GAME CHANGERS

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「───アバンギャルド君、発進」


 リオと「先生」がそれぞれ率いる者達によって行われる、天童アリスを巡る戦い。


 片や、掛け替えのない賑やかな日常を取り戻すため。

 片や、世界に訪れる破滅を少しでも遠ざけるため。

 各が信念と願いに基づき繰り広げられた戦いは、投入された一つの兵器によって戦況が一変した。


 ───アバンギャルド君。

 決して万人受けするとは言い難いコミカルな風体。その姿からは想像もつかない凄まじい性能を振るい、エリドゥの地面を抉りながら“先生”‎の陣営を圧倒していった。


「さあ、終わりにしましょう───アバンギャルド君」


 地面に倒れ伏していたゲーム開発部の面々に向けて、アバンギャルド君の銃口が向けられる。

 先生の指揮による攻撃すらも跳ね除ける力、唯一倒せる可能性があるC&Cの面々はトキの対処で手一杯であり、増援は見込めない。


 どう足掻いても、勝てない。


(アリスを…アリスを取り返さないといけないのに…!)


 地に伏すモモイは歯を食い縛りながら、悔しさと絶望に打ちのめされた。


 アバンギャルド君のランチャーから弾が放たれ、此方に近付いてくる。

 モモイは着弾に備える様に顔を逸らし、目を強く閉じた。


 




 その瞬間を見計らっていた様に、何処からか黒い影がモモイ達の前に現れた。


『シャカリキ!!クリティカルストライク!!』

 

 その影は跨っていた乗り物と共にバズーカの弾を弾き返し、更に電子音声と共にアバンギャルド君の頭部へ強烈な一撃を食らわせた。


 何かに跨って現れた其れは、何処かモモイにとって見覚えのある姿をしていた。

逆立った黒髪を模したパーツ、デフォルメされた様な瞳が描かれたバイザー、一度見たら忘れられない強烈な風体───


「…せん、せぇ……」


「随分と酷い負け方をしたじゃないか、君達」


 そう、キヴォトスの学園に所属する生徒ならば大抵は知っているあの男。


 機械の体を得ながら、自らこそ「神」であると高らかに豪語する男。そしてゲームクリエイターとしての自らの才能に絶対的な自信を持つ、傲慢不遜で冷酷な自己顕示欲の権化。


 檀黎斗。またの名を、仮面ライダーゲンム。

 彼が、エリドゥの戦いに参戦した。何時間もの大遅刻を経た後に。


「遅過ぎ、です…黎斗先生…」


「うぅ…先生…っ!」


 緩慢な動作ではあるがミドリとユズも起き上がり、駆け付けたゲンムを見て安堵した様な表情を浮かべる。


「少しエナジーアイテムの調整に時間を取られたが…何も問題は無い。想定通りだ」


 跨っていた自転車“スポーツゲーマ”から降りたゲンムは、目の前に立ち塞がるアバンギャルド君と相対する。


「貴方が檀黎斗先生ね…。噂は聞いているわ」


「嘘を吐くのは不得意らしいな、調月リオ。君の事だ…他人の伝聞だけで満足する筈がない。あれこれと私を調べたのだろう?」


 不愉快な感情を隠す様子もなく、ゲンムは近くの監視カメラを睥睨する。

 バイザーに描かれた赤い瞳は、何処か怒りで歪んでいる様に見えた。


「…えぇ。事細かに調べさせて貰ったわ。貴方の出自、過去の所業、そして父親との対立も」


「……何?」


「…哀れな事ね。実の父親が、あの様な悪事を───」


 刹那、響く銃声。

 バグヴァイザーから放たれた光弾が、監視カメラを根元から抉る様に破壊していた。


「……大昔の私であれば、此処で君と一緒に父を扱き下ろして居ただろうな」


 屍人(ゾンビ)の様に緩慢な動きで、ゲンムは再びアバンギャルド君を睨め付ける。


 黎斗と父・正宗との確執は、黎斗が123回の死を経て、天津垓の身体を苗床として復活した後も続く程根が深いモノであった。

 しかし、その天津垓の言葉により、漸く、漸く父と子は和解出来たのだ。


 故に。愛を知り、父と和解した今の黎斗にとって、敬愛する存在となった檀正宗との関係について軽率に触れることは───


 神の怒りを煽る、愚かしい行為以外の何物でもなかった。


「恐らく私に同調して事を済ませようとでも考えたのだろうが…調月リオ、君は選択を間違えた」


「…私が?」


「君は私を…神の中の神である、この私を!完ッ全に怒らせたァ!!」


 ゲンムはメダルホルダーから、一つのエナジーアイテムを取り出す。

 そこに描かれているのは、数人の人型が並んだ絵柄。


 ゲンムはメダルを握り潰すように取り込み、エナジーアイテムの効果を発揮する。


『分身!』


 電子音声と共に、ゲンムが7人に『分裂』した。


「「「増えたーっ!?」」」


“そんなのアリ!?”


 目の前の光景に驚きを隠せないモモイ達。ヴェリタスやエンジニア部に至っては、現実離れした光景に声すらも発さず呆然としていた。


「……成程。分身と言うより分裂に近い効果ね。それでも、到底アバンギャルド君の攻略は出来ないわ。さっきは不意打ちを食らったけど、今度は…」


「誰がこれで終わりだと言った?」


 分身したゲンムの内の1人が口を開くと同時に、7人のゲンムが一斉に新たなガシャットを取り出し始める。


『シャカリキスポーツ!』


『ゲキトツロボッツ!』


『ドレミファビート!』


『ジェットコンバット!』


『ドラゴナイトハンター Z!』


『デンジャラスゾンビ!』


『幻夢無双!』


 幾重ものゲームエリアが展開され、近未来的な造形のエリドゥが別の色に染め上げられていく。


「グレードオールマイティ…変身!」


 幻夢無双ガシャットを掲げた、本体と思しきゲンム。その言葉に合わせ、他の分身ゲンムも一斉にレベルを上げ始めた。


『シャカリキ!シャカリキ!バッドバッド!

シャカッと リキッと!シャカリキスポーツ!』


『ぶっ飛ばせ!突撃!ゲキトツパンチ!ゲ・キ・ト・ツ ロボッツ!』


『ド・ド・ドレミファ・ソ・ラ・シ・ド!OK!ドレミファビート!』


『ジェット・ジェット・イン・ザ・スカイ!ジェット・ジェーット!ジェットコーンバーット!』


『ド・ド・ドラゴ!ナ・ナ・ナ・ナーイト!ドラ!ドラ!ドラゴナイトハンター!Z!』


『デンジャー!デンジャー!デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビ!』


『掴み取れ栄光のエンディング!漆黒の天才プレジデント!グレード無双ゲンム!』


 混成曲(メドレー)の様に高らかに歌い上げる電子音声と共に、7人のゲンムは各々異なる鎧に身を包んでいく。


「これこそが、開発者の私にのみ使用出来る力…!ダァーッハッハッハッハッハ!!」


無双ゲーマーが銀髪の装飾をしゃらりと鳴らし、高笑いを見せつける。


「…開発者…?それって、まるで…」


「デバッグモード…!」


 ゲンムの言葉に思い当たる事があったのか、ミドリとユズは顔を見合わせる。


「な、なんだっけ…デバッグモードって…」


“…開発者向けの隠しモードだね。”


“ステータスやアイテムの効果を、好き放題操作出来るって聞いた事がある。”

 

 先生の言葉を聞いたモモイは、目を数回瞬かせた後に一言呟いた。


「それってつまり、最強のチート…みたいな?」


「うーん…語弊があると思うけど、今はそう理解しておけば大丈夫かも…」


 モモイの言葉に苦笑いを浮かべながら返答をするユズに、先生は再び口を開いた。


“…ユズはチートにハメ技で対処してたけど。”


“黎斗先生は…チートにチートで対抗して行くつもりなんだね。”


「目には目を、歯には歯を…」


「チート相手には『最強のチート』を…」


 ゲンムの使用したエナジーアイテム『分身』は、彼によってチューニングされ、新たなる効果を発揮した。

 それは分身一人一人が独立して行動可能になるという、まるで自分のコピーを放出するウイルスの様な効果。


 これを実現可能にしたのは檀黎斗の才能に加え、幻夢無双ガシャットによって引き寄せられた激運、そしてガシャット内に引き継がれたクロノスの力の一部を掛け合わせた事による物であった。


 目の前の光景について会話をしていたモモイ達に、分身ゲンムの1人──ハンターゲーマーのゲンムが振り返って言葉を掛ける。


「寝ている暇は無いぞ。君達にも力を貸して貰うからな」


 ゲンムの言葉と共に、モモイ、ミドリ、ユズの手に金色の光が宿る。

 彼女達の手の中で、その光は龍の頭を模した端末───ドラゴナイトハンターZガシャットとなって収まった。


「それは私から君達に貸与する“神の恵み”だ。有難く受け取るがいい」

 

「神の恵み?な、なんだかよく分からないけど…!えいっ!」


『ファング!』


 モモイは困惑しながらも、ドラゴナイトハンターZガシャットを起動する。


「えっ…じゃ、じゃあ私達も…!」


『ブレード!』


『ガン!』


 ミドリとユズもモモイに倣い、ガシャットを操作する。

 するとガシャットは再び光となって融解し、新たな形を得て彼女達の身体へと装着されていった。


「これは…さっき先生が着けてた物と同じ、剣と鎧…?」


「私は銃…ってことは、お姉ちゃんが…」


「うわっ!?な、何これぇ!?私があの着ぐるみなの!?」


 彼女達が纏った物は、先程迄ハンターアクションゲーマーが装備していた武装と同じ物。


 モモイが頭部のドラゴンファング。

 ミドリが左腕・左脚のドラゴンガン。

 ユズが右腕・右脚のドラゴンブレード。

 そしてゲンムが、両脚と両腕のドラゴンクローを装備することと相成った。


「ミドリ〜!私のと交換してよ!」


「嫌だよ、お姉ちゃん…」


「えっと…似合ってるよ、モモイ…?」


 部員達が騒いでいる光景を他所に、今度は無双ゲーマーがゆらりと動き、アバンギャルド君に備え付けられたメインカメラへ顔を向ける。


「調月リオ…このエンディングが、君に予想出来たか…?」


「………!」


 カメラ越しに見せ付けられた超常現象の数々。どんな事態にも揺らぐことのなかったリオの表情に、僅かな動揺が滲んでいた。


「先に伝えておこう、調月リオ。私はシャーレの先生と違って優しくはない。そして、相手が子供で在ろうと容赦なく力を振るう」


「…意外ね。大人というのは、子供のように感情に支配されず、冷静に状況を判断出来る者と思っていたけれど」


「ああ、確かに今の私は『理性』を凌駕した『感情』に従って動いている」


 無双ゲーマーはゆっくりとした動作で、ガシャコンキースラッシャーとサウザンドジャッカーを構えながら言葉を続ける。


「何故私が感情の儘に動くか?その答えはただ一つ…」


 ぴたりと歩を止めた無双ゲーマーは、天を仰ぐように仰け反りながら、大きな声で述べ始めた。


「私は『大人』や『先生』で在る以前に…幻夢無双コーポレーションの社長にして、他の追随を許さない才能を有した、最高神だからだァーッ!!ブェーハーッハッハッハッハァーッ!!!」


 そう。


 此処に居るのは、先生である以前に、才能に愛された1人の神。


 最凶であり最狂。

 最強にして最悪な社長(プレジデント)。


 そんな男が全力を出した挙句、他者と協力して相手を叩き潰しに行ったらどうなるか?

 結末は、火を見るより明らかだろう。


 ──時は満ちた。

 今こそ神の審判が下る時。


「ゲンムの…いや、ゲンムズの力を思い知れェ!!」


 大いなる逆転。そして、凄惨かつ無慈悲な蹂躙の火蓋が切って落とされた。

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