『HAPPYEND』

『HAPPYEND』



 バスッ!


 俺の放ったダイレクトシュートがゴールに突き刺さる。“あの日”と同じ。兄ちゃんからのパスにひとり抜け出して、ゴール前でシュートを決めた。

 途端に上がる大勢の歓声。

 試合終了のホイッスルが鳴る。

 決勝点だった。


 やった。勝った。勝ったんだ!!


 俺と兄ちゃんは。

 今、ここから世界一のストライカーでミッドフィルダー。

 俺たち二人で、世界一になったんだ。

 あの頃からの夢を、やっと叶えたんだ!



 それぞれ勝利を喜んでいるチームメイト達を通り抜けて、世界一のパスを出してくれた兄ちゃんに駆け寄る。

 兄ちゃん。俺たち、世界一になったよ。

 夢は、叶ったんだよ。

 だから。


 芝生に座り込んでいる兄ちゃんの顔が見えてきて、絶句する。

 「兄ちゃん……っ、大丈夫?!」

 兄ちゃんは、無言でぽろぽろと涙を溢していた。


 “兄ちゃんの生きてる理由を奪っちゃった”


 そんな、考えたくもない最悪が脳裏に浮かぶ。

 「どこか痛いの?!怪我した?!」

 俺は兄ちゃんの傍に駆け寄って、膝をついて確認する。どこも怪我してない。

 じゃあなんで…………と考えたところで、兄ちゃんが口を開いた。

 「……り、ん」

 「兄ちゃん!!」

 兄ちゃんの手が伸びる。その手がどこへ行くのか、一瞬怖くなったけれど。

 伸ばした兄ちゃんの手は、俺の頭を優しく撫でた。

 「兄……ちゃ……」

 頭を撫でてくれたのは、いつぶりだろう。

 頭越しだけど、兄ちゃんの手は温かくて。

 嬉しかった。

 「凄いぞ、凛。……がんばったな」


 ふっ、と。

 兄ちゃんは、“あの頃”の顔で柔らかく笑った。


 それは紛れもなく、本当の兄ちゃんの笑顔で。

 十数年の努力が、頑張りが、やっと報われたような気がした。

 俺は“兄ちゃんのヒーロー”になれたんだ。


 自然に溢れてきた涙を拭う暇もなく。


 「ただいま、凛」


 世界一になった喜びを、“戻ってきてくれた兄ちゃん”と抱き合って噛みしめた。


 「おかえり、兄ちゃん!」


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