~IF 神世紀306年の夜~
ナナシ「お待たせ、ワイ君……」
綺麗だ。
彼女のあられもない姿を見て、最初に頭に浮かんだのはその一言だけだった。
乃木家の一室。
畳九畳ほどの館の規模としては控えめなその一室に、二人の男女が向かい合って布団の上に座っていた。
羞恥や不安、そして抑えきれない期待……様々な感情が渦巻く中、二人は互いに俯いて相手の顔を見ようとしなかった。
……もしくは相手に今の顔を見せたくなかったのかもしれない。
こんな隠し切れないほどの欲望と罪悪感に塗れた顔を、この世で最も愛しい相手に見せて失望されないように。
きっと、本質的に彼と彼女は似た者同士なのだろう。
……それは、切なさを感じる程に。
「え、と……それじゃあ始めようか、ワイ君……。時間も、もったいないし……」
時間としては数分程、しかし彼ら彼女らにとっては永遠にも等しい静寂の後。
覚悟を決めた彼女が顔を上げ、最愛なる従者に夢の時間の始まりを告げる。
「……はい。園子様」
敬愛すべき主人からの号令に従い、彼もまた悪夢の中に身を堕とす。
恐る恐る、まるで触れただけで砕け散る氷細工を触るかのように、彼女の裸体に手を伸ばす。
「ま、待って……。キス……。最初に、キスしたい……」
伸ばされた彼の手を見てびくっと体を震わせた彼女が、切なそうに懇願する。
「……しかし」
「だ、だって、こういう時は口づけから始めるって、私が読んだほにゃ本にも書いてあったよ……? だから、ね……? お願い……ワイ君……」
「…………畏まりました」
躊躇する従者に彼女が再度懇願する。
その目の端に浮かんだ涙を見て、迷っていた彼も覚悟を決めて彼女を抱き寄せる。
「あ……」
「園子様……失礼します」
「う、うん……んっ」
唇が触れるだけの軽いキス。
恋人同士であったら、とうの昔にしていたであろう簡単な口づけ。
……それだけでも、今の二人には十分だった。
「……あはは。しちゃったね、キス……」
「……申し訳ございません」
「なんで謝るの? 私から誘ったのに、変なワイ君……」
唇を離したらすぐに彼は抱き寄せていた彼女から手を離し、再び俯いて謝罪する。
この期に及んでも相変わらずな付き人に、彼女はさみしそうに笑う。
「……園子様。それでは、そろそろ……」
「……うん。来て、ワイ君……」
暗い目を彼女の身体に向け、再び彼の手が主人に向かって伸びる。
彼女はその手を見ながら、今度は何も言わずにただ受け入れる。
「ん……あ……っ」
伸びた手が彼女の肌に触れ……そして、そのままその乳房をゆっくり、そして優しく掴む。
自分と家族、そして同性の友人以外、誰にも触られたことのない自分の胸。
同い年の、そして愛しい異性に触れられるという始めての感覚に、彼女の口から早くも甘い吐息が漏れ出る。
「……まずは、ゆっくり揉みますね」
ゆっくり、ゆっくりと、まずは撫でまわすように彼の手が彼女の乳房を揉み始める。
胸に弱いながらも確かな刺激を受けていく。
「んん……っ。な、なんだか、変な感覚だね……」
「……最初から強くしても痛いだけですので」
「あはは……私、ワイ君になら、痛くされてもいいかなぁって……んっ……お、思っちゃうけどねぇ……」
「……ご冗談を」
優しく、優しく、マッサージをするかのように、彼の手が彼女の胸を揉んでいく。
「あっ……んん……わ、ワイ君、変な気分に……んっっ……な、なってきちゃったよ……?」
最初は軽口を叩く余裕があった彼女も、だんだんと顔が上気して息が荒くなっていく。
「……そろそろですね。園子様、少し強くしますので気を付けて下さい……」
「へ……? ぁあっ!?」
少しずつ彼女の身体が熱くなっていくことを確認し、手の動きを早くしていく。
「あっ……あっ……あっ……! わ、ワイ君……ひぅっ……ま、待って……! ちょっと、ペースが……あぁっ!……は、早いよぉ……!?」
「……大丈夫です。私に任せて、園子様は今の感覚を忘れないようにして下さい……」
右の胸を強く揉みながら、左の胸を優しく触る。
そうかと思ったら、片手でツンと立った乳首を指で転がすように弄り、反対の手で胸の形が変わるくらいに強く掴む。
胸から鋭い快楽が身体を襲ったと思ったら、今度は数瞬もしない内に再びマッサージのような甘い刺激が胸全体を熱くする。
「ひっ……あっ……な、なんでっ……む、胸だけで……こ、こんな……あぁぁっ!」
甘かった。
不器用な彼がここまで上手くなっているとは全く想定していなかった。
……一体どれだけ、今日のために練習を重ねてきたのだろうか?
あの日から今日まで、彼は少なくとも日中は自分の側で普段通り働いていたというのに……。
きっとこの二週間、毎晩寝る間も惜しんで……。
ズキリッ
彼から与えられてるのとは別の、鋭い痛みが彼女の胸を襲う。
「あっ……んんぅ……わ、ワイ、くんっ……き、気持ち、気持ち良い……っ? わ、わたひ……あひぃっ……私の、おっぱい……っ……き、気持ちいいっ……?」
その胸の痛みに耐えきれず彼女は彼に問いかける。
「……はい、とても。許されるなら、ずっと触っていたいほどに……」
「ほ、ほんとっ……? う、うれし……うれしいよぉぉ……あぁっ!」
一際強く乳首を指で抓まれ、彼女は軽く絶頂する。
「あ……あっ……イッ……イッちゃった……」
顔を上気させて彼の腕の中で脱力する。
その頬の熱さは絶頂したことによる肉体的な反応なのか、それとも彼の返答による興奮なのか。
……どちらにしろ、この夢のような時間の中で彼女が初めて感じた安堵の瞬間であった。
「……園子様。恐れながら、次はこちらを……」
「……うん……私は、大丈夫だから……ワイ君の、好きなように……して……?」
「……はい。お任せください、園子様……」
すっと彼の指が彼女の下腹部に伸びる。
「……んっ。あ、あ……な、なんだか……さっきより、え、エッチな気分に……っ」
すぐには秘部には触れず、まずは小手調べとも言いたげに彼の手が腹部を優しく撫でる。
最初はお腹の辺りを撫でまわすように。
段々下に移動して、今度は子宮の上をまるで探るかのように指で押すように弄る。
指で弄ってく中で彼女が反応した所を、今度は重点的に責める。
しばらくしたら、また探るかのように段々下を弄っていく。
「……あ、ぁっ……わ、ワイく……っ……そ、そろそろ……さ、触っ……ひぁぁっ……あ……触って……わたしの……お股を……触ってよぉ……」
甘い刺激を受け続けながらも、決して自分の秘部に触れようとしない彼に、彼女は切なげな眼を向ける。
「……そうですね。申し訳ございません。少し、焦らしてしまいました……」
無意識に彼女の大事な所に触れるのを避けていたのだろう。
……もう、こんなことをしている時点で手遅れだというのに。
自分の勇気の無さや愚かしさが恨めしいと思いながら、彼は彼女のお腹を撫でていた手を一気に下に向ける。
「ひぁぁっ!? ま、待って……! ワイく……あぁぁっ!? は、はや……早すひぅぅぅっ!?」
彼の手が彼女の秘部を容赦なく責め立てる。
まるで今まで手加減していたとてでも言うように、彼の指が強く、そして素早い動きで彼女の大事な所をグチョグチョと掻き回していく。
「あっ! だ、だめっ! イッ! ひぐぅっ!? イクっ! イッちゃ……ぁあぁッ!!」
これまで散々焦らされていた身体は簡単に限界を迎え、再び彼女は絶頂する。
噴き出した潮が布団を湿らせていく。
身体から力が抜け、先ほど絶頂した時のように最愛の彼に体を預けようとしたその時——
「ィッ!? まっ!? わっワイくっ! イッてるッ! わたひ、ィま、イッてるからぁぁっ!?」
——絶頂した余韻も冷めぬ内に、彼の指が彼女の秘部を再びグチョッグチョッと掻き混ぜていく。
「あっ! あっ! あっ! だめっ! だめぇっ!? おほぉぉっ!?」
連続でイかされ続け、目は焦点が合わず、口からは涎が垂れ下がり、そして甘く鋭い嬌声が鳴り響く。
……それでもない、彼の指による責めは終わらない。
ここまでの行為で把握した彼女の弱点を容赦なく指で責め立てていく。
「おほっ! あへぇっ! あひぃぃぃっ!!! いきゅっ……! またいきまひゅ……っ! おほぉぉぉぉっっ!!!」
何度目かの絶頂を迎え、彼女の身体が力なく布団に横たわる。
ぜひゅーぜひゅーと荒い息をしながらも、気絶寸前の彼女の顔はどこか幸せそうであった。
その姿を愛おしそうに、そして少しだけ悲しそうに見てから、彼は自分の一物にゴムを付ける。
「……園子様、申し訳ございません。私も、そろそろ限界のようです……」
「……あ……ぁ……い……挿入る……の……?」
「……はい」
「……い、いい……よ……? ワイ、くんの……わたしの中に……挿入て……?」
「…………」
「……わ……わたしの、はじめて……もらっ……て……ワイ、くん……」
力の入らない体を無理やり動かして、自らの秘部を晒す愛しの主。
まるで生まれたての小鹿のように体を震わせながらも、必死になって力の入らない手で自分の足を掴み、彼が挿入しやすいような恰好を取る。
「…………挿入れます、園子様……」
愛おしさと切なさとそれ以外の感情が混ざって爆発しそうになるのを必死に堪えながら、彼は自らの一物を彼女の秘部に近づける。
「あぁぁっ! っぅぅ!」
一瞬の躊躇の後、彼の一物が彼女の秘部に入れられる。
鋭い痛みとお腹の中に感じる圧迫感。
初めての感覚に襲われながらも、彼女の頭の中を占めていたのは自分の初めてを彼に奉げられた喜びと幸せだけだった。
「あ、あはははは……。やった……。やったよ……。ワイ君に……私の初めて……あげられた……よぉ……」
「…………」
痛みか、喜びか、それともそれ以外の何か、か。
ポロポロと涙を流しながら、それでも彼女は光の無い目で、暗くほほ笑む。
彼は何も言わず、彼女の処女膜が破れた痛みが引くまで腰を止める。
「……痛みますか、園子様……?」
「……ううん……もう、だいじょうぶ、だよ……。動いて……ワイ君……」
「……畏まりました」
彼女に請われるままに、バジュン、バジュンと、ゆっくりと腰を動かす。
少しでも痛みを和らげて気持ち良くなってもらうために、先程の指で確かめた彼女の弱い所をゆっくり突いてゆく。
……しかし。
「あひぃっ!? あぁぁぁっ! きもち、いいっ! ゆびよりもっ! ずっとぉぉっ!!」
「うっ!? そ、園子、さまっ! わ、私も、気持ち良い、で……っ!」
先程処女を散らしたばかりの彼女はまるで娼婦のような嬌声を上げながらヨガリ狂い、ずっと暗い顔をしていた彼も初めて声を荒げて夢中になったかのように腰を振るう。
「おほっ!? しゅごっ!? しゅごぃいぃっ! おちんちんっ! きもちっ! きもちいいよぉぉっ!?」
——経験のない彼女は初めての行為を当然のように受け入れ。
「うぐっ!? な、なんでっ!? こ、こんなっ! ぐぅぅっ!?」
——経験を積んできた彼は明らかな異常な快楽に戸惑った。
…………結論から言うと、彼と彼女の肉体の相性の良さは最高だった。
彼のペニスは彼女の最も弱い、最も気持ち良い所を的確に抉る形と大きさをしていた。
そして彼女の性器は彼の最も刺激を受け、最も快感を得られるような形と動きができるようになっていた。
——まるで運命が彼らを結び付けようとしていたかのように、彼と彼女はお互いにとって最高の相性をしていたのだ。
「ぐっ! これは、マズイ……っ! 園子、さまっ! すみま、せんっ! もう、出しますっ!」
いち早く危険性に気付いた彼は、わざと快楽に身を奉げて身体に射精を促す。
「まっ! まってっ! いっしょっ! いっしょにぃっ!」
快楽の奔流に翻弄されていた彼女は、それでも彼の言葉を聞いて必死に足を彼の身体に絡ませる。
「すみませんっ! 出ますっ!」
「あ、あ“ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
彼が射精するのと同時に彼女も一際強く絶頂を迎え、甲高い嬌声を上げる。
「あ……あひぃ……」
自分の膣内でゴムが広がる感触を味わいながら、彼女は意識を手放しそうになる。
(だめ……きょうは……きょうだけは、ねちゃダメ……)
必死になって飛びそうになる意識を繋ぎ止め、彼女は再び彼に身体を絡ませる。
「わい……く……も、もっとぉ……」
「…………園子様、これ以上は……」
「なん……でぇ……? きょ、は……いっぱい……れんしゅう……するんれしょ……?」
「……………それは」
再び顔を俯かせる彼に、彼女は再びキスをする。
「……ん。ねぇ……ワイ、くん……きょうだけ……きょうだけ、だからぁ……」
「………………………畏まりました。園子様の、お望み通りに…………」
暗い夜の部屋の中。
先の見えない暗闇を……彼は感じていた。