がいた。

「ねえ、大丈夫?」

 泣いているその子に声を掛けて肩を揺する。

「誰、ですか?」

「私のことなんてどうでもいいよ。それより今はあなたのこと! いったい何があったの?」

 私がそう尋ねると、彼女はしばらく口を噤んだ。そして唇を震わせながら言葉を発した。

「何でもないです。放っておいて下さい。」

「やだ。」

 雑に振り払われた手をそのまま広げて、彼女を抱きしめる。

「泣いている子を放っておけないよ。」

「うう~。ぐすっ、ひっく。うう~、うう~。」

「大丈夫。大丈夫だから。」

 そう言いながら頭を撫でると、彼女は堰を切ったように泣き出した。私はただただ彼女を抱きしめ続けた。


「ダメなんです。私なんかに構ったら。きっとあなたもいじめられてしまうから。」

 しばらくして泣き止んだ彼女がポツリポツリと呟くように話してくれた。

「いじめ? 何それ許せない!」

「ダメです。あの人たちは……。」

「大丈夫。誰だか知らないけど、私が守ってあげる。いじめなんて見過ごせないから。」

 ふふっ。これでいいかな。後は既に掴んでいる証拠を渡せばいい。この子も写っているから広く知られると私も困るし、シャーレを通してティーパーティーと正義実現委員会のトップに直接渡す。そうすれば後は上手くやってくれるはず……。後はその効果が現れるまでこの子を私が守ればいい。


「先輩。この後ケーキ食べに行きませんか? 美味しい店を見つけたんです。」

 あれから少しの時が経った。いじめっ子たちは停学処分になった。停学期間があければ今度はきっと彼女たちがいじめられるだろう。トリニティはそういう場所だ。いじめから助けるために新たないじめを生み出した。これは正義なんだろうか。

「先輩? どうしたんですか?」

 彼女は心配そうに顔を覗き込んで来る。放課後の教室で泣きじゃくっていたとは思えないほど元気だ。

「んー、ちょっと考え事してた。」

「それは私が聞いてもいいことですか?」

 彼女が遠慮がちに聞いてくる。余程顔に出ていたのだろうか。

「そうだね、うんいいよ。以前の君みたいにいじめられている子を助けてあげられないかなって思ってたの。」

「それは……。」

「ダメ、かな?」

「そんなことありません! むしろ、私も協力させてください。」

 来た。私は君からこの言葉を引き出すために助けたのだ。我ながら酷いことをしている。

「いいの? それこそ、君が言っていたようにいじめのターゲットになるかもしれないよ。」

「それは……、それでもです。私は救われましたから。」

「えへへ、ありがとう。それじゃあ草の根部、始動だね。」

「草の根部ですか?」

「そう、いじめられている子を草の根から助けるの。どうかな?」

「いいと思います。」

「じゃあ決まり。記念にケーキ食べに行こう。美味しい店、紹介してくれるんでしょ。」

「はい。こっちです。行きましょう。」


 ケーキを食べた後は解散となり自分の部屋に戻る。途中で解いてきた変装に使った道具を置くとベッドに倒れ込む。

「これからどうしようか。」

 ケーキを食べながら今後について少し話したが具体的なことは敢えて話していない。私自身も決めかねているからだ。このまま同じことを続けていてもいじめはなくならない。そもそもそう何度も処分を下せるとも思えない。そんなことをすればトリニティの内部がガタガタになってしまうだろう。ティーパーティーのお偉方がそんな選択はしないだろう。なら別の方法を……。

「そうか!……いやこれもダメだ。」

 いじめっ子の処分を無視して、いじめられている子を助けることにのみ主眼を置けば、と考えたがそれではいずれ破綻する。助けたみんなを守るだけの人員が足りない。

「こんな時シズカならどうしたんだろうか。私はダメだな。」

 でもやると決めた以上止まる訳には……。違う! そうやって止まれなくなった結果私たちはどうなった?

「先生に相談しよう。あの子と一緒に。」

 一緒に、か。そしたら本当の私を見せないといけないな。……怖いな。いつの間にか本当の自分を見せるのがこんなに難しくなっていたなんて。一度捨てたものをもう一度。やり直す機会を貰ったんだから最善を尽くさなきゃ。



・リスタート3

 ミレニアムサイエンススクール、特異現象捜査部部室。

「特異現象捜査部に入りたい、ですか。理由を聞いてもいいですか。壬生 ユラギさん?」

「自分の力のことを理解したいから。それにここなら今まで培ってきた技術を活かせる。」

「なるほど。その話は先生から聞いています。正体不明だとか。」

「そう。見せようか?」

「そうですね。この天才清楚系病弱美少女ハッカーである私を頼ったのです。期待に応えて見せましょう。準備するので少々お待ちを……。」


「準備ができました。」

「それじゃ。」

 ユラギが変装を解く。

「これは……、値が滅茶苦茶です。ですが分布を分析すれば……。なっ! 記録した値が変わった!? ……なるほど、正体に迫ろうとすればするほど不明瞭になっていくということですか。不明であることを維持するために前提が崩壊する。これはもはや特異現象ですね。」

「部長。大丈夫?」

「ふふっ。」

「ヒマリ部長?」

「いいでしょう。こうなったらとことん調べましょう。方法を変えます。ユラギさんまずはあなたが把握していることを教えてください。」

「私が把握していること……。戦い方とか?」

「戦い方ですか? わかりました。場所を変えましょう。」


 数十分後、体育館にて。ユラギとエイミが向かい合っていた。

「それじゃあやろう。」

「わかった。」

 その言葉を合図にユラギがウィッグを脱ぎ捨てる。それと同時にユラギの像が大きくぶれる。直後、不可解な音が鳴ったかと思ったらエイミの肩に弾丸が命中した。

「くうっ。」

「今のは……、命中するまで弾丸を認識できなかった? それに銃声もおかしな音になっていた。なるほど、正体不明というのは自身の持ち物にも反映されるということですか。いえ正確に言えば、持ち物から正体を明かされないために力の範囲が拡大したと言ったところでしょうか。であれば正体に繋がるものであれば離れていても適応されるのでしょうか? 違いますね。それでは私たちは今も弾丸を弾丸と認識できていないはずです。となると力には限界があると見てよさそうですね。」

 ユラギを見ればステップを踏んでいるのか像が左右に大きくぶれていて分身しているかのように感じる。

「それなら。」

 エイミはぶれた像の全てに当たるようにショットガンを放つ。

「ぐっ。」

 ユラギが撃たれたような声を出す。

「やっぱり、面での攻撃なら当たる。」

「……。」

 再び不可解な音が鳴る。それに反応してエイミが身構えるが、弾丸は飛んでこなかった。

「?」

 困惑したエイミが警戒を緩めた瞬間不可解な音と共に弾丸が撃ち込まれた。

「なるほど。ブラフとはやるね。」

 エイミは感心しながら銃を構える。そんなエイミに対してユラギは脱ぎ捨てたウィッグを拾って被る。

「力を使った戦い方はこのくらい。」

「もう終わり?」

「そのようですね。」

「SRTでは個人の力に頼るような戦い方は習わない。」

「なるほど。では今日はこれでお開きということにします。明日までには検証項目をまとめておきますので。また明日いらしてください。今度は特異現象捜査部の部員として。」

「部長それって。」

「はい。ユラギさんの入部を認めます。」

「ヒマリ部長、エイミ。これからよろしく。」

「うん、よろしく。」

「はい、よろしくお願いします。」



・リスタート4

 編入先を決めきれなかった私は各学校の自治区を転々としていた。そんな折、廃棄された団地に立ち寄った。

「今日はここで夜を明かすとしようかな。」

 まだ時間は昼過ぎといったところか。下見だけ済ませておこう。

「何だ? 何故こんなに爆弾が?」

 団地に足を踏み入れると至る所に爆弾が設置されていた。隠し方はかなり上手い。設置したのは素人ではないだろう。だが量が異常だ。

「いったい何をするつもりだ。」

 慎重に団地の奥へと進んで行くと、一人の少女が爆弾を設置していた。あれはオペラハウスにいた便利屋とかいう奴らの一人だったはずだ。確か名前は伊草 ハルカだったか。

「そこのお前、何をしている!」

「ひいっ、すみませんすみませんすみません。」

「いや、謝られても困る。何をしていたんだ。」

「ば、爆弾を設置していました。」

「爆弾? では、あちこちに設置されている爆弾もお前がやったのか? 何のために?」

「え、えっと……。」

 問い詰めるとハルカはたどたどしく話し始める。どうやらこの団地に夜な夜なたむろして騒ぎ出すチンピラ達を追っ払うという依頼を受けて、その下準備として爆弾を設置していたようだった。

 そうか、ここは夜はチンピラ達がたむろするのか。それならば寝床にはできないな。別の場所を探すとしよう。

「なるほど。そういう事ならばすまなかった。しかし、その程度のことであれ程の量の爆弾を使うのか。」

「そ、それが何か。もしかして私何かとんでもないことを。」

「いや、そうではない。別に万全を期すというのは悪いことではない。だが依頼ということであれば、あれだけの量を使って採算は取れるのか? と少し疑問に思っただけだ。」

「そ、それは……。私またアル様に迷惑を……。」

 私の言葉を聞いたハルカの顔色が急に悪くなった。

「おい。ちょっと大丈夫か。」

「死にたい死にたい死にたい死にたい。」

「おいっ! 待て、わかった。私が指導しよう。少ない爆薬で成果を上げるのは私の得意分野だ。」

「い、いいんですか?」

「もちろんだ。例えば今仕掛けた爆弾だが、そことそこにも同じように設置しているな。だがここは一つで充分だ。そことここのはいらない。」

「で、ですがそれでは……。」

「不安か。それならば残した爆弾の爆薬を少し増やす。それかあるいはその辺に少量の爆弾を置くか。だが相手はチンピラなのだろう。だったら爆薬を少し増やせば充分だろう。」

「な、なるほど。」

 その後も団地をまわって爆弾の量を減らしていく。全て終えた頃には日が傾いていた。

「ふう。これで終わりか。大分爆弾が浮いたな。」

「は、はい。ありがとうございます。」

「これでアル様とやらも喜んでくれるだろう。」

「そ、そうでしょうか。」

 照れた様子のハルカの頭を撫でる。

「大丈夫だ。それじゃ私はそろそろ行くよ。依頼、頑張るんだぞ。」

「あ、ありがとうございました。」

 ペコペコと頭を下げるハルカに手を振って私は団地を後にした。

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