IF 始まらない物語
特に大きな事件も起こらない辺境の村。今日も何も考えず丘の上で、ただただ海を眺めている。夜にはマキノの酒場で歌を歌うのが今の私の仕事だ。
私は、先月で20歳になった。
17歳で海を出るというサボとの約束、その約束はルフィの説得によって3年延ばすことになっていた。
19の時、小舟を用意して人知れず旅立とうと思ったがルフィに、もう一度会いたくなって顔を見に行ったら決心が鈍って断念してしまったのだ。
このままではいけない、私は1年以内にこの想いに見切りをつけ旅立つと覚悟を決めた。
そして数か月後、兄エースの処刑が新聞の一面を飾った。
お酒をあまり飲まないルフィが連日マキノの所でお酒を飲み続けていたのを覚えている。沈痛な面持ちで帰って来たガープおじいちゃんに泣き叫びながら「どうしてだ」と詰め寄っていたのも見てしまった。
そのあまりにも痛々しい姿に自分の悲しみすら忘れて、この人を支えていかなければと思った。
違う、私は怖気づいてしまったのだ。
サボの死、エースの死、この海の広さ、もう二度と大好きな人たちに会えないかもしれないという可能性、仮に私がいなくなってしまった時の彼の姿、いろいろなものが頭に浮かび私は海に出ることができなくなった。
「また、ここにいたのか?」
不意に大好きな彼の声が耳に届く。
一向に旅立とうとしない私に彼は何も言わない。いい加減言わなければ、ふとそう思った…
「ねェ…ルフィ?」
「私……海に出るのやめようと思うの?」
言葉は自分が思っていたよりも簡単に出てきた。これを言ったら、もう取り返しのつかない言葉だ。
…いやもはや私の心の中に旅立つという想いは残っていないのだろう。
「そうか」
普段と変わらない彼の様子。もうとっくに私の想いなどバレていたのだろう。
決心していったのが少し腹立たしくなった。もうこうなったら私の最後の気持ちにも決着をつけてしまおう。
そう思い、じゃあ、と言葉を続ける
「私と結婚してくれる?」
どうせ答えはわかっている。もう、これが最後だ。この想いはだいぶ引き摺るだろうけど、いつかいい思い出に…
「いいぞ」
……へ?今なにを
「へ?あっ、えっ?いいの!?」
「慌てすぎだろ…」
信じられない返答に思考が追い付かない。かろうじて「なんで?」という疑問だけが口から出る。
「ウタのような魅力的な女の子に長年言い寄られて心動かされない男なんていないだろ?海に出ないのならば断わる理由は…あの親バカ達くらいだけどまァ何とかなるさ。しししし」
彼の太陽のような笑顔が瞳に映る。その場から勢いよく起き上がり抱きついた私を彼は優しく抱き留めてくれた。
きっと私たちは、このままただの村人として生涯を終えるのかもしれない。
でも、それもいいのかもしれないと彼の腕の中で笑顔を浮かべた。