IF AFTER
あれからどのくらいの時が経ったのだろうか…
ここに収容されて…先生と会話をして…それからかなりの時が経って…
考えて…妄想して…思って…記憶を思い出して…
現実に引き戻されて…砂を吐き出して…その繰り返し…
砂を回収されることもなくなって…砂を吐く回数で時間を数えるようになった…
そうすることしか…することがない…
収容部屋が…段々と吐き出した砂に埋もれていくようになった…
足首…膝…太もも…腰…首…頭…
吐き出した砂が部屋を埋めていき…ついには天井まで届くようになった…
我ながら…身体のどこにこんなに砂が入っていたのだろうと呆れてしまう…
呆れていないと…壊れてしまう…
自分が吐き出した砂の中に埋もれて…また吐き出す日々に戻る…
……
ミシッ…
最近になって…妙な音が聞こえるようになった…
ミシミシッ…
…今日の音はいつも以上に響く…
バリーン!!!!!
何かが割れる音がした…
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!
すると私の砂がどういうわけか流れ出した。
ザザザザー!!!!!
砂が流れていき…私も砂と一緒に流された。
「……」
気付いた時には、収容部屋の外に出ていた。
どうやら、内側からの砂の圧力に
老朽化した部屋が耐え切れなくなったようだ。
…どうするべきだろうか。
部屋に戻ろうにも、部屋は砂に埋もれてもう使い物にならない。
外に出るべきなのだろうか?
「………」
私はひとまず立ち上がろうとした。
グラッ…バタン…
…倒れてしまった。
久しぶりに足を使って立とうとしたからだろう。
私はその場でリハビリを開始した。
時間をかけて、何とか歩けるぐらいにまでにはなった。
私が収容されていた施設はほとんどがボロボロになっていた。
『理論上は長い年月でも崩れない』という謳い文句はなんだったのだろう…
そんな事を考えて歩いていたら、扉を発見した。
扉は完全に閉ざされおり、びくともしなかった。
「…ま゛…」
…砂を吐き続けたからか、久しぶりに声を発したからなのか
酷く枯れたような声が出た。
…声を出す練習もしないとと考えたが
外には結局出られないし、する必要もないだろうと結論付けた。
わかっていたことだ…これまでと何も変わらない。
部屋が広くなったと考えよう。
元々の私の部屋も砂に埋もれてしまったし、
この施設の探索だけで、ある程度時間は潰せるはずだ。
…すぐに探索が終了した。
ビックリするほど何もなかった。
ここにあるのは私が吐いた砂だけだ。
…そういえば、探索の中で天井に穴が開いていた場所を発見した。
あそこから、脱出できないだろうか。
部屋を埋め尽くした私の砂をその場所に積めば、
穴から出られるかもしれない。
運ぶための道具はないが、
その分、時間をかければいい。
自分が吐き出した砂山の前でそう考えていると
ザザザザー
…砂が動いた。
気のせいだろうか。
もう一度、自分が吐き出した砂を運ぶことを意識すると
ザザザザー
…間違いない。砂が動いた。
どうやら私は、砂を思った通りに動かせるらしい。
その後も色々試した結果、武器の形にもなるということがわかった。
しかも作り出した武器は、元の武器と同じ性能になるようだ。
…自分が人ではないことは理解していたがここまでだったとは…
それはさておき、砂を足場にして、天井の穴から外に出ることができた。
どうやらここは地下洞窟のようだ。
朽ちた機械がそこら中にある。
廊下だと思しき場所を歩いていたら、
風化していたが階段を発見し、そこを昇っていく。
階段を歩く中で、人と出会った時のことを考える。
どう話しかければいいのだろう。
今はいつなのか聞くべきか、いやそれとも場所を聞くべきなのだろうか。
いやその前に喋る練習だ。
出られないならと諦めていたが
出られるのなら間違いなく必要になる。
「わ゛…た゛…し゛…」
喋る練習をしながら階段を歩く。
そして、出口についた。
「そと…」
外に出れる。誰かに会える。
長年の孤独で、私は人に飢えていた。
この扉を開ければ人に会える。
それがとてもうれしく感じた。
私はさび付いた扉を開けた。
そこは砂漠だった。
人との出会いを求めていた私は
少し肩透かしを食った。
そうして、私は何日も歩いた。
砂漠ということはここはアビドスだろうか…
アビドスだとしたら、どのあたりなのだろう。
ひょっとしたら、人はみんな滅んだのだろうか?
そんな事を考えていると…
ドーン!
爆発音が聞こえた。
私は爆発音がした場所へ向かうと…
「シャアアアアアアア!」
「はぁ!」
人が蛇のような何かと戦っていた。
「っ!?どうして人が!?危な」
「!…セェエエエエエ!」
蛇がこちらに気付いて襲い掛かってきた。
…何故だろう。
武器を持っていないこちらが不利なはずなのに…
蛇に対して、恐怖をまるで感じていない。
私は本能に従うように、砂漠の砂を武器へと変える。
私が覚えている中で、一番印象に残っている…
私を最後に倒したあの強力な武器に…
武器の重さを、下の砂で支え…
狙いを定めて、周囲の砂で身体を固定化させて…
私は放った。あの言葉とともに…!
「!!…あれは…」
「光よ!」
ドガーン!!!
反動で吹き飛んだが、対象には命中したようで、
蛇の身体を消し飛ばした。
「……セ。ワ…ノ……ピヲ…カエ…」
蛇の頭部は何かを言い残して消えていった。
私は改めて、人の方を見た。あの人は…
「ア…リス…さん…」
間違いない。アリスさんだ。
「「……」」
私を倒した人の武器を、当人の目の前で使用してしまった。
「あ…の…」
「ミヤコ…ですよね…」
「は…い…」
お互いたどたどしく会話を始めた。
「…言いたいことは色々ありますが、一番最初に言うべきことがアリスにはあります」
「…なんで…しょう…か」
「服を着てください!どうして裸なんですか!」
…私は、自分の身体を見る。
そういえば、着ていた服はとっくの昔に崩れていた事を思い出す。
「…そう…でしたね」
「なんで平然としているんですか!?」
「?」
「とりあえず、アリスの外套を羽織ってください!」
私は言われた通りに受け取った外套を羽織った。
「…服…こんな感じ…でしたね」
「まだ厳密には服ではありませんけど…まぁ後で買い物に行きましょう」
「!…人、いるんですね」
正直に言えば驚きだった。
何日歩いても誰とも会えずにいたのでてっきり
「絶滅…したかと…」
「ワードのチョイスが物騒すぎます!しっかり生存してます!…危機的状況ですけど」
「?…どういう…ことですか」
危機的状況というのは…
「説明しますね。まずミヤコが収容された後の話をします」
…危機的状況というのも気になるが、そちらも気になる。
私が隔離された後、キヴォトスはどうなったのだろう。
「では!アリス先生の解説コーナー!開講です!」
その後のアリスさんから、色々話を聞いた。
先生がある日、いなくなったこと。
ミレニアムが『例のミサイル』の件で内紛になったこと。
ミレニアムと連合校が戦争寸前になったこと。
そのタイミングで、砂漠から蛇型の怪物が沸きだしたこと。
アリスがミレニアムの贖罪のために、各地を旅して蛇達を退治し続けていること。
そしてそれが、今から少なくとも千年前の出来事だということを聞いた。
何故年数が曖昧かというと、アリスさんが千年先から年数を数えるのを止めたからである。
「文字通りの千年難題というわけです」
「…シャレになってませんけど」
質問などによって、だいぶ喋るのにも慣れてきた。
私は気になっていた質問をした。
「…寂しくなかったんですか?」
自分一人だけ、千年以上生きているのだ。
寂しくないはずはない。
…私がそうだったように、アリスさんも辛かったのではないかと思った。
「……当然寂しいです。会いたいと思う人もたくさんいます」
アリスさんは、懐かしむような表情をした。しかし…
「……ですが辛くはありませんでしたよ」
そのように言葉をつづけた。
「…どうしてですか?」
「…確かにアリスも最初は心が折れかけました。延々と蛇を倒し続けて、終わらなくて、立ち止まった時もありました」
「……」
「ですがある時、これを発見したんです」
そうして彼女は、ボロボロになった盾を見せつけた。
「…これは私の大事な師匠の盾です。この盾を見つけた時に、大事なことを思い出したんです」
「大事な、事…」
「『どんな結果になったとしても誰かを助けたいという気持ちに間違いはない』ということです」
「!」
「……辛くなった時にはこれを見て、思い出すんです。アリスは誰かを助けることが大好きだということを…
思い出したら、みんなが応援してくれるような気がするんです。
その気持ちを持って…今を生きている人たちを助けて…感謝されたら…それだけで、アリスのHPとMPは満タンです!」
そう話す彼女の顔は満面の笑みを浮かべていた。
「…強いですね」
「はい!アリスは勇者ですから!…では、アリスからも質問です!」
「?」
「ミヤコはこれからどうするんですか?」
「…どうしましょう」
実を言えば、何も考えてなかった。
外に出て…私は何をしたかったのだろう。
「…することがなかったら、アリスと一緒に旅をしませんか!」
「…アリスさんと?」
「はい!ミヤコは見たところ、強いスキルを取得しているようですので、アリスと一緒に旅をしてくれたら百人引きです!」
「……」
……いいのだろうか。
私がアリスさんと旅をしても…
「…気まずいのでしたらこう考えてください!」
「?」
「『外でミヤコが変なことをしないようにミレニアムのアリスが監視、監督をしている』という名目なら多少気まずさは薄れます!…それに」
「…それに?」
「二人旅なら、きっと寂しさもなくなるはずです!」
「!……目的が無くてもいいんですか?」
「少なくとも今は一つ目的があります!」
「…何のことですか?」
「ミヤコの服を購入することです!裸外套なんて変態以外の何物でもありません!少なくともミヤコが服を買うまではアリスは何が何でもミヤコを連れて行きます!」
そういうとアリスさんは私の手を握ってきた。
「…まぁ砂漠からは出たいですし」
私は、アリスさんについていくことにした。
「…そういえば、どうして戦闘スタイルを変えたんですか?私を撃ったあの武器も見当たりませんし」
「『光の剣』をメンテしてくれる人が、千年間いなかったんです」
「…どうぞ。先ほど作ったものです」
「ありがとうございます!」
【キヴォトスには勇者がいるという都市伝説がある。
砂漠から現れる『蛇の魔王』を倒してくれるという勇者が…
そして、彼女には一人、旅のお供がいる。
砂を操るその姿から、そのお供は
『砂の魔法使い』と呼ばれている。】
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(SSまとめ)