Shall we dance? (3)
requesting anonymity顔の半分を大きな傷跡が覆っているレイブンクローの4年生の女子マクファスティーは、自分を舞踏会のパートナーに選んでくれた7年生の女生徒に手を引かれて、ホグワーツ城の廊下を早足で移動していた。
「どこに向かっているんですかせんぱい」
「人目の無いとこ」
サチャリッサ・タグウッドも友人である7年生の女生徒の後ろをついて歩くが、戸惑うマクファスティーとは違って彼女はこの7年生の女生徒が何をしようとしているかを察しているようだった。
「さ、ここでいいか。絵画も彫刻も甲冑も無いし」
長いこと使われていなさそうな薄暗い空き部屋に連れ込まれたレイブンクローの4年生マクファスティーは、自分の手首を掴んでいる7年生のせんぱいが自分を急に抱き寄せてきてニッコリ笑った事で早とちりと勘違いを暴走させ、心の準備がどうのと口走って耳まで真っ赤になったが、その7年生のせんぱい越しにサチャリッサ・タグウッドの呆れ顔が目に入った事で正気に戻った。
「なにしてもらえると思ったのかしら?」
クスクス笑っているサチャリッサを7年生の女生徒が「サッちゃんも早く」と呼び寄せ、サチャリッサはそれに応じて女生徒に後ろから抱きつく。
「手を取るだけでいいんだけど、このほうが僕が嬉しいから」
正直に白状した女生徒に抱きしめられている4年生のマクファスティーはその意図がわからず、女生徒から溢れてくる詳細不明のいい匂いに脳をくすぐられていた。
しかしその直後にマクファスティーの目の前、7年生の女生徒の左肩が燃え上がった事でマクファスティーの脳内に満ち満ちていたちょっとここでは言えない種類の妄想は瞬時に全てかき消える。
「不死鳥………!!」
驚き見惚れるマクファスティーに、女生徒は微笑みかける。
「さ、行こうか」
そして3人は不死鳥に導かれて、炎とともに「姿くらまし」した。
ダイアゴン横丁の、建物と建物の間。道とは言えない狭さのスペースに3人のホグワーツの女子生徒が姿を現した。
「ありがとね。帰りまたお願いできるかい?」
7年生の女生徒は自分の左肩に止まっている不死鳥を撫でながら語りかけている。不死鳥はサチャリッサが差し出したスモモを嘴で咥え、炎に包まれて姿をくらました。
「いつまでくっついてるのよ。放してあげなさいな」
サチャリッサにそう言われた7年生の女生徒はしかたなく、もう一度強く抱きしめてから自分の舞踏会のパートナーである4年生の女子マクファスティーを離す。
「今のはせんぱいの不死鳥ですか………?」
「そうだよー。カッコイイだろうアイツ」
女生徒は再びマクファスティーの手をとって歩き出し、サチャリッサもそれに従う。
「しあわせ…………」
4年生のマクファスティーとサチャリッサとそれぞれの手を繫いだ女生徒はだらしない笑顔で上機嫌だった。
「ギャレスが『ちょっと目を離した隙に勝手にどっかいっちゃうから気をつけて』って言ってたのよね。だから捕まえとこうと思って」
サチャリッサのその物言いに7年生の女生徒は頬を膨らませて抗議するが、それでもまだ上機嫌なままだった。
そして目的の店「トウィルフィット・アンド・タッティング」の戸口をくぐった女生徒は2人と繫いでいた手を離し、店の奥へと元気に呼びかける。
「おばちゃーん!居るーーー?」
その声に反応して奥から出てきたのは、屋敷しもべ妖精と対して変わらない身長の、髪の白い小さな老婆だった。
「はいはいいらっしゃい。よく来たね。なにがほしいんだい?飴かい?」
「この子のドレスローブがすぐに必要なんだよ」
「はい飴あげようね」
「ありがとうおばちゃん!!」
サッちゃん飴もらったよ!と満面の笑顔で報告してきた女生徒にサチャリッサは呆れ果て、店主なのであろう小さな老婆に事情を説明する。
「マクファスティー家の子かい。綺麗な目だねえ。あんたの柔らかそうな肉にぴったりのドレスローブがいっぱいあるから出してあげようね」
その老婆の語彙に違和感を覚えたマクファスティーは、老婆をよく観察しようとして、その靴を履いていない足に指が4本しか無い事に気づく。
つまり目の前のこの小さな老婆は人間の子供を食べる怪物、鬼婆なのだった。
「おばちゃんはなんで人間食べるのやめたんだっけ?」
自分のダンスパートナーである4年生の女子の内心に恐怖が広がっているのを表情から察した7年生の女生徒がその老婆に訊く。
「食べ飽きたからさ。それに牛肉のほうが美味いよ。今はもうわざわざ人を食べたりなんかして他の色んな美味いものを喰う機会を逃すような真似をする気にはなれないね。でも、もちろん美味そうな子供の見分けはつくよ。例えばアンタとかね!!」
急にその老婆が声を荒らげてグッと近寄ってきた事で4年生のマクファスティーは悲鳴を上げて7年生の女生徒の後ろに隠れる。
「これだから子供を驚かすのはやめられないよ!!」
「そういう事するからホグワーツの制服売らせてもらえないんだよおばちゃん……」
ヒッヒッヒッと鬼婆らしく笑った老婆が店の奥へと消え、そしていくつものドレスを抱えて戻ってきたのを見てサチャリッサの目が鋭くなった。
「さ、アナタ。合わせてみましょう。アイツは役に立たないからほっときましょう」
役立たず扱いされた7年生の女生徒は飴を舐めながらにこにこしている。
「これとかどうだい?おまえさんの目と同じ色のドレスだよ」
「ろ…………露出が…………背中の布が………胸元が………」
「こっちはどう?アナタのお家と強い関連があるヘブリディアン・ブラック種のドラゴンを連想させる黒と紫。それにデザインもいい感じに大胆よ」
「せっ、背中の布が…………」
店主の老婆とサチャリッサに次々勧められるドレスローブはどれも素敵できらびやかで、露出の多さよりもむしろ「自分がこれを着こなせるのか」というのがマクファスティーの主な不安要素だった。
「それ。それ着てみてくれないかい?」
突如選考に参加した7年生の女生徒が勧めたドレスを、束の間激しく逡巡した4年生のマクファスティーは手に取り、更衣用のスペースへと消える。そしてサチャリッサが手伝うべくそれを追ってカーテンの向こうに姿を消す。
「子供脅かすの好きだねおばちゃん」
「みんなあの子みたいに脅かし甲斐があると尚いいんだけどね!!あの子がアンタのダンスパートナーかい?可愛らしい子を捕まえたねえ」
「『捕まえた』って言い方よしてよおばちゃん。でもそう。あの子可愛いんだ」
そんな話を店主の老婆と7年生の女生徒がしていると、やがてカーテンが開き、大胆なデザインのドレスローブに身を包んだレイブンクローの4年生マクファスティーが姿を現した。
「どう…………ですかね?変じゃないですかね………?」
モジモジと身をくねらせているマクファスティーをじっと見つめている7年生の女生徒が何を言うより先に、店主の老婆が口を開いた。
「決まりだね?」
7年生の女生徒はドレスローブ姿のパートナーから一切目を逸らさずに頷く。
「すごくキレイだ」
やっとそれだけ言った女生徒を見てサチャリッサは満足げに微笑み、再びカーテンを閉める。そして元の服装に戻ったマクファスティーと共に、そのドレスローブを抱えたサチャリッサが出てくると7年生の女生徒は店主の老婆に支払いを済ませ、お礼を言って店を後にした。
ダイアゴン横丁の建物と建物の裏、人目につかない陰に移動した3人は再び不死鳥の力を借りて「姿くらまし」し、ホグワーツに戻った。
「このままちょっと2人きりでダンスの練習したいんだけど、いいかい?」
自分達以外に誰も居ない廃教室で、7年生の女生徒はパートナーであるレイブンクローの4年生、マクファスティーに微笑みかける。
「ダメですよ先輩」
しかしその背後から、女生徒がよく知る声がかかった。
「そうよ。何言ってるのアナタ。ダメよ今からは」
サチャリッサもその声に同調する。
「やあアルバス。……‥なんでここに居るんだい?」
「なんでってホグワーツの生徒がホグワーツに居て何がおかしいんですか。使ってないはずの教室が光ってるからなんだろうと思って覗いたら先輩たちが『姿くらまし』するのが見えたんで、戻ってくるのを待ってたんです。……それより先輩、今からもうすぐ闇の魔術に対する防衛術の授業でしょう。出なくていいんですか?」
そう言われるまで忘れていた女生徒はハッと驚き葛藤し、名残惜しそうに自分のダンスパートナーを抱きしめてから、サチャリッサに連れられて『防衛術』の教室へと向かっていった。
「先輩と踊るんですよね。頑張ってください」
「うん。ここまでしてもらったんだもの………」
ダンブルドア少年はその4年生の先輩の目を見て、内心を言い当てた。
「『自分じゃあの先輩と釣り合わない』なんてこと無いですよ。あなたは自分で思っているよりずっと素敵です。………先輩にもそう言われたでしょう?」
レイブンクローの4年生マクファスティーは、自分を見てそんな事を言うその背の小さなまんまるほっぺの1年生が自分より年下だという事実を一瞬疑ってしまった。