Let sleeping dogs lie.

Let sleeping dogs lie.


※ifローはSADに直接関与せず輸送中継役を担っている設定、ならびに怪盗ifミンゴPH侵入概念をお借りしました。





 荒くれ者共が集まるG-5、その軍艦の遥か上空。雲と雲の合間にその姿はあった。


 3mを超える巨躯に長い手脚。それらを包む品良く仕立てられた深い赤のスーツに薄紅の毛皮。奇抜なサングラスが印象的な偉丈夫だ。


 男の名は“怪盗”ドンキホーテ・ドフラミンゴ。『最悪の世代』の一角にして王下七武海に名を連ねる海賊である。


 陽光にきらりと光る細い糸。それは遥か眼下の軍艦と男を繋ぎ、微かに震え続けていた。


『──しもし、おれはルフィ! 海賊王に──助けて──殺される』

『パンクハザード──手掛かりはそれしか──』


 麦わらの一味が受信した緊急信号と、それを傍受したG-5の動向。

 糸から伝わる音声はこれから巻き起こるであろう嵐を予期してか、ひどく掠れて途切れている。


 逆立てられた金の髪を大きな掌でかきあげ、男は口の端を歪めた。


「フッフッフ、禁足地に麦わらとG-5? なんともきな臭ェなァ」


 指から伸びた糸が振動を止め、ぷつりと切れる。

 男の顔に浮かぶのは愉しげな笑み。


「まァ、せいぜい掻き乱してくれよ?」


 サングラスの奥、獲物を狙う猛禽の眼が色を深めた。




 と、まあ。

 麦わらの一味とG-5が起こす騒動の裏で、政府の隠す情報ないしお宝を盗み出してやろうと画策したドフラミンゴであるが、まさかの侵入時点で嫌な予感に襲われ始めていた。


 そもそも、ドフラミンゴがG-5の動向を窺っていたのは、ジョーカーの右腕たるヴェルゴが基地長を勤めているからだ。

 初代コラソンにして、あの男の右腕。ヴェルゴは長きに渡り海軍の目を誤魔化し、着々と地位を築き上げて影から主を支えている。その狡猾さに実力、そして何より高い忠誠心は、敵対するドフラミンゴをしても感心するほど。

 だか、だからこそ弱みになる。強い駒を落とせばそれなりにボロは出るものだ。また、落とし方とて力技である必要などなく、搦手でやり合う方法もある。

 何にせよ、G-5の動きから得られるものはあるだろうと張っていたわけだ。

 中でもスモーカー中将は変わり者でヴェルゴとの関係もまだ浅い。気取られにくいと踏んでターゲットとしていた。

 その中でたまたま得た情報、パンクハザード。政府指定の禁足地であるはずのそこに何らかの組織が潜伏しており、これまた侵入者が現れた。緊急通信自体、信憑性が薄いものではあるが、もし偽の通信だとしてもこの地に人を誘い込もうとする勢力が存在することになる。

 さらに、新聞社の情報によれば海域一帯で子供の死亡事故が多発している。G-5基地に押しかける親の姿も見かけており、何やら裏がありそうな気配も感じ取れた。


 世界政府が廃棄した土地、パンクハザード。4年前の大規模な研究実験の失敗、加えて2年前の海軍大将格の激突により、そこは死の島と化した。未だ消えぬ毒ガスに覆われ、さらには凍土と火山が荒れ狂う地獄のような環境において生物が生存できるわけもなく、そこには武器やそれに類する数多の研究資料が手付かずのまま眠っているという。

 ジョーカー、即ちトラファルガー・ローの狙いは世界政府ひいては世界の転覆。

 麦わらの起こす混乱に乗じ、奴に先んじて世界政府の弱み、または宝を奪っておくのも良いだろう。

 そう考え、この地に降りた。

 そのはずだった。


 悲しいかな、悪い予感というものは、得てして的中するものである。



 まずい。

 まずいまずいまずい。



 騒乱の中、ドフラミンゴは建物内部をひっそりと進んでいた。内心の動揺をなんとか抑えつけ、監視カメラの死角を縫い、時に撹乱を挟みつつ慎重に移動する。


 当初は順調だったのだ。

 己の能力により簡易ガスマスクを形成したドフラミンゴは、雲や煙を伝い建物上部から侵入した後、辛抱強く内外の様子を窺い続けていた。

 炎と氷が睨み合う島。現在、そのあちこちで騒動が起きている。

 麦わらの一味は分断されそこらを荒らし回っているし、何故か下半身のみの人間が駆け回って謎の組織に追いかけられている。そうかと思えば、どこからか現れた妙に大きな子供たちが走り回り、事態を掴み切れていないのであろう海軍らも辺りを破壊しつつ嗅ぎ回っている。さらにいえば、謎の改造人間が四つ脚の健脚で大地を駆けているのまで見えた。

 ぐるぐるぐるぐると実に目まぐるしい。

 別に、それはいい。

 いや、よくはない。

 下半身のみの人間と、四足動物の下半身と人間の上半身が奇妙に繋がれた改造人間。

 明らかに異常な、そのくせ妙に健康そうなあの姿を見ていると、何かとてつもなく嫌な予感が────


『ジョーカー、こちらモネ、聞こえる?』


 そして、その声を聞いた時、ドフラミンゴは己の失策を悟った。


 ここはあの男、トラファルガー・ローの縄張りだ。





『トラファルガー・ローは篤志家のごとき顔の裏で非人道的商売に手を染めている』


 それは、まことしやかに囁かれてきた公然の秘密。


 ドフラミンゴからしてみれば、非人道的商売もなにも、あの男は行動の殆どが非人道的だと鼻で笑ったものだったが。

 しかし、パンクハザードで情報を集める内、これは全く笑えない話なのではと思うようになっていた。

 この島に散在する資料から推察される研究内容と取引、『M』と呼ばれる男の凶行、ジョーカーと『M』の秘書の関係、行き交う通信の内容、4年前の研究事故、一見巨人族のような子ども達と海域一帯で起こる子どもの死亡事故報道。

 『SAD』と呼ばれる、何か。

 それは、とある強大な海賊団の戦力強化に欠かせぬものだという。

 資料によれば、『SAD』はドレスローザを中継地とし、閉鎖国家であるワノ国へ輸出されている。

 ドレスローザはトラファルガー・ローの拠点。ワノ国は四皇カイドウの支配下。

 そして、二名の強大な海賊は盟友だといわれていた。


 すなわち、『トラファルガー・ローの非人道的商売』とやらは実態のない噂などではなく、商品『SAD』が実在し、その買い手が四皇カイドウであるということではないのか。


 鶏の卵を盗むつもりが、うっかり虎の尾を踏みつけてしまったような感覚。


 何せ、大した準備もせずに敵の重要拠点に踏み込んでいるのだ。まごう事なき大失策である。

 加えて、後々利用できると踏んでいた麦わらの一味までこの島にいるこの状況は、大駒落としに感けた挙句、自らのこのこと王手を取られにいったようなもの。


 悪い事に、先程、『M』の秘書モネがトラファルガー・ローに連絡を取っていた。


『子ども達の様子がおかしいわ。このままでは、こちらの人員では対処しきれない。それに、麦わらの一味が侵入していて、何故かG-5まで……』

『──そろそろヴェルゴがそちらに着く頃だろう。おれも今から向かう』


 最悪だ!

 漏れそうになる呻きを押し殺し、ドフラミンゴは動き出す。


 ヴェルゴはともかく、トラファルガー・ロー本人と鉢合わせれば勝ち目はない。戦略的撤退しか道はなかった。


 もはや隠れて逃げる程の猶予はないだろう。糸を放ち壁をくり抜いて脱出、その先にあった雲を伝い────


 そこで目にしたは、混沌。


 遠く、広がる紫の煙。

 煙に追われ、逃げ惑う海兵達。

 さらに、何故かまとめて檻に放り込まれている麦わらの一味数名と、スモーカー中将ならびにその部下たしぎ大佐。



 ドフラミンゴは天を仰いだ。



 何故、こうなる。







(蛇足)

 カイドウさんに頼まれたifローがPHを代理視察、その際茶ひげらが救われたり錦えもんがバラされたりする→何回も行く暇がないのでモネが派遣される→モネが子どもらの存在とその異変に気付き告発→先行していたヴェルゴが合流というガバガバチャートを想定しています。

 モネは『PHでは医療的対処が難しいから子どもらをDRに運べないか』と相談しているのですが、ifローはもうこれ根本叩いた方が良いな、あと麦わらいるなら自分も行こうかな、と思っています。


 原作ローがOUTしてifミンゴがINすると心臓抜き取りとか人格シャッフルとか全部なくなるので、麦わらの一味とG-5の動きはぼんやりさせてしまいました。

 あと、このルートだとifミンゴにチョッパーを乗せられない……?

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