IFルート:遅すぎた気付き
「ただいまー…」
我が家に帰っても返事を返してくれる者はいない。
当然だ。
シャンクスは急な出張で数週間家を空けている。
そしてもう一人も。
「…今日も来てない、か」
ポツリと呟かれた声は、普段よりも広く感じる家の中へ消えて行く。
あの日、告白の返事を返した日以来ルフィとはまともに顔を合わせていない。
ルフィのことを話している時が一番幸せ。
その理由が自分でも分からなくて、ルフィなら答えを知っているんじゃないかと彼の家に行った。
けれど何度インターホンを鳴らしても出て来る気配は無く、後で電話で聞こうと帰宅。
その夜LINEを送っても既読は付かず、電話しても空しくコール音が響くだけ。
何かあったのではと心配する反面、いつも通りの笑みを浮かべて家に帰って行った事も有り明日話せば良いかと結局その日は眠りについた。
次の日からルフィは私の所へ来なくなった。
友達との約束がある。
補修がある。
その他諸々。
遊びに誘えば先約があるからと断られ、勉強を見てあげると言っても友達で頭の良い奴が見てくれるからと断られる。
ご飯作ってあげようかと言っても、誰かと食べに行くからとかで来てくれない。
あれだけ騒がしかった我が家はあっという間に静まり返ったものになった。
寂しいと思いながらも、ルフィにだって友達付き合いはあるから仕方ないと自分を納得させる日々が続く。
「シャンクス…早く帰って来ないかな…」
出張に行く前、自分が居ない間は私の事をルフィに頼んだらしい。
でもその時のルフィは何やかんやと理由を付けて断ったとのこと。
今更遠慮する仲でもないのに。
「そういえば、まだ聞けてないや…」
胸のドキドキというか、ザワザワした不思議な感じ。
これが何なのかもルフィに会えてないのだから、聞けずにいる。
告白を断った日からそれなりに経つけど、この奇妙な感覚は一向になくならない。
むしろ日に日に大きくなっている気すらした。
「ルフィ…」
何で会いに来てくれないの?
私が何か怒らせるようなことをしたから?
もしそうなら謝る、だから…。
気が付けば声も出さずにぽろぽろと涙を流していた。
それからあっという間に日は過ぎて行き、シャンクスが出張から帰って来て数日後だ。
ルフィが海外に行くと聞いたのは。
何でもルフィのお父さんが数年ぶりに帰って来て、またすぐに発たなければならない時にルフィの方から頼み込んだらしい。
自分も連れて行ってくれと。
当然お父さんは困惑したそうだし、祖父のガープさんは猛反対。
高校も中退すると言って聞かないルフィに激怒して、拳骨一発では済まなかったくらいの暴れようだったとのこと。
それでも、何度殴り飛ばされても頑として譲らなかったルフィにとうとうガープさんの方が折れた。
根を上げて帰って来るような半端者なら命はないと思え。
そう吐き捨てるガープさんに、ボコボコにされたルフィは深く頭を下げたのだと言う。
以上の顛末をルフィから届いたメールで知った時には、もう彼が飛行機で発った後だった。
メールの最後には短くこう書いてあった。
突然のことでごめんな。
どうか幸せになってくれ。
「なんで…?」
なんで私に何も言ってくれなかったの?
そんなに私から離れたかったの?
ルフィがいなくなって、私は明日からどうしたら…
「…………あっ」
カチリと、何かが嵌る音がした。
ずっと自分の中で靄が掛かっていたもの。
一度晴れてしまえば、こうも簡単に答えは見えて来る。
「はは…そっか、私ルフィのこと……」
その先を口に出そうとして、ヒュッと喉が鳴った。
私が自分の気持ちに気付いたと同時に、ルフィからの私に対しての気持ちにもようやく気付いた。
…思い返せば、気付くチャンスは幾らでもあっただろう。
私がルフィを弟扱いする度に、彼が顔を強張らせたのは見間違いじゃない。
二度にも及ぶ告白、あれが本当に練習相手に向けてのものかどうかだって、少し考えれば分かったはず。
告白を受けた時の自分の態度。
ルフィからの告白を受けておきながら、別の男からの告白に思わせぶりな態度を取る。
幾らルフィとて限界はある。
「私…私…っ…ごめんなさい…!ルフィ…!」
泣く資格なんかないくせに、涙が止まらない。
今更気付いた所で手遅れなのに、私はただ謝罪を続けるしかなかった。
初恋は実らないとは言うけれど、私にはその言葉を口にする資格すらないだろう。
自分の手で、それも最悪の形で初恋を終わらせてしまった私には。