Let sleeping Albus lie.
「ん……」
やけに重い瞼を開けると医務室の天井が見えた。
「…………」
起き上がって周りを見ると、ベッドの側に腰掛けていたアルバスと目が会う。
「……ようやく目が覚めましたかのう」
含みのある言い方にムッとする。
言いたいことがあるならはっきり言えば良いのに。
「どのくらい?」
「丸三日ほどです。突然儂の盃を奪って飲み干した時は驚きました」
「そういえばそんなことをしたような……」
アルバスを庇って毒の盃を呷ったところまでは覚えている。それからの記憶はないが、どうやら助かったらしい。
「とにかく君が無事で良かった。私の“運命”も役に立つだろう?」
そう言うと、アルバスはゆるりと立ち上がった。仕事に戻るのだろうと特に何も考えずに見送ろうとした。が、突然アルバスに抱きしめられてしまう。
「……あー、その、心配をかけたのは悪かったけど、もう大丈夫だから。ね?ほら、離しなさい」
ぽんぽんと背中を叩くと、さらに強く抱きしめられる。
「……先輩。なぜ毒杯を飲み干したのです。あれはきっと致死量だったはず」
耳元で囁かれる声は震えていて、泣いているようにも聞こえた。彼の指先が喉の辺りを撫ぜる。
「そりゃあ“運命”とやら以外では死なないからね」
返事を聞いているのかいないのか、指先は脇腹へと進む。
「……ある時は儂を庇って刺されておられましたな。それから、ここ」
彼の指が心臓の辺りに触れる。先ほどからずっと距離が近いアルバスを押し返すことができずにいる。
「アルバス、君……「またある時は死の呪文を真正面から受けておられた。そして今回も……」
そこで言葉を切ると、彼は私をじっと見つめてきた。青い瞳には不安の色が滲んでいる。
「……悪かった。本当に」
「……その言葉を聞くのは何度目でしょうかのう。こちらもそれ相応の処遇をとらねばなりませんかな」
それ相応の処遇とは何なのか。そう聞こうとしてヒュッと息を詰まらせる。一瞬、彼の瞳がひどく澱んだように見えた。
「そ、んなこと、ない……」
つっかえながらもどうにか答える。
すると、アルバスは少しだけ表情を緩めた。
「……ではマダム・ポンフリーを呼んでくるとしましょう。彼女からのお説教は長いですよ」
「あ、はは……覚悟しておく」
一瞬感じた違和感をそのままに、思考はすぐに医務室からの脱走へと切り替わっていった。