Lord Voldemort is「Riddikulus」

Lord Voldemort is「Riddikulus」

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ヴォルデモート卿の手に落ちた英国魔法省は様変わりしていた。マグル生まれの魔法使いと魔女は「純血魔法族から魔法を奪った」として処罰の対象となる為、全ての魔法族は血統を調査され、マグル生まれだと疑われる人物及び血統を証明できない人物は「マグル生まれ登録委員会」に召喚され尋問を受け、良くて杖の没収、運が悪ければアズカバン送りになる可能性すらあり、多くのマグル生まれの魔法族が後者の道を辿った。そして省本部に入ってすぐの中央ロビーには「押しつぶされたたくさんの醜いマグル達で作られた椅子の上に巨大な魔法族が座る」という威圧的なモニュメントが「生まれ変わった」英国魔法省の新方針を全ての職員と訪問者に示していた。

ヴォルデモート卿の手に落ちた英国魔法省は様変わり「していた」。たくさんのマグルで作られた椅子に魔法族が座る威圧的なモニュメントが新方針を「示していた」。

少なくとも、昨日までは。

新政権下でアズカバンから釈放され復権した「マグル生まれ登録委員会長官」ドローレス・アンブリッジは愕然としていた。

昨日業務を終えて帰宅する時まではそこに崇高なる「魔法は力なり」のモニュメントがあったはずの場所には「押しつぶされたマグル達の上に君臨する魔法族」ではなく「股間から鶴の頭部が屹立したバレリーナの服装の巨大なヴォルデモート像」がポーズを決めていた上、「魔法は力なり」のスローガンも別の単語で上書きされていた。

魔法族なら血統に関係なく皆知っている、まね妖怪撃退呪文に。

「『リディクラス』…………リディクラス(バカバカしい)?誰がこんな真似を」

それを読み上げて怒りに震えるアンブリッジの周囲では何人もの魔法省職員が目を逸らしたり怒りに震えたりしながら担当部署へ向かっていったが、それらは少数派であり、そこを通る人々の大多数は、全身全霊で必死に笑いを堪えていた。

何人もの「魔法事故・惨事部」の職員や闇祓い、そして見る人が見ればヴォルデモートの部下だと一発で見抜ける顔ぶれ等が「バカバカしいヴォルデモート」の像に杖を向けてどうにかしようとしていたが、しかしバレリーナ姿のヴォルデモート像はその試みを頑として受け付けず、未だ股間の鶴を誇り高く誇示し続けていた。

「誰があんな真似を…………」

隣を歩く友人にそう言いながら自分の職場に急ぐアーサー・ウィーズリーも、持てる全てを総動員して必死に笑いを堪えている1人だった。アーサーの頭に真っ先に浮かんだのは息子たちの内の2人の顔だったが、しかし彼はその考えをすぐに捨て去った。

「心当たりがあるよ。あれの犯人」

アーサーにしか聞こえない声量でそういった「マグル製品不正使用取締局」の職員である老人パーキンスは、驚くアーサーにさらなる小声で告げる。

「昔。君が生まれるよりも前。ここで闇祓いをしていた奴さ。そいつはあのダンブルドアの『先輩』で、ダンブルドアと競る実力がありつつ、君んところの双子を上回るくらいのトラブルメーカーだった。あの頃の魔法省を知ってる人間でアイツを覚えてないヤツは居ない。闇祓い局の他全員を合わせたより多い成果を1人で挙げて、闇祓い局の他全員を合わせたより多く問題を起こしてた。こんな事する奴は他にいない」

それが誰の事なのか理解したアーサーは、向こうで「バカバカしいヴォルデモート」像の股間から伸びた鶴の頭部が徐々に「モロにそれそのもの」に形を変えていって、完全に形を変え終わる寸前で一気にまた鶴の頭に戻る、というサイクルを繰り返している事にどうにか意識を向けないようにしようと努力していた。

怒り狂うアンブリッジと「新体制派」の職員達をよそに、股間から鶴の頭が屹立しているバレリーナ姿のヴォルデモート像は「Always Look on the Bright Side of Life」を明らかにヴォルデモートのそれではない妙な声で楽しそうに歌い続けていた。

その場の数人はそれがホグワーツ城のポルターガイスト、ピーブズの声だと気づいていたが、誰もアンブリッジに報告する気にはなれなかった。

「そういえばせんぱい、イギリスを出発してMACUSAに行く日、絶対イギリス出る前にどっか寄ってましたよね?あれどこ行ってたんです?」

アフリカから日本へと雲の上を飛ぶ不死鳥が持った巾着袋の中、の中の旅行かばんの中にある家で寛いでいる若い魔女が、傍らに寄り添う青年に訊いた。

「あ、気づいてたんだ。アレね、魔法省寄ってたの。誰にも見つからないように入ってイタズラしてきた。前にピーブズが録音させてくれた音源を使ってね」

「危ないですよ!」と言う若い魔女の膝の上に寝転がりながら、青年は気軽に笑う。

「アルバスが校長してた頃のホグワーツにこっそり入り込むより簡単だったよ」

若い魔女は開いた口が塞がらなかったが、すぐに自分のかつての職場である魔法法執行部や闇祓い局の様子などを青年にあれこれ質問し始めるのだった。

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