First
「ん、ン、ん……♡」
ラウダがちゅ、と目の前のくちびるを吸って離すと、グエルは膝立ちになったラウダの腿に、半ば下腹部をこすりつけるようにして、恍惚としたような顔をする。ごきゅりと生唾を飲めば、グエルはその喉に、噛みつくようにくちづけを落とした。手を重ねて、肩口に顔を埋めれば、存外抵抗なく、グエルは倒れる。ふーっ、ふーっ、と溺れかけているように必死に呼吸を繰り返しながら、瞳孔の開いて普段より色を淡くさせた青のひとみで、こちらを、見つめる。
「らうだ、おれ、……♡」
多少の情けなさすら感じる声で、こちらを甘く見つめてくる。おかしい。非常におかしい。ほとんど片時も離れたことはなかったから、グエルにそう言った経験がないのはラウダが一番よくよく知っている。なのにどうしてこんなに、袖を引いて、ひとみを潤ませて、煽情的な姿をさらしているのだろうか。
後ろで二十代が「それは俺が解説しよう!」「今は黙っておいた方が良いと思うよ兄さん」「羞恥と欲求の狭間に立ち、解放できる手段として『あ、目の前にラウダがいるじゃないか!』と思った時の俺は、ほとんどの場合無意識にラウダに手を伸ばす。信頼できる唯一の血を分けた弟だから。この時期の俺は意地を張っていたから若干出力が迷子になっているのだなあ」「実況解説でもしているのかな兄さん」とごたごたうるさいが、ラウダは意識して聴覚をシャットアウトし、目の前に突き付けられた情報に集中する。
顔を埋めれば、同じシャンプーのにおいがする。
おなじはずなのに、ラウダのそれとは、どこかが違う。
暴きたい。曝したい。先程グエルが無理矢理喉を突かれて、とろりと目をとろけさせていたことを思い出す。彼はラウダが無理矢理抱いたら、どんな顔をして、どんな声を出すのだろう。赤く上気した指先で、躊躇うようにひとつひとつ、グエルの服を脱がせてゆく。上着を取り、インナーを脱がせて、ハーフパンツも。日に焼けた肌がほんのり熱を持って、骨の部分にそって血色がよく、赤くなっている。グエルは抵抗しない。むしろどきどきと期待にか恐怖にかに心臓を高鳴らせて、きゅうっとくちびるを閉じている。重なり合ったふとももを、そっと手をあてて広げさせれば、グエルの性器は、既に雁首を持ち上げていた。
「の……のど、つかれて、脱がされて、こんなに、なっちゃったの。一回も触っていないのに?」
「……あ、あまり、みるな。はずかしい……♡」
「はずかしくなんて、ないよ。にいさん、ぼく、嬉しい……♡」
叱るような口調に、力がないことを確認して、ラウダは真っ赤になった耳にくちづけた。ラウダも下履きを脱ぎ、先程一度抜いたというのに、既に痛いほどに張り詰めた自身を取り出した。
ちう、ちゅ、と音を立ててグエルの肌を吸う。健康的な褐色の肌に、やけに婀娜っぽい赤いあとが、次々、散っていく。なんだか罰当たりなことをしている気がして、ぞくぞく、背徳感にも似た、なによりうつくしいものを穢している感覚が、脳を占めていく。
だけど、ここからどうすればいいのだろう。多少はそういった知識もあるが、さすがに男同士で肌を重ねるやり方は習っていなかった。ラウダが若干当惑していると、ふと。二十代のラウダがすっと横に来て、何かボトルのようなものを差し出してきた。その顔はなんというか、非常に真面目である。
「ジェターク社開発、温感ローションです」
「なんて?」
「アロエ、コラーゲン、パーメット、オルガノイドアーカイブなどを配合」
「未来のジェターク社なにやってんの!?」
「皮膚に潤いを保ち肌を滑らかにする効果を持ちながら、無色・無味・無臭。ほんのり温かく、適度な粘度がある、どこまでも実用性を追求した一品です」
「馬鹿がよお!!」
ラウダは半ばヤケクソになって叫びながら、ボトルを奪うように受け取った。中身を__どれほど使えばいいかわからなかったので指先がねとねとになる程度にまで取り出せば、売り文句通り、少しだけあたたかい。
「に、……兄さん……」
「らうだ、……らうだ、はやく……♡」
先程のコントめいたやり取りで溜まった苛立ちは、グエルがそんなふうに、誘うようにラウダの腰をかかとでつついてきたことで、きれいに消し飛んだ。余裕無さげな表情に煽られるように、ちゅう、ちゅう、と不器用にくちびるを合わせると、二十代グエルが「まだまだ慣れてないなあ」とほのぼの言ってきた。真面目に一度しっかり痛い目にあってほしい。
「っう、あ゛……、!♡」
そっと、グエルの後孔に、自身の中指をあてがう。もう少し抵抗があるかと思ったが、ローションの粘りも借りて、中に、導かれるようにして、するりと飲み込まれていく。中は__さすが、人体の中、臓器、粘膜、といったところか。想定していたよりもずっと柔らかいのに、きゅうきゅうとこちらの指を締め付けてくる。
苦し気に眉をひそめながらも、声には明らかに色が乗っている。はやるきもちを押さえながら、ゆっくりと指の抽送を繰り返せば、グエルは微かに、甘い息を吐き出した。まだ萎えていないらしい彼の性器を、そうっと、開いたもう片手で擦ってやれば、そのたびグエルの身体が、ぴくりと跳ねる。目にはたっぷりの涙が浮かんでいて、ほんの少しだけ痛々しく感じるほどなのに、ラウダの手は、止まらない。止まらない。
ふと、なかにほんの少しだけ、他と感触の違う部分を見つける。ラウダは好奇心に導かれるまま、そこをぞり、となぞり、押しつぶしてみれば。グエルのくちから、「ぅあ、あああああッ……!?♡」と悲鳴じみた声があがった。
「に、いさん……?」
「あ、そこ、そこだめ、やあ、やああ……♡」
「ここがいいの?ここが、きもちいいの?」
「ひぃっ、うう、あう、ゃ、あ、あ゛、ああああああッ♡♡」
もう一本、二本、と指を増やし、執拗にそこを責めれば、ぐずぐずに溶けてしまいそうな声で、最初はいやいやとくびをふっていたのに、しばらくもしないうちに、こくこくと首肯しはじめる。「もっと」「もっとして」「こっちも」と急かされるまま、そこを何度もいじめていると、グエルは瞳をどろりと溶かして、くちびるを半開きにさせて、ああ、こんな、顔。見たことがない。
「ら、ぅだ、らうだ……♡」
「ね、にいさん、ぼく、も、ぼく……」
「ん、きて、きて、らうだぁ……♡」
指を引き抜けば、ちゅぽ、と淫靡な水音がして、グエルは名残惜しいとでもいうような顔をしてみせた。しかしラウダが、さきほどまでグエルのなかをいじくりまわしていた手で自分の性器を濡らし、ぴと、とあてがえば、期待にみちたような顔で、ラウダの背に自身の腕を回す。後ろの孔が、ちゅう、と挨拶をするように先端に吸い付いてくる。
いれたい。
性交の真似事を、したい。そう言えば、グエルのひとみがいっそう、どろりととろけて、やさしく、やさしく、囁いた。
「うん、おれも、ほし、ぃ、い゛、うううううううッ!?!?♡♡」
どちゅんッ!
最後のゆるしが与えられると同時に、我慢ができず、勢いよく、ほとんど無理矢理一番奥まで叩きつけるようにいれれば、グエルは背をのけぞらせて、絶叫した。
「あ゛ーーーッ!!!!!あ゛、あ゛、あ゛、あ゛あ゛!ああああッ♡♡」
「あ、にいさん、にいさん、にいさぁ……♡」
体重をかけてごつん、ごつんと叩きつければ、グエルのくちびるは壊れてしまったように意味のない母音ばかりを繰り返す。いやいやとかぶりをふって、そのたびにぱさりと髪が揺れ、汗とシャンプーの混じったにおいがする。
ぱん、ぱん、肌と肌がぶつかる音がして、まるで獣同士が交尾をしているみたいだ。信じられないぐらいあつい。信じられないくらい狭くて、うねるみたいにからみついてきて、きもちいい。夢中になって腰を擦りつけながら、人工呼吸でもするように何度も角度を変えてくちびるを重ねると、信じられないくらい、きもちいい、きもちいい、気持ちよくて、止まらない。
「ッは、らうだ、らうだまって、あ、あ、あ♡」
「むり、まてない、ごめ、ごめん、にいさん……♡」
グエルの身体が痙攣する。爪先がぴんと伸び、引き攣る。ああ、達するのか、とラウダはどこか冷静におもったが、それでも、とまらない。とめられない。べっとりと濡れてしまったグエルの腹を、おしつぶすようにして何度もぐちゅぐちゅと擦れば、グエルが声にならない悲鳴をあげた。もっとほしい。ぜんぶほしい。
だいすき。だいすき、だいすき。孕ませたい。これが性交なのであれば、孕んでもおかしくないはずだ。ラウダの脳が、雄としての本能に支配される。だって、グエルは、このひとは、ラウダのものだ。誰にも__だれにも渡しやしない。
「にいさ、すき、らいすき、あいしてる、すき、すき、すき、にいさん、」
「っひ、う、あう、ぁ、ぁ、あ……♡」
「にいさん、僕の子、産んでくれるよね♡ねえ、ねえ、ねえ!ねえ、すき、しゅき、ぼくの、ぼくだけのにいさん♡」
「ッあ、する、うむ、おれ、らぅあの、あ、あ、ああああああッ♡♡」
ひときわ大きく突きあげると同時に、グエルの肩口に歯を立てる。舌先にあまじょっぱい味を感じると同時に、グエルの身体が、なにもだしていないのに、びくびくと跳ね、なかがびくびくと子種を搾り取るように収縮する。きもちよすぎて、わけがわからなくなって、ぐちゃぐちゃになった感情ごと、全てを吐き出しきるように、ラウダの視界が、真っ白に染まった。
「この頃からラウダはこんなだったのか?」
「心外だ、兄さん。兄さんだからだ」
「責任転嫁」
「事実の指摘だよ」
頼むから今は黙っていてほしかった。
※パターンAだと攻めフェの予定でした 中の人は情けなく、可愛いラウダがとても性癖に刺さるなのでウキウキしていたのですが あの ダイス神(定期)