GOLDinウタ 1
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『すっげェ〜〜〜!!!!』
目の前にそびえ立つのはGRANTESOROと書かれ王冠を被った看板。その下には四種の柄が描かれたトランプとルーレットの模様をあしらった形の巨大な門。
煌びやかに光り輝き黄金で出来たそれらは船首に立つルフィ・ウタ・ウソップ・チョッパーの四人を興奮の渦に招き入れる。だがその渦は四人以外も飲み込んでいた。
「ナミ〜!!これが本当に船なのかァ!?」
「ええ…!!世界最大のエンターテインメントシティ!!一攫千金を狙えるカジノの街……!!!
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グランテゾーロ!!!!」
「ってほとんど島じゃねェかァ!?」
今をときめく海賊にして巷で話題の最悪の世代に名を連ねる者を三人も有し、つい先日"王下七武海"の一人であるドンキホーテ・ドフラミンゴを打ち破ったまさしく台風の目、"麦わらの一味"は世界最大のギャンブルを楽しめるかの黄金帝が支配する船…グランテゾーロを訪れていた。
その圧倒的な輝きを放つ街としか思えぬ規模の船の入口前にて船首に立つ船長モンキー・D・ルフィは仲間達に号令をかける。
「いよ〜し野郎共!!目標……カジノ〜!!!」
『おーうっ!!!』
船長の号令に景気の良い返事をする船員達。一味全員の持ち金がたったの100ベリーしかない懐事情さえ抜きにすればこれ程世界最大のカジノに挑むに相応しい者達はそう居ないだろう。
そうしてグランテゾーロ内にある港に繋がる門をくぐり抜けWELCOMEと書かれた看板が吊り下げられた通路をひた走る中、船首にいる四人の前に一筋の光が降り注ぐ。
「ん?なんか光ってんぞ」
「これって……」
「もしかして…!?」
「金粉…!!」
『ええェェ!!?』
世界共通、誰が見てもその価値の高さを知っている金の粉が雨の如く降り注ぐ状況に船首の四人はもちろん、一味きってのお金大好き泥棒猫はその目をベリー色に変えて四人に命令する。
「ほ…ほんものよこれ…!!あんた達ィ!!ありったけ詰め込んじゃって!!!いっえ〜い!!!」
だがこの金粉の雨に興奮しているのはナミ達だけではない。むしろ金が降り注ぐというこの状況に興奮しない者など存在しないだろう。船内に引きこもっていたり寝てさえいなければ。
「ヨホホ!!骨が金色に〜!!ゴールデン…ボーン!!」
「ハハ!!ス〜〜パ〜〜!!!」
「おい!!水も金色だ!!」
「面白いわね」
ありったけ詰め込めと命じられた四人はハハハ!と手を繋ぎグルグルと楽しそうに回る。普段であれば金に関する命令を聞かないとナミから説教やげんこつを貰うところだが、ナミはもはやそれどころではない興奮状態となっているのに加え、彼らの海賊船サウザンド・サニー号がその全身に金粉を纏っているからか、これといった制裁が航海士の手から下されることはなかった。
そんなこんなで船を進めていると出口の光が見え始める。それを目視したルフィは船長として再び号令をかける。
「出口だァ!!フランキー!!!」
「任せとけェ!!"風来(クー・ド)・バースト"ォ!!!」
「いっっけェ〜〜〜〜!!!」
船長の号令のもとサニー号が夢の船たる所以の一つであるクードバーストで出口まで一気に飛び込んでいく。その先に広がるのは一攫千金を果たす希望か、はたまた借金に溺れる絶望か。金とロマンとスリルと危険に満ち溢れたカジノの街に一行はいよいよ降り立つ。
そうして降り立った先ではグランテゾーロが誇る歌姫と支配人が共演する舞台、ゴールドステラショーの真っ最中であった。
そして舞台は終盤へとさしかかっており、金色に光り輝く水中から何本もの黄金の柱が突き出し花のように美しく開かれると、中にいる妖艶なダンサー達をより煌びやかに演出する。
『すっげェ〜〜〜〜!!!!』
「メロリ〜ン♡♡」
「なにこれェ!?すっご〜い!!!」
その豪華さに一行は驚き魅了され圧倒されるのみであった。そんな舞台の中心地で踊る白と金の装束に身を包んだ男を見つけたナミがなんなのあいつと声を漏らしたところで大砲の砲撃音が鳴り響き、サニー号近くの水面へ着弾しナミへ水しぶきを浴びせる。
「キャ!!!なに!?」
「ガッ!ガッ!!ガーッハッハッハ!!!おれ達はロングロング海賊団!!金目の物を渡せェ!!!」
そう言い船を着港させる場所であろうところから長い船を連結させより長い船にし、海賊旗を掲げるマストを天高く伸ばすロングロング海賊団が飛び出してくる。
「おれ達はカジノで負けて金がねェんだ!!!」
「はァ!?何言ってんの!!?」
「食らえェ!!!」
勝手気まま、ある意味では海賊らしい彼らロングロング海賊団はその長ーい主砲へ点火し、先程撃ってきたのと同じようにして砲弾をサニー号目掛けて撃ち込み始める。
「撃ってきましたァ!!」
「なんなのォ!?」
礼儀を弁えない無法者の粗相により舞台は大混乱…となることはなかった。混乱するのはサニー号に乗る一味ばかりで、主催たる支配人は海賊が暴れているという報告を受けながらも構わんと切り捨てる。舞台を見る観客達も海賊が暴れ出したとむしろ盛り上がりを見せている様子だ。
そんな中、支配人は暴れる海賊の標的となった船とその海賊旗に目を付ける。
「あれは?」
〔はい…おそらくですが"麦わらの一味"かと〕
「ほう…!!これはこれは……面白い」
ニヤリと笑みを浮かべた支配人は指を鳴らし、襲い襲われる二隻の海賊船それぞれにスポットライトを浴びせる。次の舞台の主役はお前達だと言わんばかりに。
何だ何だと困惑するルフィ達をよそにロングロング海賊団はサニー号に激突し、その長ーい主砲を伝い船に乗り込み始める。その中で切り込み隊長として来たのは一際長い剣を振り回す細長い男、ナルシーだ。得物である長剣をもってして獲物を仕留めようとゾロへ向かって斬りかかる。
「金目の物をォ〜!!渡せ〜〜!!!」
ブンブンと振り回しながら長剣を振り抜かれたゾロは先程まで寝ていたのが嘘かのように目を覚まし、自身の得物である名刀"和道一文字"を鞘から僅かばかりに刀身を露わにしてその攻撃を防ぐ。
ナルシーの攻撃の余波にあてられたロングロング海賊団の船員達が吹き飛ぶ中、ゾロは一段上の柵に飛び乗るとやれやれといった様相で目の前の敵を見下ろす。
「ったく…人の眠りを邪魔しやがって。てめェが何者か知らねェが……抜いたからには覚悟しろよ…!!」
「フッ!!上等だァ!!!」
ゾロが刀を咥え、ナルシーが再び長剣を振り回し勢いそのままにゾロへ向かって振り下ろす。それを新たに刀2本を抜いたゾロが防ぎナルシーの下へ駆け抜ける。向かってくるゾロを長剣の振り払いにより仕留めたと思い込んだナルシーへ長剣の先から走り抜ける音と共に刀三本を構えたゾロが敵の得物を伝いながら向かい、斬りかかる。
「三刀流…"鬼斬り"!!!」
"海賊狩り ロロノア・ゾロ"
〜 懸賞金 3億2000万ベリー 〜
サニー号船上をクラウチングスタートで駆け出し、その自慢の肉体に鎧を施し拳には凶悪な棘を装着したロングロング海賊団のバーロンがサンジへと襲いかかる。
「ぬおあああ!!!」
「おいおい……せっかくのドリンクが零れちまう」
襲いかかられてるにも関わらず自分よりもその手に持つドリンクを気にしたことに腹を立てたのか、バーロンは一気に勝負を決めようとサンジめがけて棘付きの拳を振り下ろす。
が、それを遥かに上回る強靭な蹴り技により棘ごと拳を打ち砕かれる。何!?と驚いたのも束の間、すぐさま顎を蹴り抜かれたバーロンは言葉を発することなく倒れ伏す。
「クソ邪魔」
"黒足のサンジ"
〜 懸賞金 1億7700万ベリー 〜
ドリンクを守り抜いたサンジはお待たせ〜♡と椅子に座り寛ぐロビンの下へ駆け寄る。そこへロングロング海賊団の船員達がロビンを襲おうとするが、腕を交錯させたロビンの指が妖しく動くと彼女を襲おうとした連中はロビンが咲かせた巨大な手により掴み持ち上げられ、そのまま地面へと叩きつけられノックダウンされてしまう。
「ありがとうサンジ」
"悪魔の子 ニコ・ロビン"
〜 懸賞金 1億3000万ベリー 〜
サニー号船首方面の舵の近くでは銃やバズーカ砲を持った男達が逃げるナミを追い込み銃口を向け金を要求する。そんな男達にナミは余裕の笑みを浮かべながらクリマタクトを構える。
「ふふん…一ついい事教えてあげる♡」
ナミがそう言った途端、男達の頭上に突如黒雲が渦状に広がっていく。その渦からバリバリと雷が迸ると下にいる男達へ伝播し、ナミを囲むようにして立っていた為に全員感電してしまい、再起不能となってしまう。
「ウチ、お金ないの!!ベェ!」
"泥棒猫 ナミ"
〜 懸賞金 6600万ベリー 〜
サニー号メインマストの上ではフンフンと鼻唄を唄いながら歩くガイコツが一人。そこへ襲いかかってきたのは長い鉤爪を持つサルのような姿のモーキンだ。
だがその鉤爪が斬り裂いたのは服のみでモーキンはブルックを見失ってしまう。追いついてきた部下と共に周囲を見渡すと後ろでまた鼻唄を唄うガイコツを見つけ、斬りかかろうとするが時すでに遅し。
「肉を切らせて…骨を断つ!!!」
ブルック得意の目にも留まらぬ早業により斬られていたモーキン達はブルックの仕込み杖の刀身が鞘へ納められた瞬間斬り傷が開き、下へと落下する。
「私…肉ないんですけど〜!!」
"ソウルキング ブルック"
〜 懸賞金 8300万ベリー 〜
乗り込んでダメなら船外から砲撃だと、ロングロング海賊団の連中がバズーカ砲をサニー号へ撃ち込み始める。そこへイカす変態が両手を前方へ突き出し光を集める。
「"ラディカルビーム"!!!」
集まった光をレーザーとして撃ち放ち砲撃を阻止し、サニー号を傷つけようとする輩共をまとめて薙ぎ払ったフランキーは金色に輝く水面へ落下する連中を見下ろしながらフン!と鼻を鳴らす。
「ド派手に行こうぜ!!!」
"鉄人 フランキー"
〜 懸賞金 9400万ベリー 〜
守ってばかりでは締まらないと長ーい主砲をチョッパーに乗り駆け抜けるウソップは馬を駆る弓使いの如く弾を連射する。
「"流鏑馬・デビル"!!!とうっ!!」
連続で放たれた緑星・デビルがロングロング海賊団の連中を食い散らし、チョッパーのいい足場となったのを見たウソップはへへっ!と得意気になる。
「決まったァ!!」
"ゴッド・ウソップ"
〜 懸賞金 2億ベリー 〜
だがカッコよくキメたのはいいものの、前方不注意。横に伸びるマストの存在に気付かなかったウソップは派手に激突し、チョッパーから落馬ならぬ落馴鹿をしてしまう。
それに気付いたチョッパーは驚きと共にいつもの人獣型へと姿を戻しウソップへと駆け寄っていく。
「ええ〜!?ウソップ〜!!大丈夫か!?しっかりしろ〜!!!」
"わたあめ大好きペット トニートニー・チョッパー"
〜 懸賞金 100ベリー 〜
撃ち手が頭を強打しようともロングロング海賊団の船上では人喰い植物がその猛威を振るい続ける。次々に食われていく部下を見てロングロング海賊団のロング船長は思い出したぞとルフィ達が何者であるかにようやく気付く。
そこへゴムのような腕がマストに巻き付きながら通りの良い声がその長い頭の上で響き渡る。
「おーい長頭ァ!!!お前ェ……!!サニーに……何すんだァ!!!」
「な…!!長頭ァ!!?」
長頭と呼ばれた事に憤慨するロング船長だったが、それを守ろうとデビルから逃れてきた部下たちがロング船長を囲むようにして立ち、バズーカ砲をルフィに向ける。
「船長へは指一本触れさせねェぞ!!」
「心意気はよし……でもちょっと無粋だよ!!」
そこへルフィのものとはまた別の透き通るような声が響く。デビルから船上へと降り立ち、黄金に彩られた舞台によく似合う槍を構えたウタが連中の前へと躍り出る。
邪魔するやつは消し飛ばせ!とバズーカ砲から撃ち放たれた砲弾をスイスイと躱し斬り払い、連中の懐へ乗り込んだウタは指先から五線譜を飛び出させるとロング船長以外をガッチリと絡め取り、ブンブンと振り回してから空高く投げ飛ばしてしまう。
『うわあああ!!!』
「それェ!!あんた達にはそこで楽しい歌になってもらうよ!!!」
"海賊歌姫 ウタ"
〜 懸賞金 2億5000万ベリー 〜
五線譜にガッチリ拘束された連中を確認したウタはこれでよしと、ルフィへバトンタッチしていく。
「ルフィ!!後は船長対決だから、この長頭おじさんはよろしくね!!!」
「おう!!任せろ!!!」
「また長頭などと……!!!このおれ様をォ………!!泣く子も黙る!!!」
再び長頭と呼ばれたロング船長はおもむろに耳たぶを引っ張ると、その長頭に隠されたガトリングガンを露わにしてルフィ目がけて連射し名乗りを上げる。
「ロングロング海賊団船長!!アレクサンダー・アレックス・ケントポール・ハリス─────」
「……!!効っかーん!!!」
「ん何ィ〜!!?」
「ゴムだから!!」
銃撃に対してはもはやお決まりともいえるやり取りを交わした後、ルフィは蒸気を身に纏いギア2の体勢に移るとマストに巻き付かせた腕に引っ張られるかのようにしてロング船長へもう片方の腕を振り抜く。
「"ゴムゴムの"ォ〜……"JET"!!!」
「ちょっ!!まだ終わっ……!!!」
「"銃"!!!!」
"麦わら モンキー・D・ルフィ"
〜 懸賞金 5億ベリー 〜
船長がやられ勝ち目はないと踏んだロングロング海賊団の船員達が我先にと逃げ出し始めるのを確認したこの舞台の中立者にして支配人であるテゾーロが手元にあるマイクに触れると、突如金色に光る水面が波打ち渦巻くようにして立ち上ると逃げ出す敗者達を絡めとる。
敵船へ乗り込み、先程までサニー号の船首にいた例の四人組はすげェ!と目の前の現象を何だ何だと眺め始める。
そんな彼らをよそに何かを操作するかのようにテゾーロが腕を振るうと絡めとられた敗者達が黄金に染まっていく。敗者達のほとんどが黄金に染まったのを確認したテゾーロはその右手を天高く上げ声を張り上げる。
「"ゴールドスプラッシュ"!!!」
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テゾーロの合図により吹き出される黄金の水柱。そしてその中でとりわけ大きなものがグランテゾーロの中心から放たれるとテゾーロは言葉を紡ぎ始める。
「世界最大のエンターテインメントシティ!!!グランテゾーロへ……ようこそ」
支配人自らの歓待とも取れるゴールドスプラッシュとその金粉を浴びるルフィ達は圧倒されながらも、にしし!と笑う。
「ねえルフィ!!やっぱりここって…!!」
「ああ!!面白そうな所だ!!!」
開幕早々、カジノの街へと降り立つ前から巻き起こる事態の連続に沸き立つ麦わらの一味。果たして彼らは無事一攫千金を成すことは出来るのだろうか……
────────────────────────────
「おおーう!!」
『すっげェ〜〜!!!』
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もはや何度目か分からない四人組によるすげェが飛び出したのはグランテゾーロの港に当たるエリア。カジノの街としては玄関口となるこのエリアも豪華絢爛に彩られ一攫千金を狙う客達を迎え入れようといった雰囲気だ。
船を着け、カジノに挑戦しようと息巻く一行へ一人のとある女性が声をかけてくる。
「ワーオ!!Amazing!もしや麦わらの一味御一行様では?」
声をかけられ振り向いた先にいたのは、その抜群のプロポーションを主張するかのような黒いドレスに身を包んだ赤髪かつ長身の女性。特徴的な紫色のレンズのサングラスを外し、はじめましてとニッコリ笑うその美しさに一味きっての女好きであるサンジは即座にアプローチを仕掛けていく。
「どうもマドモアゼル……私、この船のコック・サンジです…!!ここで貴女に出逢えたのは……まさに!!運命〜♡」
「まあ…お上手な事…!!お会いできて光栄ですわ!わたくし、VIP専属コンシェルジュ・バカラと申します」
サンジからの熱烈なアプローチを受けながらニッコリと自己紹介を行うバカラにルフィはおれ達のことを知ってるのかと問うと、バカラは驚いたような表情をしながら勿論でございますと返答する。
「政府や海軍の幹部、有名海賊の皆様方は全てこのVIPリストに載っておりますので」
ほーら、と見せてきたそのリスト一覧の中には確かにルフィ達麦わらの一味の手配書の写真が懸賞金額の順番で並べられていた。
その中で上から4番目に載せられている自分の写真を見たウソップは有名になったもんだなー!と感慨に耽ける。
「はい!!何なりとこのバカラにお申し付けください。さァどうぞこちらへ!!」
そう言われバカラの指し示す先へ目をやると、白を基調とし金色の装飾が豪華に施された乗り物がやって来ており、例の四人組とフランキーはその乗り物に興味津々といった様子で近づき観察し、スーパー!と歓喜していた。
バカラ曰くその乗り物はカメ車と呼ばれる物で、ここグランテゾーロ内での主な移動手段として利用されているようだ。動力源として希少なマスク亀が8匹搭載されておりそれとは別の車掌と見て取れるような亀が座席のドアを開けると、バカラからどうぞお乗り下さいと案内され一行は座席へと乗り込む。
「うわっ!!ふっかふか!!」
「飲み物もあるぞ!!」
「お好きな物をどうぞ」
「お!酒もある!!」
「コーラは!?」
ふかふかのシートが敷かれた座席で思い思いのドリンクを選ぶ一行をよそに初めての乗り物にワクワクが止まらないウタは誰も座らないならと運転席の隣を確保するために飛び乗る。
「私ここ貰い!!特等席ゲッ…」
「いよーし!!行くぞォ!!!」
「あ!ちょっとコラルフィ!!そこ座られたら前見えないんだけど!!!」
しかし考えることは同じかルフィも運転席の後ろの座席ではなく前の、それも斜め前の本来座席ではない部分に飛び乗りどっしりと腰を据えてしまう。前方の見渡しの良さを巡り、そこどけ!いやだ!と小競り合いを繰り広げる二人を見たバカラはフフと笑いながら忠告する。
「お二人とも仲がよろしいのは大変結構な事ですが、しっかりとお座り頂かないと発進出来ませんので…」
「……っもう!!今回だけだからねルフィ!!」
「ししし!!ありがとうウタ!!ほんじゃあ改めて…出発だァ!!!」
「はい!ではグランテゾーロの街へ…レッツゴー☆」
黄金の鍵が回されマスク亀達に電流が走ると、動力源としての役目を果たそうと8匹の亀達がエンジンを作動させる。バカラの巧みなアクセルとハンドル捌きにより軽快に発進したカメ車はグランテゾーロ内の街へと繋がる道を駆け抜ける。
港エリアと街を繋ぐ門をくぐり抜けた一行の視界には幻の黄金都市をも超える夢のような空間が広がっていた。
「へェ〜!!何だか夢の国にいるみてェだな!!」
「ノーノー!ここはまだリーズナブルなエリアですよ」
『え!?』
「この船の全長はおよそ10kmありますので」
『10km〜!!?』
ここグランテゾーロには10kmもある船の中にホテルやショッピングモール、カジノはもちろんプール、水族館、劇場にゴルフ場まで完備されており、この巨大な船はまさに一つの国であり、世界政府にも認められた独立国家なのだという。
船首には2匹の巨大なギガントタートルが牽引する事で海流や風向きに関係なく世界中どこの海にも行くことが出来るのだとか。
グランテゾーロのおおよその全貌が明かされた後、ダウンタウンを抜けいよいよ高級エリアへと差し掛かる。
そこで見えてきた景色は確かに先程までのエリアがリーズナブルである事が一目瞭然な程に黄金で彩られ煌びやかに光り輝いており、一行はただただ感嘆の声をあげるのみであった。
『お〜う!!!』
「くう〜!!すげェ!!!」
「街中に金が溢れてるわね!」
「はい!このグランテゾーロのキング・テゾーロ様は黄金をこよなく愛しており、世界中から金を集めこの船にこのような夢の街を築き上げたのです!!」
「すげェ〜金持ちって事か!?」
「はい!テゾーロ様は世界が認める最強のカジノ王!!一流のエンターティナーとしてステージにも立ち、さらに一国の国王でもあります!!SO…FANTASTICK!!!」
バカラによる街やグランテゾーロの諸事情の解説も程々に、ウソップは道の脇に設置されている黄金で出来たガードレールに目をつける。
「なァ…あれ一個盗んだだけですんげェ金になるんじゃねェか!?」
「私もう…さっきから泥棒の血が疼いて……!!」
「ノーGood!それはいけません」
『ギクッ!!』
冗談交じりの泥棒計画はバカラの耳に入っていたようですぐにバレてしまう。それからまたバカラによる解説が始まる。
街のいたるところに映像電伝虫が配置され、何らかの破壊・窃盗等の行為を働けば街のルールに則り地下の牢獄へ落とされてしまうのだとか。
そんな硬っ苦しい解説はいいからとバカラの斜め前と隣に座るルフィとウタはもう待ちきれないといった様子でソワソワしていた。
「なァ〜!早くカジノ行こうぜカジノ〜!!」
「私も勝負師としての血が疼いて堪んない!!早く早く!!」
「はいもちろん!でも…その前に……!!」
こうして騒がしくもジェントルタートルを使用した高級カメ車により目的地まで来た麦わらの一味御一行は到着早々、高級カジノに相応しい姿へと変身する。
白を主軸としたファッションスタイルへと変貌を遂げたその姿は一流の海賊に相応しいものであった。しかしこれらの高級スーツやドレスは借り物でもなければ彼らの雀の涙程もない所持金で買ったものでもなく、ツケで買ったものである。本当にいいのかと問うナミに対してバカラはもちろんと返答する。
「有名なVIPなお客様ですから!ここはギャンブルの街…勝って返せば良いのですよ!!勝・て・ば♡」
「うんうん!そうだよな!!」
「っいやお前何も分かってねェだろ!?負けたらどうすんだよ…!!」
「それにしても高っけェなァ〜!!!」
「話を聞けよ!!!」
ウソップの心配をよそにルフィはサングラスをあげ目の前にそびえ立つ黄金の塔、グランテゾーロが誇る八つ星ホテルザ・レオーロを見上げこれがカジノか!とワクワクしていると、どこからともなくこの場に相応しいとは言えない身なりをした子供達が花を買ってくれよとせがんでくる。
あまりにもしつこいのでウソップが折れ、いくらかと聞くと5000ベリーだと言う。なんて変哲のない一輪の赤い薔薇の花がだ。
「って高ァ!!?」
「……おれ達はお金がないと自由になれねェんだよ!!なァ!!頼むって言ってんだろ!!!」
「んあ?どういうこった?」
何やらわけアリな様子の子供達を見てルフィがどうしたのかと聞こうとすると、それを遮るかのようにバカラが私のお客様に何をしてるのかしらと子供達を問い詰める。
「ここはあなた達が来るところじゃないでしょう…?さァ……お帰りなさい」
「……お兄ちゃん……!!」
「……すいません………行くぞ!!」
「あ!待ってよ!!」
あれだけしつこくしていたにも関わらずあっさりと引き下がった子供達とそれを追い払ったバカラに多少の疑問が残りつつも、一行はカジノへと足を進める。
その裏で彼らを狙う陰謀が渦巻いていることなど知る由もなく───────