GOLDinウタ 3

GOLDinウタ 3


カジノのある八つ星ホテルザ・レオーロに不本意ながらゾロを置いて退散し、ダウンタウンエリアで歩みを進める麦わらの一味。そんな中でも未だに腹痛に苛まれるルフィは腹が減った!と騒いでいた。


「私もお腹空いたな〜……」

「そんな事よりゾロを助ける方が先だろ!?」

「ったりめェだ!!じゃあまずメシだ!!!」

「いや何でだよ!!?」

「でも、腹ごしらえは大事だ!!……あっ!!」


腹ごしらえは大事という発言とそれに説得力を持たせるチョッパーの腹の虫が鳴る音にウソップはそれもそうかと納得する。


『よしっ!!!メシだ!!!!』


腹が減ってどうしようもないルフィ達は肉の匂いだの甘い良い香りがするだのと嗅覚を働かせ走っていってしまう。そんな彼らに仕方ないかといった具合でサンジやナミ達もついて行く。

するとそこへ胸元を露出させ、帽子とサングラスを着用し顔が見えづらい紫髪の女がナミの肩にぶつかり、すれ違っていく。


「あら、ごめんなさい」

「…………待って!」


だがナミはその女の手を掴んで歩みを止めさせる。すれ違い様にいたずらっぽく微笑んだその表情と掴んだ紫髪の女の左手に握られていた自分の財布を見逃さなかったのだ。

急に歩みを止め見知らぬ女を掴んで離さないナミにどうしたのかと一行が振り向くと、その女は悪びれる様子もなく口を開き始める。


「あら…腕は落ちてないみたいね "泥棒猫"!」

「あんたこそ…腕が落ちたんじゃない "女狐"…?」

「あっ!!?もう!!!」


すれ違い様に財布を盗み出したのは紫髪の女だけでなく、ナミもその女から財布をくすねていたようだった。"女狐"と呼ばれたその女は咄嗟に自分の財布を奪い返し、ナミも取られた自分の財布を取り返す。

互いの財布が元鞘に収まると何事もなかったかのようにナミは話を続ける。


「やっぱりあんただったのね…カリーナ!!」

「ウシシ!!久しぶり、ナミ!!!」

「てめェ…!!テゾーロの!!」


その姿に見覚えがあるフランキーに警戒されシーっ!と指を立てるカリーナに対してメシ屋探しから戻ってきたルフィがお前ら知り合いなのかと二人に問いかける。


「ええそう!!ナミとは腐れ縁の泥棒仲間って感じ!!ねっ!?」

「違うわよ…東の海で泥棒やってた頃、よくお宝の取り合いしてただけよ…!!」

「あんたがめつかったからね!!!ウシシ!!」

「あんたの方がよっぽどがめついでしょ!!?」


売り言葉に買い言葉、泥棒猫だの強欲女狐だのと睨み合う二人のもとへメシ屋を探し始めた時よりも目を輝かせたウタが割って入る。


「ねェ今、カリーナって言った!?カリーナって言った!!?もしかしてあなたがあのカリーナ!!?」

「えっ…?そ、そうだけど……」

「キャーーー!!!本物!!!本物だァ!!!私あなたのファンで…!!ここに来たのもあなたに会えればいいなと思って!!それでそれで……!!!」

「ちょっ!ちょっとストップストップ!!とにかく落ち着いて!!?」


ウタの声量とグランテゾーロの歌姫であるカリーナという名前に反応した周囲の人々から注がれる視線にカリーナは帽子を深く被り外していたサングラスを着用する。注目を集めたらマズいと直感的に判断したナミも興奮するウタを落ち着かせようとする。


「そうよウタ、少し冷静になって!!ここじゃ多分色々とマズいわ!!!」

「だってだってェ!!憧れの人に生で会えたのに冷静になんて…!!!」

「もういいから!!!メシ〜〜〜〜!!!!」


空腹の限界が近かったルフィが強制的にやり取りを中断させ、その場を離れる。

とりあえず人の往来の激しいところでグランテゾーロの有名人と話すのはマズいだろうということで、人目がつかないようメシ屋まで行くことにした一行はWILD COWという骨付き肉の看板が光り輝く店の個室で腹ごしらえに加えカリーナとの密会を果たしていた。


「カジノでは悪かったわね…でもテゾーロの手下として潜り込んでるから仕方なかったの!」

「いいろ!!ひにふんな!!!」

「ありがと!!それで……あなた、私のファンなんだって?」


そう呼ばれカリーナのすぐ傍に控えていたウタの表情はパァッと明るくなり、先程よりかはいくらか落ち着いてカリーナと話し始める。その両手に音貝をしっかりと握りしめながら。


「匿名で活動してた頃にあなたの名前を知ってそれから…!!それがまさかこうして会えて話せるだなんて……!!!」

「ウシシ!!こちらこそ、あの"秘密の歌姫"と会えるとは思わなかったわ!!」

「えっ!?もしかして……私の事知ってるの!!?」

「当然!!仮にもこのグランテゾーロで歌姫やるなら、他の歌手達の活動くらい多少は把握してないとやってられないもの!!!その中でもあなたの歌は特に耳に残ったわね!!好きよあなたの歌!!!」


自分の歌を知られていたばかりか好きとまで言われ、ウタは感動のあまり涙が零れ落ちそうになっていた。


「そ…そんな……!!…ちょっと感動しちゃって涙が………あ、そうだ!!もし会えたらと思ってコレ持ってきてたんだけど………サイン!!頂けないでしょうか!!?」


そう言われ、ウタが握りしめていた音貝を目の前に突き出されたカリーナはいいわよ!と快く承諾し、共に渡されたサインペンを音貝に走らせる。


「はいどうぞ!!」

「わはァ〜…!!!すご〜い……直筆のサインだァ…!!!」

「……ウタ、メシ食わねェのか?お前の分も食っちまうぞ」

「あ!こらルフィ!!そんな事したら許さないからね!!!…とにかくありがとう!!!一生大事にするよ!!!」


そしてご飯ご飯!と自分の席であるルフィの隣へと戻っていったウタを見届けたカリーナはその手に握られている自身のサインが入った音貝を指さしてウシシ!と笑いながら語りかける。


「言ってなかったけどそのサイン…10万ベリーよ♪」

「えっ?そうなの?じゃあ後で……」

「待ちなさいよカリーナ……ウチの船員の、それも稼ぎ頭の歌姫から金取ろうってんならまず私を通してもらわないと…ねェ?」

「ほんの冗談よナミ!!……まァいいわ、それより本題に移りましょう。あなた達、テゾーロマネーって知ってる?」

「…!!!……あんたやっぱりテゾーロマネーを狙ってるの!!?」

「テゾーロマネー?」


テゾーロマネー…それはここグランテゾーロの街に眠っていると言われる、世界に流通しているベリーの20%の総称の事だ。それを盗み出すのは泥棒にとって最高の栄誉であり、これまでも名のある怪盗や泥棒が盗み出そうといくとどなく挑んできたが今まで成功した者はただの一人もいないという。

そんな雲を掴むような逸話が話された中でカリーナはようやくスペアを作れたと黄金で出来た鍵をテーブルに置く。


「鍵…?」

「タワーのてっぺんにある巨大金庫の鍵よ!!」

「じゃあ…本当に!?」

「ええ…!!金庫に眠る……5000億ベリーを狙う!!!」

「5000億!!?」


5000億ベリーという、小さな国であれば買うことも可能な程の途方もない金額に一同は驚愕する。

そしてカリーナ曰く、5000億ベリーという大金であるテゾーロマネーの一部は天竜人に献金されているという。いわゆる天上金だ。


「金の力で天竜人を自由に動かしてるってわけ」

「だから海軍も世界政府もテゾーロには目を瞑っているのね…」

「フゥ〜……なるほど」

「しかも!!テゾーロマネーは海賊達にも流れている。裏世界を金で支配する黄金帝……それが奴の本当の姿よ!!!」


テゾーロの正体とテゾーロマネーの在処を話したカリーナから手を組まないかと打診される。金を盗めば仲間を買い戻せると言われ、フランキーは暴れて奪えばいいと反論するが先程ゾロの身に起きた事を引き合いに出しそれは無理だとカリーナは断言する。


「見たでしょ?私達の体にはテゾーロの力が込められた金が染み込んでいるのよ……その気になればいつでも固める事が出来る!!……だから、騙して奪い取る!!この街のルールで勝つしかない!!!」

「…………仕方ないわね」

「っておいナミ!!本当に信用していいのか!!?」


仮にもテゾーロの部下であるカリーナを信用していいのかと言うウソップにこれしか方法がないとナミは制止させる。


「……ゾロは救えんのか?」

「成功すればね」

「……!!いよーし乗った!!!」

「そうこなくっちゃ!!!ウシシシ!!」


船長であるルフィが乗ると決めた事で、麦わらの一味とカリーナは手を組むことになる。

そして気合いを入れようとテーブルをバン!と叩きナミが立ち上がる。


「狙いは5000億ベリー……!!!誰も手にした事のないテゾーロマネーを奪う!!…これは命懸けのギャンブルよ!!!」


皆が命懸けのギャンブルに一致団結し笑い合う中、ただし!とナミは続ける。


「取り分はこっち7であんたが3で……」

「はァ!!?冗談じゃないわよ!!!鍵は私が用意したのよ!!?」

「こっちは仲間の数が多いでしょうが!!!」

「私がいなきゃ何にも出来ない癖に!!!」


取り分取り決めからまた売り言葉に買い言葉のケンカが始まったかと思いきや個室の外、店内から皿が割れたような音が聞こえ皆がそちらの方へ目をやると、どうやら店でウェイターとして働く子供が運んでいた料理を客にぶちまけてしまったようだった。

おまけにその客はテゾーロの部下であり、許してくださいと謝る子供に対して借金2万ベリー追加などと横暴な態度をとっていた。

カリーナが言うに、その子供達は借金を背負わされた家族の為に働かされているのだという。一生テゾーロの奴隷として。

そして、この店の店長の大男が子供達と横暴な客との間に割って入るもただ土下座をするのみで、より一層客は横暴な態度を加速させ殴る蹴るの暴行を加える。

ひとしきり暴れて満足したのか客が帰っていき、駆け寄ってきた子供達や店員に対して店長は仕事に戻ろうと言う。その姿に他人事だからと割って入りはしなかったが、我慢ならなくなったルフィがおい!と声をかける。


「なんで戦わねェんだ!!!」

「……戦ったって意味ないだろ…!!」

「なんで!!」

「……お金がなけりゃあ…!!自由になれねェんだ!!!」

「お兄ちゃん!!!」


なんとも納得がいかないといった面持ちのルフィであったが、やはり他人事ではあるのでそれ以上言及はせずに店を後にし、一行は宿を取る。

外では既にゾロの公開処刑を執り行うショーのチラシがばら撒かれており、テゾーロマネーを奪い取りゾロを救うためにも逸る気持ちを抑え、明日に備えて眠りにつく。


​───────​───────​───────​───────


そして時刻は6時、目覚まし時計がけたたましく鳴り響き一行は寝癖と共に目を覚ます。

目覚めて早々始めるのは今夜決行予定のテゾーロマネー泥棒作戦の詳細詰めと朝食だ。テゾーロマネーが眠る巨大金庫のある八つ星ホテルザ・レオーロの大まかな階層を示した図面を広げたテーブルを囲み、一行は近場のファストフード店で買ってきたハンバーガーを頬張りながらカリーナが提案する作戦の詳細とそれに対する役割分担を決めていく。

それが終わると土産屋で作戦に必要な物資を買い漁る。ナミとロビンは集めた服を縫い合わせ加工し作戦用の変装服を用意し、ウソップとフランキーは色々な雑貨を組み合わせた便利アイテムを制作し、そんな彼らに対してサンジは紅茶を出して息抜きに一役買っていた。

真剣な面持ちで作業を進めるナミ達の傍らでルフィはオレンジ色のファンシーなワンピースと大きな赤い花の飾りを頭につけ、いわゆる女装をしていた。我らが船長の見慣れない姿にチョッパーとブルックは吹き出してしまう。

ウタは自分も負けてられないと白いシャツに黒いロングジャケットを羽織り、黒のスキニーパンツと黒の革靴を履き、胸元には青い薔薇をアクセントに加えて髪も短く纏めた男装をすることで対抗していた。

こうなっては彼らのファッションショーが止まることはなく、チョッパーはダンディな付け髭とサングラス、赤いロングコートでワイルドさを前面に押し出し、ブルックは紫色のチュチュやロングブーツにシルクハットなど煌びやかな姿へと変身していた。だがそんなファッションショーもナミのゲンコツにより強制的に閉幕させられてしまう。

そんなこんなで紆余曲折ありながらも作戦準備を整え夜の8時を迎えた一行は目的地である八つ星ホテルザ・レオーロを見据えていた。

ルフィとフランキーはゴーグルやマスクで顔を隠し、ウソップとサンジ、ロビンは清掃業者のような格好に身を包み、ブルックは骨身を黄金に輝かせチョッパーは全身緑色のミリタリーに。ナミは青い豹柄のドレス姿で鞭を持ちウタはファッションショーで披露した姿のまま黒のロングジャケットを翻らせ、カリーナはテゾーロの部下として振る舞う際の黒いドレスと赤いファーマフラーで計画通りやるわよと意気込んでいた。


「よーし!!!…で、どうやんだっけ」

「もうっ!!さっき説明したでしょ!?」


作戦内容を全く把握していないルフィに対してカリーナは最終確認として作戦のおさらいをしていく。

狙いである5000億ベリーがあるのはハイパースイートエリアにある黄金の天空ドーム。床も壁も天井も分厚い黄金で出来ており、破壊しようものなら覚醒した能力者でもあるテゾーロにすぐに気づかれてしまう。

そんなドームへの侵入経路はたった一つ、ドームへと続く螺旋階段を登るのみ。しかしそこには大量の映像電伝虫が配置されており普通に行ったのではすぐに見つかってしまう。しかし穴はある。

その穴を突くために先ずはチームA・ルフィとフランキーがホテルの外壁を登り上層階へと行き時計部分から侵入し、そこからコントロールルームの上にいるホスト電伝虫を操作し螺旋階段内部の映像のみを一時的に停止させる。

その間に別働隊である残りのメンバーチームBがカジノフロアからエレベーターを使い、因縁のVIPカジノとタナカさんのチェックを通り抜けハイパースイートエリアへと侵入する。そしてその奥にある螺旋階段への入口と警備を突破すればあとは一本道。映像電伝虫が止まっている螺旋階段を駆け上り最上階にある金庫をカリーナが用意した鍵を使い開け、その中にある5000億ベリーをホテルのランドリーカートに詰め込み堂々と正面から出ていく。これでミッションコンプリート。

これが今回のテゾーロマネー泥棒大作戦の全容であり、その中でも特に重大な任務を与えられたチームA・ルフィとフランキーが伸びる腕やスパイアイテムを駆使して外壁を登る中、チームBはカジノエリアの関係者以外は立ち入り出来ない地点でエレベーターに乗り込む機会を伺っていた。


「あれ…?そういえばサンジさんとウタさんは空飛べるんじゃ…?」

「あんな重いやつ乗せて飛べるかよ……それにおれはレディー達をお守りする大事な役目があるからなァ♡」

「私はフランキー乗せても飛べると思うけどあの姿じゃ目立っちゃうし……それにこの服装結構気に入ってるんだもん!!かっこいいでしょ!!!」

「し!!来た…!!」


雑談も程々に、お目当てである鉄の器を載せた台車を見つけたチームBは声を潜める。そして代車を運ぶテゾーロの部下達の前に堂々と姿を見せても問題のないカリーナが黒服の男達に話しかける。


「あらァ……素敵なマッチョさん達…!」

『おっ!!カリーナさん!!!』

「ねェ…それはどこに運ぶの?」

「あの…これはVIPエリアに……!!ダイス様が割ってしまうので、自分達が補充を!!」

「へェ…!!見せて見せて!!あっ♡すごいっ…なんて……おっきいの♡」

『はい……大きいです……♡』


それからなんて立派なの♡とその豊満な胸を強調させた色仕掛けにより男達の視線がカリーナに釘付けとなっている間に他のチームBの面々は音もなく鉄の器の中へと入り込んでいく。それを確認したカリーナは男達に手を振って送り出し、自身もその後に続く。

そして誰にも疑われることなくVIPカジノエリアへと侵入し合流を果たしたチームBは螺旋階段へと繋がる入口前へと到達する。入口前に立つ二人の警備員をロビンがハナハナの能力により咲かせた腕で関節技を決め気絶させ、無事中へと侵入したチームBだったがそこから先はカリーナも知らない未知のエリア。何が起こるか分からない。

そこへ早速何やら怪しいゾーンへと到達する。赤いスポットライトのようなものが怪しく通路を照らしており、その光の出所には目を赤く光らせる梟がいた。


「赤目フクロウ…!!」

「なんだ!?」

「あの目から出てる光が生き物に触れると大声で鳴く天然トラップよ!!」

「………っ!!あいつら……やっぱりそうだ!!」

「どうした?」

「あいつら……首を動かす方向を言ってる!!……ほら上、下、上って!!」


動物の話が分かるのかとカリーナに褒められふにゃふにゃになるチョッパーをウソップがたしなめ、チョッパーの指示のもと赤目フクロウの視線が自分達に向かないタイミングを見計らって走っていくチームB。

少し騒がしくしてしまったためか、赤目フクロウ達の視線が集まっていき何とか通過しようと急ぐが、足元まである着慣れないロングコートを着たブルックがもたついてしまう。そしてとうとう赤いスポットライトを照らされてしまい赤目フクロウの天然トラップが炸裂されるかと思いきや…


「ぎゃああああしまったああああ!!!……あ、あれ?」

「お前……生き物じゃないから大丈夫みたいだな」

「寂しい〜〜!!!」


何はどうあれ天然トラップ地帯を抜けたチームBはそのまま一本道である通路を駆け抜け、螺旋階段へと到達する。ホスト電伝虫への工作任務に当たるチームAと電伝虫で連絡を取り、成功報告を待つチームBだったがここでトラブルが発生する。

ホスト電伝虫に妨害念波を送る白電伝虫を取り付けていたルフィが見つかり侵入がバレてしまったのだ。その姿はすぐに街中へと写し出され白日のもとに晒され、テゾーロによるエンターテインメントによりルフィとフランキーは遥か下へと真っ逆さまに落とされてしまう。

そして連絡を取っていた電伝虫が拾った螺旋階段をチェックしろというテゾーロの声を聞いたチームBはその場を離れようと、赤目フクロウの視線も気にせずに来た道を逆走していく。

その道中でテゾーロの指示によりやって来た警備員達とかち合い、真っ向から蹴散らす他なくなってしまう。


「ウタ!!サンジ君!!」

「オッケー!!やっちゃうよ!!!」

「お任せを!!!"粗砕(コンカッセ)"!!!

「"軽やかな舞曲(リエーヴェ・ダンス)"!!!」


サンジは警備員へ強烈なかかと落としを食らわせながら飛び越えモップを持つ右腕を軸にし回転蹴りをお見舞いし、ウタは背負い込んでいたヒポグリフを取り出し地面を風のように切り抜け敵をなぎ倒す。

あらかた片付いたところでサンジはその右脚に炎を纏わせ、ウタは自身を鼓舞するように歌を歌う。


「"悪魔風脚(ディアブルジャンブ)"!!」

「"強き詠唱曲(フォルテ・アリア)"!!」


「"焼鉄鍋(ボアル・ア・フリール)スペクトル"!!!」

「"破壊の編曲(ハボック・アレンジ)"!!!」


とてつもない破壊力により螺旋階段へと繋がる入口の扉諸共警備員を吹き飛ばした二人はナミからやりすぎ!と怒られてしまう。なおも追ってくる警備員達から逃れるためにカリーナは煙幕を撒き、一行は逃走を再開する。

そして長い通路を抜け扉を開くと、先程までの目が痛いほど照明が散りばめられた所から一転、厳かな雰囲気のある場所へと到達する。


「えっ…なにここ?」

「…ここは天竜人の泊まっているハイパースイートよ」

「天竜人…!?」

「あっ!ナミあそこ…!!」

「あれは……!!」


ウタが見つけたのは今ちょうど話題に出ていた天竜人・カマエル聖とその一派。だえ〜と顔を揺らす鼻の長い天竜人らから身を隠し何とかやり過ごした一行はナミの提案によりある奇策を実行に移す。

その奇策を実行させた一行は堂々と正面から螺旋階段へと繋がる通路の入口へと向かっていく。その出で立ちと立ち振る舞いを先程までのものとは変えながら。


「聞いたぞえ〜〜〜!!!」

『あっ…!!カマエル聖!!!』

「一体どういうことかえ〜〜〜!!わしの金を狙って…賊が入ったというのは本当かえ〜〜〜〜!!!」


ブルン!と顔を左右小刻みに揺らし警備員を問い詰めるのはパンダのコスプレをしたチョッパーに乗り、カマエル聖に変装したウソップだ。カマエル聖はウソップのものと同じくらいに長い鼻を持つため、それを青く塗ればもはや見分けがつかないレベルの変装となってしまっていた。

その横に控え、同じく天竜人の変装をしていたウタとカリーナが前に出て警備員達へ威張り散らす。


「全く…何をやっているのアマス!!」

「これだから下々民は…!!」

「すみません…!!!金庫の警備は強化しましたので……御安心を」


ウソップ達の完璧な変装に全く気づかずに警備員達は天竜人と接する時と同じように膝をつきへりくだる。だがそれに対してウソップはダメぞえ〜〜と一蹴する。


「お前達は信用出来ないぞえ〜〜〜!!今すぐ金庫から…全員離れるぞえ〜〜〜!!!」

「え!!?そんな……!!」

「素直に言うことを聞かないだなんて……さてはあんた達も悪い奴らの仲間アマスね!!」

「それともわちきらが間違って……いるとでも?」


自分達が間違っているのか、天竜人からそう言われその通りだと答えられるのは同じ天竜人や相手の事情など気にしない傍若無人くらいのものだろう。

その中に入っていない警備員達は滅相もないと恐れ慄くしかなく、自分達を排除しようと迫る天竜人専属騎士の鎧を纏ったサンジと黒服に身を包んだナミとロビンを恐れ後ずさりしていく。


「天竜人に逆らう気か!!」

「抵抗しようだなんて考えないでちょうだいね?」

「そんな事をしたらどうなるか…」

「お分かりざんすかァ〜……ヨホッ!!ヨホホホホ!!!」


奴隷役であるはずのブルックにまで凄まれ、警備員達はいそいそと持ち場を離れカマエル聖一派に変装した一行へ螺旋階段へと続く通路への入口を明け渡す。

入口を通過し、天竜人の威光により警備員の排除に成功した一行は螺旋階段を目指す。天竜人に成り代わるなどというバレれば一大事になる手段を取った一行だったが、ゾロの処刑まで残り時間が少ない以上なりふりなど構っていられない。

そうして螺旋階段へとたどり着き駆け上がると、そびえ立つ黄金の扉が一行を出迎える。


「ハァ…ハァ……着いた…!!これが金庫の扉!!!」

「後はこの鍵で開ければ……私達の勝ちよ…!!!」


そう言いカリーナは自身が用意したスペアの鍵を鍵穴へと差し込み解錠すると、黄金の扉が煙を吹き開かれる。

その先にあるのは数え切れないほどの大量の札束、途方もないほどの財産である5000億ベリーが一行の目の前に広がる。


はずだった。







「It's ………SHOW TIME!!!!」


巨万の富でもなければそれが眠るとされる巨大金庫でもなく、一行の目の前に広がっていたのはSHOW TIMEと場を盛り上げるテゾーロと打ち上がる花火の数々。そしてそれらに沸く観客達の姿だった。

あまりにも唐突なその光景に一行は呆然とする他なかった。そんな間抜けなツラを晒す彼らに分かるように教えてやろうとテゾーロが歩み寄る。


「ハハハハハ……!!驚いたかね!?ここは天空劇場!!!」

「天空…劇場……?」

「そうだ…!!ロロノア・ゾロの処刑に相応しいステージだと思わないか…!?見たまえっ!!!」

『ゾロ!!!!』


テゾーロの指し示す先にスポットライトが当てられると、そこには黄金の彫像として首周り以外を固められたゾロがいた。その周囲には彼が愛用する刀三本が添えられ、まさにゾロ専用の特注処刑台といった様子だ。

そんな3億2000万の首が飛ぶショーをさらに盛り上げようとテゾーロはこれまでの出来事全ての種明かしを始める。


「素晴らしい眺めだろう…!!ここには大金庫も5000億ベリーもない!!天上金はもう天竜人の船の中だ…!!お前達は騙されたんだよ!!!私の忠実な下僕……カリーナにな」

「…!!!……カリーナ…あんた……!!!」

「最初に言ったでしょ?ここはグランテゾーロ……騙された方が負けなのよ…?」

「そんな…………!!……ちっくしょう……!!!」


騙された方が負けというこの街のルールに則り仕掛けてきたカリーナにまんまと嵌められたと悔しがるナミの姿に観客達は大盛り上がりを見せる。

そしてこれまでの一行の奮闘が全て茶番であったことがダイスら幹部達からも告げられる。


「お前達はずっと監視されていた!!」

「人気のギャンブルなんですよ…!!金庫にどこまで迫れるか」

「名の知れた海賊がやって来た時はいつもやってるのよ…?ご苦労さま!!」

「命懸けで金を目指すバカ達が最後に騙される………これぞ最高のショー!!!………素晴らしい…!!君達もよーく盛り上げてくれた……ご褒美に面白いショーを見せてやろう」


そう言いテゾーロが指を鳴らすと天空劇場中心の塔にある映像が映し出される。

そこに映っていたのは地下へと落とされたルフィとフランキー、そして見た事のない人間がちらほらといる地下のポンプ室の様子だった。

ルフィ達は地下へと落とされた後、借金塗れになった者達が堕ちる黄金の地下牢獄に投獄された者達と協力し、テゾーロの力が込められた黄金を洗い流せる海水を得ようとポンプ室までたどり着いていたのだ。

ルフィの頭突きによりポンプから海水が溢れ体に染み込んでいた黄金が流れ落ち喜ぶその姿を確認したテゾーロは再び指を鳴らす。するとポンプ室と外部を繋いでいた穴や扉が一斉に閉じられ、張り巡らされていた金網から大量の海水が流れ込みポンプ室を水没させようとする。

その様子を映像越しに見届けることしか出来ずに悔しがる一行を見て、テゾーロは高笑いし自身の勝利を確信する。


「ハハハハハ…!!!希望が絶望に変わる瞬間!!これこそが……究極の!!エンターテインメンツ!!!金は力だァ……!!金が全てだ!!金のない奴は…何も手に入らない!!!愛も…夢も…強さも…自由も…そして……希望もだ……!!!」


金の力の雄大さを語るテゾーロの横暴ぶりに我慢ならなくなったウタとサンジが両の手の拳を握りしめ、怒りを露わにする。


「……もう黙って聞いてられないよ…!!」

「あァ……このクソ野郎がァ!!!」

「ウタ!!サンジ君!!!」


呼び止めるナミの声に構わずにウタは"ウタモルフォーゼ"により背中にジェット機を出現させ装備し、サンジは"空中歩行(スカイウォーク)"により空を蹴りテゾーロへ向かっていく。

そんな二人を迎え撃たんとするテゾーロはフィナーレと行こうか!?と言い、ロープのようにしなる無数の黄金を周囲から出現させ空を飛ぶ二人を撃ち落とそうとする。

ジェット機や鎧、槍での薙ぎ払いや蹴り技で抵抗するウタとサンジであったが、すぐに取り押さえられてしまう。それは後方に控えていたナミ達も例外ではなく、カリーナを除くチームBの面々はあっという間にテゾーロに捕まり黄金のロープにより宙吊りにされてしまう。


「ハハハハハ……いい姿だな!!」

「……テゾーロ!!!」

「さァ………特等席で見るがいい…!!ロロノア・ゾロの………首が飛ぶ様を!!!」


ゾロを処刑せんと出てきたのは黄金で出来た巨大な斧とそれを持つ巨大な腕が二本ずつ。それらを向けられたゾロと黄金に固められていくナミ達の姿を晒しものにしながらテゾーロはこの最高のショーのフィナーレを飾る口上を述べ始める。


「さァ皆様……死にゆく者達に盛大な拍手を!!!"ゴールドスプラッシュ"!!!


グランテゾーロの全てを支配する黄金を噴出させ金粉の雨を降らせる"ゴールドスプラッシュ"。ショーの最後を彩るそれを見届けたテゾーロは狂気を孕んだ瞳と笑みを浮かべゾロの処刑を執行する。


「さらばだ……"麦わらの一味"…これでおれの勝ちだ…!!!It's ………エンターテインメンツ!!!!


巨大な斧がゾロの首めがけて振り抜かれ、ゾロの首が飛びショーは最高潮の盛り上がりを見せる​───────ことはなかった。

それどころか突如としてグランテゾーロ全体の照明が落ち夜の闇に飲まれ、"ゴールドスプラッシュ"もその勢いを落としていき金粉の雨を降らさなくなってしまう。

予定のない突然の事態、アクシデントに慌てふためく幹部達とどういうことだ!と憤るテゾーロを見たナミがふふふと笑ったことで、テゾーロの苛立ちはより加速する。


「くっ……!!何がおかしい!!!」

「ふふふ…!!騙されたのは……どっちかしら?」


ナミのその言葉を合図にしたかのようにグランテゾーロ全体を揺らすような地響きが鳴ったかと思うと、先程まで一際大きな黄金を噴出させていた塔から黄金ではない水のようなものが塔の頂上付近を決壊させながら噴出されていく。

しかもそれはただの水ではない。それを知らしめたのは真っ先に水を浴びた"ヌケヌケの実"の能力者であるタナカさんであった。


「んにゃ!?こ…これは…!?海水〜……!?」

「何だとっ!?」

「テゾーロ様!!!」

「こちらへ!!」


自身へ襲いかかる海水をダイスが防ぎ、傘を持ってやって来たバカラの元へ避難したテゾーロであったが、周囲を見渡すと海水を噴出させているのは中心の塔だけでなく"ゴールドスプラッシュ"専用の噴出口からも大量の海水の雨がグランテゾーロ全体に降り注がれており、借金返済の為に街で働かされている労働者達は自由になったと歓喜していた。

自由になったのは街の労働者達だけではない。黄金に固められ身動きが取れなくされていたゾロやナミ達も黄金の支配から逃れ自由の身となる。

そして、降り注がれる海水の雨の中には地下に投獄されていた者達と変態までもが混ざって降ってきていた。周囲に出来ていた海水溜りに落ちてから程なくして、変態は勢いよくいつものポーズを取りながら地上へと戻ってくる。


「スーーーパーーーカムバック!!!」

「フランキー!!!」

「どうやら間に合ったようだな!!」


海水の雨が止んだ後、間に合ったと言うフランキーに対してテゾーロは苛立ちを募らせ何をしたのかと問い詰めると、先程のお返しとばかりにナミ達はこれまでの出来事全ての種明かしを始める。


「あんたがショーの最後に金粉の雨を降らせるのは分かってた!!教えてもらったのよ?………カリーナにね!!!」

「っ!!?」

「悪いわね……!!私が本当に組んでいたのは"麦わらの一味"!!」

「カリーナ…!!!」

「あんた達が見てたのは全て……私達のお芝居だったの」


ついさっきまでテゾーロの傍に控えていたはずのカリーナがナミの隣、"麦わらの一味"の側へと回り、その立場を明確にする。

そしてカリーナとテゾーロの繋がりの象徴とも言えるスペアの鍵を取り出したナミはそれを後ろの海水溜りへと投げ捨てる。


「私達には金庫もお金も………どうでもいい!!!この海水され手に入ればね」


海水を手に入れたことにより水を得た魚、もとい海水を得た海賊となった"麦わらの一味"は残りの種明かしと共に戦いへの意気込みを見せる。


「これさえ浴びればもう固められませんからね!!」

「おれが下に落ちたのも作戦の内さ……海水パイプを噴水のパイプに繋ぎ変えるためのな…!!」

「もちろん…ルフィは何も知らないけど」

「これでお前のルールに従わなくて済む……」

「おれ達は戦える!!」

「後はこっちのルールでやるだけだ!!!」

「ただのVIPのお客様じゃないってこと…教えてあげる!!!」

「私達は………海賊なのよ!!!」


ナミの宣言と共に変装として着用していた衣装が一斉に脱ぎ捨てられ、黒を基本として随所に青色が仕込まれたスーツに身を包んだ麦わらの一味withカリーナがその姿を表す。


「欲しいものは…力で奪う!!!さァ仲間……返してもらうわよ!!!」

Report Page