Fall into the “BLACK”(4)
確信を抱いて絵本制作に改めて取り組んだましろだったが、すぐに難関が立ちはだかった。
最初はクライマックスだけ描き直せばいいと考えていたが、作業を進めていくうちに、その前の展開、さらに前の展開にも手を加える必要が出てきてしまい、結果、1ページ目から丸ごと作り直す羽目になった。
「どうしよう……」
ましろはカレンダーに目を向けた。この絵本は個人的な理由で描いているものだから、締め切りなんてものは無い。しかし本業として描かなくてはならないヒーローガールシリーズ新作絵本の締め切りが迫ろうとしていた。
本来なら本業を優先すべきだろう。でも……
……白の王子と青の騎士の物語を描き上げないまま、ヒーローガールの新作を描くことなど、もうできない。青の騎士には、白の王子との物語がその根底に絶対必要なのだ。
ましろは決意を固め、スケッチブックを抱えて家を出た。
〜〜〜
三日間だけ締め切りを延ばして欲しい。
編集部に直談判をしに来たましろの前で、担当編集の東堂は戸惑いをあらわにした。
「先生、とりあえず理由を教えてください」
問われて、ましろは深く頭を下げた姿勢のまま、持参したスケッチブックを差し出した。
「新作よりも先に、どうしてもこの物語を完成させたいんです!」
「これって、あの時のボツ案じゃないですか」
東堂は怪訝な顔をしながら、一通りページをめくった。
その目が、微かに見開かれた。
「ずいぶんと手直しをしましたね。なんというか、こう……気迫のようなものを感じます」
「本当ですか!?」
「ですが、対象年齢に見合っているかどうかは別問題ですよ」
東堂はぴしゃりと言った。
「物語の強度、構図の完成度、どちらも見事だと思います。ですが……ヒーローガールシリーズのメイン読者層からはやっぱり外れています。この物語に込められた意味を理解できるのはもっと上……そうですね、中高生レベルの読解力が求められるでしょう」
それは出版社が求める絵本としては失敗作だ、と言っているも同然だが、ましろは逆に明るい顔をみせた。
「中高生でも理解できるんですね!」
「先生?」
ましろの反応と、そしてこの絵本への執心に、東堂は疑問をぶつけた。
「改めてお訊きしますが、先生はこの絵本を誰に向けて描こうというんですか?」
「それは……」
ましろは答えようとして、いったん言葉を切った。それは躊躇いではなく、決意を込めるための間だった。
「……大切な親友の娘に向けた絵本です」
「ご親友、ですか」
「はい。そしてその親友は……ヒーローガール・青の騎士のモデルなんです」
ましろの言葉に、東堂の目が驚きに見開かれた。
「ヒーローガールに実在のモデルが……では、この白の王子との物語は」
「実際の出来事を元にしています。絵本としてフィクションに仕立てましたけど、白の王子と青の騎士が交わした想いは……愛は確かにそこにあったんです。私はそれをあの子に伝えたい。あなたはお父さんとお母さんに愛されて産まれてきたんだって……伝えなきゃ……」
ましろの声が震えた。目頭が熱くなり、こぼれ落ちそうな涙を必死に堪えながら、ましろは言葉を紡いだ。
「これをちゃんと伝えなきゃ、私はこれ以上ヒーローガールを描けません。だから、お願いします!」
再び頭を下げたましろを前に、東堂は真剣な眼差しで、もう一度スケッチブックに目を通した。
先ほどよりも時間をかけて読み直した後、さらにもう一度読み直し、そしてまた何度も何度も繰り返し、隅から隅まで吟味する。
やがて東堂はポツリと呟いた。
「駄目です。三日というお願いは聞けません」
「そんな……」
「これを完全に仕上げて、さらに新作を描くというのなら二週間は必要です」
「二週間……そんなにも……」
自分の見積もりの甘さを突きつけられて、ましろは落胆しかけた。
だけど、
「先生、ここで待っててください。今から編集長に掛け合ってきます」
「へ? 掛け合うって、何をですか?」
「ですから、締め切りを二週間延ばしてもらうんですよ」
「えぇ!? い、良いんですか!?」
「例え世に出ない作品だとしても、ヒーローガールシリーズにこの物語は絶対ま必要です。それは、私も同じ思いですから」
「東堂さん……」
「任せてください。絶対に締め切りを延ばして見せます!」
東堂はスケッチブックを手にして編集長室へと向かって行った。
そのまま待つこと、一時間半……編集長室の扉が開き、東堂がげっそりした様子で戻ってきた。
やっぱり駄目だったのかな、とましろはまた落胆しかけたが、
「ふっふっふ……やりましたよ、先生」
げっそりしたまま東堂が親指を立てた。
「締め切り二週間の猶予を勝ち取りました──ただし!」
歓声を上げかけたましろを制して、東堂は言った。
「この締め切りに間に合わなかったら、ヒーローガールシリーズは打ち切られます。覚悟はいいですね」
「も、もちろんです」
「それともう一つ条件があります。……この白の王子と青の騎士の物語は、ウチで出版します」
「え……出版……うぇぇぇぇ!? ちょっと待ってください。これ対象年齢から外れてるって、東堂さん言ってたじゃないですか!?」
「ですからオトナ向けとして出します」
「そんな無茶な」
「実はですね、私以前から新規読者を開拓するための新企画を担当してましてね。オトナも楽しめる絵本ってのを探していたんですよねぇ」
「……じゃあ、もしかして?」
「先生のこれ、私の企画を押し通すために利用させてもらいました」
テヘ、と年甲斐もなく笑って誤魔化す東堂を前に、ましろはどんな顔をすればいいのかわからなくなった。
とりあえず笑えばいいのかなぁ……
〜〜〜
そこから先は一気呵成だった。東堂からダメ出しと訂正を受けながら白の王子と青の騎士のストーリーを修正し、さらに東堂が手配してくれたアシスタントを総動員して、ついに完成にこぎつけた。
「やった……」
だけど感慨に耽っている暇は無かった。アシスタントたちの手を借りて、すぐに本業のヒーローガールの新作に取り掛かった。
もう既に当初の締め切りは過ぎて、残る猶予は二週間も無い。この猶予を得るために出版社だけではなく、印刷所、書店、広告代理店など多くの関係者に迷惑をかけた。それに、何より……
──先生、これだけは忘れないでください。
ましろは、東堂の言葉を思い出す。
──ヒーローガールシリーズを待ち望んでいる全国のファンのことを。青の騎士を愛してくれている子どもたちのことを……絶対に忘れないでください。
ましろは気力を振り絞って新作制作に取り組んだ。
そして……締め切り当日の朝。
「原稿、確かに受け取りました」
徹夜明けのましろから原稿入りの封筒を受け取った東堂は、ましろを労いながら、原稿を収めた鞄から別の封筒を取り出し、ましろに渡した。
「これは?」
「私からのささやかなプレゼントです」
促されて中身を取り出すと、それは一冊の絵本だった。
表題は【ヒーローガール〜白の王子と青の騎士〜】
「これって!?」
「まだ試作ですけど製本版です。ご親友の娘さん……この絵本の最初の読書に読んでいただくんですもの。ちゃんとした形でお渡ししたいなって思いまして」
「東堂さん……ありがとうございます!」
ましろは何度も何度も礼を告げて東堂を見送った後、ソラミに連絡を取った。
「突然ごめんね。今日、会えるかな? どうしても読んで欲しい絵本があるの!」
今日は平日だ。ソラミは学校が終わってからなら構わないと約束してくれた。待ち合わせ場所は虹ヶ丘家と、ソラミが通う中学校の間にある喫茶店に決まった。
ようやく一息ついたましろは、約束の時間まで仮眠を取ることにした。締め切りに間に合わせるために、一昨日からずっと徹夜続きで仕上げたのだ。
ベッドに倒れ込んだましろは気絶したように眠った……
…………
………
……
…
いつもと使っている目覚まし時計とは違ったメロディーが耳に届き、ましろは目を覚ました。
反射的に枕元の目覚まし時計のスイッチを押したが、音は鳴り止まなかった。
そうだ、これはスマホの着信音だ。
「うわわ! やっちゃった!?」
意識が一気に覚醒し飛び起きてスマホを手に取った。画面には【ソラミちゃん】の表示。時刻は夕方の五時近く。約束の時間を大幅にオーバーしていた。
窓の外の暮れゆく景色に目を向けながら、ましろは通話ボタンをタップしてスマホを耳に押し当てた。
「ソラミちゃん、ごめんなさい! 寝過ごしちゃった!」
『やっぱり、でしたわね』
スマホ越しに安堵と呆れが混じった声が届いた。
『締め切りギリギリで徹夜を繰り返していたと噂に聞いてましたから、そんなことだろうと思ってましたわ。ま、大事がないようで何よりですけど』
「ごめんねソラミちゃん。今からすぐそっちに向かうから。…あ、まだ時間はある? 予定とか大丈夫?」
『私は構いませんが、無理なさらず後日でも結構ですのよ? お姉さまもお疲れでしょうし』
「ううんできれば今日がいいの。……これは私のわがままでしかないけれど、お願い、付き合って!」
ソラミのためじゃない。自分のためだ。過去を振り切るために、ソラミを利用しようとしている汚い大人だ。ましろはそれを自覚しながら、必死に頼み込んだ。
『わかりましたわ。コメダでゆみさんと待っておりますから、お気をつけて来てくださいな』
「ありがとう!」
絵本を抱えてすぐに家を飛び出した。近くのバス停に着いたが、次の便が来るまでかなり時間が空いていた。けれどちょうどタクシーが通りかかったので、それを捕まえることができた。
しかし……
「あー、帰宅ラッシュですね。この辺道が狭い上に道路工事してますから大渋滞ですよ」
まったく動かなくなってしまったタクシーの中で、ましろはナビを見て現在地点を確認した。
目的の喫茶店まで、ここからなら走った方が早い。そう判断して、支払いを済ませてタクシーを降りた。
街が夕暮れに染まっている。背中から沈みゆく夕陽を受けて走るましろの影が、進む先に長く伸びていく。
視線を上げれば、空には夜の闇が迫っていた。
闇空に、嘲笑する猫の口元のような細い月が浮かんでいた。
ましろは走りながら、その目を下ろして先を見据えた。
「……?」
そこにも、細い月が浮いていた。
建物の影が色濃く落ちる暗がりに、細い月が弧を描いて笑っている。
それは一人の少女だった。真っ黒なゴシックロリータドレスに身を包んだ少女が、ましろの行手を阻むように立っていた。
真っ白な肌に赤い唇をした月の笑み。通りに風が吹いた。
長い前髪に隠されていた少女の目元が顕になり、金色の瞳がましろを見据えた。
ましろの背中に怖気が走り、思わず足を止めてしまう。
「あ、あなたは……誰……?」
黄昏時に、誰ぞ彼と問うてはならぬ。得体の知れぬ少女は、問いかけられて、こう答えた。
「デリアンダーズ、ゼ・イルダ」
風がその呟きを運んだ。いや、呟きだけではない。粒子のような何かが、ましろに向かって吹き寄せた。
「さあ、夜に遊びましょう。メガデリビョーゲン!」
「ッ!?」
ましろが持っていた絵本の入った封筒が宙を飛び、夜空に溶け込むように黒く染まった。
「まさか、これって……アンダーグエナジー!? 待って、それだけはやめて!」
手を伸ばしたが、全ては手遅れだった。
闇のエナジーと、そしてさらに別種の力が混ざり合ったその力に染め上げられ、絵本が巨大な怪物へと変貌していく。
「そんな……絵本が……」
「デエェリビョォォォゲン!」
ましろの呟きをかき消すように、怪物が雄叫びを上げた。
「うふふ、この雄叫びが聞こえるかな、パパ……私はここに居るよ、早く会いに来て、パパぁ!」
恍惚として笑う少女。その傍で、怪物メガデリビョーゲンがその剛腕をましろめがけて振るった。
「デリィィィィィイアアアアア!」
「きゃっ!?」
咄嗟に回避行動を取れたのは、若い頃にプリキュアとして戦っていた名残のおかげだった。常人には信じがたい状況だが、そんな戦場を何度も潜り抜けてきた経験が、ましろを救った。
道端に身を投げ出すようにして振り回された腕をかわし、すぐにその場から離れようと背を向けて走り出す。
しかし、
「デリッビョォォォゲン!」
怪物が振り回した腕が街路樹を薙ぎ倒し、その太い枝が折れて勢いよく宙を飛び、ましろの首筋を打った。
「あぅっ!?」
転倒し、薄れゆく意識の中で、ましろは二人の少女が空を駆ける姿を見た気がした──
〜〜〜
待ち合わせ場所だった喫茶店のすぐ近くでメガデリビョーゲンが出現したのを知り、ソラミとゆみは慌てて会計を済ませて飛び出した。
「スカイミラージュ、トーンコネクト!」
「デリシャスタンバイ、パーティーゴー!」
二人の姿が光に包まれ、着ていた学校の制服をバトルコスチュームへと変えていく。
「空と海が交わる世界、キュアホライゾン!」
「拓けた海と結んだ絆、キュアマリナージュ!」
「「ふたりはプリキュア!!」」
名乗ると同時に、通りで暴れるメガデリビョーゲンの巨体に二人揃って同時に飛び蹴りを叩き込んだ。
「デリッ!?」
全長数メートルはある巨体が軽々と宙に浮き上がり、大きく後方へと飛ばされた。
そして、その先には──
「デリシャスフィールド!」
虹色のオーロラが幅広く広がり、吹っ飛んできたメガデリビョーゲンの姿を包み込むと、亜空間へと転送した。
そのオーロラのすぐ近くに、赤黒い銃士服に身を包み込んだ青年・ブラックペッパーが佇んでいた。
「あら、あの男もう来てたんですの?」
「ブラックペッパーさま、ナイスタイミング!」
胡乱な顔をしたホライゾンと、ブラペに手を振るマリナージュが、そのままオーロラに飛び込み亜空間に消えたメガデリビョーゲンを追う。
そのすぐ後に、新たなプリキュア・キュアアスラが現場に到着した。
「雅海!」
「メガデリビョーゲンはゆみたちがフィールド内に押し込めた」
ブラックペッパーは短くそう説明すると、その目を道端に倒れているましろに向けた。
「俺は虹ヶ丘さんを」
「わかった。こっちは任せて」
「頼む」
目と目で頷き合い、ブラックペッパーはましろの元へ、アスラはフィールドへ向かうために、二人はすれ違った。
ブラックペッパーは倒れたましろに駆け寄ると、その手に癒しの光を灯してかざしながら、外傷を確認する。
頭を強く打って昏倒したなら普通に抱いて運ぶのは危うい。ブラックペッパーはそう判断し、治癒の光をマントに纏わせ、それでましろの体を包み込んだ。さらにデリシャストーンの力を込め、その体を不可視の力でしっかりと宙に固定する。
その体を抱え込み、ブラックペッパーは近くの病院へ向けて駆け出した。
その背中を、暗い影の中からあの少女:ゼ・イルダが追おうとしていた。
「パパ、待って! 私はここに居るんだよ!?」
ブラックペッパーに向けて差し伸ばした手の先が暗がりから出て夕焼けの日差しを浴びた。
その白い指先が、まるで火に炙られたかのように一瞬にして焼け爛れた。
「あぅ!?」
少女は慌てて手を引いた。酷い火傷を負った指先をもう片手で覆いながら、ゼ・イルダは寂しそうに、遠ざかるブラックペッパーの背中を見つめていた……
〜〜〜
デリシャスフィールド内は、現実世界と時間の流れが異なる空間だ。先にホライゾンとマリナージュが飛び込んだ、そのすぐ後にアスラがフィールド内に進入したものの、既に内部では十分近い時間が過ぎ去ろうとしていた。
「まったく雅海ってば、時間の整合がアバウト過ぎるのよ!」
デリシャスフィールドを生成した本人であるブラックペッパー:花寺雅海だけが、その時間のズレをある程度コントロールできた。そのためメガデリビョーゲンとの戦闘を優先するならブラックペッパーがこちらの援護につき、アスラがましろを避難させる方が理に適っているはずだ。
(でも、雅海がそう判断したなら仕方ないか……)
ブラックペッパーが避難を担当すると判断したなら、それ相応の理由があるとアスラは理解していた。おそらくあそこに倒れていた女性はすぐにでも治癒が必要だったのだろう。メンバーの中でそれができるのはブラックペッパーしか居ない。
その判断を誤る男じゃない、とアスラは信頼していた。
だがそれはそれとして、この十分近い時間ギャップが面倒な事態を引き起こしていたのは確かだった。
駆けつけたアスラの目の前で、ホライゾンとマリナージュの二人が荒野の大地に膝を突いていた。
その前方には、メガデリビョーゲンが、その本のような体をページを開く形で身構えていた。
「二人とも、大丈夫!?」
ホライゾンとマリナージュを背に庇う形で、アスラはその前方に着地した。
「アスラ、あたしたちはまだ大丈夫だよ。でも……」
「このメガデリビョーゲン、異様な術を使いましてよ」
「術?」
メガデリビョーゲンから目を離さずに、背中の二人に訊き返す。
そう、目は離していない、そのはずだった。
目の前に、何もいなくなっていた。
「…?」
知覚の空白。いや、記憶の、だろうか。
アスラは、今まで自分が何と向き合っていたのかを忘れていた。
それを再認識したのは、その直後のこと。視界の外から怪物が雄叫びと共に襲いかかって来た気配を感じとった。
「トリシューラアイスエレメント!」
咄嗟に武器の三叉槍からエレメントの力を放ち、氷の壁を作り上げる。
「メガァァァ!」
怪物の剛腕が氷の壁を砕いたわずかな隙に、アスラはその場から飛び退いて襲いかかって来た相手に向き直った。
「メガデリビョーゲン! いつのまに!?」
違う、ついさっきまでこの怪物と向き合っていたはずだ。アスラはそれを思い出した。
その自分の認識に、酷い違和感を覚えた。
「何、この感覚……私、忘れていた!?」
「そうなんだよ、アスラ!」
マリナージュが横に並び立って言った。
「このメガデリビョーゲンを前にすると、あたしたち、時々、戦ってる相手のことを忘れちゃうんだよ」
「ええ、そうですわ」
ホライゾンも構えを取り直しながら苦々しい顔で言った。
「戦いの最中に戦いを忘れる。おそらく精神操作の一種ですわ。しかも、その能力がいつ発動したのかもわからない」
「厄介極まりない相手ってことね」
警戒しながら、目がデリビョーゲンを観察する。しかし──
気がつけば、何もない荒野を眺めていた。
「拙い!?」
背後に、巨大な影が回り込んでいた。
「デリビョォォォゲン!!」
振り上げた両腕がハンマーのように振り下ろされる。三人はそれをギリギリのところで回避した。
しかし慌てて避けたために体勢を崩し、距離を離す余裕もなく地面に転倒してしまった。
このままでは追撃を喰らってしまう──
「断ッ!」
男の叫び声と共に、メガデリビョーゲンの足元の大地に亀裂が走り、いくつもの地割れが発生した。
「デリッ!?」
大地の裂け目にメガデリビョーゲンの大きな足が落ちる。
「結ッ!」
再び上がった声と共に、大地が揺れ動き、その地割れがメガデリビョーゲンの足を挟んだまま元に戻っていく。
「デリッ!? デリいい!?」
メガデリビョーゲンの足を地面深くに埋めるように、大地は再び結合した。
「すまない、遅くなった」
三人からやや離れた場所で、ブラックペッパーが大地に押し当てた手を離しながら声をかけた。
ブラックペッパーの技の一つ、大地変換だ。自らが作り上げたフィールドの環境を、彼は自在に操ることができた。
「精神操作で隙を作る能力があっても、動けなければ無意味だ。マリナージュ、ホライゾン。今のうちに浄化を!」
「いよぉっし、行くよホライゾン!」
「目にもの見せてくれますわ!」
二人並んで、浄化武器を構えた。
「「プリキュア、ヒーリングッドバイデリ──」」
その時だった。
メガデリビョーゲンの周りに、突然、花畑が出現した。
オレンジの花弁が一面に広がる、丘の景色。そして、その中央に居たメガデリビョーゲンの姿が消え、代わりに──
──二人の男女が寄り添っていた。
「あれは……お母さま……?」
「パパ……?」
呆然とするホライゾンとマリナージュの前で、ソラ・ハレワタールと品田拓海が、広がる満開の花々に囲まれて抱き合う光景が、そこにあった。