Interlude.
「“それ”については新たに班を割いて対処します。今遊ばせている班員から希望者を募りなさい。接触するか観察するかについては今後の動き次第になりますので、ひとまずは待機」
カタカタカタカタ。
「セントラル二班、三班に連絡。監視の結果本日の昼食はロコモコになる可能性が高いので、席を確保しておくように。念の為第二案候補のナシゴレンとカレープレートも抑えて。来なかった方のチームは確保した席でそのまま昼食に移っていただいて結構です。代金は経費で落とすので領収書は忘れずに」
カタカタカタカタ。
「ホテル五班、ナイトサファリエリアからの脱走報告が来ました。即時対処しておくように。うちのエリアに侵入する前に丁重にお帰り願いなさい。夕方までには間に合わせて」
カタカタカタカタ。
「監視カメラ班、ターゲットの現在位置報告遅れてるわよ。…うん、まあ予定通りかしら。では引き続き頼みますね。異常があれば報告すること」
カタカタカタカタ。
「は!?…フェスステージの曲が使えなくなった!?期日は明日でしょう!?代打は……ない!?バカじゃねーの!?……仕方ありませんね。私がなんとかでっち上げますので半日待ちなさい」
カタカタカタカタ。
「…いや働きすぎでしょ!?」
二台のコンピューター、三台の通信端末を交互に持ち替えながらマニピュレーターを操作し続けるマグダレーナに向けて、ゲルベルガはとうとう痺れを切らしたといった風情で声を上げた。
「あら。いたの」
「ここ三十分は目の前に座ってたと思うんですけどねえ!?」
「仕方ないでしょう。忙しいのよ。…オマエも一緒に外で遊んでいればいいって言ったじゃない」
「いやアタシ闇の民だし。太陽燦々南の島とか出歩いた日には干からびて死ぬし。つーか何が楽しくて四分の三が敵のグループに混ぜてもらわなきゃいけないんだっての」
「…残り四分の一のためじゃねーの?というか、私、一緒に遊んでくればとは言ったけど、“誰と”について指定した覚えはありませんよ」
「……………………………………………………………まあそれは置いといて」
「あら」
置いておくのね、と満面の笑みを浮かべるクソデカ気ぶり怪獣(マグダレーナ)に二、三回大きく舌打ちをしつつ、会話が繋がれる。
「いくらなんでもやりすぎ…ってか一周回ってキモいの域でしょ。昼メシの席まで用意するとか……昨日見た限りじゃあの店、昼時は数時間先まで一杯だって話だったけど」
「あらまあベルベルちゃん、意外と物を知らないのね」
「(ドヤ顔うざっ)」
「初デートに有名なテーマパークを選んだカップルは別れがちというジンクスがある通り、過度な待ち時間や人混みによる疲労は人間関係の悪化を招きます。
それこそデートの時であればそれらを如何に上手に避けるかという面でプランニング力を発揮することで繁殖を行う対象としての優秀さをアピールする要素に使えますが、今回はリゾートを楽しんでいただくことこそが第一。そういった試験はオールカットで行くべきです。お分かり?」
「いや全然。つかアンタ的にはその……アレが女込みのグループで出歩いてるのって危機感覚えとくべき事象なんじゃないの?」
「ききかん。
わたしが。
……………………………なんで?」
「うっわマジかよ」
「…ええと、友人同士や師弟関係に妙な邪推を入れるのはあまり良い物の見方とは言えませんよ?
私としては別に邪推通りの内容になっていても別段気にしないし………………いえ、想定するとなんだか少し、心なしか程度にもやもやがあるような気がしなくもありませんが…別に構わないのでは?」
「うっっっわ。マ〜〜〜ジかよ」
これまた二、三回、大きなため息を吐いた後、ゲルベルガは唐突に何かを思いついたように意地悪げな笑いを浮かべた。
「まあいっか。ならいっそもうあんなウッディ野郎放っておいてアタシとデートしちゃう?昼メシ行こうぜ昼メシ。下のラウンジで一番高いメニュー奢ってくれればそれでいいから」
「まあ。…数少ないまともに話せる相手が他に取られて寂しかったのなら、最初からそう言ってくれればよかったのに」
「あ゛ン!?!?」
「いいわよ。…と言いたいところだけれど、今日はちょっと大事な用事ができてしまったのです」
「さっきの作曲がどうとかって話?放っておけばいいじゃん、マネジメント不足はする方が悪いでしょ」
「ちゃんと本当の最重要案件ですー」
閉じかけていたパソコンを今一度開き、画面の中を覗く。
監視網のマップに、今さっき追加されたばかりの項目が一つ。
「星見が来ました。…この特異点もそろそろお終いでございましょうね。
…ああもう、何もかも上手くいかない」