Mの追憶/新たなる探偵 捜査
そうこうしている間に、サンタ店長が経営するペットショップに到着してカチューシャを外してから店内に入った。探し人の店長を見付けるとさっそく、その後ろ姿に向かって本題を問い掛ける。
「すいませ~ん!サンタちゃん、ふたつ質問あるんだ」
「もぉ~ここでは"店長"と呼んでほしいんだなぁ…」
店長は振り返って首を傾げた。
「あれあれ?夏葵ちゃん!…ときめさんも一緒なのね。夏葵ちゃんは、店長といつもは呼んでくれるからワンちゃん礼音ちゃんかと思っちゃった」
ちょっと意外だ、といった表情を店長はしていた。まぁ、普段は探偵に憧れてる礼音がお父さんの真似して、サンタちゃんに情報提供して貰う目的で聞きに来てるみたいだから仕方がない。
「私がボディーガードで、照井さん達の助っ人に入ったショウの代わりにナツが今日は探偵なんです。礼音は思春期ですかね?」
「なるほどねぇ〜、質問に答えたら礼音ちゃんの分まで季節外れのクリスマスプレゼントを取ってくるよ」
店長はときめさんからの説明に納得したみたいだ。子供っぽいと我ながら思うけれどクリスマスプレゼントが楽しみ。
「店長は写真の犬さんに見覚えある?もうひとつが、イラストの首輪ってこの店では取り扱ってるかな?」
「写真のワンちゃんは知らなんだなぁ。でもこの首輪ならウチにも置いてあるよ。えっと、そこに…」
店内の店長から向かって左側に指を指して置き場所を教えてくれた。
「店長ありがとう」
「どういたしまして、それではプレゼントを取りにサンタちゃん行きまーす!」
店長はそう言い残すとバックヤードに早歩きに立ち去った。私も今のうちに首輪がジュリーの物と同じなのか確認しておかないとね。
「プレゼントを受け取るから、首輪の確認してきて良いよ」
「うん」
ペットのファッション置き場で現物確認をして、ジュリーちゃんと同じ首輪で合っている大丈夫とメモ帳にサインして自己確認する。
「あなた夏葵さん、このお店に入る前に付けていらした犬耳カチューシャはなんだったんですの?」
「…犬の気持ちを理解する魔法アイテム的な?」
基本的に礼音と一緒じゃないときは苗字で呼ばれる機会が多いから、私に声を掛けられたってことに少しだけ遅れて気付く。知ってる制服を着た私は知らない高校生だ。
「恐らく、たぶんクラスメイトではないですよね」
「わたくしは夏葵さんの通ってる高校のふたつ先輩なのですわ。わたくしの名前を存じておられないのでしたら先程のメモ帳をお借りできて?」
「あ、いいですよ」
[嗣江 理衣沙 しえ りいさ]
綺麗な字。私は早さ重視だからか、時々汚く書いたり書き損じるので素直にすごいと思った。
「吹奏楽部からの帰り道にあなたを見掛けたから声をお掛けしたのですけれど、どうなさったのかしら?」
この人にも念の為、ジュリーのこと尋ねておかないとね。
「迷子犬の飼い主さんを探しているんです。嗣江先輩はこの写真の犬を知っていますか?」
私は店長の時と同様にジュリーの写真を見せる。
「少々待って下さいませ……そうだわ。乃井さんのお宅が飼っていらっしゃる犬がこのコでしたわ」
心中から、棚からぼた餅ってことわざが浮かび上がった。
「本当ですか!?」
驚きを隠せないままで私は嗣江に再度確認する。
「本当ですわよ。メモ帳にメモして差し上げますから夏葵さん自身で訪問してみればよろしいのでは?」
私はコクリと相手に一礼した。
「嗣江先輩のお陰で助かりました。ありがとうございます」
「それなら、わたくしも嬉しいわ。ごきげんよう」
嗣江は肩より長い亜麻色の髪を靡かせて去って行った。
「さっきの娘はナツの友達?」
ときめが店長から渡された名前シール付きの茶袋ふたつ抱えて隣に現れた。
「ううん、私は知らなかった人。吹奏楽部と言ってたから中田先輩の知り合いかもしれない。それと良い情報を手に入れたんだ」
ときめは私の頭を優しく撫でてくれた。なんだか、お父さんの相棒であるフィリップや翔の撫で方に少し似てて心が和む。三人ともに浮世離れした雰囲気があるから似てるんだろうとちょっぴり私は考えた。