IF(2)

IF(2)

SSG

寒気が、一味に襲い来る。

それは不吉さを予感させる悪寒なのか…いや、それ以上に空気全体が冷え込んできているような感触を覚える。



「……ナミ! ウソップ達を連れて下がってろ!」


「え…でもっ!」



ギア4の状態のままゴインゴインと跳ねつつも、ルフィは黒のルフィを見据えたままそう叫んだ。ナミは魔法の天候棒とゼウスを展開したまま臨戦態勢を崩しておらず、微力ながらも戦うつもりでいたため、その船長の指示に一瞬承服しかねる声を出した…が。



「ナミ! 船長命令だ! …急げ!」


「ナミさん…三人を、頼む!」



「……! わかったわよ!」



ゾロとサンジ、二人の逼迫さを感じる声に…ナミは嫌とは言えなかった。

ゼウスを魔法の天候棒の中に収容すると、体の骨を折られたブルックに肩を貸しつつ、吹き飛ばされたウソップとチョッパーの元へ向かう。


その間…黒のルフィは動くことはなく、ルフィをまっすぐ見つめて言葉を紡ぐ。



「お前も…少しは分かったみてェだな。仲間を失うことへの…恐怖を」


「……」



「だが、良かったのか…? 逃すのが、そいつら”だけ”で…」


「!!」



黒のルフィがその言葉を放った瞬間に…ルフィは、見聞色の覇気による”未来”を見た。



「…! “ゴムゴムの”ォ!! 大蛇…」



ルフィが、その”未来”を防ぐために攻撃の対処に入るが……

黒のルフィの速度は…その上をいった。




「護無(ごむ)……」


「え……っ!」





「銃(ガン)!!!!」





ドゴォォォォン!!




ルフィの体が、空中から飛んできた黒のルフィの拳によって地にヒビが入る勢いで叩きつけられる。筋肉風船による強固なゴムの体と、武装色による硬化。それにより並みの攻撃は全て弾かれるほどの強度があるはず…だった。

だが、黒のルフィの硬化した拳は弾かれるどころか…膨らんだルフィの腹部に、だんだんと勢いをつけてめり込んでいく。



「ぐ…ぐっ…..!」



このまま拳に腹を抉られれば、筋肉風船に溜めていた空気が口から抜けてギア4は解除されてしまう。だが、その前に…船長への攻撃を一味が見逃すわけはなかった。



「三刀流……蟹獲り!!」


「木犀型斬(ブクティエール)…シュートォ!!!」



ゾロの、首元を切り裂く強烈な剣技。

サンジの、懐に潜り込んでの顎を狙った上段への蹴り。


いずれも人間の頭部を狙った強烈な攻撃が…黒のルフィの体に当たった……が、そこでピタリと止まる。



「…斬れ……!?」


「ぐああっ……!!?? なんだこの…”硬さ”っ!?」



黒のルフィの首には切り傷一つつかない。

最初にゾロが放った千八十煩悩鳳の”飛ぶ斬撃”やブルックの夜明歌 クー・ドロアによる”飛ぶ刺突”。それを回避していた黒のルフィの様子からして、自分達の船長と同じく斬撃が弱点と見切っていた…はずが、直接刀を持って切りつけても、傷がつかない…!


一方で、人体の急所の一つとも言える顎の部分を蹴り上げたサンジの足には逆に大きな痛みが走り、苦悶の声を上げる。先ほどサンジの蹴りで黒のルフィの体を蹴り飛ばしたことがあったはずが…この”硬度”は、さっきとはまるで違う…! 今や鋼鉄にすら足形を残せるほどの脚力を持っているサンジの蹴りでも、ビクともしない。


その間にもなお黒のルフィの拳はさらにルフィの体に突き刺さり、ルフィの口からは空気が漏れ始める…!



「二人とも離れろ! 魚人空手…奥義!!」


「「!!」」



「鬼瓦正拳!!!!!」



ド ン !



ジンベエの正拳突き。ただし、黒のルフィの体には”触れてない”。

空気中の水分振動を利用した強烈な衝撃が黒のルフィの体を吹き飛ばす。


黒のルフィが離れたことで、ルフィの漏れかけていた空気もなんとか止まり、ギア4の解除の事態は避けられた。



「おっしゃあっ!今がチャンスだぜ!」

「もう様子見はなしだ! 悪いな”ルフィ”……食らえ!」



「フランキーラディカルビ〜〜〜〜ム!!!」



両腕でしっかりポーズを決めていたフランキーから放たれる、光のビーム。それが吹き飛ばされる黒のルフィの体に着弾し…



ズゥゥゥゥゥン!!!!



半球を描く、大爆発を引き起こした。

普通の人間なら真っ黒焦げになって吹き飛ばされてもおかしくない規模の爆発。黒煙と光、炎で黒のルフィの体が覆い尽くされる。



「これで…ちったあ効いたかよ!」


「いや…まだだ!」



真っ先に追撃に駆け出したのは、ゾロだった。

持ち前の見聞色の覇気でか…はたまた、剣士としての勘か…攻撃の手を休めてはダメだと判断したゾロが、未だ熱気冷めやらぬビームの着弾点に向かって刀を構えて走る。



「三刀流……!!」



黒煙の向こうに人影を見たゾロは、それに向かって三刀を振るう。



「”牛鬼”勇爪!!!」




三刀振るう刀が、斬撃を飛ばし人影を切りつけるはずが…

刀を振るった瞬間に、黒のルフィの姿が…ゾロの”真横”に。



「『世界一の剣豪』……」


「…!!」



「そんなもんなる前に……死んじまうんだよ。お前は…」








「護無・鞭(べん)…!」



ドガッ!!!!




「ガハッ……!!」



ゾロの腹部に、黒のルフィの回し蹴りが命中し…血反吐を吐いて、その体が吹き飛ばされる。

頭から地に突っ込み、転がり倒れ込むゾロの体。



「「ゾロッ!!!」」



フランキーとジンベエの声が重なる。

サンジも声を上げることこそしなかったが、焦りからか加えていたタバコを噛み潰す。一方の黒のルフィは全く意に解さない様子で首をコキリと回して、頬の切り傷から流れた血を人差し指で拭う…。



(……なに?)


(…血? 傷......?)



その動作と”傷”に、違和感を覚えたのは二人。

焦りと怒りで黒のルフィの顔を見つめていたサンジと、後方で能力を使う隙を窺っていたロビン…。


しかし、すぐに黒のルフィの体から”冷気”が漂い始める。



「うおおおおおおおおお!!!」



まるで、それに呼応するかのようにルフィの弾む男(バウンドマン)が空中に飛び出す。

そしてその巨大な腕に…大きな”捻り”を加え…




「“ゴムゴムの”ォ〜〜〜〜!! 猿王回転弾(コングライフル)!!!!」



「…護無・砲(ゴム・キャノン)!」




ドゴォォォン!!!!




「ぐっ…!!」


「……..!」




ルフィの巨大なライフルと黒のルフィのキャノン…ルフィが使うゴムゴムのバズーカを同じ構えで放たれた技が…拮抗する。しかし十秒近い拮抗の果て、ルフィの拳が押し負け、バチンッ!と弾き飛ばされる。



「くっ………だけど、”もうちょい”だ!!」



「わしが出る! 魚人空手…鮫瓦正拳!!」


「まだまだ!オレ様もいくぜェ! フランキー〜ィ!! ロケットランチャー!!」



魚人空手の真髄、空気中の水分を突き抜ける衝撃波が、黒のルフィの体を揺らす。そして、それに向かってフランキーの両肩から放たれたミサイルが黒のルフィに向かっていく…


だが、それが着弾し爆発する寸前…黒のルフィの体が掻き消える。



「野郎、避け…..」


「っ!! フランキー、避けろ!!」



サンジが咄嗟に警告を飛ばしつつ駆け出すが、既にフランキーの目の前には黒のルフィの姿が…



「……なっ!?」



「護無・弾(ダン)…!」




ドスッ…!




「オウッ……!!」




フランキーの喉元に…黒のルフィの”指”が二本揃えて突き刺さる。

前面を鋼鉄で改造したはずのフランキーの体はその漆黒の指に貫かれ…その穴からは生身から流れる血と機械の火花が散る。



「フランキー!!」


「動きが止まった…今! “三十輪咲き”(トレインタフルール)!!」



「……」



今まで動きが速い故に能力行使のタイミングを掴めなかったロビンが、動きが止まりかつ距離が近い今が好機と見て、ハナハナの能力を解放。黒のルフィの体と足元。合わせて三十本の腕が黒のルフィの体を拘束する。

黒のルフィ。その体が、ゴム人間だとしたら…ロビンの得意とする能力を使った関節技は効かない。しかし、今のルフィは今に至るまでゴム人間の特徴である伸縮自在な体の動きをしてこない。だが一方で、同じような推測で放ったであろうナミとゼウスの「雷霆」はまるでゴム人間のように無効化していた。

果たして目の前のルフィはゴム人間か否か。今はまだ結論づけるほどのデータはない…。ならば、少しの可能性に賭けて!


黒のルフィは平然としたまま…ロビンの腕が動き出す。



「クラッ……!? …っ!? かた……!!」



ロビンの腕に血管が浮かび上がるほど力を込めた30本の腕を使った背骨折りの技…。だが、黒のルフィの体は多少上体が逸れた段階で…止まった。そう、その余りの体の硬さに、ロビンの腕を30合わせた関節技でも、その体を動かせない…!ゴム人間であるか否かを判断する以前に…このような形で技が効かないとは…。



「ニコ・ロビン……」



黒のルフィは、自らの体に生やされたロビンの腕に逆らうように自分の腕を動かすと、大腿部分に生えているロビンの腕を掴む。


ボキッ、という大きく不吉な音が黒のルフィの握った腕から響いた瞬間、ロビンは大きな苦痛の叫びを上げて崩れ落ちる。



「ゔっ……ああ……」


「そうだな……まずは、”お前から”か…」



腕を抑えて疼くまるロビンの元に、ゆっくりと歩み寄る黒のルフィ……が。




「悪魔風脚(ディアブルジャンブ)!!」


「!」


「ロビンちゃんを傷つけるテメエは…..! ”ルフィ”としても、絶対に許さねェぞ!!!」




「焼鉄鍋(ポアル・ア・フリール)スペクトル!!!!」



ドドドドド!!!



「ちっ…!!」


(…!? この、感触…!?)



ロビンを傷つけられた怒りから、放った高速の連続蹴り。

サンジの足は先ほどの硬化されたルフィの体を蹴ったことにより、骨に大きなダメージを負っていた。それでも一味としての誇りと、怒りゆえの攻撃を行い…逆に足が砕けることも覚悟していた。


だが、その蹴りの感触は先ほどとは明らかに違う。足は容易に黒のルフィの体に突き刺さり、黒のルフィも舌打ちしながら顔を歪め、ロビンから離れて距離を取る。


瞬間、サンジの脳内によぎったのは…黒のルフィの頬の切り傷。

あの切り傷は、明らかにゾロの『牛鬼勇爪』の技でついたものだ。だが、その直前のゾロの技では傷一つつかなかったはずなのに…なぜあの時は傷がついた?そしてなぜ今の蹴りは…効いてる?


しかしその理由を分析するより前に、咄嗟に自分の船長に声を投げかける。



「今だ! ルフィ!!!!」



「おう!!!! “ゴムゴムの”ォ〜〜〜〜!!猿王群鴉砲(コングオルガン)!!!!」




空中のルフィから、今度は平行に並んだ腕の列から巨大な拳の乱れ打ちが降り注ぐ。

黒のルフィは腕を交差させてそれを防がんとするが…



「ぐ…..ぬっ……!」



初めて、だろうか。

黒のルフィの口から苦悶の声が漏れた瞬間、その体がルフィの拳の雨に埋もれていく。






「ウオオオオオオオオオオ〜〜!!!!!!」






手応えを感じつつ、何度も何度も拳を打ち込み続けるルフィだが…やがて早すぎる制限時間が訪れる。そ




ボシュッ!!

ひゅるるるるるる!!!


「おわっ!!」





あの時、黒のルフィから受けた護無・銃によるダメージと、その際に空気が微かながら抜かれていたのが災いし、本来のギア4の制限時間が早く訪れてしまったのだ。

空気が抜けて元の体型に戻ったルフィが、地に落ちる。だがすぐに起き上がり、自身が拳を打ち込んだ地点を見つめる。粉塵がもうもうと漂い…まともに視界も効かない……。







「護無・斬(ザン)……!!」




ビュッ!! ビュッ!!




ザ ン ッ !!



「なっ…..!!」


「ぐあっ……!!」



「っっ!!! サンジ!! ジンベエ!!!」




その粉塵の向こうから飛んできたのは、”飛ぶ斬撃”だった。

全く予想外の攻撃に、モロに受けたサンジとジンベエの体に大きな切り傷が刻まれ、鮮血が舞う。




「久しぶりだな…こんなに、血を流したのは…..」




飛ぶ斬撃を放った”足”をゆっくりと降ろして、黒のルフィがゆっくりと歩み寄る。身体中から”冷気”を漂わせ、頭から流れた血が目に向かって…”涙”のように垂れていく。



「っ…! ゴムゴムの…!!!」


「護無・印(イン)」



ドゴンッ!!



「っ…!!」



覇気を使うこともままならないルフィの体に、黒のルフィの前蹴りが腹部に突き刺さる。

吹き飛ぶルフィの体は、力の入らないまま遠くに転がっていく。



「………さて」




黒のルフィがゆっくり歩みを進め……立ち止まったのは、とある麦わらの一味のメンバーの前。



「っ……! あなたは………あっ……」



黒のルフィは、まだ意識がある中で蹲っていた彼女の首元に手刀を叩き込んで気絶させると、その体を担ぎ上げた。



「まずは……一人」







「三刀流!! 豹琴玉(ヒョウキンダマ)!!」


「腹肉(フランシェ) シュート!!」


「七千枚瓦…回し蹴り!!!」





「護無・参弾(ざんだん)」




ドスッ!


ドスッ!


ドスッ!




「ぐぁ……!」


「ゔ…くそっ……」


「ぬぅ……む………」



腹部に甚大な衝撃を食らいながらも、駆けて吶喊してきたゾロ。

体に深い斬撃をくらいながらも、黒のルフィを止めようと蹴り技を放つサンジとジンベエ。


その三人も…人間一人肩に背負った状態の黒のルフィが左手で放つ、目にも止まらぬ指の突きを食らい、体に穴の傷を受け…膝をつく。



倒れ伏す麦わらの一味を俯瞰し……黒のルフィは、ロビンを肩に抱えたまま呟く。




「ここでお前らを全員消すのは容易……。だがまずは一人、だ…」


「仲間を失う意味をようく理解できたら…後は好きにしろ。だが、もう一度このおれに挑むなら…」


「次は一人…なんて生ぬるいことは言わねえよ。次は…お前が”一人”になる番だ」





「じゃあな。”麦わらのルフィ”…….」






気を失ったロビンを抱えたまま…黒のルフィの姿は掻き消え、この場から去り……この世界において初めての戦闘は、終わりを告げた。




“敗北”をもって。




唯一、離れた場所で”勝利”を信じていたナミは……唇を噛み締めると、未だ多くの仲間が倒れ伏す戦闘の場に急いで駆け寄った。


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