Fate×プロセカ 無茶して倒れた類と高杉

Fate×プロセカ 無茶して倒れた類と高杉



目を覚ますと見慣れた天井があった。

UFOに風船、薄暗い視界に映る装飾に自分の身体を包む温かな毛布の感触。どうやらここは僕の部屋のベッドの上らしい。どうしてここにいるんだっけ、まだ覚醒しきっていない頭でゆっくりと首を動かす。

視線の先に見えたのは、ソファに座って何かを読んでいる高杉さんだった。動く僕の気配を感じ取ったのか、すぐに彼の目だけがこちらに向けられる。

「起きたか」

高杉さんは読んでいたものを脇に置いて立ち上がり、こちらに近づいてくる。その顔に普段の人懐こそうな笑みは一切浮かべられていなくて、少し緊張してしまった。

「君、どうしてここにいるのかわかってるのか」

そう問われて、少しずつ記憶が鮮明になっていく。

そうだ、僕はセカイに音楽を取り戻すために仲間たちとショーの練習をしていた。力を貸してくれる英霊たちのおかげもあって、今までにない演目ができるはずだった。練習を繰り返す度にショーの完成度が高まっていくのを肌で感じながら、自分の台詞を口にしようとした瞬間に倒れたんだった。

視界が暗くなる寸前、みんなが驚きと焦りの混じった表情でこちらを見ていたことを覚えている。

「……確か、練習中に倒れて」

「ああ。だが僕が聞いてるのはそこじゃない」

高杉さんの鋭い眼光が僕を射抜く。彼の切れ長の目は向けられるだけでも迫力があるな、と少し場違いな思考が僕の頭をよぎった。

「なぜ倒れたのか、自覚はあるのか?」

自覚。そう改めて問われた時には随分頭も冴えていた。そういえば……ここのところ僕はずっと起きていた気がする。ショーの脚本や演出を考えたり、敵に対抗できるロボを作るために設計をしたり組み立てをしたりでまともに眠った記憶がない。寝不足の状態で分泌され続けるアドレナリンでハイになっていたのかもしれない。

……そうか、僕は無理をしていたんだ。

「その様子だとわかってるみたいだね」

僕の考えを感じ取ったのか、高杉さんは小さくため息をついて目を伏せる。普段から「面白さ」に熱意を示す彼がこんな憂いのある表情をするのは初めてで、今日は珍しいものばかり見るなと思った。

しかしその間は一瞬で、高杉さんはすぐに口を開いた。

「そもそもあの仕事量を一人でできるわけないだろ。今までは君の志に敬意を表して黙っていたが今後は許さないぞ。ショーを作るために根を詰めすぎて倒れてショーに支障が出るなんて本末転倒じゃないか。司君もえむ君も寧々君も心配していたぞ。大体なんだ、この僕がいるのに相談一つしないなんて。面白いことを考えるのに僕を混ぜないのが一番ありえない」

マシンガンのように言葉をまくし立てられる。元々高杉さんはよく喋る人だったがここまで有無を言わさない勢いで話すのは初めてだ。しかし、彼が一息ついたところでも僕は何も言えなかった。最後の一言は置いておいて、それ以外の指摘は事実だったからだ。

「……すみません」

やっと一言こぼすことができた僕の言葉を聞いて、それまで厳しい表情をしていた高杉さんは気まずそうに頭を掻く。

「あー……まあ、君のことだ。自分の何が悪かったかなんて言われなくてもわかってるんだろう」

そう言って高杉さんがしゃがむ。横になっている僕と同じ高さに彼の紅い瞳がある。

「それでもあえて言わせてもらう。なんでも一人でやろうとするな。こんな状況下で誰にも頼らないなんて水くさいってものだ」

「……そうですね」

司くん、えむくん、寧々。みんなの顔が思い浮かぶ。決して信頼していないわけではなかった。むしろ信頼しているからこそ、負担をかけたくなくて自分でできることは全て一人でやろうとしていた。その結果がこれでは立つ瀬もない。

そんな僕を見て、高杉さんの目が細められる。なんだか遠くを見るような、まるで手の届かないものを懐かしむような表情だった。

「気持ちはわからないでもない。だが、一人でできると突っ走ったところでその先に待ってるのは大抵碌なもんじゃないからな。結局、みんなで力を合わせた方がより早く目標に近づける」

みんなで。高杉さんの言葉がやけに胸の内に響く。わかっているつもりだったけど、僕もやはりまだまだだ。

「……なんだか経験したことがあるかのような言い方ですね」

思ったことを素直に言っただけだったけど、その言葉に高杉さんは一瞬目を丸くする。けどすぐにニヤリとした笑みを浮かべ、「そんな口が聞けるならもう大丈夫だな」と返してきた。

「まあ、今後は君がキャパオーバーしないように僕がしっかり管理してやるから安心したまえ! 未来の社員の面倒を見るのも立派な社長の執務だろ?」

「まだ履歴書も出してないですけどね」

軽口を叩き合いながら笑う。先ほどまで沈んでいた気持ちが、いつの間にか軽くなっていた。

「さて、お説教は終わりだ! やはり僕に先生の真似事は向いてないな。類君ももう少し休みたまえ」

「はい、ありがとうございます」

「その代わり」

高杉さんが立ち上がってソファの方へ歩き出す。そして先ほど彼が置いていったもの──僕が書いていた設計図を拾い上げ僕に見せた。

「起きたら緊急会議だ。こんな面白そうなもの、二人でやらなきゃ勿体無いからな!」


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