Indominus Rex
空崎ヒナは苦痛と快楽の奔流の中にいた。
己の身体より遥かに大きく膨れ上がった臓腑の中を次々に潜り込んで来た触手が蠢き、
逆流してきた触手が喉を圧迫して意識を混濁させる。
身体の外にまとわりつく触手は全身を揉みほぐすように弄び、
粘液の成分なのか身体中が火照り、触られるだけで胎の奥からどろりと秘蜜が溢れる。
耳孔を掻き回され触覚と聴覚を同時に辱められ、
身体中にまとわりつくどことなく青臭い臭いは最早取れないのではなかろうか。
苦味の混じった甘い粘液が口の中に吐き出され、無理やり咽下させられる。
更には触手に身体の奥から精髄を根こそぎ吸い出されるような感覚は
虚脱感と、それに抗うようにより強く力が湧き出す酩酊感を味あわせていた。
この巨大な苗床と化したゲヘナ学園でもし彼女をまともに見るものが在らば、
彼女の光輪がじりじりと縮小したかと思えば突如肥大化したりとせわしなく変動するのが見えたかもしれない。
五感、いや六感全てを蹂躙される壮絶な凌辱は、しかしヒナを蕩けさせていた。
このゲヘナ学園で風紀を取り締まるという穴の空いた杓子で水を汲むような職務を、
過労で光輪に罅が入るほどに行い続ける彼女の性的本質はマゾヒストと言って差し支えがない。
ただそれを本人が今まで知る事が無かっただけである。
触手による苛烈な凌辱は、彼女のそんな性癖を存分に華開かせ、
そしてそれがもたらす性的快感が女性ホルモンを過剰に分泌、
日々の激務で生理不順に陥っていた彼女の卵巣を無理やり叩き起こし抱えていた大切な卵を吐き出させてしまった。
大切な先生との子供を夢見て子宮へとやってきた卵子を待ち受けていたのは、しかし人でさえない触手の怪物。
目ざとい触手の一匹に即座に丸呑みにされ、そのまま無理やり取り込まれるという母よりひどい凌辱だ。
完全に卵子が飲み込まれたその時、びくりと触手の動きが止まり、
そして激しい脈動と共にその触手が他の触手と融け合っていく。
子宮から膣口、ヒナの身体に絡みついていたものから菊座や尿道で暴れていたものさえも侵蝕し、
怒涛の勢いでそれらが子宮の中へ吸い込まれていく。
子宮の中で一つになった巨大な触手から分かたれた触手が子宮壁へとべたりと触れば
ビキビキと侵蝕しながら胎盤を作り上げ、一際大きな脈動と共に母胎と体液の交換を始める。
二次性徴の止まった少女を無理やり母へと仕立て上げ、神秘のみならず彼女の血脈全てを吸い上げる冒涜的な光景がそこにあった。
未知なる痛みと胎動にヒナが悲鳴を挙げる中、母体より遥かに大きかった触手は胎動するごとに縮んでいく。
体積の圧縮に伴う過剰な熱量と水分は臍帯と化した触手を通して母胎を生かす為に注ぎ込まれ
神秘によって無理やり滋養へと変換され還元されていった。
そうして数時間の後に遂にはヒナ一人分にまでヒナの腹が縮んだ時、
ばしゃりという音と共に乳白色の液体が勢いよく秘唇から噴き出す。
本来十月十日かけるべきものがほんの数時間で行われる暴挙。
中にいる巨大なものが産まれ出ようと蠢く。
自身の身体と同じ大きさのものが狭い膣穴を出ようとしている痛みにヒナが叫び声を挙げ、
しかし中にいるものがそれを顧みる事はない。
身体が壊れぬように自発的に骨盤が外れて通り道を確保し、
ヒナ自身の生来の頑健さが膣穴が極限まで伸びる事に耐えきった、耐えきってしまった。
膣穴からまず見えてきたのは緑がかった銀髪……に見える触手だ。
圧倒的な量のそれが抜ければ見えるのは病的なまでに白い肌に、母胎と同じような紫苑の瞳。
ねじれた四本角と蝙蝠のような翼は触手が寄り集まって出来ている。
産まれたばかりの赤子としては大きな身体も、少女としてみれば矮躯と呼ぶべき小ささ。
頭上に輝く光輪は禍々しい王冠のように彼女を彩る。
そう、生まてきたそれは、空崎ヒナの姿をしていた。
少女からそっくりの少女が生まれる、冒涜的な出産。
まるで昆虫か何かの脱皮のような異常な光景がそこにはあった。
いつしか周囲は生まれてきたものを恐れるかのように静まりかえり、
凌辱されていたものたちの微かなうめき声が聞こえるのみ。
生まれてきた少女は、弛んだ腹を抱えて息も絶え絶えの母、彼女と自身を繋ぐ臍帯、
静まり返る周囲、そして空に目を向け、遂に産声を挙げる。
産声は哄笑。
淫卑な魔窟と化したゲヘナ学園に響き渡る無邪気な笑い声は不気味なまでの明るさに満ちていた。
ひとしきり笑い終えた後、少女は母たる少女を抱き抱えて、
かつて風紀委員会本部と呼ばれていた場所へと歩き出す。
慌てたかのように道を開ける触手たちに視線を向ける事もなく、
キヴォトスの新たな支配者になり得る少女は朗らかな笑みを浮かべ母を見ていた。