Happy Valentine in Pirates
「む…そうか、もうそんな季節か…」
そう言って何やら忙しなく動くのはドレークだ、今日、2/14は世間的には少々浮かれた催しがある、既にサンジとモネなどは例の仕込み等で忙しそうだ、そんなことは梅雨知らず世間知らずのおとぼけ船長であるルフィはドレークに尋ねる。
「そういやよォサンジもモネも忙しそうだったな‼︎ドレーク何か知ってんのか?」
「ああ、今日はバレンタインデーと言われる催しの日だな、おれとしたことが…すっかり頭から抜けていた」
「ばれんたいん?なんかあるのか?」
ルフィがドレークにそう尋ねると背後から声が、守護神にして我等が母(男)であるチャカである。
「簡単に言えば親しい者達がチョコを贈る日だ、アラバスタでもそういう慣習がある、尤も私のところでは送っていたのはチョコではなく他の甘味ではあったがな、砂漠の暑さではその…」
「チョコが溶けるからな、いつの日かのモネのように」
そうやって割り込んできたのは面倒見の良さが隠しきれない兄貴医者、もとい、ローだ、そう言うとルフィは暑さでドロドロに溶けていたモネを思い出し笑っていた。
「だがドレーク、珍しいな、君がバレンタインとは、君はその…こう言った物事とは無縁とばかり思っていた」
そう、ドレークは異性に対して極度の上がり症だ、それは未だ治る兆しが見えない、ローは既に匙を投げている、そんな彼が女性から貰い物を貰おうものなら想像は容易い。
「…まぁ否定はしない、だがバレンタインデーがチョコを送り合う日になった日にもちゃんと理由がある、わかる奴はいるか?」
突如として始まる《なぜなにドレーク》だ、こう言う突発的なイベントがあるから麦わらの一味では退屈という概念がない、真っ先に答えたのは意外にも超大型新人のカイドウとキングだ。
「世界政府の馬鹿共が資金収拾の為にそう言った日だと詐称した」「ちがう…とは言い切れないが」
「リンリンのババアが今日はチョコレートの日と宣ったから」「そんなわけあるか」
「チョコが食いたかったから‼︎」「それなら毎日バレンタインデーだろう‼︎」
この一味はダメかもしれない、色々と…そう思い苦い表情を浮かべるローとチャカだが、案外いつもの事である、そこで我関せずだったゾロが口を開き…
「あー、バレンタインとかいう奴が殉職した日…だったか?」
「ッ⁉︎せ、正解だ…‼︎」
「「「⁉︎」」」
船に激震が走る、なんとあの脳筋3TOPの内一人、ゾロが答えたのだ、しかも正解を…これには厨房で準備をしていたモネとサンジにも衝撃だったらしくキッチンから飛び出してくる始末。
「うゥおォい!このコンノクソバカまりもヘッド‼︎なんでてめえがこの聖なる日のルーツを知ってやがんだ!まさか、てめェまりもの分際で誰か愛しい子からチョコレートを貰ったんじゃねェだろうな⁉︎」
「大丈夫なのゾロ⁉︎貴方妙な物拾い食いしてないわよね⁉︎頭でも打った⁉︎すぐに治療をしないと‼︎」
怒髪天を突く勢いのサンジと生粋の心配性であるモネがゾロに駆け寄る、他の一味も反応は様々だ、やれまさかあのゾロが…とか筋トレのしすぎで悟りを開いたのでは…だとか、仕舞いにはマネマネで変装しているのでは…とか出てくる始末、あんまりではなかろうか、残当でもあるが
「叩っ切るぞてめェら…‼︎二年の修行の時に聞いたんだよ、鷹の目から」
「鷹の目が⁉︎」
「おう、なんでも、昔にバレンタインっつう凄え海兵がいてそいつを讃える為に今日がバレンタインデーとかいうらしいんだが…詳しくは知らねェ、ドレークの方が詳しいだろ、こういうのは」
と、ゾロは生憎説明がうまい方ではない、のでドレークに話を振ることにした、衝撃からなんとか立ち上がったドレークの答え合わせが始まる。
「まぁ…ゾロが言った通りでは…ある。詳細はやや異なるが…ここからは歴史の時間だ」
そう言いドレークは備え付きの黒板を持ち出し教鞭を取り出した。
──まずはそう…ゾロが言った人物からだな…バレンタインデーの元になった人物…正しくは“ヴァレンティヌス大将”の話からか、かの御仁はその昔、海軍に所属していた海兵でな、凄まじい剣技の使い手だったそうだ、鷹の目が知っていたのはおそらくそういう事だろう、その武勇や功績は数多い、彼の名を歴史に残し催しの日として知られているところから見てとれる…その様は海軍がまだ小さな組織だった頃に彼の活躍が広まり一気に軍拡が行われたとされる程だ…因みに彼はかの神の子とされる“奇跡の人”との関連性があるとされているが真意は不明だ、探ろうとするなよ、消されるからな。
話を戻そう、彼の人…つまりヴァレンティヌス中将は屈指のチョコレート好きだったようでな部下にもチョコレートを振る舞う事があったそうだ、そして毎年この季節になると仲間、友人問わず、感謝の言葉と共にチョコレートを贈っていたそうだ、そして今日殉職したこの日を親しい人に感謝の贈り物をする日としてバレンタインデーと世界政府が直々に認めたんだ…まさに世界そのものに影響を与えたお方なんだ…ヴァレンティヌス大将は、チョコを送り合う日なのは…まぁ世界政府や各商人達の商業的戦略的一面も…まぁあるかもな、ただそういう人物がいたって事だけは覚えておいて欲しい、元一軍人としてな。
教鞭をとり終わったドレークは徐ろにマストに登りある方角を見て祈りを捧げた、これは海軍の慣習だったらしい。
ドレークがマストから降りてくると次はカイドウが口を開く。
「バレンタインと言やぁ…毎年この季節になると“例の奴”が現れるんだったな…」
「“例の奴”?」
一味の中でも屈指の海賊経験があるカイドウが語り出す、こう言った人物から聞ける話は大体が経験談なので若輩者が多い一味からすればとても為になる。
「知っての通りおれは元“ロックス海賊団”に所属してた、その時“ロックス”や“金獅子”の馬鹿と“白ヒゲ”のジジイと…あぁあと“リンリン”と“シュトロイゼン”も口にしてたな」
ほら現に次々と湧き出てくる超ビッグネームの数々、海軍関係者がいたら頭痛がするだろう、現にドレークは頭を抱えている、尤もルフィはそんな過去の人間よりカイドウが話そうとしている人物に興味があるようだが…
「そいつらが…何か話してたのか?」
「あぁ…毎年“新世界”はな…この季節になると“出る”んだよ…その、“お祭の精霊”がな」
「「「“お祭の精霊ィ⁉︎」」」
「懐かしいな、おれ達の海賊団でもこの季節は騒いでる奴が多かった、主にクイーンのバカを筆頭にして…だが」
事あるごとにライブを開催し盛り上げていたクイーンだ、現にその現場を見ていたルフィ達はその光景を容易に想像できた。
「“お祭の精霊”は季節によって姿を変える、ロックスが言うには大まかに12種の姿を持つとされているらしいが…おれは全部見たわけじゃねェし、世界でも確認されるのは稀なんだそうだ、だから“手配書”なんかには乗らねェし、捕まらねェ」
「…それでこの季節だとバレンタインを模した姿をしていると?」
「あァそうだな、この姿はおれもよく覚えてる、あん時は確か──」
──そう、確かあん時はロックスの命令で船を動かしてた時だったな、船員の1人がやけに慌ただしく喧しかったからよく覚えてる。
『船長‼︎ロックス船長‼︎緊急事態です‼︎」
『あ゛ァ?まぁそうだろうよ、ったく…もうそんな季節か…面倒くせェ…』
あん時のロックスはやけに項垂れててな、おれはその時は理由なんざ知らなかったからとりあえず甲板に出たんだが、当時は見聞色を今ほど鍛えてなかったが、そんなおれでも聞こえるぐらいリンリンのやつがはしゃいでやがったんだ。
『離しなァ‼︎シュトロイゼン‼︎おれのガキの頃の夢が今目の前にあるんだよ‼︎』
『落ち着けリンリン‼︎目の前のはチョコに見えるだけで実際は海だ‼︎飛び込んだら沈むって‼︎白ヒゲ‼︎金獅子‼︎テメェら止めるのを手伝わねェか‼︎』
『『面倒くせェ』』『うゥおォい‼︎仲良しか‼︎』
おれは耳を疑ったぜ、何せ海がチョコレートになったってんだからな、だが実際目にすると目の前にはチョコレート色の海だ、船員のバカ1人がバケツを卸し“ソレ”を回収したんだが…しっかりチョコの味になってやがった…“能力の覚醒”でもこうはいかねェ…んでもってチョコレートなもんだから船が動かせねェ、固まっちまったからな、どうしたもんかと思ってると…
『チョ〜ッコッコッコッコ‼︎happy Valentine‼︎野蛮なパイレーツ諸君‼︎』
トンチキな笑い声と共に小せえ女が浮かんでやがった…そんな顔をするな、全て事実だ、その声がした瞬間にロックスはすごく項垂れていたな、まぁ原因はすぐにわかったんだが
『私の名は“お祭の精霊”‼︎今日はバレンタインデーでしょう⁉︎だから冴えない男の子にチョコレートを渡しにきたのよ‼︎でもそれより…そこのビッグなピンクレディ‼︎』
『ん?おれかい?』
『そう‼︎貴方…凄く…イイわ‼︎全身からすごく滲み出てる‼︎こんな人間初めて見た‼︎お相手してあげる』
そん時の船の雰囲気と言ったらもうな…ロックス除いてあいつ死んだなってのが一致してた、不仲で有名なロックス海賊団だが、あの日だけは一致してたな。
『ほう…おれと殺り合おうってのかい…いい度胸じゃないか…直ぐに─『貴方‼︎』あァ?』
『貴方のその全身から滲み出ている…圧倒的な甘党オーラ‼︎相当なお菓子好きと見たわ‼︎しかも貴方今このチョコの海に飛び込もうとしたわよね⁉︎分かるわ‼︎チョコの海を見たら飛び込みたくなるのは子供の頃の夢だもの‼︎だからこそ貴方に問うわ‼︎』
『…なにをだい』
『貴方…チョコレートはお好き?』
その時のあいつらの顔と言ったらな…まぁおれもだったんだが、一触即発の雰囲気はどこへやら一気にリンリンと精霊の世界になっちまった。
『マーマママママ‼︎愚問を…そんな物…大好物に決まってんだろうがァ‼︎この海はお前がやったのかい⁉︎』
『勿論そうよ‼︎だって今日はバレンタインデー‼︎海だって甘ーいチョコレートになっちゃう‼︎そしてやっぱりそう‼︎貴方チョコレートが大好きなのね‼︎thank you presents‼︎』
そう言うとボンってと音がしたと思えば山のようなチョコレートを寄越してきやがった、リンリンは目をハートにして食らい付いてたが他の奴らにゃ不満だったろうな、そりゃどこの世界にチョコで満足する野郎海賊がいるってんだ、酒の肴にもなりゃしねェし、甘ったるいからな、まァロックスだけは何も言わず食ってたしおれも腹は減ってたから口にしたが…やけに慌てた様子で金獅子と白ヒゲにも食わせてた…確かそんときにロックスが言ってたのが…
『おい船長何しやがる‼︎おれは別にチョコはそんなに…‼︎』
『おれ達が食わなくてもリンリンがいりゃあ全部なくなるだろうが‼︎」
『文句より先に口にしとけ‼︎…面倒な事になる…いいか?あの馬鹿どもをよーく見とけ、カイドウ‼︎てめェもだ‼︎』
そう言うと口に捩じ込みつつ船員どもを見てたら精霊の様子が変わってな…
『そう…やっぱり海賊って野蛮ねェ…久しい顔馴染みを見つけたから立ち寄ったのだけど…』
『うるせェ‼︎チョコより肉と酒を出せ‼︎このアマ‼︎』
『そう、貴方に決めたわ、今日はhappy Valentine、なんでもチョコになっちゃう日よ、海も…島も…空でさえも…そして、Unhappyをばら撒く…野蛮な海賊である貴方でさえも…ね?』
『え…ギャアアアア‼︎お、おれの身体がァ‼︎チョコに‼︎た、たすけ─』
そいつの言葉はそれが最期だ、そいつは全身チョコレートの像に変わっちまった…瞬間船に蔓延ったのは恐怖だな、人間1人容易く物言わぬチョコに変えちまったんだ、そりゃそうだ。
『アレが“お祭の精霊”の力だ…‼︎アイツは季節毎の縁のある姿に化ける、そして自分の意に削ぐわぬ者はああやって縁起物に変えちまうのさ、お前らもこの海で長生きしたきゃよく覚えときな、“お祭の精霊”には死んでも逆らうな…だ、天竜人が可愛く見える所業だぜ、あれはよ』
ロックスの発言に船内は固唾を飲んだ者ばかりだ、戦って勝つとか言うレベルじゃない、戦闘が成り立つすらわからねェ…そもそも“生き物”としての格が違ェ…圧倒的な“上位者”って奴だ。
──まぁその後はロックスと一言二言話し合って姿を消したが…あのロックスが戦闘を断固拒否するってのは衝撃だったな」
カイドウが過去の経験を話し終わった時には船の空気は随分な物だった、それを打ち消したのは我等が船長ルフィであった。
「そいつとあったらチョコ食い放題なのかァ…夢のある話だなァ…」
今の話を聞いて何故そう思えたのか、むしろ何も考えてないからそうなのか、疑問に思う一味なのだった…
Fin