Fuss, mayhem, havoc big capture.

Fuss, mayhem, havoc big capture.

requesting anonymity

数日前に新1年生の組分けと新しい先生の紹介が終わったばかりのホグワーツでは、さっそくその「新しい先生」の事が大いに話題になっていたが、本日噂が駆け巡っているのはそれとは別の話題だった。

ホグワーツの校長室に2人の生徒が呼び出された。彼らが現在まで一度たりともそれを経験していないという事実は、彼らを知るすべての生徒にとって驚きだった。

「フレッド、ジョージ。どうしたの?」

5年生になったばかりのハリー・ポッターにそう声をかけられた、廊下を急ぐウィーズリーの双子は珍しくしょぼくれた様子で返答する。

「校長先生のお呼び出しさ」「身に覚えなんかないぜ。ホントさ!」

そう言った双子は一瞬お互いに顔を見合わせて、またハリーの方を向く。

「「だって、どれもまだバレてない!」」

「バレたから、呼び出されたんじゃないかしら?」とハーマイオニーがハリーの横から顔を出して面白そうに笑いながら指摘する。

「あのアンブリッジとか言うババアとかならともかく、ダンブルドアにバレずにやり通せるって、本気で思ってたわけじゃないだろ?」

ロンも双子の兄を問いただし、双子はまた一瞬顔を見合わせる。

「まあ、他の先生方ならともかくな」「流石の俺達も、ダンブルドア相手じゃな」

そう言った双子に、ハリーが誰も確かめなかった事を問いただす。

「ねえ、怒られるって決まったわけじゃないと思うんだけど。それともダンブルドアが『説教するから来い』って言ったの?」

自分たちが露ほども思い至らなかった指摘を受け、双子はまた顔を見合わせる。

「「他に俺達を呼び出す理由なんかある?」」

双子の開き直った発言は、ハリー達3人を見事に笑わせるのだった。

そしてハリー達3人と別れた双子は校長室の前に到着し、入り口を守るガーゴイル像に向かって同時に唱える。

「「フィフィ・フィズビー」」

ガーゴイル像が道を開けたのを見届けた双子は、また顔を見合わせる。

「あーらまあ。本当に開いたよ」「まさか『好きなお菓子の名前』とはね」

「「どおりで去年当てずっぽうでさんざん試しても開かなかったわけだぜ」」

双子がそんな話をしながら校長室に入ると、そこには使い道の判らない貴重そうな道具が所狭しと並んでおり、不死鳥のフォークスの傍らに用意された大きな銀製らしき器のそばに、双子を呼び出した現在のホグワーツ校長、「偉大なる」アルバス・ダンブルドアが2人を見つめて微笑んでいた。

「来ました。ダンブルドア先生」「お話って何でしょうか」

悪名高いウィーズリーの双子がこんな風に緊張しているところというのは、両親であるモリーとアーサーすら見たことが有るかどうか怪しかった。

「おお、誤解があるようじゃの。フレッドも、ジョージも。君らを呼び出したのは説教をするためではないのじゃ。2人とも、説教をされねばならんような事は何もしておらんじゃろう?」

そう言ってダンブルドアは双子にウインクする。

「勿論、日々大いに楽しませて貰っておるがの」

フレッドとジョージはお互いの目を見つめて「じゃ、なんで呼ばれたんだ?」と無言で相談している。

「君らはもはや、ホグワーツでの学びを最後までやりおおせるつもりが無いのではなかろうかと、マクゴナガル先生とわしは推測しておるのじゃが、どうかね?」

ダンブルドアは双子を見つめる。

「つまり『N.E.W.T.試験』も受けんし、卒業式にも出ん。卒業を待たずして、自分達で決めたタイミングでホグワーツを永遠に後にする。違うかの?」

ダンブルドアの情報通っぷりに改めて驚かされながらも、双子はどうにか肯定する。

「そうです。校長先生」「もしかしてそうすると『杖を折られる』事になる?」

そう言った双子の不安は、ダンブルドアによって優しく拭い去られる。

「心配せずともそうはならん。『杖を折られる』のは『強制退学処分』の場合じゃ。君らがやろうとしておるのは『自主退学』じゃ。この場合、引き続き杖を持ってよいし、通常通り、成年に達しておれば魔法を使ってよい。しかしの。今回呼び出したのは他でもない。まさにその話じゃ。『自主退学』するか『卒業』するかを決めるのをもうちょっと待ってほしいのじゃ」

ダンブルドアのその言葉を、しかし双子は恐る恐る拒絶する。

「校長先生、でも僕らもう決めたんです」「僕らの進む先には、もうホグワーツは」

フレッドの言葉をダンブルドアは遮った。

「まさにそれじゃ。確かに君らに『N.E.W.T.』は要らんじゃろう。去年までのホグワーツなら、確かに君らにはもう要らんじゃろう。しかしのうフレッド。そしてジョージ。今年のホグワーツには、1人新しい先生がいらっしゃっておる。アンブリッジ先生ではない方の先生の事じゃ。あの先生の授業を1度受けてから決めてはくれんかの」

「その先生ってあの『防衛術』の?」「校長先生の『先輩』だっけ?」

フレッドとジョージにダンブルドアは、傍らの巨大な銀の器を指し示す。

「時に、これは『憂いの篩』じゃ。思い出を頭から引っ張り出して貯めておく事ができる。それを別人が見る事もできる。今日はこれを使って『最もホグワーツが騒がしかった日』の話を君らにしたいんじゃが、この年寄りの昔話を聞いてくれるかね?」

「憂いの篩」の傍にダンブルドアと並んで立ったフレッドとジョージの目は、既に好奇心で満ち満ちている。

「登場するのはその『先輩』と御学友、そして当時ホグワーツの1年生じゃった、このわしじゃ。さあ、闇の魔術に対する防衛術の新任教授のご紹介と行こうかの?」

ダンブルドアに促され、フレッドとジョージは「憂いの篩」の水面に顔をつけた。

そこに広がった風景は双子にとってよく見慣れたグリフィンドールの談話室だったが、ひとつ現在とは大きな違いがあった。

「おい、他の寮の生徒が入ってきてるぜ」「マジか、スリザリンまで居やがる」

双子が驚くのも無理はなく、それは2人にしてみれば考えられない光景であったが、しかし同時にダンブルドアにとっては、愛おしくも懐かしい「あのころ」だった。

「ごめんなさい!!たすけてみんな!!!!!」

そう叫びながらグリフィンドールの談話室に飛び込んでくるなり絨毯に額を擦り付けてその場の全員に謝罪したのは、ヨレヨレのパジャマを着て派手極まりないメガネをかけ、「首席」のバッジを胸ポケットに光らせている7年生らしき女生徒だった。

「『先輩』じゃ」とダンブルドアがクスクス笑いながら双子に説明する。

「なんだおい、どうした」とスリザリンの制服を着た男子生徒が女生徒に訊き、ダンブルドアが「7年生のセバスチャン・サロウ先輩じゃ」と解説する。

「こちらにいらっしゃるのは同じく7年生の、オミニス・ゴーント先輩じゃ。生まれつき盲いておられるが、杖の知覚によって補っておられた」

ダンブルドアが、セバスチャン・サロウの隣に居る杖の先を赤く光らせている白い目のスリザリン生をそう紹介したのを聞いて、フレッドとジョージは顔を見合わせる。

「先生今なんて言いました?」「オミニス・『ゴーント』?あの『ゴーント』?」

女生徒が友人達に縋りついて助力を願う光景を見ながら、ダンブルドアは説明する。

「その『ゴーント』じゃ。しかしオミニス先輩は君らと同じくらい善良で、心優しい青年じゃった。それはつまり『ゴーント』においてどういう扱いを受けるか、説明する必要は無いじゃろうの?」

「この目の前のオミニスさんにお菓子でもあげたい気分になってきたな?」

冗談めかしてそう言ったジョージの顔はしかし、傷心の家族や後輩を慰める時に見せる優しい笑顔だった。

「ああ、俺達が1番嫌いなバカたちの悪習の犠牲者ってわけだ」

フレッドもジョージに同調するが、その次にダンブルドアが紹介した目の前に広がる遠い記憶の中の「先輩の御学友」は、双子をさらに驚かせた。

「今度はどうしたんだい?おなかすいたのかい?」

女生徒に笑いながらそう訊いたグリフィンドール生は、燃えるような赤毛だった。

「ギャレス先輩じゃ」とダンブルドアが言う。「ギャレス・『ウィーズリー』」

フレッドとジョージは目の前の赤毛の青年と自分達の顔を見比べ、またダンブルドア校長の方にも何度か向き直りながら目をぱちくりさせている。

「そりゃまあ、いつの時代に俺達の親戚が居てもおかしくはないけど」

ジョージが赤毛の青年にさらに近寄りながら笑う。

「実際目の前にお出しされると神聖な気分になるぜ、なあ?」

フレッドも至近距離でその自分達の親戚らしい青年を観察していた。

「君たちの祖父であるセプティマス・ウィーズリー氏に連なる血縁なのじゃろうが、詳しい事はわからぬ。近しいかもしれんし、遠いかもしれん」

そう言うダンブルドアに双子は尚も至近距離で赤毛の青年を観察しながら返答する。

「間違いなく俺達の家族だぜこの顔は」「弟だって言われても受け入れられるね」

その時、延々平謝りしていた女生徒が遂に状況を説明し始めた。

「動物にげちゃった………かばんの中に居たやつと………ホグズミードのお店の地下で飼ってたやつ……両方………殆ど全部…そこらじゅう大騒ぎ……ごめんなさい……捕まえるの手伝ってください…………」

あまりにもあまりな状況を理解して唖然としている皆の中から、グリフィンドールの制服を着たちいさな1年生の男の子が口を開いた。

「そりゃもちろん手伝いますけど。なーにしてんですか、先輩」

その1年生の男の子が呆れ返って溜息をつくと、ダンブルドアが双子の方を見ずに短く説明した。

「わしじゃ」

フレッドとジョージは一気にいつもの憎めないイタズラ好きの笑顔になったが、流石に他ならぬダンブルドア校長をからかう事はしなかった。

「何がどこに逃げたんですか?」と小さなダンブルドア少年が女生徒に訊いた時、グリフィンドールの談話室にどこからともなく不死鳥が飛来し、女生徒の頭の上に留まった。

「コイツ以外みんなにげちゃった…………」

女生徒がそう言うのと同時にグリフィンドール談話室のほぼ全員が杖を取り出して立ち上がり、ギャレス・ウィーズリーが女生徒に言った。

「一匹一匹捕まえていくしかないね。さ、指示をくれるかい?」

そして周囲の風景も人も煙のように溶け、場面は変わる。

フレッドとジョージはすぐにそこがグリフィンドールの談話室のすぐ外の廊下だとわかった。すぐ外と言えど「太った婦人」の絵画の裏の通り道の先に談話室があるので廊下の物音などそうそう聞こえないのだが、双子はそれだけでなく「遮音する魔法」のようなものがかけられているのではないかと推測していた。

「魔法生物を傷つけてはいけませんよ!!少なくともデミガイズが5匹、ニフラーが10匹ここに居ます!」自身も杖を構えながらそう大声で生徒たちに指示する教授を、ダンブルドア校長が双子に「魔法生物学のホーウィン先生じゃ」と紹介する。

「イモビラス!えウソぉ?!目に見える光線が飛ぶ呪文じゃないのに避けられるな、あーー私のネックレス!!!返して!」

デミガイズの動きを止めようとしたレイブンクローの制服を着た1年生らしき女子がニフラーに私物を掠め取られて叫ぶ。

「よーし1匹確保!…………したけど俺はコイツをどうすればいい!あーもうどこに居るんだあのバカ!ああ、居たなこのバカ!」

 監督生バッジを付けた大柄なグリフィンドール生が廊下に出てきた女生徒にデミガイズをしっかり捕まえたまま抗議するが、その表情は楽しそうだった。

「ごめんなさい!!そ、その子この『かばん』の中に!」

女生徒は反射的に謝りながら旅行かばんを開く。

捕まえようとする生徒と教授たち、そして捕まるまいとする魔法生物たちで、廊下は大混乱だった。そしておそらくホグワーツ中が同じような状態なのだろうとフレッドとジョージが理解した時、また景色が溶けて変わる。

「今度は、こりゃあスリザリンの談話室か」「ここも随分楽しそうな状況だな?」

双子は辺りを見回して笑い、ダンブルドア校長も当時を思い起こして懐かしそうに笑っている。

「スリザリンの談話室でもよく皆と寛いでおったの。普段はもっと静かじゃからの」

ダンブルドア校長は、談話室の中央に佇む明らかにご機嫌斜めのユニコーンをどうしたものか困り果てているスリザリン生を始めとした何人もの生徒達を見ながら楽しそうに言った。

「みんな杖を仕舞って!絶対に呪文なんてぶつけちゃだめだよ!」

声を殺してそう言ったスリザリンの女子を見ながらダンブルドア校長は「イメルダ・レイエス女史じゃ」と双子に解説する。

「レストレンジ、あんた『清らかな乙女』だろ。ユニコーンを宥められるんじゃ」

イメルダにそう言われて耳まで真っ赤になった、ものすごい美人のスリザリン生は「みんながいる前で何言ってくれてんだよ!」と小声で抗議している。

それをうけて「レストレンジ?」「聞き間違いか?」と双子がダンブルドア校長に確認するとダンブルドア校長は、また微笑みながら説明するのだった。

「その『レストレンジ』じゃ。レストレンジ家は当時から君らが知っている通りのレストレンジ家じゃったが、こちらのレストレンジ先輩はそうではなかった。当時のスリザリン寮所属の所謂『純血の旧家』出身の生徒の多くがそうじゃった。ノット先輩も、マルフォイ先輩も、クラッブ先輩も、グリーングラス先輩も皆、朗らかな優しい先輩じゃった」

フレッドとジョージの顔には「マジかよ」と書いてある。

「察するにあの『先輩』と数人のご友人達による寿ぐべき影響だったのじゃろうの」

ダンブルドア校長がそう言った時、スリザリンの談話室にその「先輩」がダンブルドア少年と共に入ってきた。

「みんな迷惑かけてごめんなさい!あ、『イメルダ』!ここに居たんだね!」

イメルダ・レイエスがそう言った女生徒とユニコーンを交互に見て混乱している。

「このユニコーン『イメルダ』って言うのか?なんでだい?」

イメルダとユニコーンを交互に見比べながらレストレンジが女生徒に訊く。

「目の奥がかわいいから」

女生徒がそう言うとイメルダ・レイエスは気恥ずかしそうに視線を逸らしたが、女生徒は気にせずそのユニコーン「イメルダ」に旅行かばんの中に入るよう促し、さらに「さ、みんなも帰っといで!」と、どこにともなく呼びかけるといきなりスリザリンの談話室中に何羽ものずんぐりした鳥が「現れ」た。

「ディリコール!?こんなにいたの?」

驚くイメルダ・レイエスに、女生徒がディリコールを旅行かばんに収容するのを見ながらダンブルドア少年がさらりと説明する。

「ディリコールは居たり居なかったりするんです。習ったはずですが?」

そしてまたしても景色が溶け、別の場面が顕れる。

「今度は大広間か。あーらまあ」「おーうこりゃ酷い。目を覆いたくなるね」

辺りを見回してそう言ったフレッドとジョージは悲劇を悼むような表情を作りながらも、湧き上がる笑顔を抑えきれていなかった。必死に杖を構える1年生の小さなダンブルドア少年を間近で眺めながら、ダンブルドア校長は穏やかに微笑んでいる。

象くらいあるサイのような生き物に何らか呪詛を放とうとしたグリフィンドール生に、ダンブルドア少年が杖を向ける。

「エクスペリアームス!―ダメです!エルンペントを怒らせるべきじゃない!」

小さなダンブルドア少年が武装解除術でそのグリフィンドール生の杖を飛ばしたのを見て、フレッドとジョージが傍のダンブルドア校長に笑いかけた。

「「校長先生、お見事です」」

ピッタリ揃った声で褒められたダンブルドア校長が、少し嬉しそうに笑いながらも「鈍臭い杖捌きじゃ」と呟いたのを双子は聞き逃さなかった。

「はい杖。慌てちゃだめだよ」

その杖をギャレス・ウィーズリーが拾ってそのグリフィンドール生に渡す。

「慌てるなってのはちと無理があるな」とフレッドが冷静に言う。

「我らのご先祖様は相当肝が据わっておられる様で」とジョージも続く。

双子がそう評した通り、エルンペントが居座るその向こうでは頑丈そうな4足の角のある獣が2頭、大勢の生徒に杖を向けられており、その上大広間全域をコーンウォールの悪戯好きの小妖精ピクシーが大群で暴れ回っている。慌てないように努力している生徒は大勢居ても、本当に慌てていない生徒は極一部だった。

「グラップホーンって確かドラゴンよりさらに呪文に強いよな?」「そう聞いてる」

ピクシーの群れが散らかしまわる大広間を見渡しながら双子は顔を見合わせた。

そしてそこにさらに、冷静さと対極にある存在が乱入する。

「フゥーーー↑ ↑ ↑!!!!!最っ高の気分だぜええーーーーー!!!!」

ハッフルパフの制服を着た姉妹らしき2人をそれぞれ両脇に抱えたポルターガイストのピーブズがぐるんぐるん回転しながら空中を飛び回っている。

「あはははは!!!あーーーははは!!!!!」

「わああーーー!!!高いぃ!!不安定!!!」

姉妹の妹の方なのであろう女の子は心底楽しいらしく大笑いしているが、姉なのであろう女子は恐怖で蒼白になっていた。

「この姉妹も先輩や当時のわしとよく一緒におった」とダンブルドア校長が言う。

魔法のかかった旅行かばんを持った女生徒が、その中に次々と魔法生物達を吸い込んで行くその隣ではイメルダ・レイエスとものすごい美人のスリザリン生レストレンジがピクシー達にたかられていた。

「ちょっと、この!ステューピファイ!」「やめ、男子が何人居ると思ってんだ!」髪やら服やら引っ張られまくっているイメルダと、服を脱がされまいと必死で抵抗しているレストレンジの姿に気づいた女生徒はそちらに旅行かばんを向け、ピクシー達を吸い込みにかかる。

しかし、そのせいでイメルダとレストレンジはますます慌てた。

「バーーカバカバカバカバカ!!!ピクシー共が服掴んでんだって!!」

女生徒は「あ、そっかそっか」と言って片手でかばんを把持したままもう片方の手で杖を取り出す。

「でもこのまま見てたい気もするな………」

女生徒は杖を下ろす。

「ひっぱたくよ?!!!!」「あんただけならまだしもここにゃ大勢居るだろ!!」

イメルダもレストレンジも冷静さを失っていた。

「僕だけならやぶさかでもないんだ………じゃレストレンジは後でちょっと必要の部屋に来てもらおうかな…………」

女生徒がなおも杖を下ろしたまま戯けた事を口走った時、大騒ぎが続く大広間に血相を変えた屋敷しもべ妖精が飛び込んできた。

「ペニーはあなたを探しておりました!ペニーはあなたにお伝えしなければいけないことがあります!ホグズミードが大変です!」

自分の友人である屋敷しもべ妖精が血相を変えているのを見て、女生徒は素早く杖を一振りしてピクシー達の動きを封じて旅行かばんの中に吸い込み、イメルダとレストレンジが着衣の乱れを慌てて直すのを尻目に、屋敷しもべ妖精のペニーに駆け寄る。

「どう大変なの?ペニー」

「ペニーは動物たちに戻るよう促しておりました。ホグズミード村の他の方々もペニーに協力してくださっていました。しかし密猟者の一団が騒ぎを聞きつけました!」

それを聞いた女生徒が深刻そうな表情をしながらも僅かに笑ったのが、直ぐ側で見ていたフレッドとジョージにはわかった。

そして狂騒の大広間の光景が煙のように溶けていく束の間、双子にはハッフルパフ生の姉妹を床に降ろしたピーブズが自分達の方に手を振ったように見えたが、それは大広間から走って出ていく女生徒に手を振ったのだとすぐに理解した。

やがてホグズミード村の風景が立ち上がる。

「はは、こりゃすげえ!」「サンダーバードかアレ!あんなに何羽も?」

フレッドとジョージは気分の高揚が抑えられないらしく、興味津々で辺りを見て回っている。ダンブルドア校長もとんでもない雷雨が叩きつけるホグズミード村を、当時の思い出に深く浸かりながらゆっくりと歩いている。

しかしその風景の中の当事者達は穏やかとは程遠かった。

「ステューピファイ!こいつら、魔法法執行部と魔法生物規制管理課が指名手配してる奴らだ!密輸に密猟に脅迫に暴行に…………とにかくたくさん!」

監督生バッジを付けたレイブンクロー生が密猟者の1人に応戦しながら叫んでいる。辺りは複数羽のサンダーバードが空を舞い雷雨が降り注ぎ魔法生物達が駆け回る中、ホグワーツの生徒たちとホグズミード村の住人達が密猟者の集団と戦闘していた。

「インカーセラス!そのまま転がってろ不届き者!」

そう唱えて大柄な密猟者を簀巻きにし、さらにそこに何らかの呪詛を撃ち込んだ背の高い細身のスリザリン生の青年をダンブルドア校長は双子に指し示して「マルフォイ先輩じゃ」と紹介する。

「そりゃまたなんともはや」「お目にかかれて光栄だな?」

フレッドとジョージの反応はそっけない。

そこにエルンペントに跨った例の女生徒が突っ込んできた。その背中には小さなダンブルドア少年がくっついており、2人してエルンペントの上で杖を構えている。

「バーーーーーーーーカ!!!!まんまとつられたね!!そーれやっちゃえ!!」

女生徒の指示に従って、エルンペントは固まって立っていた密猟者3人に突撃する。

「何、くそ、ペトリフィカス・トタルス!」

「ステューピファイ!フリペンド!」

「クルーシ―、チクショウが!」

密猟者達はそれを阻止しようとするが、全てエルンペントの上の女生徒やダンブルドア少年、そして周囲の他の生徒たちに防がれ妨害される。

「あ」「ま、因果応報ってヤツだろうな」

密猟者の1人が全速力で突っ込んできたエルンペントにその大きな角で深々と突き刺され、周りの他の密猟者達を巻き込む大爆発を起こしたのを見て双子はさも沈痛そうに十字を切ってみせた。

「マグルが祈る時こうやるんだよな」「ああ。そう聞いたな」

そう言って笑う双子に、ダンブルドア校長も笑顔を返す。

「この当時ホグワーツの禁じられた森には密猟者が多く潜んでおっての。先輩はそれを目の敵に、そして半ば体の良い練習相手にしておった。なにをしても誰も咎めんからの。この密猟者共は特に悪質で、しかし潜んどる場所がわからんかったようじゃ」

ダンブルドア校長はそう言いながら一軒の店舗を双子に指し示す。

「あれが先輩の所有する店じゃ。色々あって5年生の時に入手したとの事じゃ。そしてあれに見えるのが」

爆炎の余韻がまだ地面で燻っており、なおも残りの密猟者達がホグワーツ生徒とホグズミード住人そして魔法生物達相手に抵抗を続けているその少し上の空を、透き通った男性が騒ぎながら漂っていた。

「こりゃいい。こーりゃいい!それいけ!やれいけ!やっちまえ!!よっし、そこだ!おーっとそりゃいけねえ。そのちびすけはアイツの大事な後輩なんだ!」

ぐるんぐるん身を捩りながらその騒がしい男は空中を流れている。

「先輩のご友人、ポルターガイストのファスティディオじゃ」

ダンブルドア校長がそう紹介したポルターガイストのファスティディオは基本的に生徒とホグズミード村側を応援しているようで、自分の住処である店舗の開け放たれた戸や窓から食器やら家具やらを操って、密猟者達にけっこうな速度でぶつけている。

「よーーっしナイスショット!!ありゃ痛ぇぞ!」

ファスティディオは自分が飛ばしたティーポットが密猟者の鼻っ柱に直撃したのを見て自画自賛しつつくるりと一回転する。

サンダーバード達によって引き起こされている落雷の内の一筋が女生徒によって指向性を持たされ、密猟者を正確に撃ち抜く。そして女生徒は周囲で戦闘が続く中、向こうの方から自分に呪詛を放とうとしていた凶悪な顔つきの密猟者に杖を向けた。

「カンティス(歌え)!」

女生徒のその呪文が命中した凶悪な顔の密猟者は、本人の意思に反して「夜の女王のアリア」を高らかに歌い始める。

「タラントアレグラ(踊り続けろ)!」

その呪文もあえなく命中し、歌い続ける密猟者は大きな動きでバレエを踊り始め、そこにさらに女生徒が杖を振ってその密猟者の服装をフリルだらけのドレスに変える。

「「「こりゃ傑作だ!」」」

ファスティディオとフレッドとジョージが同時に言った。

そしてまたしても景色が煙のように崩れていく中、ダンブルドアが「次に見るのは今回見たこの事件の発端、そもそものきっかけじゃ」と前置きした。

いつものホグワーツの廊下で、ポルターガイストのピーブズが浮かんでいる。そこに件の女生徒が声をかける。

「ね、ピーブズ。今ちょっといい?」

「おー?なんだあ?」

「大事な友達にプレゼントを贈りたいんだけどさ。ねえ、ポルターガイストってなに貰うのが1番嬉しいのかな?」

「そんなの決まってる。『大騒ぎ』さ」

ピーブズ、女生徒、廊下、全てが煙のように形を失っていき、3人は「憂いの篩」から顔を上げ、校長室に戻ってきた。

「じゃつまり何か?」「アレ全部あの『先輩』がわざとやったってのか?」

事情を理解して驚きが隠せないフレッドとジョージにダンブルドア校長が説明する。

「後年白状したところによると、そのようじゃ。『ポルターガイストの友人に喜ばれる贈り物がしたい』『魔法生物たちをたまには外でのびのびと遊ばせてあげたい』『尻尾をつかめない密猟者達をおびき出して一網打尽にしたい』という己の望みを掛け合わせた結果、ああなったようじゃ。結局騒動の完全な収拾にはまる3日かかり、後片付けにはさらに3日かかり、先輩は600点の減点と罰則を言い渡された」

そしてダンブルドアは、フレッドとジョージをじっと見つめる。

「この『先輩』が今年のホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教授を勤める訳じゃ。どうかの?この人の授業を受ける機会を、逃してもかまわんと思うかの?」

双子はお互いの目を見、ダンブルドアの目を見て、またお互い顔を見合わせる。

フレッドとジョージの答えは決まっていた。


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