貴方になら縛られても

貴方になら縛られても



真っ暗な世界に漂う、私。


でも何処からか温かい気配がする。


ふわふわと漂う私の手を、誰かが掴んだ。


―自由なんだ。


掴んでくれた人は私の大切な人で彼の笑顔は私の世界に色づけた。

一緒にいるだけで幸せになれる人。

空いている方の手でその人の左手を掴む。

つられて私も笑顔を浮かべると、その人の名前を呼んだ。


「また悪夢でも見たの?」

そんなことを訊かれて首を傾げた。

心配そうな瞳にいえ、違うとかぶりを振る。


星空の下で告白して。

翌日、改めて想いを伝えようとしたらギークは私を抱きしめてこう言った。


―好きだ。


―だから、ずっと傍にいて欲しい。


それから、私たちは"恋人"という関係になった。

恋人って何をすればいいのと訊けば、傍にいるだけでいい、と返ってきて。

今まで通り、ただ二人でいる時間が増えただけ。

まあ、それだけで十二分幸せなのだけど。


「逆」


「逆?」


「凄く、幸せな夢」


夢のように私は笑えているのだろうか。

ふと、そんな事を思う。

でも、どうして?

突然悪夢を見たかなんて訊くのかしら。


「そっか。いや、寝言で僕の事ずっと呼んでたから、また悪夢かと」


思わず動きを止める。

そういえば。

起きたときギークの腕の中だった。

驚いて思いっきりお腹を殴ってしまったのだけれど。

もしかして、私を安心させようと・・・?


「ごめん、安心させようとしてくれたんだよね」


「ま、まあ・・・もう大丈夫だから」


お腹をさすりながら屈託なく笑う。

一つ一つの仕草や行動に、らしくもなく胸が疼く。

もっと、もっと。

ギークを見たい。

ギークといたい。

ギークに触れたい。


―いつから私はこんなに強欲になってしまったんだろう。

今でさえ十二分に幸せなのに。


自分が酷く卑しく思える。

自分が一番誰かに縛られる辛さを知っているはずなのに。

傍にいるだけでいいって言ってくれたのに。

それだけじゃ、足りない。

どうかしたの、と顔を覗き込んでくるギークにあの、と切り出す。


「・・ギーク、以前言ってたよね。傍にいるだけでいいって」


「あ・・ああ」


「なのに私・・・・それだけじゃ足りないって思うようになって」


ああ、幻滅されてしまう。

言いたくなかった、でも言わないとこれ以上前に進めない気がした。

星空の下で告白した時より、想いはどんどん溢れてく。


「もっと一緒にいたい、もっと触れていたいって、・・・・」


ごめん、と消え入りそうな声で呟いた。

瞬間だった。


ふわりと抱き寄せられる。

頬に温かな手が添えられて、顔の距離が一気に縮まった。

混乱してギークの顔を見上げて。


―・・・!?


私の唇がギークの唇と重なる。

頭が真っ白になって、ただ受け止めていた。

どきどきと身体中が鼓動を打つ。

すぐ目の前のギークは目を閉じていて、私もそれにならって目を閉じた。


やがてゆっくりと唇が離れて。

目を開けた私が最初に見たのは真っ赤なギークの顔、だった。

あーもー!と大声をあげる。

自分の頭をぐしゃぐしゃに掻き回して、あのね、と話し始めた。


「僕だってフゥリにずっと触れたかったし、もっと一緒にいたい」


「僕だけのモノにしたくて仕方ないんだ」

そう真っ直ぐに言われてまた頭が真っ白になってしまう。

抱えてる想いは同じだった。

心から喜びが爆発するような感覚になった。

けれどギークはでも、と困った顔になった。


「せっかくフゥリが自由になったのに、僕がまた縛りつけてしまうのはどうかと思ってさ・・・」


「ギー、ク・・・・」


ああ、本当に優しい人。

改めてそう思う。

御巫だったとき。

行動だけじゃなく、心も感情も考え方も全て囚われて。

でもそれが自由になって、好きなときに好きな事が出来るようにしてくれた。

それが今度は貴方が私を縛り付けて良いのだろうかと。

そうしたくて仕方ないはずなのに堪えて。


「・・・ギーク」


手を伸ばしてさっきされたようにギークの顔を包む。

あと少しで触れそうな顔の距離に赤くなるのを感じる。


「私は構わないよ、貴方だけのモノになっても」


真ん丸になった目。

それを真っ直ぐ見つめながらけれど、と続ける。


「ギークもなってくれる?」


「・・・・・フゥリ・・・?」


「私だけのモノになってくださいますか?」


優しく目が細められる。

ぎゅう、と抱き締められた。


「・・・・・うん」


この声が心地いい。

ファイアが起きてくるまで、私たちはずっと抱きあっていた。


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