IF ルフィとウソップ

IF ルフィとウソップ


film if のスレが元ネタ

ルフィとウソップ中心

死ネタ(一味崩壊、ルフィだけ生存)





呆然と立ち尽くす。目の前の光景を受け入れられなかった。

「え?」

ガタガタと震える身体をどうにか動かして歩みを進める。一歩、また一歩。戦いの音を聞きながらルフィは目の前に転がっている仲間を視界から外さなかった。どこか安心感があった。ウソップなら逃げてくれる、ルフィはそう確信していた。ウソップは死ぬことが嫌いだった。怖いことが嫌いだった。でも、でも。ふらふらと歩いて躓いたルフィは肩を震わせて拳を握りしめた。そう、ルフィは知っているのだ。ウソップは大切な人を守るためなら前に出て戦える男だということを。

「ウソップ……?」

ルフィの縋るような声に反応は無い。ロビンを抱き寄せた手を、ゾロの致命傷に触れた手を、真っ赤な手をウソップに伸ばす。まだ、薄らと体温がある。わずかな希望を見出したルフィはウソップを抱き寄せて胸に耳を当て、鼓動を確かめる。しかし、待っても待っても耳に飛び込んでくるのは破壊音だけだった。心音は無い。

「嘘だっ!!」

思わず叫んでいた。受け入れられない現実が突き刺さる。

「なあ、ウソップ……俺怒んねェよ、だ、だからよ、嘘だって、嘘っていつもの、ように言ってくれよ……っ!」

いつもルフィが何かを言えば返ってくる声、それは一つも発せられなかった。いつものようなテンポの良い会話も、叱咤してくれる激励も何一つ聞こえない。

「あぁっ……!」

ウソップの音が無い。無い、無い。腕の中のウソップの体温がさっきよりも冷たくなってきていることにルフィはおかしくなりそうだった。ロビンもゾロも失った時点で壊れていたのかもしれないが。

「う、ぐ……あぁ……」

感情が整理出来ずに大粒の涙が頬を流れて冷たくなるウソップの顔に落ちる。首を絞められているかのように息苦しい。息が出来ない。酸素を奪われたような感覚にルフィはひゅうひゅうと喉を鳴らした。

「あ゛あ゛あ゛あっ!!!!!」

言葉に出来ない悲しみが獣のような咆哮に変わる。また、仲間を失った。

「何でだよ、ウソップ!勇敢な海の戦士になるんだろ!?」

がくがくと力任せにウソップを揺らす。ルフィにも分かっている。それでも何より大切にしていた仲間を三人も失うことにもう限界を超えていた。

「……なあ、ウソップ」

反応が無いウソップにルフィがまた話しかける。悲しみを侵食する怒りに震えながら口を開く。

「お前は否定するかもしれねェけど、もうなってるだろ?だって、そのせいで死んだんだ」

ルフィの中の感情が凪いでいく。落ち着いたわけではない、許容量を超えた容器が壊れただけだ。ハンプティ・ダンプティ。割れた卵は元には戻らない。様々な話を知っていたウソップだったら洒落た話をしてくれただろう。そんな楽しげな話をしてくれる人はもういない。

「お前が勇敢だったから……!だから死んだんだ……!」

押し殺すような言い方は、ウソップを責めているようだった。暗い感情に支配されかけたルフィの耳に突如大きな音が雪崩れ込んでくる。

「っ!そ、そうだ……」

我に返ったルフィは壊れ物を扱うように近場の壁を支えにウソップを座らせた。

「……待っとけよ、ウソップ。必ず戻ってくる」

まだ生きている仲間がいる。更に仲間を失う事は避けなければならない。ルフィは決意を胸に戦場に戻った。

………………

濁った目で海を見つめる。戦いが終わったルフィの手からは何もかもがこぼれ落ちた。残ったものもある。ゾロのバンダナ、サンジのライター、チョッパーの帽子。ルフィはそれらを宝物のように抱きしめた。

「これしか無かったのか……」

遺品はこれだけだった。武器は何もかも奪われて無くなっていた。ルフィはその三つを抱きしめながらポケットを探る。

「みんな……」

遺品はもう一つだけあった。それは船に残っていた音貝。カチリとスイッチを押すと仲間の声がここから聞こえた。見つけた時は泣きながら再生したルフィだが、二回目の再生である事に気が付いて目を見開いた。

「足りねェ……!」

聞こえる声はナミとサンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックだ。聞き違える筈がないともう一度再生ボタンを押す。

「ゾロとウソップの声が入ってねェ!」

内容は遺言だ。死ぬかもしれない、でも楽しかった、そんな内容。みんなが笑いながらルフィに話しかけている。感謝の言葉を聞くたびにルフィは自分を殺したくなった。その声の中に二人が入っていないのだ。

「ウソップ、お前何も残してくれねェのか……」

声も遺品もウソップはルフィに残してはくれなかった。最期の姿を見せてもくれなかった。いつもはあんなに見せてくれるのに。音貝を強く握りしめたルフィの目からまた涙が落ちる。仲間を失ったという事実はルフィを完全に壊すには十分だった。泣きながら海を見る。みんなの後を追いたい。そう考えて音貝の音声に引き戻される。

『海賊王になれよ』

海に飛び込もうとした体が鎖に縛られたように動けなくなる。

「分かってる」

足を地につけて海に背を向ける。沿岸を歩いて目的の船を見上げる。どこかフランキーの面影を残した船は何も話さずルフィを見る。

「海賊王に俺はなる」

それは呪いだった。

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