Hold on!
「タロ」
「きゃっ!?」
呼んで、少年らしさを残した胸の内に、大して慌てた様子もなくわたしを抱き込む。
学園で、しかもわたし達、まだ付き合ってもないのに────あくまでも、「まだ」だ────いきなり何をするのかと、熱くなる頬を無視してハルトさんを諌めようと向き直る。
「っ」
小さく息を呑む。
勝負のときにもごくまれに見せる、ハルトさんの鋭い眼差し。
なんで今? と思いながらよく見れば、ハルトさんの手にはモンスターボールが握られている。
彼のものかと思ったのも束の間、情熱的なハグとは裏腹に、わたしの方をチラと見るだけであっさり放された。
「はいコレ」
「ごめんなさい、それとありがとう! タロちゃんには当たってない……?」
「……大丈夫みたいだよ」
スタスタと歩いて、女子生徒(何度か話したこともあるリーグ部所属の後輩だった。けど何故かわたしのことをちゃん付けで呼ぶ)にボールを手渡すハルトさん。
なるほど。どうやらあの子が投げたボールの片方がわたしの方まで飛んできたのをキャッチしてくれたらしい。
(全然気が付かなかった)
スグリくんから聞いた話だけど、彼は随分と反射神経がいいらしい。
そこそこの速さで飛んできたモチを避けていたんだとか。……モチが飛んでくるって何? とは思ったけど、少なくとも反射神経については誇張なしで語ってくれていたみたいだ。
「ごめんなさいタロちゃん!」
「う、ううん! 気にしないでくださいね!」
「気にしなくてもいいけど気をつけて。ダブルバトルの時はボール二個持ちだし、手の大きさと相談して、無理せず両手で投げてもいいと思うよ」
「うん、ありがとう留学生さん!」
スマートにやり取りを済ませてこちらに戻ってくるハルトさん。
「ボールから出てきたポケモンとぶつかることもあるし、ああいうのって早めに捕らないと危ないんだよね」
「……わかってても難しいと思います」
「そうかな?」
「そうです!」
「まあ、何はともあれタロに怪我がなくてよかった」
ふっと柔らかく笑うハルトさん。安心したというのがよくわかる表情。
さっきまで強ばっていた顔が和らぐのを見て、再び血の巡りがよくなるのを自覚する。
どんどん頬が熱くなる。アカマツくんの料理を食べたときみたいな、逃げ場のない熱の高まり。
かわいいだけじゃない。助けてくれて、心配してくれて。……なんだか悔しくなるぐらいに、今のハルトさんはかっこよく見えた。
「……タロも気をつけてね」
「え? わたしも……ですか?」
「うん。タロも手、小さいから。女の子だからかな」
パッと手を取られて、確かめるように、愛でるようになぞられる。
いきなりなのに。でも嫌じゃない。
「ハルトさんこそ」
そう言って、わたしの方からも彼の手を取る。
きゅっと指を絡めると、やっと年相応に驚いた表情で顔を赤くするハルトさん。かわいいけど、逆に今までの行為はわたしを意識してくれてのものじゃなかったんだなと、打算的なわたしが内心で口を尖らせている。
「人のことを言えるほど、手、大きくないでしょう?」
柄にもない強がりは無力にも、いつの間にか大きくなってきていた彼の手に落ちていった。