imitation gold
お酒買えたのは2003年ギャグ皆で馬鹿笑いすることほど楽しいことはない。買ってきたスナック菓子と織姫の持ってきたパンを開け、ジュースで乾杯しながら一護の誕生日を祝う。ケチの付け所がない、あまりにも完璧な誕生日の過ごし方だ。
何も考えず、ただひたすらに友人と笑って過ごすだけの時間が、こんなにも楽しくて愛おしいものだとは撫子は知らなかった。
「…今日が一護の誕生日で、明日期末考査が帰ってきてそっからすぐ夏休みやろ〜?今年は何しよっか」
この数ヶ月の間にあった出来事を話しながら、クッキーを摘む。砕いたナッツが入っているそれはとても美味しくて、すぐになくなってしまった。
「去年みたいに花火見たいね」
「…おっとぉ、石田」
「あー確か石田は………」
「うん!今年は行こうね石田くん」
「仕方ねーな、石田も誘うべ」
「…どうもありがとう」
去年の段階では石田への連絡手段がなかった為、仕方がないとはいえ気の使われ方が少し切ない。
「ーっておい、コレ酒じゃねぇか!全員飲まねーよ」
新しいジュースを開けようと本日の主役がコンビニ袋に手を入れたところで気付く。
酎ハイなんて誰が買ったんだよ。思わず頭を抱えると撫子が小さく笑みを浮かべた。
その顔を見て、ようやく確信犯だと知る。こいつ俺をダシにして飲みたかっただけなのかよ!?
「いやいや、お前も未成年だから」
「このカラダ設定年齢20歳やから合法ちゃう?ゴーホーゴーホー!どうでしょう織姫裁判長」
と、プルキャップを開けようとする手を「デテーン、ひらこアウトー!」と織姫は止める。
その言葉通り、目の前にいる撫子の見た目年齢は一護達と変わりない。中身は100歳を超えているのだが、そんなことは関係ない。法律とは関係なくとも良識としてアウトである。
それにしても、撫子はなんでこうもノリが良いのか。
「平子さんまさかのハタチ?!お、お姉さんじゃないっすか…ハッ!見るな!平子さんを見るな水色ォ!」
「同級生には何も思わない」
啓吾は慌てて水色の目を隠しながら叫ぶと水色は反撃をしている。
「ウッソ、アンタそんな事言ってないじゃん」
たつきがつっこむと一護も口を開く。
「ていうかお前、20なのかよ。ルキアより若いのに年取ってるよな」
「アタシが老けてるっていいたいんかァ?女性に歳を聞くのは失礼やって教わらんかった?」
「はいはいすいませんでした」
肩をすくめてたまごサンドにかぶりつく撫子の食事をする所作はとても綺麗で、石田はつい見惚れてしまう。
彼女のことをあまり知らないのだなと思い知らされた気がした。
「平子、見た目年齢が20で設定されたということは、本来の年齢はまた違うと言うことか?」
「ギャッ〜藪蛇…そこに気づくとは流石チャドくんや」
「なんだよそれ……」
思惑顔の一護に撫子がこれ美味いで、とプリングルスを差し出す。
「尸魂界では霊圧が強い奴ほど成長は遅いんやけど、現世の肉体はお構いなしに成長するやろ。高校通う為に一護達と同じくらいの年齢、成長する義骸を喜助が作り直してくれてん」
「なるほどな……。しかしそうなると、お前の見た目ってひよ里より若いんじゃないのか」
「言うつもりはなかったんやけど、まさかバレることになるとは思わんかったわ…ホンマは子どもやで」
あっけらかんとした態度を取る撫子だが、内心はかなり動揺しているようで、目が泳いでいる。
「マジかよ、逆に気になるだろ」
「どっちにしろ酒呑ンじゃ駄目じゃん撫子アンタさぁ」
「家で呑んでも駄目だよ撫子ちゃん」
「生まれは100で?身体は20で?本当は小さくて?じゃ精神年齢はドコ?」
「それは失礼過ぎるよ啓吾」
「ム、一護は平子が子どもになっても見えないだろう」
「…僕等で平子さんの姿を絵に描いて黒崎に見せるというのはどうかな」
石田が芝居がかった所作で眼鏡を正し、一同に提案する。
しかし、撫子が乗り気ではないようだ。やはり本来の姿を見られることに抵抗があるのだろうか。
「えぇ〜、ソウルキャンディ持ってへんから無理やし…また今度で!てか、一護はどんな子どもやったん?教えてたつきちゃん!」
話を逸らすように、撫子は一護に尋ねる。先程までの焦りはすっかり消えていた。流石は100歳、と切り替えの早さに感嘆しつつ、一護は自分が幼い頃のことを思い出してみる。
いつの間にか話題は変わっていて、小学校の頃の夏休み自由研究で盛り上がった。
あからさまに話を逸らしたのに、誰も何を言うことなく話に乗ってくるあたり本当に良い友人を持ったと撫子は思う。
こういうのを幸せっていうんやな。大好きな友人達が明日も明後日も幸せであればいいと願う。
撫子がとて自分の本当の姿を皆に見て欲しいとは思っているが、年齢二桁も迎えていない本来の撫子の姿を見て、告白をしてくれた石田の心が離れて行ってしまうのではないかと不安なのだ。
ーいややなぁ。アタシ、まだ石田にキチンと返事してないのに。
そんなことを考えているうちに夜になり、皆それぞれ帰路に着く。
一護の誕生日を祝うはずがなんだかんだ騒いでいただけで終わってしまった。それでも、楽しかったという気持ちだけは本物だ。
帰り道、石田と二人で並んで歩いていると、ふと隣から視線を感じた撫子が立ち止まる。すると、半歩分だけ前を歩いていた石田も足を止め、振り返った。
「交流の積み重ねで好きになったんだ。外見に惹かれたわけじゃない。僕は君だから好きになったんだ。もしも年齢が違っていても、君と日々を送るうちに恋に落ちたよ」
「……ありがとう、アタシも石田のこと大好きやで」
「そう言われると照れるね…少し悔しいな。君の特別にはまだ足りないみたいだ」
「ごめん…」
撫子は申し訳なさげに俯く。
石田はそんな撫子の頭を優しく撫でる手つきは、まるで壊れ物を扱うかのように繊細で慈愛に満ちたものだった。