Gifts for no particular reason
requesting anonymity魔法史の宿題「1692年のセイラム魔女裁判における魔法族についてのレポート」と、マグル学の宿題「1692年のセイラム魔女裁判におけるマグルについてのレポート」に取り組むため図書館に入り浸っていた1年生のダンブルドア少年は、見知った先輩方が暖炉を潜って行ってしまったっきり帰ってこないのを訝しんでいた。
「隠し部屋…………?」
出会ったばかりの頃先輩に教えられた「必要の部屋」を筆頭に、ホグワーツ城には誰も総数を把握していないほど多くの隠し部屋があると知っていたダンブルドア少年は、突発的な好奇心とまだ終わっていない宿題を天秤にかけ、好奇心を優先した。
「火の入った暖炉をどう潜るんだ………?」
少し考えたダンブルドア少年は、まず安直な方法を試そうとして、やめる。
「アグアメン………いや図書館を水浸しにするのはダメだ………えー、えー」
そしてダンブルドア少年は杖を振る。
「グレイシアス!」
その呪文による極端な冷気によって暖炉の火は消え、ダンブルドア少年はその奥にあるのであろう隠し部屋へと進んでいく。ギャレス・ウィーズリーとサチャリッサ・タグウッドが「2人だけの秘密の研究室」にしているその部屋へ。
「ギャレス…………」
見知った先輩の聞いた事がない声色を聞き取ったダンブルドア少年は、反射的に声を殺して身を屈めつつも、その声の当人の姿を確かめるべく部屋の奥へと進んでいく。
「薬作るのはダメだって言われたろう?桃切ってあげるから待ってね」
「………誰か居るわ、ギャレス」
心臓が止まるかと思ったダンブルドア少年はしかし、正直に己の姿を晒し名乗りを上げるつもりで立ち上がったが、それでもまだ目の前の棚の方が背が高く、その小さな体はギャレスとサチャリッサからは見えなかった。
「こういう時『お前はチビだ』って言われてる気がしてくるんだよな…………」
憎々しげにその棚を睨んだダンブルドア少年は、意を決して棚の影から歩み出る。
「すいません………お2人だけの時間を邪魔して…………僕隠し部屋ってどんななのか気になってしまいまして…………」
「気にしないでダンブルドア君。この部屋は知らない奴が入らないように魔法かけたけど、僕とサチャリッサの共通の友人は入れるようになってるから。君が入ってくるのは一向に構わないよ。見られて困るような事してるわけでもないし」
ギャレスのその言葉とは裏腹に、ギャレスもサチャリッサも肌着1枚しか着ておらず、「見られて困るような事はしていない」というよりは「もう済ませた」のではないかとダンブルドア少年は邪推したが、それを2人に直接訊くほど不躾ではなかった。
あきらかに「検知不可能拡大呪文」を始めとするいくつもの魔法で拡張され保護され改造されたその秘密の研究室の1番奥の窓際のベッドにはサチャリッサが座っており、その向こうにはいくつもの薬棚や積み上がった大鍋、使った大鍋を洗うのであろう水場など様々な設備と道具が揃っていて、ギャレスはそちらからサチャリッサの隣まで歩いて来ると、皿に盛られた桃を手ずからサチャリッサに食べさせ始めた。
「今僕きみに食べさせたい気分だからちょっと付き合ってね」
サチャリッサはそれを笑顔で受け入れて口を開けて待ち、ダンブルドア少年は目のやり場に困っている。
「マックルド・マラクローに噛まれた傷にフェリックスをかけてもダメだったわね」
「君の全身をフェリックスで丸洗いまでしたのに、その後ポーカーやったら僕がしっかり30連勝したもんね。しかも君1度もワンペアすら揃わなかった」
共通の友人である女生徒に「おとなしくしているべき」と釘を刺されても尚この2人の研究意欲と知的好奇心は止まらないようだった。
「マックルド・マラクローってあの噛まれるとしばらく不幸になるっていうあのロブスターですか?」
「そう。サチャリッサが3日前魔法生物学の授業中に噛まれちゃったんだ」
ダンブルドア少年にそう言いながら、食べては口を開けて待つサチャリッサにフォークで桃を与えていたギャレスは最後の一切れを自分の口に運んで、皿とフォークを傍の机に置くと、それに杖を向けて洗浄した。
「お2人は普段から、よくここで過ごしてらっしゃるのですか?」
ダンブルドア少年のその質問に2人はベッドに並んで座ったまま答える。
「そうだね。特に用事とか他のだれかとの約束とかが無い時もここで本読んだりしてるよ。何よりここに来ればサチャリッサが居るし、居なくても待ってればそのうち来るから、新しい薬のレシピを最初に試す時はここだね」
「私も、邪魔されずに美容薬とか染髪料とかの研究したい時と、それに関してギャレスの意見が聴きたい時はここに来るわ。時々待ちぼうけになるけど…………」
その言葉を素直に受け入れるには察しが良すぎたダンブルドア少年は、部屋を見回して、疑義を差し挟む。
「それにしては………あちこちにトランプやらチェスやらお菓子の貯蓄やらソファにクッションに、そのベッドだってダブルベッドですし、純粋な『研究部屋』というより『お2人だけのプライベートルーム』であるように見えるのですが」
そう指摘されたギャレスとサチャリッサは、お互いの目を見て笑い始めた。
「アレもほしいこれも置きたい仮眠もとりたい2人とも眠くなるかも………ってどんどん増えちゃってね………‥向こうにウォークインクローゼットとお風呂もあるよ」
そこでとうとう目の前の先輩2人から溢れ出る糖蜜ヌガーのような甘ったるい雰囲気によって居辛さが限界を突破したダンブルドア少年は立ち上がる。
「僕やっぱりお邪魔してしまったようですので…………そろそろ失礼しますね」
ダンブルドア少年の中ではこの2人が主張する「恋愛関係ではない」という言葉は、もはや「本人たちがそう信じているだけで事実ではない」と理解されていた。
「そうかい?じゃあまた後でね」
そしてダンブルドア少年が宿題を終わらせてグリフィンドールの談話室に戻ると、いつもの先輩の周囲にいつものように人だかりができていた。
「せんぱい、そこ違います。ここの、これ!13戻ってください」
ハッフルパフの4年生の女子にそう指摘された7年生の女生徒は、両手に1本ずつ杖を持って、何組もの自動で編み物をし続ける編み針を操り、指示通りその中の一組が紡ぐ編み目を少し解いてやり直している。
「何してるんですか先輩…………」
ダンブルドア少年はその先輩の高度かつ器用極まる魔法の技よりも、編み針として振る舞っているものがよく見ると全て魔法の杖であることを指してそう訊いた。
「あ、やあアルバス。これね、編み針買わなくても僕密猟者から獲った予備の杖いっぱい持ってるからそれ使えばいいやって思って。それぞれの杖で糸を操ってるのを、僕がさらに操ってるの。さすがに同時にやるのは5組までが限界だったや。さっきウィーズリー先生が来て『すばらしい』って30点くれたよ」
「先輩ホントに無駄に器用ですよね…………両手に杖もってそれぞれ別々の事やるだけでも信じられないくらいの難易度なのに、それをさらに何組も同時になんて……」
編み物の指導役らしいハッフルパフの4年生の女子もそれには同意だった。
「ウィーズリー先生も『アンタ以外はこんな事やろうと思いつく人もいないだろう』って仰ってました!せんぱいは本当にすごいです!」
「先輩、この方に編み物教わってたんですか?」
そう訊いたダンブルドア少年に、女生徒は笑顔で肯定した。
「そうだよ~。この子教え方優しいし編み物上手だしめっちゃいい匂いするしでもう最高の先生なんだよ」
そう言った女生徒が片方の手を止めると、ひとりでに編み物をし続ける2本ずつ5組の編み針の片側1本もそれぞれ同時に停止した。
「あ、そうなってるんですね」
「うん。さすがに別々の内容の編み物を同時にするのは無理。やろうとしたけど3以上になると破綻する」
女生徒はもう片方の手も止めて編み物を全て傍らの旅行かばんに仕舞い、編み物を教えてもらっていたハッフルパフの4年生の女子の手を取って、その女子とダンブルドア少年、そして談話室の端っこに居たナツァイ・オナイに声をかける。
「ちょっと今から『いつもの部屋』に来てくれない?あげたいものがあるんだ」
ナツァイ・オナイは話し込んでいた友人に断りを入れると、女生徒の傍に歩み寄る。
「いいよ、行こう」
そして向かった「必要の部屋」には、友人達が勢ぞろいしていた。
「あ、来た。くれるものって何だい」
「お姉ちゃん!」
部屋に入ってきた姿を見るなり飛びついてきた1年生の妹を抱きしめているハッフルパフの4年生の女子の頭に手を置きながら、もう片方の手に持った旅行かばんを足元に置いた女生徒は、手で払うようにして旅行かばんを開かせると、その中から色とりどりのマフラーを取り出した。
「この子に編み方習って、マフラー編んだの。受け取って欲しいな。それと、どれが誰のかみんな当ててくれたら嬉しい」
女生徒に言われるまでもなく、その場の全員が「最も心惹かれるひとつ」を誰からともなく手にとっていた。
「これが私のよね……………ありがとう…‥……」
そう呟いたナツァイ・オナイは手にとった赤いマフラーに刺繍されたキリンの絵柄を吸い込まれるかのように眺めている。
「私の箒!」
イメルダもクィディッチの3つ並んだゴールポストと金のスニッチの前を横切る箒という凝った柄の刺繍がされた緑のマフラーを見つめている。
「僕のはこれ、星空かい?」
黒に近い藍色のマフラーが真珠の粉をまぶしたようにちらちらと輝いているのを見てアミットが訊く。
「そうだよ。『今居る場所から見える星空』が反映されるようにしたんだ」
「パフスケインとムーンカーフが動いてる!かわいい!」
ポピー・スウィーティングが黄色いマフラーを抱きしめている横では、セバスチャンとアンの兄妹がお揃いの緑のマフラーを見つめている。
「これは確かに、僕らを象徴するモチーフだ。僕はあの事を忘れちゃいけない」
「壊れてひしゃげた『あの闇の遺物』がゴブストーンの下敷きになってる………」
表情をほころばせる2人に「ソロモン叔父さんの分は今不死鳥が届けに行ってる」と笑って言う。
「はい、オミニスにはこれね。口開けて寝てるバジリスクの牙に小鳥が止まってる絵の刺繍がしてあるよ。オミニスは闇の魔術を良く知ってるけど凄く優しいから、動物にするなら『穏やかなバジリスク』だと思ったんだ」
「君がくれるものなら何だって嬉しいけど、これは特別だね」
オミニスがそう言って深緑のマフラーを撫でた時、ギャレスとサチャリッサが2人揃って必要の部屋に入室してきた。
「あ、来た!2人の分はこれね!」
そう言って纏めて渡された2本のマフラーをギャレスとサチャリッサはそれぞれ手に取るが、女生徒は「逆、逆!そっちがギャレスので、そっちがサチャリッサの!」と交換するよう促す。
「ギャレスのが『大鍋で薬作るサチャリッサ』の絵がついてる赤いマフラーで、サチャリッサのが『大鍋で薬作るギャレス』の絵の黄色いマフラーなの!」と言った女生徒は2人が言われるがままにお互いの持っていたマフラーを交換するのを見届けてから、1年生と4年生のハッフルパフ生の姉妹の方を向いた。
「はい、2人のはこれね。時計と2人の杖」
マグル生まれであるこの姉妹が以前、同じ学校に通えると思っていた姉がホグワーツとやらに行ってしまって毎日泣いていた妹のところにウィーズリー先生が来て「貴女も魔女なのでお姉さんと同じ学校に通えますよ」と教えてくれた時にその証拠として示された「文字盤の針がいくつも枝分かれしてタコの足のように蠢いている時計」の事を話してくれたのを、この女生徒はしっかりと覚えていたのだ。
「わああああーーーおねーちゃんありがとう!!」
「ありがとうございます!!」
そして女生徒はダンブルドア少年の方を見る。
「はい、アルバスのはこれ。フォークス」
ダンブルドア少年はお礼を言う事も忘れて赤いマフラーに刺繍された不死鳥に見入っている。
「渡したいけど今ここにいない人らにはあとで渡しに行くとして、みんなのマフラーはどれも燃えないし濡れないし汚れないし破れないし持ち主以外には「呼び寄せ」られないし、それにすごく細い紐状にしたドラゴンの皮をたくさん編み込んであるし保護呪文もいっぱいかけたからだいたいの呪文をはじくよ!」
それを聞いたみんなは「買ったらいくらするんだろう」という無粋な事を考えてしまったが、さすがに口には出さなかった。
そして、ダンブルドア少年はその女生徒の手抜かりに気づく。
「すごく嬉しいですけど、先輩ご自身の分のマフラーは無いんですか?無いのなら、僕らみんなお揃いの持ってるのに先輩だけ持ってないって事になりますが」
女生徒は「あ」と言ったっきり動かなくなった。