Hate/Love
真人が酷い目あってる
クソみたいな家
お姉ちゃん大好き
異種?姦みたいな描写あり
「出来損ないめが」
――嫌い。
「産まれてこなければよかった」
――嫌い。
「どんなに取り繕っても面も中身もドロドロや。ほんま気色悪いな自分」
――嫌い。
「人でなし」「呪霊モドキ」「半端者」「気味が悪い」「厄災」
――嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。
嫌いだ。全部、全部。大嫌いだ。
“俺”は“お前達”が――――
「真人」
名前を呼ばれて顔を上げた。
ミンミンとセミがうるさく鳴いて騒いでいる。空は晴れていて青く、日差しは強かった。
呼ばれたほうへ顔を向けると、そこにはとてもよく似た二人の少女がいた。同じ日に同じ母から産まれた真人の姉の、真希と真依だ。
「こんな暑いのに外で何やってんだ?」
「倒れちゃうよ真人――――キャア!」
日の下でしゃがみこむ真人に真希と真依は近づいた。そして何をしているのだろうかと真人の周りに目を向けて、真依は小さく悲鳴を上げた。
「お前、またこんなことしてるのか。ほんと好きだな」
「好きじゃないよ。ただ気になっただけ」
真人の周りにはセミが転がっている。一匹や二匹ではない。十を超える数のセミの死骸が転がっていた。ただの死骸ではなく、そのどれもが胴体を引きちぎられて殺されている。
真人が引きちぎった。気になったから、中身がどうなっているのか知りたかった。どれも似たようなものだった。きっと人間の中身もこれと同じで、真人の中身も同じくらいドロドロのぐちゃぐちゃなんだろう。だけど虫は人間や呪霊のように喧しく騒ぎ立てない。気が楽だ。
「バレたらまた怒られちまうぞ」
「バレないようにやってるから大丈夫。ちゃんと埋めるから」
真希は真人のこういう行動を度々見てきた。真人が小さな生き物を殺す光景を何度も。それは蛾であったりミミズだったりトンボだったり、カエルだったりネズミであったり。それ以外にもたくさん。
たくさん殺して、埋めて、たまに見つかって怒られて、どこかに連れていかれる。それでも帰ってきてまた殺しての繰り返しだ。
「でも見つかったら、またどこかに連れていかれて怒られるよ。酷いことされちゃう」
真依は真希にしがみつきセミの死骸に怖がって、それでも真人を心配して言った。
「慣れてるし、心配しなくていいよ」
「でも」
「大丈夫大丈夫」
ざくざくと指で地面に穴を掘る。ちょっとだけ誰にもバレないように術式を使い、掘りやすいよう形を変えて。真希と真依の前だけど、他の人間に見つかったらもっと面倒なことになると経験則で知っている。だからちょっとだけ。
穴を掘ってセミを入れてそして埋めて。証拠隠滅。埋めてしまえばバレることはほとんどない。
手についた土を払って立ち上がる。同じ身長だから真希と真依の顔がぐっと近づいた。
「ちゃんと埋めたよ。今日はこれで終わり。二人はどうしたの?」
「お前を心配してたんだよ! 昼だって食べてないだろ」
「お父さんに連れて行かれてたでしょ、大丈夫?」
それを言われて、お腹が急に空いてきたような気がしてきた。
何か気に障ったのだろう。朝食の後、父は真人を真希と真依から引き離し、そして禪院が飼っている呪霊のいる懲罰房へと躾として放り投げた。
無数の呪霊が真人の体を貪り食い尽くす。殺しにくるような呪霊は祓っておいて、だけどそれ以外のやつにはされるがまま。雑魚には真人の魂に傷をつけることができない。怪我をしたとしても術式で治せばいいだけだ。死ななければそれでよかった。
最初は泣いていた気がする。逃げていた。一体一体、呪霊を祓っていたはずだった。
だけどどんなに泣いて叫んで逃げ回っても、扉が開くことはない。誰かが駆けつけてくることもない。ならば最初から受け入れたほうがいい。期待をしなければ傷つくことはない。そっちの方が楽だから。
真人は呪霊の中で揺蕩った。有象無象が真人を覆う。手のような何かが、外や中を這いずり回る。
それからしばらくして真人は解放された。今日はいつもより早かった。酷いときは忘れられていたのか二日ぐらい放置されることがある。あそこは窓も時計もないからどれぐらい時が経っているのかわからない。それでも昼ぐらい食べれなくたって平気だ。
「別に大丈夫だって。お腹はちょっと空いてるかも」
真希と真依は、真人がどこに連れて行かれているのか知らない。真人もこの二人には知られたくなかった。どこに行っているのか、何をしているのかは絶対に言わない。二人もそんな真人を慮ってか聞いてこなかった。
「やっぱり、腹減ってるよな」
「持ってきて正解だったね、お姉ちゃん」
すると真希は着物の裾から何かを取り出して、真人の目の前に差し出した。ラップに包まれた、一つのおにぎりだった。
「くすねてきたんだ」
「見つからないように隠れよう」
真依に背中を押されて木の影まで行く。広い敷地内だから容易に見つかることはないだろう。だけど一応、三人しゃがみこんで小さくなる。
「一個しかないから足りねえかも」
「二人とも怒られるよ」
「そんときはそんときだ。一緒に怒られるさ」
「私も。だって私も真人のお姉ちゃんだし」
ぐい、と出されたおにぎりをおずおずと受け取った。ラップを剥がして二人の前で食べた。
塩で味付けされた素朴な味。さすがに握られてから時間が経っているので冷めていた。
あまり食には興味がなかった。味にも興味がない。少しぐらい食べなくたって死なないから。
だけどなんでもないただのおにぎりが、塩だけのおにぎりが、真希と真依が真人のために持ってきてくれたおにぎりが、どうしてか染み渡る。冷たいのに暖かい。
「おいしいよ」
食には興味がない。食べても味がしない。だけどこのおにぎりはおいしい。
「ありがと」
最後まで食べきって、お礼を言う。二人は嬉しそうに笑った。
食べ終わって、お腹も満たされて、その顔を見たらさらに暖かくなった。
「さすがにそろそろ戻らないとな」
「待ってお姉ちゃん」
真希が先に立ち上がって一歩先を行く。真希を追うように真依も立ち上がった。そして二人とも真人を振り返った。
「真人」
「真人も一緒に行こ」
手を差し伸べられた。だけどそれを掴んでいいのかわからず、真人の腕は上がらない。
「何してんだよ。ほら」
「あっ」
真希が腕を掴んで真人を立ち上がらせる。そして握り直してそのままずんずんと歩いていった。反対の手は真依が握って、真人と並んで歩いていた。
真人は術式がある。発動条件はこの手で触ること。だから誰も真人に触れられたくないのだ。真希と真依はそんなこと関係ない知らない、と遠慮なしに触って握ってくる。
……好き。
「おれね、真希と真依のこと好きだよ」
「何だ急に」
「二人はさ、おれのこと……」
嫌い?
父は真人のことが嫌いらしい。母も真人のことが嫌いらしい。ここの家の人間は真人を嫌っている。嫌ってはいなくとも蔑み見下している。声に出さずとも、顔に表さずとも、その魂を見ればわかる。だから真人も相手のことが嫌いだ。
だけど真希と真依が真人のことを嫌っていたとしたら、そう考えると言葉が出なかった。
すると両方の手が強く握り返された。
「姉妹だぞ。好きに決まってる」
「私も真人のことが好きだよ」
二人して真人の顔を覗き込み笑った。
暖かい。
好き。
大好き。
ツギハギの体に熱が染み渡る。
二人が好き。
手を引っ張ってくれる真希が好き。
並んで歩いてくれる真依が好き。
笑ってくれる真希と真依が好き。
二人がいるとご飯がおいしい。
二人がいると体の奥が暖かい。
好き。
大好き。
「真人?」
「何か言った?」
「なんでもない」
好き。
好き。
だから、
――ずっと一緒にいて、お姉ちゃん。
真人も二人の姉の手を強く握り返した。