【IF】もしもディアベルの幼馴染がゼンゼだったら【葬送のフリーレン二次】

【IF】もしもディアベルの幼馴染がゼンゼだったら【葬送のフリーレン二次】

ゼンゼん前世


「試験お疲れ様でした」

「あぁ」


俺はヴィアベル。北部魔法隊の隊長だ。

色々な事情があり、一級魔法使い試験を受けるため“魔法都市”オイサーストに来ている。


まぁ、その一級魔法使い試験とやらは先ほど終わり、無事合格してきたところなんだがな。

あとは大陸魔法協会の創始者たるゼーリエより、“特権”として望む魔法をひとついただいて帰るだけだ。


しかし。

少しでも合格率を上げるためシャルフを連れてきたが、あるいは俺と同時に合格もあり得たかもしれない。

もし“特権”を実質ふたつも手に入れられたなら、より良い選択肢があったかもしれないのだが。

……まぁいい。シャルフの奴には今度、ゼーリエを前にしてもビビらないよう特訓でも仕込んでやろう。


あとは……エーレか。

あの女も見込みがある。実戦経験を積めば、より強力な魔法使いとなるだろう。

いっそダメ元で勧誘してみるか? 女っ気のない魔法隊の懐も緩んで、予算が出やすくなるかもしれん。


考えることは多い。宿に帰ってじっくり……


「ヴィアベル様、伝言が……」

「あ?」


ふと、受付のお姉ちゃんに呼び止められてしまった。


「一級魔法使い・ゼンゼ様がお呼びです」

「はぁ?」



ゼンゼ、というと。二次試験の試験官を務めていたあの女か。

やたら髪の毛の長い女だという印象は残っているが、呼び出させる覚えはない。

かといって無視して去る事もできず、しぶしぶ指定の部屋に足を運ぶ。



「四次試験の会場はここか? ゼンゼさんよ」


扉をノックし、声をかける。


「入っていいぞ」


可愛げはあるのに不愛想な声が扉越しに響く。俺は躊躇せず扉を開ける。


「……」

「……?」


そこには、風呂上がりなのかやや薄着で、髪を濡らした少女が立っていた。

いや、髪の長さ……以外でも分かるのだが、それは一級魔法使い・ゼンゼだ。

俺の前で、あまりにも無防備な姿を晒していた。


しかし驚くほど華奢な身体だ。

一級魔法使いとしてのアレコレを無視すれば、本当にか弱い少女にしか見えない。

それを覆すほど卓越した魔法センスなのだとも言えるだろうが。


「これは試験ではない もっと気を抜いていろ」

「おっ、おう」


これは、一級魔法使い試験合格のご褒美でももらえるのか?

いや、貰いたいわけではないが、貰えるものは断るのも難しい……。

そう考えていると、ゼンゼは長椅子に腰を掛け。



「ヴィアベル、髪を乾かしてくれ」

「……はぁ?」



……この世界の女というものは、得てして期待をさせてくれない。

そういうものだ。


頼まれたからには仕方ない。この地獄のような量の頭髪すべてを梳かしてやろう。

『手先を熱する魔法』を使い、髪を乾かしながら櫛で梳かす。

本来は近接攻撃用だが、焦がさないように温度調節すれば、髪も洗濯物を乾かすこともできる。


尋常じゃない量なので、手際よくこなしてやろう。

髪の手入れだけで朝になってしまう。


「そのまま聞いてほしい」

「なんだ?」


ゼンゼは俺に話しかけてきた。ちょうど場が持たないと思っていたところだ。


「二次試験の感想を……受験者の視点で答えてほしい」

「試験の感想だァ?」

「当然、回答によって何かが変わるというものではない、正直に答えてくれ」


二次試験……難攻不落の大迷宮『零落の王墓』を攻略せよ、というものだ。

多数のトラップがあるのは当然としながら、侵入者の複製体を生み出して使役する魔物“水鏡の悪魔”シュピーゲルが守っている。


……まぁ、受験者満場一致の回答はこうだろう。

合格者を出す気ないだろ、だ。


「クソみたいな試験だと思った、でいいか?」

「そうか……実はゼーリエ様に叱られてしまってな」

「ほう」

「合格者があまりにも多すぎる、と」


……は?


「私としては、試験で死者を出すことは無駄だと思っている

その考えが、結果として実力に見合わない合格者を出してしまった……と

その後、『豊作だった』と謝罪は頂けたのだが」


受験者側としては、たまったものではないな。

こちらとしては、全員が合格のため必死で試験に挑んだというのに、合格者が多いだけで実力に見合わないと言われるとは。

ちょっと俺達の連携が上手かっただけだ。脱落者を数名含めても、実力は十分だっただろう。


「で? 謝罪を貰えたならそれでいいんじゃないか?」

「……私の傲慢な優しさが、不相応な合格者を出してしまう可能性を考えたとき

私は今後も、平和主義を続けるべきだろうか?

その指摘自体は、ゼーリエ様が正しいのではと……」


なるほどねぇ。試験官にしか分からない悩みだろうな。


俺としては、一次試験と比較すればマシな試験だったとは思う。

あれと比べれば個々の実力があれば合格できる真っ当な試験だ。

シュティレ待ちの運試しや、ライバルを殺す前提でつくられた試験こそなくなればいい。


「俺も、試験で人は死ぬべきでないって理屈は分かる」

「そうか」

「だが、その理屈が霞むほどに、この世界には死が溢れている」

「……なるほど、一理ある」


勇者ヒンメルが魔法を倒し、それ以前の時代と比べれば平和になったには違いない。

しかしそれでも、魔族の残党や凶悪な魔物が蔓延るこの世界では、まだ『死』の脅威は残されている。

そういった力なき庶民が頼るものは、たとえば一級魔法使いになるだろう。


「逆に言えば、死が当たり前じゃない時代になれば

『試験で人が死ぬのはバカらしい』と誰もが言うだろうな」

「……そんな時代が来るだろうか?」

「来るさ 勇者ヒンメルが魔王を倒したんだからな」


勇者ヒンメルが繋いだ希望を、俺達は絶やしてはならない。

真に平和な世界を手に入れてみせる。



しかし。

途方もない髪の手入れも、半分ほどに差し掛かった頃、ふと思い出す。

昔も、こうやって髪を梳かしていたような……。



「ふふっ」

「どうした?」

「いや、昔を思い出しただけだ」


つい笑いが漏れてしまい、ゼンゼに尋ねられてしまった。

まぁ、隠すような話でもない。暇つぶしに語ってやるか。


「昔の話だ 故郷にいた同い年の女が、俺に髪を梳かせとせがんだなと」

「ほう、お前にもそういう話があるものなんだな」

「俺をなんだと思っているんだ」


……と返したが、今となっては色気のない人生だ。

人生最大のモテ気を逃したのかもしれない。


「私にもいたぞ、幼馴染が」

「ほう、天下の一級魔法使い様にも庶民らしい話があるもんだな」


皮肉を返したつもりだったが、ゼンゼはどこか遠くを見ていたようだった。


「実際、人生で唯一の人らしい思い出だ 幼馴染と過ごした日々は」

「……ほう」

「しかし、魔族の動きが活発になった頃……私の家族は故郷を捨て引っ越す選択をした

なまじ裕福な家柄だった私と違い、幼馴染は故郷に残ることになった」


どこかで聞いたような話だ。どこでもそういうもんだったんだろうな。


「その時、幼馴染がこう言ったんだ」

「どんな口説き文句だ?」

「『クソったれな魔族共は全員ぶっ殺してやる だから、そん時はこの村に帰ってこい』と」


それはそれは……。ん?







「幼馴染の名はヴィアベル つまりお前のことだ」


ゼンゼが……あの時の幼馴染?







「いやっ、全然違うだろ! 髪の色とか!」

「魔法の影響だ もう元の色には戻らないだろうな」

「あいつはもっと泣き虫で……戦闘なんて……」

「……29年か それぐらいあれば人も変わるさ 私も、お前も」


そう言って、ゼンゼは今までの人生を話し始めた。


「私が中央に引っ越してから……しばらくは魔族の危険のない日々を過ごした

あの報せが届くまで」


俺の故郷は、その後魔族に襲われた。

その情報はゼンゼにも届いていたという事か。


「“彼”が生きていると願いながら、その力になりたいと願い、私は魔法を学び始めた

魔法は私に戦う力を与え、いつしか一級魔法使いと呼ばれるようになった」


それが、泣き虫な幼馴染じゃない、今のゼンゼという訳か。


「そして……私は取り返しのつかないことをしてしまったと気づいた」

「どういう意味だ」


ゼンゼが、わずかにこちらを向く。


「『魔族を全員殺す』 そのような約束が、どれほど難しいことか、私は知った

だが、“彼”はその約束を果たすため、戦い続けるかもしれない

どれほどの苦痛を味わったとしても……」

「……」

「約束とは呪いだ 私は、無自覚に呪いをかけてしまったんだ 大事な、大事な幼馴染に

北部魔法隊 立派な職ではあると思うが……決してやりたくない仕事も多かったのだろう?」


ゼンゼの声に、だんだんと感情があると気づけるようになった。

彼女の人生が、どんなものだったかも想像できた。



「ヴィアベル、私は……」

「待て」



俺はゼンゼの言葉を遮った。


「俺はお前に呪われたから北部魔法隊に入ったって言いたいのか? なら違う

お前の呪いに操られて一級魔法使い試験を受けたのか? 違う」

「……」

「俺は俺の意志でこの道を選んだ 俺の意思でそう約束した

ゼンゼ、お前の呪いなんて俺にはこれっぽっちも効かねぇ」

「……そうか」


俺が今まで歩んできた選択を、誰かに押し付けることはできない。

俺は、俺がやりたいことを選んで生きてきた。


「なにより、俺をここまで導いたのは……呪いでも憎しみでもない

勇者ヒンメルのくだらない冒険譚だ」

「……そうか」


ゼンゼは、少し微笑んだように見えた……そんな気がした。







「時にヴィアベル」

「なんだ?」


もうすぐ地獄が終わるという頃、ゼンゼが俺に話しかける。


「私の計算が間違っていなければ、君は30代だ」

「ぶっ!?」


唐突に、ゼンゼはゾルトラークよりも恐ろしい貫通魔法を放った。


「そろそろ結婚を考えてもいい頃だろう」

「すっ、少し前までは20代だったんだぞ……」


結婚なんてまだ……いや、もしかするとそろそろ考えないといけない時期なのか?

考えていない内に40代になってしまい、気付けば結婚の難しい歳になってしまうのだろうか。


「そして、当然だが私も30代だ」

「まぁ、そりゃそうだな」


幼馴染なら、俺と同い年だからな。

結婚というものは、女のほうが年齢を気にするもののような印象がある。


「同じ一級魔法使い同士、結婚すればより優れた魔法使いが生まれるかもしれない

『平和な世界』という途方もない夢を誰かに託すことになった際、そういう選択もあるのではないか?」

「子どもに託すための結婚か? 随分合理的な考え方だな」


髪の手入れを仕上げてやると、ゼンゼが大きくこちらを向く。


「では……幼馴染と運命の再会を果たし、恋心が蘇った……という話のほうがお前好みか?」

「あのなぁ……」


そういう冗談は、と言いかけて止めた。



ゼンゼの顔の血色が良い。



二次試験で顔を見たときは、何を考えているのか分からない女だと思ったのに。

今は、その感情が手に取るように分かる気がした。


「……いや、待ってくれ」

「なぜだ?」

「俺は……まだ本気で結婚について考えてねぇ 半端な気持ちで答えるのは……

お前の覚悟に吊り合わない」


まだ俺は、家庭を持った自分の姿をイメージできない。

そんな半端な覚悟で返事を返すわけにはいかない。

それをイメージできるようになった日、俺からすべての気持ちを伝えたい。


「そうか、なら……」

「うおっ!?」


ゼンゼが魔法で自身の髪を操り、視界が遮られるほどの髪の毛を俺の左手へ絡める。

髪が引いていくと、俺の薬指には髪の毛が巻かれていた。


「キープの証だ なるべく早く迎えに来てくれ」

「……こういうのこそ、呪いにならないのかよ?」

「無自覚な呪いは罪だが、これは自覚した呪いだ 安心しろ」


何を安心していいのか分からないが、ゼンゼはそのまま満足げに(仏頂面で)部屋を出ていった。


「まったく……」


女というものは身勝手な生き物だ。

そう思い薬指を眺めながら前を見ると、大きな姿見が置かれていた。


自分の口角が少々上がっている……。


俺は、この時間を『楽しい』と思っていたのか。

そのとき、そう気づかされた。




なるべく早く、返事を返してやらないとな。




 おわり

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