Film PINK 前編

Film PINK 前編




Chapter 0



 サーベル・オブ・ジーベック号船内、黒ひげの私室にて。

 黒ひげはコビーを椅子に座らせ、後ろ手に拘束していた縄を解いた。樽を机がわりにして置かれた二人分のカップからは湯気が立ち上り、コーヒーの香りが部屋に満ちている。嗅ぎ慣れた、しかしこの場には不釣り合いなその香りが緊張を煽る。

 黒ひげが向かいの椅子に座るのを待ち、コビーは険しい表情で口を開いた。


「……海軍に、何か求めるものでもあるんですか。貴方の目的はハンコックの能力だったはずです」


 冥王・レイリーが見守る中、海軍と黒ひげ海賊団は争うことなく女が島を後にした。しかしその停戦状態も束の間。海賊団は軍艦を襲撃し、海兵全員の命と引き換えにコビーを攫うという暴挙に出たのだ。抵抗すれば争いに飢え燻っている海賊島の海賊達全てを動員すると脅され、コビーは大人しくここにいる。

 黒ひげはコーヒーを啜りながら、コビーに視線をやった。


「そりゃあ通過点に過ぎねェ。海軍のモンにならなきゃ別にいい。手段の為に目的を見失ってちゃ意味無ェだろ」

「……」

「飲めよ。海軍の奴らは苦いのが飲めねえ割に、コーヒーにこだわってやがるらしいじゃねェか」

「……よくご存知ですね。みなさんミルクたっぷりの、甘いコーヒーを召し上がってますよ」

「全くおかしな奴らだぜ」


 ゼハハハハと笑い、黒ひげはほら飲めと言わんばかりに顎でカップをしゃくった。コビーは依然として晴れない表情のまま、顔をカップの方へと向ける。

 一体どこで、誰からその情報を仕入れたのだろう。彼の心の声を聞こうにも、欲していたものが手に入ったという喜びの声しか聞こえない。「手に入れること」ただそれだけなら、縛りつけたまま支配すれば良い。そうはせずに友好的な態度を示されている今、頑なに拒むのは不利益になりかねない。

 コビーはひとまずカップを手に取り、中身を覗き込んだ。ゆらゆらと揺れる表面は、やはりほとんど黒に近い茶色をしている。きっとブラックコーヒーだろう。

 困った。ブラックコーヒーが苦手なのはコビーも例外ではなかった。酸味と後に残る深い苦味がどうにも克服出来ない。しかしここでいかにも不味そうに飲んでしまってはきっと逆効果だ。一口小さく口に含んで様子を見て、残りは一気にいくしか無い。コビーは恐る恐るカップに口をつけた。


「! 甘、い?」

「やっぱりお前も苦手なクチだったか」

「ええと、その、まあ……」

「無理するこたァねェ。お前のはこれからも甘くしておいてやる」

「……僕はここに長くいるつもりはありませんよ」

「あァ? おれァお前を引き抜きたいんだぜ、コビー大佐! お前の見聞色の覇気は探査機よりも精度が良いと聞いた。ボスに楯突く胆力もある……何より腕っ節が強ェのが良い。能力ってのは強くなけりゃ活かしきれねェもんだ」

「一時的な協力関係を築くことはあっても、あくまで僕は海軍の一海兵です。あなたがた海賊団の、クルー、に、は……、っ?…………」


 突如コビーの体が大きく傾いて、そのまま床に倒れ伏した。意識は強制的に閉ざされたらしく、瞼を下ろしたままピクリとも動かない。

 黒ひげはコーヒーを飲み干し、立ち上がってコビーを見下ろした。


「ゼハハハハハハ!!そう言うと思ったぜ英雄……!もうちっと従順になってもらわねェとなァ…………」




Chapter 1



 じんわりと、嫌な汗をかいている。浅いところで息を繰り返していて、頭の中に自分の呼吸音が響くのが不快だ。体の内側から臓器を押し上げられているような、とてつもない圧迫感が苦しい。けれど体が怠くて、微睡からなかなか抜け出せない。小舟に寝転んだまま、穏やかな海に揺られているようだ。

 コビーはうっすらと瞼を開き、顔を正面へと向け────覆い被さっている黒ひげと、自身を取り囲む黒ひげ海賊団の面々に目を見開いた。


「な……っ!?」


 反射的に起き上がろうとした体は、船員たちに押さえつけられてしまった。左足は黒ひげの肩に担ぎ上げられ、脚の間からずっぽりと黒ひげのものが体内に埋められている。全ては収まり切っていないにも関わらず、コビーの体には大きすぎて、形がわかるほど腹部が膨れてしまっている。

 コビーは顔を真っ青にして、その悍ましい光景にゆるゆると首を振った。


「ぁ、あ……嘘…………!」

「ホホホホホ。寝覚めの気分はいかがですか」

「ク……ッ、やっぱり意識があると多少締まる、なッ」

「うぐ……っ、ぁッ、ア……」


 揺すられて増す腹部への圧迫感に、背筋からゾクゾクと良からぬ心地が抜けていく。唇が蕩けてしまって、言葉も紡げない。

 こんな、こんなのは受け入れられない。

 コビーはグッと奥歯を噛み締めて、船員たちを押し返そうとした。が、上手く体に力が入らず、なんだか縋るような格好になってしまう。

 せめてとばかりに睨みつけるも、こちらを見下ろして嗤っている船員たちに、アルビダ船に乗せられていた頃の記憶が重なる。

 純然たる敵意ではなく、従わせ、玩弄してやろうという支配者の笑み。

 大きくて、自分じゃ敵わない人達。

 押さえつけられた体が竦む。

 ────怖い。

 一度そう思ってしまうと、忽ちのうちにじっとりとした恐怖心が思考を蝕んだ。カタカタと指先が震え出し、息も浅くなっていく。

 いいや、考えるな。考えるな!

 怯む心を振り払うように、コビーはがむしゃらに身を捩る。


「っく、ぅゔ……!」

「ウィ〜〜ッハッハ!!力で敵うわけねェのに健気なもんだ……!!」

「そもそも薬で弛緩させているんですから……能力を使うまでもないでしょう、バージェス」

「おいおい暴れるなよ、コビー大佐。痛みが分からねェってのは、体の危険信号が無いも同然だ……」

「んんっ、んっ……」


 黒ひげの大きな手が伸びてきて、コビーの顔を掴んで押さえつけた。黒ひげはぐぐっと身を屈め、膨れた腹部を辿りながらコビーの耳元に低く囁きかける。


「下手に暴れりゃ、うっかりこの薄い腹を……ぶち破っちまうかもしれねェぜ?」

「…………ッ」


 コビーは息を呑んで、ぎゅっと目を閉じた。ボロボロと、堪えていた大粒の涙がこぼれ落ちていく。本能的な恐怖と、未知の行為への恐怖でもういっぱいいっぱいだった。徒に腹を撫でているその手つきも、頭に響く囃し立てる声も恐ろしい。誰のものとも分からない長い舌が、涙を舐め取っていくのも恐ろしくて仕方がなかった。


「まァ……大人しくしてりゃあ無茶はさせねェ」

「……ンぁッ、ァ!? は、あ゛、あぁ……っ」


 腰を掴まれ、体内を侵略していたものが引き抜かれていく。頭から足先まで甘い痺れが全身を駆け巡り、背を反らして震える。だらりと開いた口からは、聞きたくもない嬌声が溢れていってしまう。かと思えば再び奥深くまで貫かれる。圧倒的な質量に突き上げられる度、思考が散り散りになっていく。恐怖と快楽がごちゃ混ぜになって、頭が割れそうだ。


「あぐっ、ぅ、は、あッ……!」


 どうして、どうしてこんなことに。

 断らず黒ひげに従えば良かったのか。否、どうであれ従うわけにはいかなかった。こんな残虐な時代が続けば良いと願う海賊に下るなど、海兵の誇りにかけて絶対にしたくなかったのだ。とはいえ今の状況は、果たして。


「うっ、ぁ…………」


 一際強く腰を掴まれて、中でドクドクと脈打ちながら熱いものが広がっていく。渦巻く“楽”の感情と笑い声を遠くの意識で感じ取りながら、コビーは疲れ切った瞼を下ろした。




Chapter 1.5



 黒ひげ海賊団に襲撃された海兵達は命こそ落とさなかったものの、ほとんど壊滅状態に近かった。ヘルメッポ自身も傷は深く、電伝虫でなんとか病院船の手配を要請したが、コビーの拉致を阻止することは出来なかった。まざまざと無力さを思い知らされ、やるせなさでどうにかなってしまいそうだった。嘆き出したらきっと止まらない。しかし一先ずはコビーに救われた命たちを守り切る為、追跡はせず病院船の迎えを待った。血が滲む唇を、噛み締めながら。


 海軍本部への帰還後、ヘルメッポは回復して一番に中将・ヤマカジの元へと向かった。コビー救出の動きもないまま、組織は次の段階へ動こうとしているらしいという噂を耳にしたのだ。どうか真実ではあってくれるなと、冷や汗をかきながら廊下を歩く足を早める。


「ヤマカジ中将! ヘルメッポ、参りました」

「入れ」


 入室の許可がおりるやいなや、ヘルメッポは思い切り扉を開いてツカツカと中将の机へと詰め寄った。逸る気持ちを抑えつけ、努めて硬質な声で尋ねる。


「失礼します。一つ確認したいことが」

「……コビー大佐の件か」


 くるりと椅子を回転させて、ヤマカジがヘルメッポを見上げる。表情は相変わらず穏やかだが、声色は重たい。来ると思っていた、とでもいいたげな声だった。


「ええ。救出に向かわないというのは本当ですか」

「……本当だ。不甲斐ないがな。既に各艦には静観の命令が下ってる」

「ッ……! あの紙面が出てしまった以上、いつまでも続報がないのは市民の不安を煽ります。大佐がどれだけの支持を集めているかはご存知でしょう。どうして、」

「あちらさんが動かねぇ限り、こっちも動けねぇんだと」


 ヤマカジは声を少し張り上げ、捲し立てるヘルメッポの言葉を遮った。机上に置かれたヤマカジの拳にぐっと力がこもる。やるせなさを逃すように深く深呼吸をして、彼は改めて口を開いた。


「四皇を抑え込むには人員不足だ。下手に動いて隊員が減っちまったら……お前、コビー大佐に顔向け出来るのか?」

「…………。仰る、通りです」

「今は耐える時だ。生きていると、信じるしかねぇ」

「……はい」


 その時はそう言って引き下がったものの、ヘルメッポは諦めきれなかった。ヒバリと二人で各所、あらゆる支部に至るまで赴いて、コビーの奪還を訴えた。しかし、首を縦に振った者は誰一人としていなかった。曰く、「件の大佐を人質として交渉を持ちかけられているわけでもなく、革命の対応にも追われる今、安否も分からない一左官のために裂ける戦力などない」と、皆概ね同じことを言った。お前も分かっているだろうにという眼差しで追い返される度に、ヘルメッポは憔悴していった。


 また同じ結果に終わってしまった帰り道。支部を出てからというもの、黙りこくったままのヘルメッポと共に、ヒバリも足元に視線を落としてとぼとぼと歩いていた。

 もしこのまま連れ戻せなかったら、二度と会えないようなことになったら。……先輩の意思を無視した、何か酷いことが行われているとしたら。それを助けに行くことも、出来ないかもしれないなんて。不安が胸に満ちて、視界が滲む。洟を啜って、思わず隣を見上げた。


「ヘルメッポ先輩……」

「……あんだよ」


 応えた彼の声も、少し震えていた。怒りや悲しみを必死に飲み込んで、平静を装っている声だ。

 ヘルメッポからすればきっと半身を失ってしまったようなものだ。しかも目の前で攫われている。つらさは人一倍だろう。そんな中必死で頭を下げて回って、でも、誰も手を差し伸べてはくれなくて。

 ヒバリはもうしゃくり上げてしまって、言葉にならなかった。それにつられるように、ヘルメッポのサングラスの下からも滂沱の涙が溢れ出す。


「……畜生〜〜!!黒ひげが動くまで待てってよォ、んなこと出来るわけねェだろ!! し、死んじまうかもしれねェんだぞ!!」

「でも、ウチらだけじゃあ勝ち目はないですけェ……。もう“王子”に直談判するしか……」





Chapter 2



 何度目かの屈辱の狂宴が終わり、コビーは一人静かにベッドで横になっていた。もう何も挿入れられていないはずなのに、未だに誰かのものが体内に居座っているかのような違和感が残っている。体は清められてこそいるものの、着ていた服はどこへやら、船員のものであろう大きすぎるシャツを一枚着せられているだけだ。メガネもバンダナも見当たらない。発熱をしてしまっているのか、体が怠くてひどく寒い。右足に付けられた足枷がやけに重たく感じてしまう。

 やっと、やっと終わったのだ、今回も。何度中に出されたのだろう。一人で何人もの相手をして、終わる頃には大体意識が無い。

 恐ろしいことに、回を重ねる毎に違和感と苦しみは薄れ、快楽を強く得るようになってしまった。思えば痛みは初めから与えられていなかったが、あちらの手つきも愛でるものへと変化していっている。それを受け入れるのもまた怖くて、ちぐはぐな心は追いついていかない。肩や腰回り、足首、手首に残る強く掴まれた痕は征服の証のようで、惨めさや虚しさを嫌でも思い出させるのだ。


 はあ、ふうと熱い息を吐いて、シーツに包まって体を丸める。扉の向こう、廊下から誰かがこの部屋に向かって接近してきているのを察知したのだ。回復しきらない覇気では、気配も朧げで人物を特定できない。

 まともに法悦に浸ってしまっては、体力の消耗も著しい。行為中に気まぐれに果物を手から与えられて、なんとか生き延びているようなものなのだ。むしろ今までよく身体が保ってくれていたと言うべきだろう。

 それなのにあんな、また無理強いをされたら。揃いも揃ってコビーの倍にも及ぶ体格の彼らだ。四皇の海賊団ともなれば個々の戦闘能力も高く、普段のコビーとて苦戦する。万全ではない今、迎え撃つなんてできるはずがない。

 コビーはきゅ、とシーツの端を掴んで、体を縮こまらせて扉の開く音を聞いた。


「ゲホ……ゴホ……」


 引きずるような足音と、具合の悪そうな喘鳴。負傷者だろうかとシーツから顔を出してみれば、ドクQだった。

 彼はその虚弱体質故か、輪姦には加わっていない幹部のうちの一人だ。要注意人物であることには間違いないのだが、コビーにとっては比較的安全な人物という認識だったので少しだけ体の力を抜いた。

 出した顔の頬や額に、ドクQの手の甲が当てられる。


「ハア……ハア……ううん、下がっていないな….……」


 ドクQは首を振るって、コビーの額に濡れタオルを乗せた。冷たいタオルの心地よさに、そのまま瞼を下ろす。

 生かされていると思うべきか、看病されていると思うべきか。何のためにという疑問が尽きない。ここに連れてこられてから、性交以外に何をした覚えもない。「引き抜きたい」の言葉の意味を考えてしまう。先の目的が見えてこないのだ。

 悶々と考えていると、部屋の扉が勢いよく開かれてまた誰かが入室してきた。足音はコビーの寝ているベッドまで近づいてきて、こちらを覗き込む気配がしている。覗き込まれた拍子に、ふわりと甘い花の香りが鼻腔をくすぐった。


「あら。まだ寝てる?」

「いや……?さっきまで起きて……ゲホ!ゲホ!」


 やはりというべきか、女性の声だ。そろりと瞼を開いて見上げてみると、カタリーナ・デボンがそこにいた。彼女もまた、こうして顔を合わせるのは初めての人物だ。


「……起きていますよ。何か、用ですか……?」

「プレゼントを持ってきたのよ。貴方には感謝しなきゃいけないからねェ……」

「?」


 デボンは小さな布切れを取り出して、ピラリとコビーに広げてみせた。黒い布地に真っ赤な彼岸花の模様が散らばっている。

 どこか不吉な印象すら受けるそれを折りたたんで、彼女はコビーの枕元に置いた。そのままベッドに腰をかけ、長い足を組んで語りかけてくる。


「貴方、花柄のやつ頭にしてたでしょ? それの代わりにでも使ってちょうだい」

「バンダナは……」

「ひどいことになってたから洗濯中よ」

「それは、どうも……。でも僕、感謝されるようなことは、何も……」

「ムルンフッフフ!みんなアンタにお熱なおかげで、散々“仲良く”した後の女が回ってくるなんてこと無くなったのよ!牢の女もまだ手つかず。獲物が台無しにならなくて助かるわ!

いくら美しい首でも、汁まみれじゃコレクションにする気が失せるのよねェ……」

「!!!」


 彼女は今、なんと。

 突如与えられたとんでもない情報に、コビーは目を見開いて絶句する。つまりコビーが受けた悍ましい行為を、同じように受けた女性達がいたということではないか。口ぶりからして、未だ囚われたままの女性もいるのだろう。黒ひげ海賊団の悪行を知らないわけではなかったが、なんて酷く、残忍な。怒りに体が震え、額に乗せた濡れタオルがずり落ちる。

 それを直してやろうとしたのか、こちらに伸ばされたデボンの手をコビーは反射的に弾き返した。デボンを睨みつけながら、ふらふらと覚束ない様子で上体を起こす。


「ムルンフッフ……良い顔するじゃない♡

 でも、無茶はやめておいた方が身のためよ。まぁ別に可愛がってあげても────」


 ポフン!と煙が一面に立ち込め、中から腕だけが伸びてきてコビーの顎を掬いあげる。


「────いいんだがなァ……」


 煙が薄れて現れたのは、ニタリと笑う黒ひげだった。するりと顔を撫でた手は、そのまま首筋を辿り、鎖骨、胸、腹へと降りていく。薄いシャツ越しの、この分厚い手の感触は知っている。触られたところから凍りついていくような心地がして、目を逸らせないまま青ざめて息を詰まらせる。


「おい……」


 ドクQの静止の声に、コビーはやっと呼吸を取り戻した。胸を押さえ、ゼエゼエと必死で酸素を取り込む。

 にわかに煙が立ち込めて、離れていく気配に顔を上げた。


「分かってるわよ!まだ治療中だってんでしょ!アンタのポリシーを侵害したりはしないわ、海賊島の信条だもの。

 けど、この反応じゃ先は長そうねェ……」


 デボンはベッドから降り、コビーを振り返る。


「ああ、そうだ。その布、提督のお古だから」


 意味深な笑みを浮かべ、彼女は出ていった。

 コビーは晴れない表情のまま、枕元に置いていかれた布を手に取る。

 もしこの布をして、他へは行かないでと訴えれば、黒ひげ達はその通り独占されてくれるのだろうか。被害を、ここに押し留めることが出来るのだろうか。ハンコックに対する反応を見るに、一筋縄ではいかなそうだが。

 何はともあれ、まずは体を回復させなければ。コビーは布を枕元に置いて、のろのろと再び布団の中に潜り込んだ。額の上に濡れタオルがそっと戻され、その手の主たるドクQを見上げる。


「……すみません、何度も」

「全くだ……ハァ……。あそこで遭遇したからには、お前はここに来る運命だったんだろう……。提督もお前を必要としている。不意にするわけにはいかない命だ……それを自覚しろ」


 言い連ねながら、ドクQはよろよろとベッドに乗り上げてきた。コビーの隣に仰向けで並んで横になり、大きく息を吐く。


「ああ……ところで……おれも少しここで寝て良いか……?……ゲホ!ゴホ!……もう限界だ……」

「ど、どうぞ……」


 良いも悪いももう寝てるじゃないですか────。そんな野暮なことは、さすがにコビーも口にはしなかった。



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