GOLDinウタ 4
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「テゾーロォ〜〜〜!!!!」
海賊の流儀に臆する間もなく背後から飛んできた己の名前を叫ぶ声を耳にするテゾーロ。目の前にいる九人の謀反人以外で自身の名前を不躾に呼ぶ者など一人しかいない。フランキー達とは遅れて海水の噴出によりルフィが打ち上げられてきたのだ。
そしてうわあああと情けなく叫びながらボヨンボヨンと飛び跳ね仲間達と合流を果たす。
「ルフィ!!」
「お帰り!!」
「やったわルフィ!!作戦成功よ!!!」
「ぶはっ!!ハァ…ハァ……作戦!?」
「ええ!!後はあいつを……ぶっ飛ばすだけよ!!!」
「貴様ら………!!!」
自分達ばかりかグランテゾーロにいる全ての者達を黄金による支配から解放し、なおも好き放題言ってくる海賊達に対して苛立ちを隠せないテゾーロへナミは挑発するように口を開く。
「あら…怒ってるのかしら?ここはグランテゾーロ……騙された方が悪いんでしょ?どうかしら…!?世界一のカジノに相応しいショーじゃない!?これぞ!!」
『究極のエンターテインメンツ!!!!』
「お前はおれが……ぶっ飛ばす!!!!」
自分達が発してきた常套句をそっくりそのまま返され怒りが頂点に達する寸前まで来ていたテゾーロの背後へそれに拍車をかける男が現れる。
「どうだ、今の気分は?希望が絶望に変わった……瞬間のな…!!」
手ぬぐいを頭に巻き、ルフィ達と同様の色合いのスーツに身を包んだゾロが意趣返しを込めてテゾーロに食ってかかる。
それに対してテゾーロは言葉を荒らげるでもなく、ゾロが口にした希望と絶望という二つの言葉を静かに反芻させる。
「何が希望だ……!!!何が絶望だ………!!!」
────────────────────────────
おれは…スターになるんだ…!!
そのくだらない歌をやめて!!!くだらない!!うるさいテゾーロ…!!!
金さえあれば………!!
いくら出す?これでおれ達は仲間だ
このクズが!!!金が払えねェだとォ!!?
素敵ね……その歌
いつか…私は買われちゃうけど……心まで買われはしない…
ステラ!!買えるさ!!おれが…お前を買ってやる!!!
金さえあればなーんでも買えるんだえ!!
ステラ!!ステラー!!!
ありがとう…!!あなたの気持ちが何より……嬉しかった!!私は……心から幸せだった!!!
アッハッハ!!……誰が笑っていいと言ったのかえ?
アーハッハッハ………!!!
────────────────────────────
「…………おれの前で……………おれの前で………おれの…前で………!!!」
「テゾーロ様……!?」
「おれの前で笑うなァ!!!!」
そう言い地面へと腕をめり込ませたテゾーロは覚醒した能力を発動させ、雷のようなものを八つ星ホテルザ・レオーロ全体に迸らせ大爆発を引き起こす。
ルフィ達が立っていたステージが真っ二つに割れ足場が不安定となった所へ周囲から黄金が立ち上り、観客席へと襲いかかり飲み込んでいく。
「呪縛が解けたから何だと言うのだ……解けたのならまた縛ればいい!!!」
テゾーロの言葉通り、一度支配が解けようとも能力が込められた金を染み込まされればまた支配されるのみ。観客席を飲み込み次はお前達だと言わんばかりに向けられた黄金の波を回避しようと空を飛ぶ手段を持つ者達がそうでない仲間達を抱え飛び上がっていく。
「まずい!!掴まれ!!!"風来噴射(クー・ド・ブー)"!!!」
ゾロとブルックを乗せたフランキーに続き、チョッパーを抱えたウソップをロビンが掴み"百花繚乱(シエンフルール)"「ウイング」で羽ばたき、ルフィを抱えたウタが"ウタモルフォーゼ"で出現させたジェット機で飛び上がり、カリーナを抱えナミにしがみつかれたサンジは幸せな顔をしながら"空中歩行(スカイウォーク)"で空を蹴り上がっていく。
標的から逃げられはしたがそんな事などお構いなしに立ち上る黄金の波の勢いを増しながら、テゾーロはこの街の全てが自分の意のままと声高に宣言する。
「何が面白いかは………
おれが決める!!!!」
そう言い、自身と部下達を黄金の波に飲み込ませ天空劇場を黄金で満たし溢れさせる。その様子を空中から眺めていたウソップ達であったが、「ウイング」の時間切れとなったロビンがもう限界と呟き落下していく。
その間にも溢れ出してきた黄金を支えることが出来ずに、八つ星ホテルザ・レオーロは崩壊し一切の形跡も残さず崩れ去ってしまう。それを何とか地面に降り立った一行が唖然としながら視認し、テゾーロ達はどうなったのか確認しようとした時、まともに立つことも出来なくなるほど地面が激しく揺れ出す。
「さァ……ショーの再開と行こうか!!!」
どこからか聞こえてきたテゾーロの声と共にルフィ達が立っていた足場に巨大な黄金の手が伸びて来る。その掴んだ足場を支えにテゾーロを模した巨大な動く黄金像が姿を表し、その中にいると思われるテゾーロがルフィ達を見下ろしながらこの世界の条理を説き始める。
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「分かるか麦わら…?これこそがこの世界の全て……!!お前らはただ支配されるだけのゴミ…!!!これが神の姿だァ!!!ハハハハハハ!!!」
「うるせェなァ……!!!支配なんかされねェって言ってんだろうがァ!!!"ギア3"!!"ゴムゴムの象銃(エレファントガン)"!!!」
「……図に……!!!乗るなァ!!!」
なおも抗う若造に対してテゾーロは巨大な黄金像の右腕をより大きく篭手のようなものを纏わせ拳と拳をぶつけ合わせると、力の差を表すようにルフィをダウンタウンへ吹き飛ばしてしまう。
そんなルフィを心配する暇もなく、次なる刺客がゾロへと襲いかかる。
「やるな…!!」
「てめェ…!!!」
先程までの黒スーツを着ていた姿からうってかわり黄金の鎧を身に纏ったダイスが黄金の斧をゾロへと振り下ろしてきたのだ。
すんでのところで受け止め、弾いてきたゾロに対してダイスは武装色の覇気を纏った頭で頭突きを仕掛けていく。
「いいねェ!!!」
「"二剛力斬(ニゴリザケ)"!!!」
「ウゥッ…!!ウッ……キモティー!!!もっとォ…!!凄いのくれよォ……!!!」
ゾロの一撃を頭から血を流しながらも快感に変換させるダイスの鎧を見てその鎧!と言うウソップに対してスルルルと遥か上空に立つタナカさんが同様の鎧を纏いながら口を開く。
「ただの鎧じゃないですよ…!!テゾーロ様の力によって作られたこの"ゴールドアーマー"は……!!」
「ゴールドアーマー!!?」
「つまり……格段にパワーアップしたって事よ!!!」
黄金の渦から姿を現しそう言い放ったのは不幸を振りまく女バカラ。幹部達が勢揃いした事を確認したテゾーロはそれ以外の下っ端にあたる部下達に檄を飛ばす。
「さァお前達……金が欲しいだろう?敵の首を取った奴には特別金をやろう!!!さァ…しっかりショーを盛り上げろ!!!おれの………駒としてなァ!!!」
周囲を幹部達や下っ端の黒服達に囲まれ、剣や銃火器を向けられる一行。
そしてショーの開始だと言わんばかりにテゾーロの黄金像から放たれた黄金の塊が地面に突き刺さったのを合図に幹部達と黒服達が一行に襲いかかる。
テゾーロの援護もありゾロを吹き飛ばし刀を奪ったダイスが丸腰となったゾロと対峙し、テゾーロの左拳による攻撃がナミとカリーナ、フランキーへと襲いかかり、"ヌケヌケの実"の力で翻弄し銃撃するタナカさんに釣られたサンジが壁を蹴り砕きロビンを人質に取られるなど、戦況は様々であった。
そんな中、幹部の一人であるバカラは部下である黒服達に次々とタッチしていき、運気を吸い取っていってしまう。
当然、運が無くなった黒服達は倒壊してきた柱に巻き込まれるという不運に見舞われてしまい、それを見たウタやウソップ、チョッパーとブルックは驚愕し疑問を口にする。
「何やってるのあの人…!?」
「味方をアンラッキーにしてますよ!?」
「だが…とにかくチャンスだ!!"緑星"!!"ドクロ爆発草"!!!」
ウソップがバカラへ放った弾は真っ直ぐにバカラの元へと向かっていく。だがそこへオラオラと勇む黒服の男がバナナの皮で足を滑らせ、その弾とバカラの間に割って入り爆発を受け止めてしまう。
それをラッキーとだけ口にし、なんてことはないといった様子の自分に驚くウタ達に対してバカラは背中から剣を抜きながら解説していく。
「"ラキラキの実"の力は……他人の運気を吸い取るだけじゃない…!!それを自分の運気に変える事が出来る……つまり今の私は無敵って事よ!!!」
そう言いながらせっかく抜いた剣を放り投げ地面に突き立てたバカラは懐から一枚のコインを取り出してくる。
「あんた達なら……これで充分…!!このコイン一枚で倒してあげるわ!!!」
「……そんなんでやられるわけねェだろ!!!」
「さァ…?どうかしら………」
放り投げられ自分達の間を転がっていったコインで倒せるわけないとチョッパーは叫んだが、そのコインはある一人の黒服の男の足元へと転がっていき、コインを踏んだ黒服は足首を挫きその痛みにのたうち回り別の黒服のズボンをパンツごと脱がしながら倒れ込む。
それを確認するために下を向いた黒服は放とうとしていた矢をあさっての方向へと飛ばしてしまい、放物線を描いて飛んでいったその矢は別の黒服のリーゼントを撃ち抜き、自慢のリーゼントを撃ち抜かれた黒服は恐怖とショックで倒れながら銃を放ち別の黒服のリーゼントを吹き飛ばす。
その黒服もまた恐怖とショックで持っていたバズーカを倒れながらあさっての方向へと撃ち放つ。その先には壁の上から大きな樽爆弾を投げようとする黒服達がおり、バズーカ砲により爆撃された樽爆弾は爆発寸前になりながらウタ達の所へと吹き飛んできてしまう。
『ウッソー!!!?ぎゃあああ!!!』
「………あら、ラッキー」
そして投げられたコインは樽爆弾の爆発によりバカラの元へと戻っていく。
たった一枚のコインからこれほどの攻撃を仕掛けられた一同は煙を出しながら倒れ込んでいた。
「あんなの……どうすれば…?」
「攻撃を続けるんだ……!!いつか運も尽きるはず!!」
「なるほど……とにかく突撃あるのみってわけね…!!」
「それまで……あなた達が持つかしら!?」
『やるしかねェ!!!』
四人揃ってバカラへと向かっていくがその度にコインを放り投げられ、巡り巡ってやってくる攻撃に体力を奪われていく一同。
上からタライを落とされ、謎の赤い鳥につつかれまくり、バナナの皮で滑って顔から地面へと落下し、とてつもない爆発に巻き込まれ息も絶え絶えになっていく。
「あらァ…もう限界かしら?まだ運はたーっぷりあるわよ…?」
「クソーっ!!どうしたら…!!!」
「…おれに考えがある!!……必殺!!!"ウソップダッシュ"!!!」
『えええええ!!?』
現状を打破する秘策が放たれるかと身構えたバカラだったがまさかの敵前逃亡を図られてしまい、呆れ顔でそれを見送ると残されたウタ達に対して嘲るように話しかける。
「あらあら……逃走!?みっともない仲間ねェ……ん?」
「繰り返す協奏曲(ダカーポ・コンチェルト)"!!!」
しゃがみこんでいた体勢から即座に立ち上がりバカラへと薙ぎ払い攻撃を仕掛けるウタ。だがそれもどこからともなくバナナの皮を踏んでやって来た黒服の男が割って入りバカラを守る。
どれだけ不意をつかれても絶大な運により守られるバカラはフフ…と笑いながらウタを見据える。
「あなたも不憫ねェ……逃げ出すような腰抜けが仲間だなんて……あの時テゾーロ様の誘いに乗ってこっちについてれば良かったのに」
「お断りって言ったでしょ!?それに…私の仲間をバカにするような事言わないで!!!」
「あらあら…お気に障ったかしら?……でもこんな調子じゃあ後ろの仲間達もいつ逃げ出すかわかったものじゃないわよ?」
「そんな事にはならないし……たとえそうなったとしても私は逃げないよ!!!」
そう言い、自身へ槍の穂先を向けるウタに対してバカラはそう来るならと、右腕を掲げパチンと指を鳴らす。すると壁の上から誤射されたバズーカ砲が放り投げられていたバカラの剣の近くに着弾し、吹き飛んできた剣が掲げられていたバカラの右手にすっぽりと収まっていく。
「あなたには特別に……このコインと剣で相手してあげるわ!!そして最後には…その自慢の喉を掻き切ってあげる!!!」
「やれるものならね!!!」
こうして幹部達と麦わらの一味による戦いが苛烈を極める中、テゾーロにより吹き飛ばされてきたルフィが戦線に復帰しテゾーロと激しくぶつかり合う。
そんな中、突如としてグランテゾーロ全体に海軍の軍艦から一斉砲撃が撃ち込まれていく。天上金護衛作戦の任務の為にテゾーロを潰さんとするロブ・ルッチの指揮により放たれた砲撃はテゾーロの黄金像を揺らがせるが、続く第二波は謎の火拳により防がれてしまう。
そしてテゾーロも神に逆らうなと軍艦へ向けて反撃していくが、ルフィからも放たれた火拳により軍艦の砲撃以上に体を揺らされてしまう。
「くっ……!!!力に…屈しろ!!!"黄金の業火(ゴオン・インフェルノ)"!!!」
巨大な黄金の拳による右ストレートと大爆発により吹き飛ばされたルフィは血塗れになり倒れてしまう。それを見たカリーナはそんな…と膝をつきその場から動けなくなってしまい、テゾーロに目をつけられてしまう。
「いい顔だなァ……カリーナ…!!お前には失望した!!!」
「あ……あァ……!!!」
「カリーナ!!!」
巨大な黄金の足に踏み潰される直前のカリーナをナミが助ける。なぜ助けたのかと問うカリーナに対してナミはあんたには借りがあると返す。以前二人揃って捕まった時に、二人共助かるために命懸けで囮になってくれたでしょと。
「ナミ……!!」
「カリーナ……あんた私達と組んだんでしょ!?だったら信じて!!!あいつらは絶対負けない!!!私達は………チームでしょ!!?」
組んだのならば最後まで戦おうと意思を露にする二人だったが、そこへテゾーロが手を伸ばしナミを捕まえ絶望しろと投げかける。しかし、私も信じる!と折れないナミにテゾーロはその顔を歪ませる。
そして遥か彼方へ吹き飛ばしたルフィからその手を離せと言われ、テゾーロはルフィの方へと向き直る。
「……笑えよ、麦わら!!こいつは…まだお前を信じてる……!!お前達はおれとのギャンブルに負けたクズ!!お前らの命はおれに買われたんだ!!!この船にいる敗者達……全てがおれの…所有物なんだよォ!!!」
「ハァ…ハァ……!!!お前は………!!!おれの大嫌いな奴らにそっくりだ!!!その手を離せ!!!!」
「…ッ!!!」
その時、ルフィに重なって見えた過去の自分。かつての自分と全く同じ目を向けるその姿に一瞬動揺したテゾーロだったが、すぐに思い直しフン!と鼻を鳴らす。
「……笑えと言ったら笑え……!!おれのものをどうしようと…自由だァ!!!」
「ナミィ!!!」
「そうだろう!!?カリーナァ!!!」
捕まえていたナミをカリーナめがけて投げ飛ばす。激突するかと思われたその時、ギア2によりスピードを上げたルフィが猛ダッシュして二人の腰に腕を巻き救い出す。
そこへテゾーロが間髪入れずに左腕を振り下ろすが、それに構わずルフィは二人を投げ飛ばし仲間に後を託す。
「ロビーーーーン!!!」
「"スパイダーネット"!!!」
後を託されたロビンは飛んできた二人を咲かせた腕で作られた網でキャッチし、窮地を脱させる。それに舌打ちするテゾーロであったが、すぐに黄金像の左腕の異変に気づく。
潰したはずのルフィが圧倒的な黄金の質量を押し退け反撃に転じていたのだ。ギア4・バウンドマンへと変身したルフィは黄金像の左腕を破壊すると勢いそのままにテゾーロの前へと躍り出る。
「"ゴムゴムの"ォ…!!!"猿王銃(コングガン)"!!!!」
渾身の一撃によりテゾーロの黄金像を殴り倒すルフィ。そして船長の反撃を境目に、他の一味も反撃を開始していく。
人質となっていたロビンが能力により咲かせた無数の腕の数々でタナカさんを拘束し銃を手放させ、身動きを取れなくさせていた。
「ぬっ……!!お前ェ…!!!」
「フフ……手の内は隠しておきたかったけど、船長に呼ばれたら応えるしかない……あなた、無機物しか抜けられないんでしょ?」
「……ロビンちゃん、怪我は?」
「大丈夫よ」
「そうか………すまねェ!!!」
自分の力だけで守りきれなかった事に対する怒りの炎により全身を燃え上がらせたサンジがタナカさんの顔面めがけて強烈な蹴り技を叩き込んでいく。
「"悪魔風脚(ディアブルジャンブ)"…"一級挽肉(ブルミエール・アッシ)"!!!」
「にゃーなななななァ"ァ"ァ"ァ"!!!」
「………レディーを危険に晒して……!!このクソコック!!!」
サンジがタナカさんを蹴り飛ばし勝利する一方で、バカラによるラッキー劇場は未だに続いている。
既にチョッパーとブルックは倒れ伏せ、残るウタも息遣いが荒く限界が近い事は明白だった。
「フン、中々頑張るけど……これで最後よ!!!」
「くっ……!!!」
「待たせた………な!!!」
ウタの前に放り投げられた一枚のコイン。また巡り巡って何らかの攻撃に転じるかと思われたその時、秘策を持って帰ってきたウソップが放った大きな袋がそのコインを飲み込み、三人を窮地から救い出す。
逃げ出したと思った男が戻ってきた事を意外に感じながらも、バカラは何をしにきたのかとウソップに問いかける。
「もちろん!!仲間を救うためだ!!!……だがおれは狙撃手、援護が花道!!行けェウタ!!!」
「…!!オッケー任せて!!!」
後を任されたウタが地を蹴り飛び上がってバカラへと斬りかかっていく。それをバカラは適当な剣の構えで迎え撃とうとする。
「何度やっても同じよ!!簡単に弾いてあげるわ!!!」
「"重々しい受難曲(グラーヴェ・パッション)"!!!」
「きゃあああ!!?な、なんで…!?」
「やった……!!攻撃が通った!!!」
ウタが振り下ろした槍は何者にも阻まれることなく、バカラが持っていた剣を弾き飛ばし、肩に装着されていたゴールドアーマーの一部も吹き飛ばしていく。これまで幾度となく仕掛けていたにも関わらず通らなかった攻撃が当たり驚愕する一同。
その中で最も驚いているのはこのラッキー劇場を開いているバカラ本人であった。
「そんなバカな…!!まだ充分運は残っていたはず………まさか!!!」
まさかと思い振り向いたその先では先程ウソップが放ったコインを飲み込んだ袋が破裂し、大量のコインと共に7の数字が四つも揃ったスロットが飛び出してくる。
「流石だなラッキー女!!奇跡の大当たりだ…!!!」
「ジャック……ポットォ!!?」
「凄い凄い!!流石ウソップ!!!」
「くっ…!!まだ終わらないわよ!!!」
喜ぶのもつかの間、機転を利かせたウソップの策略とジャックポットに気を取られていたウタがバカラにタッチされてしまう。
ウタの運気を吸ったバカラは痛む右腕を庇いながら後退し、勝ち誇った顔をウタへ向ける。
「油断したわね…!!運気が無くなったのならまた吸えばいいだけのこと!!そして……運が無くなったあんたはもうおしまいよ!!!」
「まずいですよウタさん!!!早く逃げないと!!!」
「もう遅いわよ……そこのあなた!!さっさとこの小娘を吹き飛ばしなさい!!!」
「任せてくださいバカラさん!!!」
バカラが呼びかけた一際大きなバズーカ砲を持った黒服の男がウタ達の方へと走ってやってくる。そのバズーカ砲でウタを吹き飛ばそうというのだ。そして、ウソップ達がウタを守ろうと動き始める前に事件は起きる。
バズーカ砲を持った黒服の男がバカラから吹き飛んでいったゴールドアーマーに足を引っ掛けすっ転んで気を失い、さらにはバズーカ砲の引き金を引いてしまったのだ。その砲撃が向かう先は…
「………えっ…?ギャ"ァ"ァ"ァ"!!!………なぜ………運の無い小娘じゃなく………私に…………!!?………そう…いえば……」
その時、バカラの脳裏に浮かんだのは案内人として麦わらの一味を先導していた時に見たウタの運の無さ。それを思い出したバカラはある結論に辿り着く。
「………この娘………吸える運をほとんど………持ってないんだわ…………!!!」
そう言い倒れたバカラを見てウタは今のどういう意味!?とウソップ達に問いかけるが、同情する声ばかりが集まってくる。
「あァ…なんだその……ま!いつかいい事あるって!!」
「お、おれはウタの歌大好きだぞ!!だから…とにかく大丈夫だ!!」
「ええ…!!運が無いくらいなんだって言うんです!!そんなもの音楽の力で吹き飛ばしちゃいましょう!!!」
「……なんで勝ったのにこんな締まらない終わり方になるのー!!もうっ!!!」
ウソップの機転とウタの運のなさによりバカラのラッキー劇場が閉幕した横では、奪った刀でダイスがイエスイエス!とゾロに斬りかかっていた。
丸腰になりながらも何とか躱していくゾロだったが、ダイスが大きく振り下ろしてきた一撃を見極め武装色の覇気で固めた両腕で受け止める事に成功する。
「ぬァ…!!?」
「そんな腕じゃあ…おれは斬れねェよ……!!!"無刀流 黒縄大竜巻"!!!」
「おあァ!!?……舐めるなァ!!!」
刀を持たずに発生させる竜巻により、斬る事は叶わずともダイスの巨体を大きく上へ吹き飛ばすゾロ。だがダイスも負けてはおらず、体を回転させ地面を抉りながらゾロへ体当たりを仕掛けていく。
対するゾロは僅かに生まれた猶予を利用し唯一取られていなかった和道一文字を手に取り鞘へ収め、黒く染め上げていく。
「黒刀…!!!"死・獅子歌歌"!!!!」
黒く染め上げられた名刀の一閃はダイスが奪った秋水を弾き飛ばし、時が止まったかのように体当たりの勢いも殺しその場に留めさせる。
スーッと役目を終えた名刀を鞘へと収めつつ、ゾロはニヤリと笑みを浮かべながら動かないダイスへ声をかけていく。
「どうした…!?気持ち良すぎて………声も出ねェか!!?」
「ア………アァ………!!!………アヘェ……♡」
ゴールドアーマーすらも打ち砕くその破壊力に今まで感じたことの無い快感に身を震わせ恍惚な笑みを浮かべながらダイスは倒れていく。
ボスのテゾーロが殴り倒され、さらに幹部達まで負けたとなれば下っ端の黒服達はグランテゾーロはもう終わりだと一目散に逃げ出していく。
だが、そんな狼藉をテゾーロは許さない。
「おい……!!おれの所有物が………どこへ逃げる…!!?」
倒れた黄金像から金を伸ばし全てを飲み込む大波へと変化させ黒服達や街で働く借金塗れの敗者達、逃げようとするVIPの客や自身に歯向かう麦わらの一味達をも黄金に飲み込ませたテゾーロは狂気に満ちた笑いと共に、その中心地に出現させた黄金の塊の上に立ち周囲を見下ろしていた。
「見ろォ!!!この黄金の……美しさを……!!おれは…全てを溺れさせ飲み込む!!!」
「あっ…!?体が、沈む…!?」
「おれは人を…幸せにする…!!おれ故に人は……喜び…囚われ…苦しみ…引き裂かれ……絶望する…!!!」
黄金に沈みゆく人々を眺めながら盲目的に言葉を紡ぐテゾーロに対して睨みを利かせる男が一人。武装とゴムの融合により空を蹴り飛ぶ事のできるルフィがテゾーロへと向かっていく。
「……!!!テゾーロォ!!!」
「いいぞ!!怒れ麦わら!!!お前が守ろうとした大事なものは全て…おれの力に飲み込まれる!!!……それが、この世界だ……!!!全ては!!黄金に支配される!!!!」
「だったら…!!!支配してみろよォ!!!」
黄金により天高く登っていくテゾーロの元へ飛びながらその両の腕をより大きく膨らませるルフィ。対するテゾーロは支配してみろと豪語する生意気な小僧を飲み込もうと一際大きな黄金の塊を顕現させ、撃ち放つ。
「"黄金の神の裁き(ゴオン・リーラ・ディ・ディオ)"!!!!」
「"ゴムゴムの"ォ!!!"獅子王(レオレックス)バズーカ"ァ!!!!」
巨大な黄金の塊に渾身の一撃を叩き込むルフィ。だが黄金の圧倒的な質量と輝き、力強さに圧倒され、地面に広がる黄金の海に叩き伏せられてしまう。
それを見たテゾーロは今まで見せたことのないような狂気と激情が込められた笑いと共に勝利宣言を高らかに行っていく。
「ハハハハハ……!!!どうだ!!おれは神になったんだァ!!!"ゴールドスプラッシュ"!!!」
聞くもの全てを恐怖に陥れるような笑いと共に放たれた美しい黄金の噴水はテゾーロの勝利を祝うかのようにグランテゾーロを華々しく飾っていく。
だがそんなものは認めないと、押しつぶされたはずのルフィが黄金の塊を押し返していく。
「何が神だ……!!!お前なんかただの怪物だァ!!!」
その様子を仲間達は静かに見守る。必ずルフィが勝利すると信じて。
その期待に応え、己の目標を成し遂げるためにもルフィは黄金の塊を押し退け突き抜けていく。
「おれは………!!!海賊王になる男だァ!!!!」
突き抜けていったその一撃はテゾーロへ届き、彼の立つ黄金の塊をも吹き飛ばしていく。
その刹那、怪物の頭に浮かんだのは今は亡き愛しき人の言葉。だがそれを何度も思い返す事は叶わず、砕け散る黄金の輝きと共に天高く散っていく。
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その身柄はテゾーロを捕らえようと動いていた海軍の軍艦へと降っていき、甲板へ叩きつけられていた。
「えらく美しく散ったな……!!神でも降ってきたのかと思った」
「……あいつの通り名は"怪物"だ…!!!テゾーロを拘束しろ!!」
革命軍のNo.2とCP0きっての切れ者が言葉を交わす中、グランテゾーロでは各所で爆発が起こっていた。
力の限りを尽くし倒れるルフィに寄り添うウタとチョッパー、その周囲を囲む仲間達の元へ駆け寄りながら何の音とナミが疑問を口にすると、グランテゾーロに設置されている巨大モニターから100という数字が表示され、警告音と共にカウントダウンが始まっていく。
「何……あれ!?」
「みんな!!急いで逃げて!!!テゾーロは……船を沈める気よ!!!」
カリーナからそう伝えられ、ナミの号令を合図に出航の準備を始めようと船へ戻る一行。そんな中、先回りして船に戻っていたフランキーが将軍を引き連れて道を塞ぐ瓦礫を退かしながら避難する連中を先導していく。
ナミも急いでと避難していく連中を誘導する中カリーナもと急かすが、先に行ってと拒まれてしまう。
「私はこの船を遠ざける!!」
「えっ……?」
「今逃げてもみんな爆発に巻き込まれる!!!………私が船を遠ざければ…犠牲が少なくなるはず!!」
自ら犠牲になろうとするカリーナに何言ってんの!?と止めようとしたナミであったが、それをカリーナが抱きしめ制止させる。
「いい仲間だね……最期にあんた達と戦れて楽しかった…!!!」
「カリーナ………………はっ!!?フランキー!?」
「フッ……よろしく!!!」
「………わかった!!!」
カリーナに優しく突き飛ばされたナミをフランキー将軍が抱え、サニー号へと戻っていく。
そして宣言通り、カリーナは船を操縦し避難していく船の数々や軍艦からグランテゾーロを遠ざけ、巻き込まれる人間を最大限まで減らしていく。自分一人残りながら。
遠くからでも聞こえるカウントダウンの音を聞きながらその様子を眺める様々な立場の人間達。その中には当然ナミやルフィ達の姿もあった。
「おい!!あいつは!?もう爆発すんぞ!!?」
「そんな……本当に自分一人犠牲に……!?」
カウントダウンも残り少なくなり、皆も覚悟を決めていく。
5…
4…
3…
2…
1………
0
世界最大のエンターテインメントシティを巻き込んだ大爆発はヒュー…と打ち上がる花火から始まっていた。次々に打ち上がる美しい花火の数々。
しかしグランテゾーロを巻き込んだ大爆発は待てど暮らせど起こることはなかった。
「何で花火が………あ…!!いた!!!………へ?………怪盗カリーナ参上……!!?あいつ…!!やりやがった!!!船ごと盗んで行きやがったんだ!!!」
望遠鏡で覗いて見た先にいたのは怪盗カリーナ参上!!と書かれた旗を掲げるカリーナの姿。
カリーナは最初から黄金を船ごと奪取することが狙いだったのだ。それに気付いたロビンは自分達はまんまと使われたと呆れ返る。
「なんだ…!!おれ達騙されたのか!!!しししし!!!」
騙された騙されたと笑い合う暇もなく、海軍から砲撃を撃ち込まれる麦わらの一味は船長の号令を合図に一目散に逃げ出していく。
遠ざかっていくグランテゾーロを眺めていたナミは腰に添えられていたある一枚の紙に気が付く。
「あ…?何これ……!!………あの"女狐"!!!」
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懐かしくも憎らしいその手紙にナミは微笑む。両手の指にはめた九つの黄金の指輪を煌めかせながら───────