I beg you.
UA2※注意事項※
「よすが と えにし」系列。時間軸は無色透明ifローさんが人形状態になってしばらく。ifド視点。
そんなにキツくはないけど、暴力描写あり。ifドが気持ち悪いです。
誤字と脱字はお友達。
*
絹の擦れる音。
痣と傷に塗れた細い身体を、傷つけぬ様に丁寧に持ち上げる。デザインは勿論、生地から選んだ特注のそれを丁寧に着せていった。コルセットの紐をキツく締め上げ、それぞれの腕をベルトで飾ると、袖口を飾るラッフルの柔らかな曲線がくしゃりと歪んでまるで花束の様だった。すっかり白くなった脚に、革製のハーフアップブーツを履かせてやる。
最後にリボンタイを結んで、唇にルージュを乗せてやれば完成だ。
「ほうら、綺麗になった」
翳りを帯びた顔に微笑みを浮かべたローは、物言わずベッドに腰掛けていた。肩を抱き寄せ、そこから腰にかけてのラインを楽しむように手のひらを滑らせる。
「ピンクもいいが、お前には群青色がよく似合うなァ」
腰を抱いて立ち上がらせると、二人でくるくるとステップを踏んだ。昔、ベビー5とバッファローに乗せられた彼とこうして踊ったなと、不意に懐かしくなる。かつての部下でこの城に残っているのは、オモチャどもの管理をしているシュガーとローの世話をしているベビー5だけ。誰も彼も皆愚かで、逃げるように去ってゆくか死を選んだ。
考え事をしていると、ローが何度も俺の足を踏む。大した痛みはないが、縺れてひどい動きをする足に苦笑した。
「お前は相変わらずステップを踏むのが下手くそだな。ほら、カウントとってやるから。ワンツー……」
糸で身体を支えてステップを教えこむ。カクカクと歪にステップを踏んで踊る姿がおかしくって笑いが溢れた。
「それじゃあ、いつまで経ってもガールフレンド一人誘えないじゃねェか。なぁ、ロー」
返事は返らない。視線の合わないローが僅かに笑みを浮かべているのみだった。
無性に腹の奥から猛烈な怒りが込み上げて、衝動的に人形をベッド上へ放り投げる。四肢を投げ出して仰向けに倒れ込む彼の上に馬乗りになり、腹部を何度も殴りつけた。
「っ……は………!」
息が漏れる様な音と呻き声に口角が上がる。
「痛ェか?痛ェよなぁ!もっと声をあげろ。嫌なら拒め、反抗してみせろ!ロー!!!」
泣き叫べ、許しを乞え。そうでないなら俺を睨みつけて、恨みと屈辱に唇を噛み締めろ。
「………っ………」
骨が折れる音がした。それでも人形は悲鳴をあげない。泣き出さない。恨まない。憎まない。ただ、静かに笑って遠いところを見つめていた。
一年以上かけてお前の全てを奪ってきた。自由も、仲間も、尊厳も、希望も……何もかもを。それでもお前は、俺には見向きもしないのか。
俺には、お前しか残っていないというのに。
「ロォォオオオオ!!!」
激昂に身を任せて人形の首に手をかける。ギリギリと音を立てて喉を締める両手に、明確な殺意を込めて。
「死ね、死ね!死んでしまえ!!俺に何も寄越さないのなら、いっそ俺の手で……!!」
人形の口が、酸素を求めてはくはくと動く。大きく見開かれた目に映る己の無様な姿を見て、更に怒りが増した。
もうすぐ首が折れる。死んで、今度こそ物言わぬ人形になって、初めて俺のものに……__。
「____あ?」
俺の右手に、何かが触れた。
弱々しく冷たいそれは、確かに俺の手首を掴んでいる。タトゥーの入った小さな手。ローの左手が、爪を立てて俺を掴んでいた。
ほんの少しの痛みにふっと力が抜けて、俺はローの隣に座り込む。いきなり解放された彼は身体をくの字に曲げ、喉を押さえて勢いよく咳き込んだ。瞬きするたびにぽろぽろと溢れる涙が、シーツに吸い込まれては消えてゆく。
「ロー……」
「……」
「ロー」
相変わらず返事はない。それでも構わなかった。ほんの少しだけ、あの頃のようにローの意思を感じ取れたのがうれしくて、ちっとも気にならなかった。
「痛かったな、すまねェなぁ……。お前が、あんまりにも静かだからよ」
優しく頭を撫でながら、糸を使って部屋の隅に用意した医療器具を取り出してローに握らせる。
「また怪我しちまったな……ほら、ちゃんと治さねェと。そうだろう、ロー」
機械的に自身の治療を行う彼を見つめながら、俺は仄暗い満足感に浸っていた。
「あいしてるよ、ロー」
(ロー。俺の家族。たった一人残った弟……)
どうか永劫そばにいて。
そして。いつか、愛をかえして。
おれを、あいして。
〆