IF槍陣営監禁ルート
「さて……どうしよっかな」
聖杯戦争に巻き込まれただけの一般人は、ランサーとそのマスターの交渉の席で勝利を勝ち取れず、目の前でキャスターを吹き飛ばされそのまま魔術工房へ監禁された。その際に令呪は奪われ、外界への連絡手段も奪われてしまった。
「キャスターのマスターである理由も無くなっちゃったしなあ」
ランサーのマスターは監禁した張本人でありながら、生活に不便がないようにとあらゆる手を尽くしてくれた。元々好き嫌いがないために食事も満足して食べることができ、あらゆるジャンルの本を用意し、彼女の趣味である縫い物も存分にさせてもらえた。
「確実に留年だしなぁ。一週間も学校行ってないや」
そうして読みかけの本を放り出して広いベッドに横になる。かつての生活を全て奪われた状態で気鬱になることなく、ランサーのマスターの意図に気付いているが故に思うがままに過ごしている。
「よお、夕飯持ってきたぜ」
「お、いただきます」
そうしてダラダラと過ごしていればランサーが両手いっぱいに料理を持って部屋に入ってくる。ランサーが手ずから用意した食事を、ランサーと共に囲むのが習慣になっていた。用意された食事の大半はランサーが食べてしまうため、自分の食べる分は最初に確保するのが常だった。
「……この聖杯戦争が終わったら私をどうするの?」
「んー何も聞いちゃいねえが、とりあえず時計塔へ連れて行くとは言っていたな。もしそれが不満なら俺と一緒になるか?」
「断る」
そうして束の間であろう日常に浸りながら、彼女は目の前でランサーによって打ち倒されたキャスターを案じる。元々ただの利害関係だったのである。キャスターはサーヴァントと名乗ったがそれが嘘であることは最初から見抜いていた。しかし聖杯戦争に関わった以上自分の身を守る手段がなかったからこそ、キャスターと共に行動していたのだ。令呪を奪われマスターでなくなった今、キャスターが彼女を守る理由も助ける理由も無い。
「……俺が言えた義理じゃねえが、キャスターは助けに来ないだろうな。アレとは最初からそういう仲だったろ」
「うん。だからどうしよっかなって」
そうして食事が終われば、ランサーは食器を持って部屋から出ていく。そうして嵌め殺しの窓から外を覗けば、枯葉が落ちて行くばかりの侘しい景色だけが広がっていた。
「さて、新しい刺繍のデザインでも…」
明日何が起きるがわからない。それでも、彼女は与えられたものを手に取ることを選択したのだ。