GOLDinウタ 2

GOLDinウタ 2


「うっひょ〜!!!これがカジノかァ〜!!!広いな〜〜」

「はい!当カジノには様々なアトラクション、ゲームがございます。分からない事は何なりとお聞きください。ご案内致しますので」

「わりィな!!」


バカラによりカジノへと案内されたルフィ達の前にケースを持った黒服の男が現れ、そのケースが開かれると中には大量のチップが詰められていた。バカラ曰く2000万ベリー分のチップを貸してくれるとの事だ。

目の前に突如広げられた大金を目の当たりにしたナミは目の色を変えながら問いかける。


「2000万!!?えっ…ほんとに借りていいの!?」

「はい!遠慮なく」

「いよっ!!ありがとう!!おれ遊んでくるー!!!」

「あ!!ルフィ!!!」


チップの貸付が済んで早々にルフィはゴムの腕をケースに伸ばしいくらかのチップを掴むとナミの制止も聞かずに駆け出してしまう。それに触発されたウソップとチョッパーもおれ達もー!とルフィに着いていってしまう。

そんなバカトリオに憤り追いかけようとするナミを見たウタはそれを止めると、ドンと胸を手で叩いて自信満々に口を開く。


「まーまー待ちなよナミ!!ここは私がお姉さんとしてあいつらを見張っておくからさ!!じゃあ行ってくるね!!!」

「あ、ちょっとウタ!!……もう、大丈夫かしら……」

「お!!ウター!!お前も来るのか!?うし、行こーぜー!!」

『おー!!!』

「私は三人が無駄遣いしないように見張りに来ただけだからね!!!」

「………不安しかないわ………あんたら全員待ちなさいよー!!!」


自由気ままに振る舞い、ある施設の中に消えていった四人をナミは追いかけようとするが借りたチップの入ったケースが思っていたよりも重く、追いつくことが出来ずに見失ってしまう。

そして四人が消えていった施設の名前を見たナミが何のゲームなのかと一人疑問を吐露すると、施設の案内人と思われるバニーガールがカメ車による参加型レースであることを伝えてくれる。そしてその参加料が100万ベリーである事も。

その脅威の参加料に血相を変えて施設内に踏み込むナミ達であったが時すでに遅し。参加手続きを終えたルフィ達は他の参加者と並んでルール無用のカメ車レース、HOT SHELLのスタート地点に陣取っていた。

三人を止めにいったはずのウタまでルフィ達と一緒になってカメ車に乗っており、ナミは激怒する。


「ゴラァウタ!!!あんたそいつらを見張るんじゃなかったの!!?何一緒になって参加しちゃってんのよ!!!」

「ごめーん!!!でも面白そうだったからつい…!!」

「…どうせこうなるだろうと思ってたから咎めはしないけど……!!あんた達ィ!!!負けたら承知しないわよ!!!」

「任しとけって!!勝てばいいんだろ勝てば!!!」


自信満々に返すルフィは運転席後ろの後部座席に座っておりその隣にウタが、肝心要の運転席ではウソップがハンドルを握り助手席にはチョッパーがいる。

参加台数は六台、カスタムOK妨害OK、とにかく一番早くコースを一周して戻ってきた者が優勝となりその暁には参加費が10倍、つまり1000万ベリーとなって返ってくるこのカメ車レース、緊張の一瞬…


Lady……Go!!!」


その火蓋が今、切って落とされた。六台一斉にスタートし最初に抜け出たのは目立たず儲けるがモットーのジミー商会社長のジミー・マイアーズ。ハンドルを握ると性格が変わるその男が先頭に立ったが、すぐさま他の参加者による妨害がジミーを襲う。

機関銃を乱射され制御を失ったところで大砲を撃たれカメ車が大破、他を突き放していたジミーだったが早々に脱落となってしまう。

その後トップに躍り出たのはジミーを脱落させた張本人、曲がった事が大嫌いなストレート軍曹だ。トップに出たのをいい事に軍曹は後方を走るライバルに向けて大砲を連射し妨害を図る。

そんなこんなでレースは最初のカーブを迎えるが、曲がった事が大嫌いな軍曹殿はそのまま突っ込みコースアウトにより脱落してしまう。

残るは四台、螺旋状に登る坂道のゾーンにてレンタルカメ車で参加した麦わらのルフィチームが怒涛の追い上げを見せ最下位から二位にまで躍り出る。だが一位をひた走るヤブ医者ホワイトジャックはそれを許さず、妨害用のオイル注射を施してしまう。


「やっべェ!!!」

『うわあああ!!!』


あえなくスリップしてしまい、後続車両達にも続々と抜かされてしまいルフィ達に焦りが募る。


「急げウソップ!!」

「こんなので負けないで!!」

「…分かってる!!!」


ウソップの巧みなハンドル捌きによりレースに復帰した麦わらのルフィチーム。依然として一位を走るホワイトジャックを残りの三台が追うレース展開となっていたが、ここで大きく動きを見せる。南の海の牧畜王ケント・ビーフJr.が巨体を活かした体当たりによりホワイトジャックをコースアウトさせてみせたのだ。

だがそこをさらに後続の北の海の新聞王タイムス伯爵がインから刺し追い抜いていく。悔しがるケント・ビーフJr.の後方からはさらにルフィ達が追いすがる。


『行っけ〜〜!!!』

「…やれェ!!ポーク!!!」

「モウ〜!!!」


やれと命じられたケントの相棒ポークは懐から干し草ロールを持ち上げると、ルフィ達へ投げつけ妨害を行う。

激しい順位の入れ替わりのあったトンネル地帯付近を抜けるといきなりのダートコース、そして急カーブだ。前方二車は何とか曲がっていったが干し草により前が見えづらくなったルフィ達はそうはいかない。ようやく視界が晴れた時には既に曲がる事も減速することも出来ずにコースアウトしてしまう。

コースアウトし落下した先でグルグルと、ゴルフを楽しんでいた海軍中将茶豚らの周りを回っていたルフィ達はこうしちゃいらねェとルフィがその腕をコースの崖まで伸ばし復帰を試みる。


「"ゴムゴムの"ォ……"ロケット"!!!」

「いいぞルフィ〜!!!そのまま行っけェ!!!」


コースアウトしたダートコースを超え、GRANTESOROと書かれた看板も抜け、巨大観覧車も抜けたルフィ達はコースへと復帰していく。その姿はコースアウトして優勝は絶望的だとわなわなと震えていたナミに笑顔を取り戻させ、最後のデッドヒートを演出しようかというところであった。

「馬鹿な!?」

「やるな」

『行っけ〜〜〜!!!』


最後のラストスパート、だがデッドヒートを演出するのは前方の二車ばかりでルフィ達は追いつく気配すらなかった。


「おいウソップ!!このままじゃ負けちまうぞ!!?」

「だけどもうアクセルベタ踏みだ!!追いつけねェよ!!!」

「やべーやべー!!ナミに怒られちまうぞおれ達!!!」

「…もう、しょうがないんだから…!!カメさん達!!!このラストスパート…もっともっと張り切っちゃおう!!!"快速な詠唱曲(アレグロ・アリア)"!!!

『!!!……カメカメカメカメカメ!!!!』


ウタが歌うその旋律によりカメ車を動かすカメ達の体の底から力が湧き起こり、これまでのものとは比較にならない程のスピードで前方の二車をあっという間に追い抜き、そのまま他の追随を許さぬままコース一周を果たしてしまう。

文句の付けようがない優勝を勝ち取り、横に向けてブレーキをかける車体から飛び降りたルフィとウタは満面の笑みを浮かべてガッツポーズをする。


「ニッヒヒヒ!!おれ達の勝ちだ!!!」

「そうだねルフィ!!ま、最後の私の歌があったからこその勝利だね〜!!」

「違う!!おれのロケットがあったから勝てたんだ!!!」

「はァ!?私の歌あってこその勝利でしょ!!?」

「おれが!!!」

「私が!!!」

「おいおいそんなケンカすんなよお前ら!!」

「そうだぞお前ら!!それにほら、見てみろよ!!ナミすげ〜嬉しそうだぞ!!これでおれ達怒られなくて済むな!!!」


そうチョッパーが指し示す先には確かに目を輝かせて歓喜に沸くナミがいた。


「いよォし!!この勢いで勝ちまくるわよー!!!」


カメ車レースでの勝利でついた勢いを無駄にはせんと、ナミの号令により各自別れて多種多様なギャンブルに赴き始める。

巨人族のディーラーが取り仕切る巨大ルーレットではナミとフランキーが見事赤の25を的中させ、黄金に光り輝くこれまた巨大なスロットではウソップ・チョッパーの指示のもとスロット操作をしたゾロがジャックポットを決め、ディーラーと一対一でブラックジャックを行うテーブルではブルックが見守る中ロビンが連戦連勝の大盤振る舞い、それぞれ赤と青のグローブをはめた屈強な男二人の内どちらが勝つかを予想する闘技場ではルフィとサンジが予想を当て大はしゃぎ。

こうして各種様々なギャンブルを快勝していった麦わらの一味は借りた2000万ベリーを元手に3000万ベリーも稼ぎ出す超一流ギャンブラーとして一度腰を落ち着けていた。


「すごい……!!3000万ベリーも儲かってる……!!!ウッフフフ♡」

「すっげ〜!!!」

「後はウタがどうなったかだけど……あ!!戻ってきたぞ!!おーい……ってあれ?どうしたんだ?」


ウタが戻ってきたのをいち早く見つけたチョッパーだったが、ウタの様子がおかしいことにもいち早く気づく。いつも元気な彼女とはうってかわり顔を俯けふらりふらりとした足取りで戻ってきた幼馴染を見たルフィは眉を顰めながら声をかける。


「ウタ、どうしたんだお前…もしかして腹痛ェのか!?」

「うゥ…グズッ……!!ル"フ"ィ"〜!!!」

「うおっ!!ウタお前……!!やっぱ腹痛ェんだな!!?」

「いやどう見ても腹いたのそれじゃねェだろ!!!」


涙で顔を濡らしたウタに抱きつかれてもなお腹痛を心配するルフィにウソップが突っ込む中、あら?とナミは本来であればウタが持っているであろう物がないことに気がつく。


「ウタ……あなたチップはどうしたの?100万ベリー分渡したと思うんだけど……」

「ナ"ミ"ィ"〜……私…貰った100万ベリー全部……全部………!!!」

「全部?」

「全部スっちゃった〜!!!うわあ〜ん!!!」

「全部!!?あんた……あんだけ自信満々だったじゃないの!!!」


ナミの言う通り、グランテゾーロに来る前も来てからもウタはカジノでの勝負に人一倍のやる気を見せていた。にも関わらずこの有様とは何があったのか、それをここまでウタを誘導して来てくれたバカラが説明し始める。


「ウタ様は大変素晴らしい勝負師でいらっしゃいましたよ。ブラックジャックやポーカーなどでは相手の持つカードを完璧に当て、スロットではジャックポット目前の7の二つ揃い、闘技場での勝者予想などもほぼ完璧でした」

「じゃあなんで負けたんだよ!?」

「単純でございます。トランプでは役が作れず、スロットでは機材トラブルに見舞われ勝負が無効に、闘技場では勝利を目前にした剣闘士が急な体調不良でダウンしてしまったのですよ……Unlucky…☆」


ああ…とウタの不運っぷりに同情し、依然として縋られたままになっているルフィはしょうがねェなあといった面持ちだ。


「にしてもお前がこんな泣いてんの見るの久しぶりだな〜!!魚人島の宴の時より泣いてんな〜!!!」

「不運なウタちゃんも素敵だァ♡♡」

「は〜……まァこっちでもう3000万ベリーも勝ってるし、そう気にしないでウタ……この負けは後でたくさんお捻り貰って10倍返しにすればいいから」

「いや鬼だなお前!!」


仲間達から暖かい慰めの言葉を受けて傷心気味であったウタが少しずつ回復していったところを見計らい、バカラが新たな提案を持ちかけてくる。


「さて皆様、気を取り直して…そろそろVIPルームへ行きませんか?」

「何だそれ?」

「ハイリスクハイリターン、勝てば億万長者のスペシャルギャンブルに参加しませんか?」


何やら怪しい提案にウソップは気後れするが、一味の財布の紐を握るナミはその瞳に炎を宿し提案に乗っていく。


「もちろん……!!ここは勝負よ!!」

That's GREAT☆ 最高ですわ!!」


ナミの勝負宣言にニッコリと笑みを浮かべたバカラは一行を黄金に包まれた広いエレベーターへ案内し、上階のVIPルームへ招待していく。

そうして階層を表す扉の上にある矢印がVIPルームを指し示しエレベーターが止まるが、扉が開く気配がなく着いたのか疑問に思っているとバカラがお待ちをと言いながら扉近くの壁を叩くと、スルルル…と大きな顔を持つ黒ずくめの男が扉をすり抜けてエレベーター内へと入ってくる。


『うわぁっ!!!』

「何だこいつ!!?」

「彼はこのカジノの警備責任者、タナカさんです」

「ようこそ…スルルルル……!!」


タナカさんと紹介されたその男はバカラ曰く"ヌケヌケの実"の能力者らしく、無機物なら何でもすり抜けられるとの事だった。

そんなタナカさんからどうぞお手をと手を差し伸べられたルフィがその手を握ると、タナカさんは扉に向かっていきすり抜けていく。そしてタナカさんの手を掴んだルフィはもちろん、タナカさんと繋がるルフィの手を握った他の一行達も扉をすり抜けVIPルームへと入っていく。


「すげェ!!!すり抜けた!!!」

「ここがVIPルーム…!?……何なのここ!!?」

VIPルームと思われるその部屋の中央には大きな人間二人とその間に鉄の器が鎮座していた。天井から吊るされた金魚鉢や壁全面に張り巡らされた水槽、黄金に身を包まれた女性がテーブルの上で踊る他、仮面を付けたセレブがペットの猛獣を傍に置いているなどまさに金持ち達の楽園といったような様相を呈していた。

そして中央ではさァ張った張った!との掛け声が聞こえ、そのゲームに心当たりのあるゾロがへェ…と口を開く。


「スペシャルギャンブルってのは丁半か!」

「はい!」

「…ん?おいおい!!海軍もいるのか!?」

「ほんとだ!!!やべっ!!」


一行の横を海軍が通り過ぎ、見つかったら捕まると焦ったウソップが顔を隠そうとするが、バカラがご安心をと声をかける。


「グランテゾーロは世界政府によって認められた特別中立区……海軍は海賊に手を出さない、そういうルールになっております!」

「へェ…!!」

「なるほど…!!」


バカラからの説明を聞き終わるとVIPルームの中心、丁半博打では大きな鉄の賽と共に筋肉隆々な男が登場していた。


「何だあいつ…!?」

「彼はダイス。元は裏世界一危険と言われたデスマッチショーで無敗を誇ったチャンピオン…あまりの打たれ強さに相手がいなくなってしまったらしく、今はディーラーとしてここを任されています」

「……ペッ!!んん……!!イエース!!!」

『おお!!!』


噛んでいたガムを吐き捨てたダイスはその両手で鉄の賽を掴むと天高く放り投げ、ルフィ達を興奮させる。

そして放り投げられた賽を入れるために鉄の器を掴み、賽が入ったのを確認したダイスはイエース!と叫び器をひっくり返し丁半博打の賽の目を決定させる。


『すっげェパワー!!!』

「……はーーー………!!!」

「あの斧で割る気ですよ…!!」

「勝負!!!」


だが賽の目は決まってもその結果は器によって覆い隠されており誰にも分からない。それを白日のもとにする為にダイスは斧を手に取り、空高く飛び上がり回転し鉄の器を割ろうというのだ。


『飛んだァ!!?』

「回ったァ!!?」

「おォ〜〜………!!!イエース!!!!」

『えェ〜〜〜〜!!!?』

「斧意味無ァーーー!!!」


手に持つ斧で器を割る……ことはなく、頭突きで器を割った事に驚愕する一行。斧で割るのをミスしたのか…?しかし当の本人はというと……


「………!!!気持ちいい……!!!!」

「どうです?エキサインティングでしょう?」

「意味が分からないわ」


賭けに挑む側もディーラー側も色んな意味でエキサインティングな滅茶苦茶っぷりにロビンが苦言を呈するが兎にも角にもと、バカラが2000万ベリーに加えて3億ベリーもの大金を貸そうと言い出し、一行はまたさらに驚かされてしまう。


『3億ゥ!!?』

「これは…一気に億万長者になるチャンス!!!」

「いやおいでも…!!」

「さすがにここは慎重に…!!!」

「いよーし!!全部丁で!!!」

『ちょっと待てェ!!!』


借りた3億とここまでに得た5000万ベリーを全て賭けたルフィを止めようとするも既に賽は投げられてしまい、勝負の結果を固く見守る他なくなってしまう。

そしてその結果は……


「ピンゾロの丁!!!」

「いよーし!!なっはっはっは!!!」

「ええ〜!?すげ〜!!!」

「倍よ!?倍!!!」

「さすがルフィ様!素晴らしい強運です!!」

「いける…!!私達本当に……億…!!億ゥ〜!!!」

「おい落ち着け…!!」


目をベリー色に変えたナミが恍惚の表情を浮かべる中、周囲がある一点の方向を見てざわめき出す。一行もそちらの方へ目をやると丁半博打へ繋がる階段を降りるサングラスとスーツの男と目が合い、その男から声をかけられる。


「これはこれは…グランテゾーロへようこそ…!!楽しんでもらえてますか?」

「誰だお前?」

「いやいや…初めまして。私はこの船のオーナー…ギルド・テゾーロと申します」

「あ!お前か!!カジノ王ってのは…!!おれは海賊王になる男だ!!!」

「いやなに張り合ってんだよ!!?」


カジノ王に張り合う未来の海賊王にツッコミを入れる勇敢なる海の戦士の姿にハハハ…!と笑う。


「未来の海賊王にお越しいただけるとは実に光栄だ…!!!…おやおや?そちらにいらっしゃるご麗人はもしや"海賊歌姫"では?」

「え、私?」


ルフィからウタへと向き直ったテゾーロはそのまま歩み寄り、サングラスを上げニッコリとウタへ笑いかけながら言葉を続ける。


「それとも……元赤髪海賊団の"秘密の歌姫"とお呼びした方がよろしかったかな…?」

「なんでそれを知ってるの…!?」


"秘密の歌姫"、それは一年前にウタが匿名でのTDによる歌の発信を行った時に新聞に綴られた異名のようなもの。その正体を知るのは赤髪海賊団や麦わらの一味等のウタ本人の歌を知る者しか分かりえないはず。

少なくとも目の前のカジノ王がそれを知る術はないはずだとウタは警戒するが、身構えられてしまったテゾーロは誤解を解こうと弁明する。


「ああそんな警戒せずとも…!!何を隠そう私…貴女のファンなのですよ!!実に素晴らしい歌声をお持ちで…!!」

「なーんだ私のファンなんだ!!でもなんで"秘密の歌姫"の正体が私だって分かったの?」

「いやなに…私は腐るほど金を持ってましてねェ……その気になれば匿名で歌の発信を行う者の特定など容易なのですよ。それに貴女の声や先程のカメ車レースでの素敵な歌声を聞けばすぐに分かりますとも!!」

「そうなんだ、ありがとう!!声といえばこの船に入ってきた時に聞こえてきた歌っておじさんのでしょ!!今直接聞いてみて分かったよ!!おじさんもいい歌声持ってるね!!」

「…貴女程の歌声を持つ方にお褒めいただけるとは身に余る光栄……!!さてと…」


ウタに歌声を褒められたテゾーロは雑談も程々にと丁半博打の席に向かいながらルフィへと話しかける。


「どうです?未来の海賊王よ…是非私と一勝負しませんか…?」

「勝負?」

「折角ですからこういうルールはどうです?貴方が勝ったら特別に賭け金の十倍をお返ししましょう」

『じゅ!?十倍ィ!!?』


現在ルフィ達の所持しているチップは7億ベリー。つまりこの勝負に勝てば70億ベリーになって返ってくるというのだ。美味すぎる話ではあるが、テゾーロ曰く金は有り余る程ある為にこれくらいの条件でないと興奮しないのだという。

おまけに負けても十倍払えとは言わないのだから、勝負を挑まれたルフィからして見れば断る理由などどこにもなかった。


「さァ…どうします?」

「いいぞ!!おれは負けねェ!!!」

「おい…大丈夫なのか…!?」

「今は流れが来てる……私はルフィの運を信じる!!」


常にネガティブなウソップは割のいい勝負とはいえ大丈夫なのかと心配するが、ここまで快勝を続けてきたルフィをナミは信じて送り出す。

そして持ちうるチップを全て取り出したルフィは丁半博打の席に座り全てのチップを差し出す。


「よし!!決めた!!全部半!!!」


ルフィが勝負と決めたのは賽の目の合計が奇数となる半。一世一代の大勝負を一行が固唾を飲んで見守る中、ここまでルフィ達をサポートしてきたバカラが動き出す。


「さすがはルフィ様!!見事なマックスベットでございます…!!」

「…?ルフィ!!待って!!」

「このバカラ…感動いたしました」


ロビンが呼びかけるも間に合わず、するりと手袋を外したバカラがルフィの肩に触れ、勝負が始まってしまう。そして結果は…


「……イエース………!!!」

「あれ?負けちまった……」

「………え……?うそ……ルフィが負けた………!?」


賽の目は6と2の丁。半で勝負に出たルフィの負けである。

あっさりと敗北を喫し信じられないといった面持ちの一行を嘲るようにテゾーロは手を叩きながら笑う。


「はっはっはっはっ……いやァご苦労ご苦労。中々愉快なショーだったよ…バカラ」

「ショー!?どういう事!!?」

「あなた……能力者ね!!」


ロビンの看破に驚くナミとウソップであったが、当の言い当てられた本人はなんてことはないといった具合で返答する。


「えェそう……私は"ラキラキの実"の能力者…!!触れた人間の運気を吸い取る事が出来ますの」

「運気を…!?」

「じゃあルフィの!!?」

「ん?おれ今、運ねェのか?」


運がないのかと問いかけたバカラにええと返されるが、ルフィの体にどこも異常はなかった。

だが途端にルフィはギュルルルと鳴る腹を抑えると腹が痛ェ!と苦しみだし、一行を驚かせる。


「嘘だろ!?」

「ルフィが腹いただと!?」

「何を食べても平気なあのルフィが!!?」


未知の体験に苦悶の表情を浮かべるルフィはその場を一歩一歩後ずさっていく。その先に落ちてあるバナナの皮に気付くことなく。


「あ!?うあああああ!!?」

『えェ〜!!?』


バナナの皮を踏んでしまい、派手にすっ転んだルフィは後方へ吹っ飛び壁に激突する。なおも腹いたが治まらない様子で腹を抑えたままであった。


「バ…バナナの皮!!?」

「なんて能力だ!!"ラキラキの実"!!!」

「こんなのインチキじゃない!!!」


能力で運を吸い取られては勝負もへったくれもないと憤り抗議するナミであったが、このカジノの支配者達からそんな抗議に意味などないとばかりに嘲笑われる。


「スルルルル……インチキ!?」

「お前達に一つ教えてやろう!!」

「フフ!この街の絶対ルールを!!」

「ここでは騙された人間は……敗者なのだよ!!!」

「………ッ!!!嵌められた……!!」


周囲のギャラリーが沸き立つ様を見て自分達がしてやられた事を認めた一行は丁半博打の上に立つテゾーロ達を見据えると、テゾーロからはさて…とこれまでのゲームの精算を求められる。


「貸した3億と2000万ベリー…返してもらおうか…!?」

「……!!あんたらなんかに払うわけないでしょう!!?」

「では働いて返してもらうしかないなァ…?」

「働く?」


働いて返すという金がないならそうしろという常套句を持ちかけられ、疑問を投げかけたロビンにテゾーロは答える。この街で働いている者達はそのほとんどがカジノで負け借金塗れの奴隷だというのだ。

それも断るなら強制的に回収するしかないと笑うテゾーロに一味きっての強者達が得物を持ち出し、タバコの煙を吹く。


「面白ェ…!!」

「やれるもんならやってみやがれ」

「私達を敵に回したこと…後悔させてあげる!!」


気合充分といった空気がVIPルームを包む中、その場に相応しくない声が響く。

何故か急にバカラがその場に座り込んだのだ。


「いったーい!!足挫いちゃった…」

「え!?大丈夫バカラちゅわ〜ん♡」

「はい、タッチ♡」

「のわァー!!しまったァ〜!!!」


単純すぎるハニートラップに引っかかったサンジは咥えていたタバコを自身の服に落とし火が燃え移ってしまう。そしてあちあちと慌ててる間にルフィ同様バナナの皮を踏んでしまいすっ転んでしまう。


「バナナ〜!!!」

「きょ…!強敵ですね!!」

「アホかお前!!?」

「大丈夫サンジ!?」


吹き飛んでいったサンジを心配し駆け寄ろうとしたウタであったが、ルフィとサンジが踏んだバナナの皮が足下に転がっていることに気が付かず踏んでしまう。


「ってうわあああ!!!なんでェ!!?」

「のわあああ!!!」

「お前まで何やっとんじゃい!!!」

「不憫ね…」


バナナの皮を踏んだウタがすっ転んでいった先はルフィのところであった。それに巻き込まれさらなる追い討ちを食らったルフィといたた…と腰に手を当てるウタを守るようにして囲むウソップ、チョッパー、ロビンの所へタナカさんが襲いかかる。


「"スルーイリュージョン"!!!」

「うわァ消えた!?」

「スルルル……スルルルー!!」

「うおわああ!?また…!?」


地面に消えては飛び出し銃を連発され手も足も出せないウソップ達とは裏腹に堂々と立ち塞がるダイスへ向けてフランキーは鉄の拳を発射する。


「"ストロングライト"!!!」

「………イエース!!!…………キモティー!!いいパンチだなァ…!!!もっともっと」

「チッ…!!何だァこいつ!?」


フランキーの拳はダイスを気持ち良くさせることしか出来ず、戦局は膠着状態となってしまう。

そこでゾロがおれがやるとテゾーロの前に躍り出る。


「ケンカは親分を倒すのが一番早ェ…!!」

「ほう…面白いことを言う…!!私に勝つつもりか…!?この街で…!!!」

「造作もねェ!!!」


刀を二本抜き、テゾーロを斬ろうと走り出すゾロ。だがそんな猛獣を前にしてテゾーロは一歩も動かず、ただ左手を前に突き出すのみであった。

だが、ふと不敵な笑みを浮かべてその左手を握りしめるとゾロの体に異変が起こる。ゾロの足が突如として黄金に染まりだしたのだ。


「チッ……!!ぬあああ!!!」

「フン!!」


ゾロが大きく飛び上がり斬りかかってきたのを視認したテゾーロは指揮者の如く腕を振るうと雷のようなものが迸り、周囲の柱に巻かれた黄金で出来た龍の彫像がゾロとテゾーロの間に走りゾロの攻撃を防いでしまう。

その間もゾロの体を黄金が蝕み、体の半分近くが黄金で固められてしまったゾロを助けようとチョッパー達が駆け寄ろうとする。


「ゾロ!!」

「お前ら動くな!!!」

「え!?」

「…勘がいいな……!動けば全員黄金の彫像になっていた」

「……なんの能力だ…!!!」

"金"だよ!!私は"ゴルゴルの実"の能力者…!!私は一度触れた金は自在に操れる!!!」


自信満々に己の能力をひけらかすテゾーロに向かってゾロに何をしたのかとルフィが睨むと気分を良くしたテゾーロは軽快に答えてくれた。


「この街に入る時に金粉を浴びただろう…?あの時、私の力が込められた金を体に染み込ませたのだよ……!!この街に入った時点でもう私の支配下にあるのさ……全ての人間がな!!!」


そう言いきり、身動きの取れないゾロを蹴り倒し踏みつけにするとテゾーロは強制的な回収を試みる。貸した金3億2000万ベリーと同額の賞金首であるゾロの首をもってして。


「……!!あんた……はじめから!!!」

「ハーハハハ!!誰も私には逆らえない!!!……しかしそうだなァ…君達の中で是非とも手を組みたい者がいるのも事実……なァ?"海賊歌姫"…?」

「私と手を…!?何が言いたいの!?」


いきなり自分と手を組みたいなどと言い出すテゾーロに怒りを露わにしながら問いかけるウタに対してテゾーロはフフ…と笑いながら答えを出す。


「なに…実に単純な事だよ。君をこのグランテゾーロのもう一人の歌姫として招きたいというだけの話さ……!!君の歌は素晴らしい!!!こんなちっぽけな海賊団に置いておくには惜しい逸材だ…!!もし君が首を縦に振ってくれれば契約金として10億ベリーを支払おう!!!それだけあれば君の仲間を救うばかりか億万長者にする事も容易い…!!もちろんこれからも働きに応じて報酬は支払おう……どうだね?悪い話ではないだろう…!!」


周囲のギャラリーからしてみれば10億ベリーもの大金が手に入るのだから、それは破格の提案といえるものであった。

しかしその提案は麦わらの一味にとっては仲間を売るのと同義であり、到底受け入れられるようなものではなかった。

皆の視線がウタに集まり、その口が開かれる。直前にニッと笑みを浮かべてから。


「やだ!!!10億ベリー…?そんな端金で買えるほど安い女だと思わないでよね!!!私は歌で皆を自由で幸せにするの!!!あんたみたいなやつの下につくなんてごめんよ!!ベェ!!」


目の下を引っぱり、舌を突き出すあっかんべーの表情を向けられたテゾーロは嫌われたものだなと吐き捨てる。


「ならばやはりこの男の首をもらう他ないが…!?」

「……調子にッ…!!」

「動かないで!!」


調子に乗るなと言おうしたナミの首元へテゾーロに付いていた紫髪の女がナイフを近づけ制止させる。黙って従ってと言うその女を見てナミは何か思う所があったのか、分かったと潔く引き下がる。


「分かった……お金は用意する!!少し時間をちょうだい!!」

「いィ!?おいナミ!!」

「いいだろう…明日の夜12時まで待とう。間に合わなければ…こいつをショーとして客の前で公開処刑する!!!」

「…分かったわ!!約束よ!!!」


おい!!と勝手に話を進めるナミにウソップは抗議するも既に話は決まってしまった。

そしてこれが最後とばかりにテゾーロは話を総括する。


「ああもちろん……これは究極のギャンブルだからなァ…!!明日の夜までに金を用意出来るか……それとも一生を奴隷として終えるか……せいぜい楽しませてくれ…!!期待してるよ………!!!」

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