Fate/Calendear Round

Fate/Calendear Round



──これは誰も知らない物語。13バクトゥンの時超えて、シバルバーにも立ち寄らず、トゥランの地すら見向きしない、一人の王のお伽噺。ポポル・ヴフの端から端まで探したって書いてない、そんな寂しい英雄譚。



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──タイタニックの死から100年目、人々の数が70億に至った年。スーパームーンから始まり、金環日食、木星色、金星食、皆既日食が立て続けに起きた2012年も残すところ1ヶ月となっていた。


聖夜か、あるいは年の瀬に備え忙しなく人々が行き来する街を翡翠の王、パカル大王とそのマスターは見下ろしていた。

この地を舞台とする小規模聖杯戦争に巻き込まれながら、二人の腐れ縁はここまで続いていたのだ。



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「フヒヒヒ…とうとう世界が終わる日まで1ヶ月…私を馬鹿にした奴らも、マヌケな家族も、みんなみんなこれで終わりね。ざまあみろ!」


薄暗い部屋の中、PCから漏れ出る光に顔を照らされた少女が卑屈な笑みを湛えていた。

カリカリと音を立て、床に魔法陣のようなものを描く彼女の手にはオカルト誌が握られている。『マヤ文明終末論』『魔術の入門』etc…チープかつ俗的な内容の羅列の中に何度も読み返した痕跡が見受けられた。

そんなものを信奉するから他者との軋轢が生まれるのだと父母は言う。だからこそ少女の心はより堅く閉じられ、遂には引き篭もって早数年なのだが、そんな現実すら忘れて彼女は熱中していた。

 世界の歴史の周期の近づく今なら、ひょっとして本当の何かを呼び出せるのでは?そんな子供じみた期待に胸高鳴らせ、少女はインターネットで見つけ出した文言を唱えた。


「え、えと……『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。』

『閉じよ(みたせ)。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。』

『───告げる。

汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。』

『誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ』───!」


眩き光に包まれ、陣が輝く。


魔術回路すらも持たぬ者の、出鱈目な儀式、そこに何か起きるなど本来はあり得ない。

だが今この時、運命は多大なる偶然の奇跡をもたらした。


幾度もの天文現象が続いた星辰の巡り、たまたまこの地を流れていた霊脈、そして遥かな過去からこの時召喚されるよう宿命を定めた王の宝具、これらの要素が重なり少女はマスターとして選ばれたのだ。


──目をゆっくり開き前を見上げる。へたり込む少女に仮面から覗く視線を向け、その老人は玉音を響かせた。


「ふむ、では少女よ…問おう、お前さんがワシのマスターか?」



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「英霊?聖杯?な、なによそれ!?ま、まさか私の右手に封じられし堕天使の力が覚醒する時が来たってこと!?え、そんな児戯とはわけが違う?…あ、そう…」


最初は右も左も分からぬ状態だった彼女も日が経つと共に最低限の知識はなんとか覚え、この街で始まった争いに巻き込まれていくこととなった。

それはトウモロコシの神の象徴たる生命の樹を装備することから充てがわれた本来のクラス、ランサーを降臨者のものへ上書きし現界したパカル大王との二人三脚でなんとか生き延びる、ギリギリの連続であったのだが。


「しかし良かったのか?こんなゲーム?なる代物で毎日遊び呆けるなんて…」

「『この千円で夕飯は済ませなさい。』なんて書き置きだけ残す親が悪いのよ。お陰で数日ご飯を我慢してWii U買えたんだからいいじゃない?」

「しかしのう…」

「フォーリナーは黙ってて!大体アンタだってこれ楽しんでんじゃん!『この大トカゲを狩るのか?』とか『このラスボスは甲羅背負ったトカゲか』とか、挙句に『現代の創作物は爬虫類が多いのう。イツァムナー(マヤ神話の双頭のイグアナの姿の神)への信仰が流行っておるのか?』なんて言い出す始末、何なのよこのジジイ!」


二人はこの様に暇を見つけてゲームをする位には信頼を互いに勝ち取っていた。

やいのやいのと軽口を交わせる程には親睦は深められているのだ。

まるで祖父でも見つめるかのような眼差しで彼女は情景をぼやいてる。


「でもアンタは良いよね。こんな新しいものにもすぐ順応して…私だって自覚はあるんだ、コミュニケーション下手だって。でも気持ちばっかりが先行して、気付けば一人ぼっち…」

「ああ、確かにいつの世も分不相応な出る杭は打たれるものだ。ワシの時代なんかはお前さんみたいな妄言を吹聴する輩は爪弾き者にされ、よく生贄にされていたものだな」

「はぁ!?酷くない!こーゆーのは普通慰めてくれる流れじゃないの!?」

「甘ったれるな。逆に考えろ。お主のような者でも現代では生きること事態に罪はないのだ。人の輪からは外れようと、社会的には生存を許されている、良い時代になったではないか。

だからこそ忘れるな。そうして居ることが世界から許されているのなら、お前さんにもきっと見つかるはずだ。自分の為の生き場所というものがな」


英霊3騎がすでに退場し、戦争も後半戦といったところ、王は来るべき時が迫ることに気付きながら残されたこの時間を噛み締めていた。



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「恩に着る。まさかワシの自己満足にお主らまで付き合ってくれるとはのう」


電話越しに犇く他陣営のサーヴァントに挨拶を返し、老王はあっけからんとした顔付きで話を続けた。これからその身を犠牲にする覚悟で事に当たる男とは思えない態度である。

今日は23日、マヤの暦が周期を迎える、滅亡のXデー。

当然眉唾ものの噂でありながらも世間ではそれはまことしやかに語られ、多少の混乱をもたらしていた。

何か起きる、本能的にそれを察したパカル大王は残りの3騎との不可侵条約を申し込み、何とかそれを認めさせた。

競争相手、それも世の理に沿わない特殊な霊基のサーヴァントが一人聖杯戦争と関わらずに消滅するならばと彼らもそれを承諾し、この場においては互いに矛を収めているのだ。

正当な魔術師のマスターの張り巡らした人避けの魔術の影響でビルの屹立する中心街には人っ子一人居らず、ただただ静寂だけがそこを支配していた。

人も車も何一つ無き交差点に王とその従者、もとい少女は並び立つ。暗闇の中に電灯に照らされながら星を見据えるその様はまるで出会った時の一人部屋の如く、二人の暗い面持ちだけが克明に現れていた。


突如として鳴り響く地鳴りの音、それに伴い大地は揺れ動き道は砕け散った。

巨大な陥没となり暗い大穴を覗かせたそこからは不気味な泥のような物が溢れ出してきた。


「見つけたぞ聖杯!よもや地下に隠してあったとは!」


黒く、黒く、黒く、悍ましい瘴気を燻らせながら這い出る呪いは形を成し、巨大な核へと集いながら拡張を続けていた。


「ね、ねぇフォーリナー…聖杯ならなんでも願いを叶えてくれるんでしょ?だったらそれで止めれば…」

「いや、その聖杯こそがこの原因だろうな…そもそもワシらの世界観に終末などという概念はない。暦の周期の終わりと共に世界が滅ぶなど言い伝えた記憶もないぞ」

「どういうこと?」

「つまり本来この世界を揺るがす危機など存在しないはずなのだ。だがお前さん方現代人はそれを夢想した。まことしやかに語り、信じた。

その思いが英霊3騎分の魔力を糧に聖杯に投じられ、形となったのだ。『願望を歪めながら叶える』汚染された聖杯、それがこの戦争の景品の正体だったのだろう」

「はぁ!?じゃ、じゃあ私もアンタも最初から意味もなくこの戦いに挑んでたっていうの!?」

「おそらく何れかの段階でその在り方を変質させられてしまったのだろうな。だがワシは遥かな過去から星読みでこの結果を薄々予測していた。ま、つまり最初からそうゆう運命だったのだろう。

──見ろ、あの呪いの塊を。あのまま大気圏を超え宇宙へ登り、隕石の概念となってこの星を殺しに落ちるつもりなのだろう。その前に決着を付けねば手の出しようもない。さぁ、征くぞ!」


勇ましく鬨の声をあげ宝具を展開するパカル大王。その真名解放と共にそこには巨大なピラミッド、パレンケの神殿が顕現していた。


神秘を宿した攻撃要塞としての機能を有する『悖る日々に翡翠は語らず(バクトゥン・バル・サゴス)』はその形態を石造りの怪物へと変形し、その頂上に降り立つフォーリナーの指示の下アスファルトを駆け出した。


突撃、それと共に吐き出される星の光を収束した光線の連打にさしもの汚染聖杯も一時はその泥を跳ね除けられるまでに至るが、そこはやはり万能の願望器、汲めども尽きぬ呪詛の波を相手に戦況は堂々巡りを繰り返していた。

泥は帯となり質量を得る。幾重にも折り重なり、それは暴力の嵐を表した。固い大地をも穿ち、砕き、腐らせる、それは意思なき滅亡の敵意であるのだ。


神殿に殺到するその多重攻撃を受け流しパカル大王は戦場を走り回る。しかし非力なマスターを庇いながらの立ち回りにも限界はあり、次第に手数の差で彼らの勢いは押され始めていた。

呪いの核は上空へ昇り、刻々と手の届かぬ領域にまで差し迫っていた。


「ああ…クソッ、クソ!あと少しだというのに、なぜ足りないのだ!ワシの力ではなにも救えぬというのか!?」


焦燥を顔に貼りつけ王は吠え立てる。それを嘲るが如く溢れ続ける聖杯の泥の対処に追われ、最早彼にはあの偽りの隕石を落とす余力は残されていなかった。


「フォーリナー!私のことなんか構わないでよ!守らなくていい、助けなくてもいい、だからみんなを、この世界を、先に救ってよ!」

「今を生きる者一人救えずして何が王か!何より、マスターを見捨てる輩などいるわけないわぁ!!」


互いにボロボロになりながら、それでも王は己の背後に少女を置き槍を振るっていた。


(ワシはいつもそうだ。物事の優先順位を決められず、ついには何も成せぬまま終わってしまう…。カラクムルを打ち滅ぼすこと、民の安寧を保証すること、その二兎を追えども一兎すら得なかった。

──ああ、でも、仕方ないだろう?世界も、友も、変わりなく大切なのだから…)





こうして世界を滅ぼす呪いは宙に消え、滅亡の予言は成就され………はしなかった。



「義仲様…どうかお力を!『滾る私の想いの一矢(ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カン)』!!」


「『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』!!んん〜一方的ですぞwww」


「迷信積もれば真となる、か。…ふむ、収集する価値も無いデータだ。『千に分かちて一なる解へ(アクインクム・エドバック)』!!」



燃え滾る業火の矢が、雨の如く降り注ぐ砲弾が、中空を覆う電流の衝撃が黒き氾濫を粉々にする。


「ど、どういうこと!?」

「世界存亡の危機というなら敵も味方もありません!巴、僭越ながら助太刀に参りました!」

「昨日の敵は今日の友、目指すはポケモンマスターですぞwデュフフフw拙者、セカイ系主人公として昂ってきまつた!」

「どうせその聖杯は使い物にならないんだろ?なら今日は火星人も諦めてやるさ。同じゲーマー同士、仲良くやろうや」


黒き大海を掻き分け帆船が突っ込んで来る。

それは不干渉を取り決めたはずの各陣営の英霊たちからの声援であり、援護であった。


──せめて、英雄らしく…


サーヴァントの心臓と言っても過言ではない真名をも晒し、彼らは心を一つにしてこの場に集ったのだ。


「この呪いの末端は我々にお任せを!ぱかる様はあの呪いの根源をお討ち取りください!」

「…グズッ…分かった。…恩に着る…ズビッ…」

「何泣いてんのよジジイ!とっととあの隕石撃ち落とすんでしょう?」

「いや、まさか…ズビッ…ワシの自己満足に皆が応えてくれるなど…グスッ…思わず…それが嬉しくてのう…ズズ…」


年甲斐もなく無様に泣き顔を曝け出しながら大王は上空を見据え、神殿の頂上に飛び乗った。


「ならばワシの成すことはただ一つ!あの下らない虚構を撃ち落とし、マヤの尻拭いをしてやらねばな!」


王の号令と共に神殿は地響きを鳴らし変形を始めた。下から上へ続く階段を中心に石組は横へ広がり、それは太陽を模した枝葉の如く伸びてゆく。

尊大にして豪奢たる巨大な玉座がそこには鎮座していた。

深々とそこに背を預け、もたれ掛かる王は手に持つ世界樹の槍を両の手で上空へ向ける。樹はメキメキと音を立てて地に根を張り、さながら一つの砲塔と持ち手の様に形作られていった。

座に身を沈め、宙に照準を合わせる、その姿はパレンケの棺に彫り刻まれた宇宙飛行士の像そのものであった。


「さあ、マスターよ、近くば寄って目にも見よ!

──四分交差の碑銘よ、我が意を聞き遂げたまえ!我成すことは星の為、民の為、其の暦日を正す為にこそある!

『滅び無き終焉の下に(レドンド・カレナダーリカ・エスカトロジー)』!!!

これがワシの最終兵器じゃあぁぁぁ!!!」


それは大いなる地から天へ登る王の神への昇華を談る太古の具現。

遥かな夜空に向け放たれた、星々を臨む滅亡への終止符であった。


この場に居並ぶサーヴァントの全霊はおろか、それまで神殿から発されてた光線すらも凌駕する極大の煌めは空を裂き、虚構の核へとぶつかった。


「まだじゃ…まだ、足りない…!」


何重もの呪層に阻まれ、二つの力は拮抗していた。火花を撒き散らし、暗き街並みを鮮明に照らすその衝突に誰もが目を奪われる中、一人の声がその静止した空間を動かした。


「令呪をもって命ずる…!フォーリナー、あの滅びを、撃ち落として!」


一画目


震える腕をもう片方の手で支えながらかざす少女の姿は今大王の目には入らない。

それでも確かな信頼は感じ取れた。すぐ隣に居なくても、強く背中を押された様な不思議な心待ちとなり、彼は歯を食いしばる。


「重ねて命ずる!その光で、私たちを照らして!」


二画目


過剰な魔力を玉座型神殿回路でさらにブーストし、その身に流し込む。

口からは血反吐が溢れ、眼からは赤い涙が流れ始めた。

身に余る力の行使に霊基が砕けそうになる。


「ごめん…フォーリナー…でも、お願い。

──さらに重ねて命ずる!フォーリナー、私たちの世界を、救って!」

「…任せるんじゃぁぁぁ!!!」


三画目


骨肉が砕け、神経がすり減り、霊基が軋む、そんな嫌な感触が伝わる。

それでも終わるわけにはいかない。自分に全てを託した臣下の願いなら、それを叶えるのがサーヴァントの努めなのだから。

世界を滅亡から救う。

そんな漠然とした夢がいつしか二人一緒のものになっていた。それが嬉しくて、喜ばしくて、彼は引き金をより一層強く引く。収束された光の線は輝きを増し、美しい奔流を激らせてそれは呪いを貫いた。


はるか雲の向こう、大気圏までをも穿つ極光が夜空を眩く彩る。この世全ての悪、その類型を吐き出す聖杯はこうして砕け散ったのだ。



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「どうやらこれで万事解決、と言った感じかね。記憶媒体に残す意味はまあ、それなりにあった経験だったかな」

「はい。まるで生前の源平合戦を思い出す様な修羅場でした。ですが…」


徐々に徐々に、落伍しながら崩れゆく玉座に倒れ込むパカル大王、その体からは止めどない流血が流れていた。


巴御前も、ノイマンも、あの黒髭すらも押し黙るしかない状況、やり場のない哀惜の雰囲気の中、少女はその細脚を走らせる。己が王の元へ、涙に顔を濡らしながら駆け寄った。


「ハハハッ!やったぞ、やってやったぞマスター!」

「…うん…やったよ…フォーリナー…私たちで、やってやったわ…」

「何暗い顔してるのじゃ。世界は救われた、お前さんがかつて願った様な非日常の中で、お前さんは確かに英雄になれたのだぞ?喜べ!笑え!それが勝者の特権じゃぞ!」

「でも、だって…アンタが……その体じゃ、もう…」

「元からこうなるつもりだったんじゃ、何も悔やむことはない。世界と自分を天秤にかけた結果なんじゃよ、これは」

「良い訳ないじゃん!アンタが、王様が、どれだけ私にとって大切な存在か分かってるの!?私にはもうアンタしかいないのに!置いてかないでよ!ずっと、アンタの臣下でいさせてよ!」


少女は泣き腫らした目を見開いて、今までにないくらいの号哭を響かせる。退去の迫る王の、冷たくなってゆく体に縋りつきほんの数刻の霊基に救いを求めていた。


「お前さんは知ってるか?」


血に染まり、それでも泣くのをやめない少女の頭を力無く撫で王は語りかける。


「お前さんの好むWii U、あれの名の由来は『私たち(We)』と『あなた(You)』だそうじゃ。

一人でも、みんなでも楽しめる、そういった思いが込められておる。

──お前さんはこの戦争で随分成長してみせた。

恐怖を飲み込む術を、勇気を引き摺り出す方法を、自ずから見つけ出した。

なら大丈夫じゃよ。今のお前さんなら一人でもやっていける。そしていつか見つけるんじゃ、本当に信じ合える仲間(みんな)をな」

「ゔゔぅぅ…フォーリナー…ありが、どう…ずっど、ずっど、わずれ"ないがらぁ…」

「ハハハッ、良い泣き顔だ。どんな困難にも打ち勝てる、そんな面構えだな。

セーブでもしてずっと記憶に残しておきたいくらいだ。

…では、さらばだ、マスター…」


サラサラと手から零れ落ちるように消えていくその光の粒子を見つめながら、少女は荒涼とした街並みに思いを馳せた。


空は朝日が差し白みはじめ、滅亡の日を回避した新しい1日を迎えようとしている。

他の3騎のサーヴァント達もそれぞれのマスターの元に帰還し、一人残された彼女は涙を拭った。



──まずは王とやりかけだったゲームをクリアしよう。

思い出の最後に決着を付け、それから親と久しぶりに会話してみよう。

激闘だらけのこの冬休みが明けたら学校にも行ってみるんだ。

ずっと見下していた、というより恐れていたんだ、他人を。

でも、もう怖くはない。私は偉大なるパレンケの王、キニチ・ハナーブ・パカル1世第一の臣下なのだ。彼からの激励を信じ、私はようやく、前に進むことが出来た。



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「召喚に応じ参上した、フォーリナー、パカル1世じゃ。下らぬ邪神と繋がりし身だが、お前さんが望むならこの老骨、その願いに如何様にでも応えようぞ」


カルデアの召喚陣、そのサークルの描く中心に翡翠の王は降り立った。

2012年のあの頃出会ったあの少女よりは少し年を重ねたらしき新たな主、その周りには多くの英霊達が集っている。どこかで見知った様な顔ぶれもその中には見受けられたが、今はそれより重要なことがある。


『世界を救う』


その為に彼はこの王を、彼らを呼んだのだ。

因果なものであろうか、二度目の救世の使命に王はため息混じりに口角を吊り上げた。


「──ところでお前さん、ゲーム、なるものはあるかの?」




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