H.B.D.

H.B.D.

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9月4日


今日から日記を書くことにする。

検査中はPETなんかの電子キキを触っちゃいけないからすっごくヒマ。

だからこんなの書いてるわけだけど、このオレにエンピツ持たせるってそうとうなカイキョだと思う。

あーヒマだー。電磁波のバカ。

つい1週間前まであちこち回ってゴスペルと戦ってたなんてウソみたい。

夏休みの宿題の〆切が延びたのはうれしいけど…

今は早く学校に行きたい。




メインスクリーンに両親の姿を留めたまま、ロックマンは右手にサブウィンドウをいくつか展開する。

今日のビーチエリアは曇りのち雨、3時間以内の降水確率70%。湾岸病院はメトロの程近くとはいえ歩道に屋根はない。売店に傘があるだろうか? 在庫管理システムを呼び出す。

ロックマンは愛する父母に濡れてほしくなかった。電源を切られたPETの外側で、きっととても悲しいことを告げられた、せめてその帰り道だけは。

「はる香、そろそろ……」

「待っ……もう少し。こんな顔じゃ熱斗に会えない」

再びこみあげてきた涙に呼応したのだろうか。廊下の窓に水滴が二、三張り付いた。




***




9月11日


なんとまだ病院!

今日はデカオとメイルとやいとがお見舞いに来た。

差し入れのケーキがすげーうまくて2切れ食べた。(かんごふさんに怒られた)

そのあとみんなとネットバトルして、もちろん全勝!

こんなに元気なら学校来いよって言われたけどおれもそう思う。

ただ、売店まで歩いただけでバジリコのガスを食らうみたいになるのはやっぱり体がヘンなんだろう。

そういえば夏休みの前くらいから時々こうなってたような気がする。

早く治したい。

というかそもそもオレは病気なのか?




「ええ、ええ、近年有効な治療法が発見されたのは事実です。しかし息子さんに適応できるかが大きな課題で」

「どういうことですか」

「本来この疾患は乳児期から遅くとも幼児後期までに発症するもので、10歳までをめどに治療を行っていきます。それ以上になると身体サイズに心臓の機能が追い付かずリスクが急上昇します」

「……あの子は今11歳ですが」

「ええはい、私共としても全力を尽くして治療に当たりますが、何しろ前例がないため手探りというのが実情でして」

「そう、ですか」

「ところでお母さん、息子さんへの病名告知の件は考えてくださいましたか?」




***




9月26日


ママに明日大事な話があると言われた。

たぶんオレの病気、H.B.Dについてだと思う。

なんでもう知ってるかというと、ロックマンをけしかけて病院の電脳からデータを探してもらったから。

これはママと先生には絶対ヒミツにしないと。

……それと、実はヒミツがもう一つ。

オレは知っている。これが、H.B.Dが、彩斗兄さんの命をうばった病だってこと。


……ホント、悪いことはするもんじゃないな。

ロックマン、気にしてないといいんだけど。




『こんにちは ナビせんせい』

『おや きみは…電子カルテをぬすんだナビか

まあいいさ なんの用だい?』

『す、すみません…

あの H.B.Dという心ぞうの病気は、いでんしの病気なの?』

『ふむ? 先天性、という話かな』

『うん ウイルスとか食べすぎとかじゃなくて、生まれつきの…

たとえば 双子の片方がかかったら もう片方もかかるのかな』

『うむ そう考えられていたよ 昔はな

だが現実に 双子が同じ病気になるカクリツは そう高くない

すきな食べものや かんがえ方がことなるように』

(たしかに ボクと熱斗くんは似ていてもぜんぜんちがう…

ボクは早起きだし)

『エピジェネティクス といって、同じいでんしを持っていても

人によって いでんしが 働いたり 働かなかったりするんだ』


『じゃあ…わるいいでんしが 働かないと決まった人が あとから働いてしまうことは…』

『今の研究では そのかのうせいはとても低い』

『そうなんだ』

『もしも 双子がもっている因子がまざれば そんなこともあるかも…

なあんて、ありえない話さ

なんせ いくらいでんしが同じだからって

カラダふたつの双子がぴったりひとつになるなんて ふかのうだもの』

『…………

……!!!』




***


10月17日


今日は珍しいことに炎山が来た。

差し入れの果物かごにマンゴーあり!

1個は食べきれないから分けようと思ったのにすぐ帰ってった。

オフィシャルの仕事が忙しいらしい。

たぶんゴスペル残党とコトブキ町の片づけと、それからオーパーツの回収!

クロックマンがワープホールを開けたせいで200年後の技じゅつせい品があちこち出てくるなんて、とことんメーワクなやつだ。

スバルに出会えたのはよかったけどさ。




「光博士。オーパーツ2点回収しました」

「炎山くん。ありがとう、そこに並べてくれるかい?」

「はい。……博士、そろそろ休憩を取られたほうがいいのでは」

「炎山くんこそ忙しいだろう。そうそう、熱斗の見舞いにも来てくれたんだっけ」

「まあ、捜査のついでに」

「あの子も喜ぶよ。これからも何度かビーチエリアに行ってもらうから、時間のある時にまた顔を見せてやってほしい」

「……あの。近頃オーパーツ捜索に力を入れておられるようですが、ゴスペルやWWW残党が野放しになるのは治安維持上の懸念が、」

「上から何か言われたのか?」

「? そういうわけでは」

「……

実はこちらの研究が大詰めでね。人手不足のところ申し訳ないがオフィシャルにはもう少し手伝いを続けてほしい。

大丈夫、そう長くはかからないよ」




***




11月24日


どうやらオレは次の誕生日をむかえられないらしい。

まるでドラマみたいだけど、先生に聞いたからホント。

そうなのかなーってうすうす思ってたし、悲しいとかいやとかは今そんなに思ってないんだけど、

なんとなくママにケーキをおねだりした。食べれるかな?




「クックック……

この情報、使いようによっては化けるかもしれんのう……」




***


12月11日


あーーーーもう!!

家族みんなで電波世界に、って……パパいったい何考えてるんだよ!

オレだけじゃなくてパパもママもロックマンも死んじゃうってこと?そんなの嫌だ!!

それにいくら身体が苦しくなくなったって、楽しいことや友達がいない世界なんてつまんないじゃん!

パパはともかく、なんでかロックマンまでだんまりだし……

まあ、たぶん分かってくれたと思う!

「そうだよな、みんないないとつまんないよな」って言ってたし。

パパたちがヘンなことを考えないよう、オレは頑張って病気を治さなきゃ。




お知らせ 光ゆういちろう


こんにちは PETかいはつしゃの光です

このたび ナビとヒトが共にくらせる世界をつくりました

きょうみがあれば コトブキスクエアへどうぞ




***



(中略 だいたいウタワールド)



***



『熱斗くん、どうしてここに?!病室にいなきゃ!』

「パパとロックマンがこんなことしてるからだろ!!

はやくみんなを電波世界から開放しろ!」

「熱斗……ごめんな。でももうパパは、子供を失うことに耐えられないんだ……

さあ、お前もあちらに行くんだ。すぐ後を追うから……」

「やめっ くっ、うわあ!」


… ブブッ …ブッ ……


『?! パパ! 電波世界が消えかかってる!』

「そんな、オーパーツの"コア"が崩れていく…!何故だ?!」


「──大方 そのガキが電波世界開発のカギなんじゃろう。

フン、3代揃っていまいましい奴らよ」

『お前は……ワイリー?!』


「まったく、なにが電脳科学だ。カタチのないもんばかりに固執するから間違えるんじゃ……

おい光のせがれ、お前の本当の望みはコレじゃろう」

「!! それはまさか」

『人工心臓!!』

「お前の辛気臭い悪だくみと違ってこっちは命を救えるぞ。

ただこいつはどうも電磁波には弱くての~

電波世界を生み出すほどの電磁波に耐えられるかの~」

「……!」

『パパ、』

「さあ どうする」




***




6月10日


12歳の誕生日!そして日記も最終回だ!

というのもオレの退院とパパとロックマンのしゃくほう日?が同じく今日だから。

やっとエンピツ生活から解放される……

さて、オレの心臓は作り物になっちゃったけど、とりあえずはこれまで通り暮らせるらしい。

ネットバトルもサッカーもOKのすぐれものだ。

そうそう、H.B.Dという病気を根絶しちゃうかもしれないこの発明品、近々実用化されるらしい。

製品名、略称はなんとH.B.D。

正式名称はハッピー・バース・デイ。


……なにげにキザかもな、あの爺さん。






H.B.D.(ハッピー・バース・デイ) おわり

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