K駅前の露店
M霊園とO交差点付近で2回、アサは電ノコ男を目撃している。4回会ったら、電ノコ男に食われるとなると、猶予はあまり残されていない。
チェンソーマンに勝てるわけない、とヨルは以前に口を滑らせていた。強い武器があれば勝てるとも言っていたが、アサには信じられなかった。
ヨルと二心同体である以上、アサも逃げられない。何がなんでもヨルに勝ってもらい、身体から出て行ってもらうほか、アサが生き残る道はないのだ。
アサは憂鬱になりながら、次の探索に向かう。伊勢海のノートによれば、K駅前で露店を開いている人がいて、本当に効く呪いの道具が買えるらしい。
「呪い…」
「呪いの悪魔か…?手に入れておいて損は無さそうだが……」
「あんまり高かったら買わないからね」
「なら殺して持って行こう」
アサはうんざりしながら、K駅前に向かった。露店が開いている具体的な時刻は書いていなかった為、ダメ元で放課後に向かう。
「誰もいないな」
帰宅時間が始まる頃だが、お目当ての露店は見当たらない。アサはヨルに代わってもらい、近くを通りかかる通行人に露店について聞いてもらった。
「あー…お休みの日なんかに、見たことあるわぁ。パワーストーン?とか、石をたくさん売ってたけど」
「休日か。ありがとう」
日を改めて、ヨル達はK駅前に向かうことにした。定期的に開いている訳ではないらしく、姿を見せない週もあるらしい。
次の休日、駅前に露店が建っていた。折り畳みの椅子に座り、バンダナの男が色とりどりの石やブレスレット、ペンダントをテーブルに並べて売っている。興味を持った3名の男女が商品を覗いていて、バンダナの店主は彼等の質問に淀み無く答えていた。
「いらっしゃいませ」
「…ここで呪いの道具が買えると聞いて来たんだが、本当か?」
「え〜…何その話?」
客がいなくなったタイミングを見計らって、ヨルは露店に近づくと店主に本題をぶつける。眉をひそめた店主に噂について聞くと、何か思い出した素振りを見せた。
「呪いは知らないけど…石を買ってくれたお客さんにおまじないを掛けることはあるから、それかもね…」
「おまじない?」
男は民間のハンターを副業にしていると語った。店主は祝福の悪魔と契約しており、一部の客に勝負事に勝つおまじないをサービスとして施しているのだ。
「悪魔の力だから、効き目は保証するよ」
「だが、祝福などたかが知れてるだろう」
悪魔はその名前が恐れられているほど、力を増す。戦争や闇には及ばない。
「そうでもないんじゃない?強すぎる祝福はその人本来の人生を歪めちゃうもんだと思うし」
自信を滲ませる店主は、祝福の制限をヨルに教えた。全く勝ち目のない勝負には祝福込みでも勝つことはできず、また4日後の同じ時刻きっかりに効果は切れる。
「だからこのサービス知ってる学生なんかは、テスト前に来たりするね」
内容が広まるとここで商売できなくなるので、他言無用と店主はヨルにお願いした。ヨルもこの露店のサービスについて喋る気はない。適当な石を一つ購入し、おまじないを施してもらおうとした。
ーー電動音が聞こえてくる。
ヨルを頭痛が襲い、駅前にいた人々が姿を現した悪魔を見て悲鳴をあげる。しかし、頭痛に襲われているのはヨルだけだ。目の前で膝をついたヨルを心配する店主も、電動鋸の怪物を警戒しているが、けろっとしている。まもなく電ノコ男は姿を消した。
「あれが君の勝負事かな?ハンターには連絡した?…俺でよければ引き受けるけど」
「いらん。あれは私の獲物だ」
「やめた方がいいと思うけど…」
店主は中止するよう勧めるが、既に目をつけられている以上、ヨルにも避けられない。避ける気もないが。
目の前の少女の意志が固いと悟ると、店主は表情を真剣なものにした。
店主は、「腕によりをかけるよ」と約束してヨルにおまじないを施す。彼女とは今日初めて会ったばかり。忠告はした。すれ違っただけの間柄なのだから、これで十分だろう。
戦果:おまじない
祝福の悪魔に由来する、勝ちを呼ぶおまじない。4日後の同じ時刻までの間、あらゆる勝負を有利な条件で戦う事が可能。